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一章/炎の巨神、現る
王様と騎士・二
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電車でもみくちゃにされながらも、目を閉じて傍にいない人物に対して言いたいことを沈めるように努める。そうでないと、とんでもないことを人前で言ってしまいそうだった。
ようやく電車が目的の美原ヶ丘駅に着き、当夜は外に飛び出す。後ろから赤木らしき人物の声に名前を呼ばれたが、
「ごめん、急いでんだ!」
と叫んで、階段を駆け下りて行く。学校まで、昨日徹と通った道を駆け抜けていき、下足室で下履きに履き替えて四階まで走って上がっていった。
「徹!」
息を切らせて教室のドアを開けると、窓際の席に座っていた徹は目を見張らせて振り向いた。だが、すぐに冷静な顔つきに変わり、なんだと言う。当夜が両拳を握った状態で徹の席まで歩いていくと、周囲のクラスメイトは自然と二人から離れていった。
「なんだじゃないだろ」
「僕にはお前に怒られる理由がない。分からないから訊ねているんだ」
「ないって、あのなあ!」
怒鳴りかけた当夜の言葉を遮るように、徹は立ち上がって傍を離れていく。
「徹!」
「しばらくお前とは話さないと言っただろう」
すべてを拒絶する徹の言葉に、当夜は唇を噛んで机の表面に目をやった。小さな傷のついた机を当夜はじっと見つめて、ひどいなと呟く。
「ひどくなんかない」
「ひどいって」
背を向けて教室から出ていこうとする徹の目の前に加護と赤木が現れた。赤木はうわっと言ってのけぞるが、加護は徹越しに教室の様子を見て眉を顰める。
「怒らせるなよ」
「僕が怒らせたんじゃない」
苛立ったような加護に言われた徹もまた、柳眉な眉をしかめた。
「当夜が勝手に怒ったんだ」
「お前は……あのなあ」
額に手を当てて低い声を出す加護の正面に立つ徹は、鋭い目で睨んでいる。二人の険悪な様子に慌てた赤木が、ストップ! と言って間に割り込んだ。
「ストップ、ストップ! 怖いって、やめよーぜ」
「赤木」
「なあ! 当夜、徹止めてくれよ! ほら、加護もその顔止めろって。俺、喧嘩とかマジで無理……」
「うるさい、お前には関係ない!」
赤木の割り込みに一瞬呆けた徹だったが、当夜の名前を聞いた途端勢いを取り戻して赤木に向かって叫んだ。
「赤木に当たるなよ」
その背中にひどく冷静な声がかけられる。
「当たってなどいない」
「当たってるだろ」
こっち向けよと顎を動かす当夜の燃えるような赤い目を見た赤木がヒエッと小さく声を上げ、加護の後ろに隠れた。
「お前が一番関係ないんだが」
「関係なくない」
当夜はスクールバッグを持ったまま出入口付近にいる徹の後ろまで行き、その肩を掴む。
「こっち向けよ」
仕方がないといった遅い動きで振り返った徹と、当夜の目が合った。
「……お前に、僕の気持ちが分かるものか」
「俺は徹じゃねえ。分かるわけないだろ」
分かればいいけどなと真っ直ぐな目をして言う当夜に、徹は苦笑した。
「徹、俺な」
「言うな!」
徹に言葉を伝えようとした当夜の口を徹が手でふさぐ。当夜は驚いてその手に手を当てて徹を見るが、徹は再度言うなと伝えただけで、手を離すことはなかった。
「僕が元に戻れなくなる……!」
苦しげに眉を寄せて目を閉じる徹の顔を見上げた当夜は、首を横に動かす。さらに徹が当夜に口止めをするために口を開こうとしたが、
「おーい、どうした?」
加護と赤木の横から歩いてきた教師に声をかけられ、口を噤んだ。
「なんでもありません」
とっさに加護がそう返し、赤木がちょっと話してただけッスーと言いながら、当夜と徹の背を押して教室の中に入る。当夜は徹を見たが、徹に頭を振るって拒否を示されてしまった。だが、それでも負けじとスクールバッグから取り出した物を徹の背に当てるようにして押し付けた。
「徹」
徹はなんだ? と半身を捻じって当夜の方に顔を向けたが、当夜に黒い巾着袋を胸に押し中てられたために受け取ってしまう。
「徹の分の弁当。いらなかったら捨てろよ」
温かさが手から伝わってくる気がして、徹は弁当箱を強く握った。
「それやったら、二度と作んねーけど」
当夜はそれだけを言うと、俯きがちに自分の席まで行き、スクールバッグを机の上に置いた。そして、その上に腕をのせると、顔を伏せる。
ようやく電車が目的の美原ヶ丘駅に着き、当夜は外に飛び出す。後ろから赤木らしき人物の声に名前を呼ばれたが、
「ごめん、急いでんだ!」
と叫んで、階段を駆け下りて行く。学校まで、昨日徹と通った道を駆け抜けていき、下足室で下履きに履き替えて四階まで走って上がっていった。
「徹!」
息を切らせて教室のドアを開けると、窓際の席に座っていた徹は目を見張らせて振り向いた。だが、すぐに冷静な顔つきに変わり、なんだと言う。当夜が両拳を握った状態で徹の席まで歩いていくと、周囲のクラスメイトは自然と二人から離れていった。
「なんだじゃないだろ」
「僕にはお前に怒られる理由がない。分からないから訊ねているんだ」
「ないって、あのなあ!」
怒鳴りかけた当夜の言葉を遮るように、徹は立ち上がって傍を離れていく。
「徹!」
「しばらくお前とは話さないと言っただろう」
すべてを拒絶する徹の言葉に、当夜は唇を噛んで机の表面に目をやった。小さな傷のついた机を当夜はじっと見つめて、ひどいなと呟く。
「ひどくなんかない」
「ひどいって」
背を向けて教室から出ていこうとする徹の目の前に加護と赤木が現れた。赤木はうわっと言ってのけぞるが、加護は徹越しに教室の様子を見て眉を顰める。
「怒らせるなよ」
「僕が怒らせたんじゃない」
苛立ったような加護に言われた徹もまた、柳眉な眉をしかめた。
「当夜が勝手に怒ったんだ」
「お前は……あのなあ」
額に手を当てて低い声を出す加護の正面に立つ徹は、鋭い目で睨んでいる。二人の険悪な様子に慌てた赤木が、ストップ! と言って間に割り込んだ。
「ストップ、ストップ! 怖いって、やめよーぜ」
「赤木」
「なあ! 当夜、徹止めてくれよ! ほら、加護もその顔止めろって。俺、喧嘩とかマジで無理……」
「うるさい、お前には関係ない!」
赤木の割り込みに一瞬呆けた徹だったが、当夜の名前を聞いた途端勢いを取り戻して赤木に向かって叫んだ。
「赤木に当たるなよ」
その背中にひどく冷静な声がかけられる。
「当たってなどいない」
「当たってるだろ」
こっち向けよと顎を動かす当夜の燃えるような赤い目を見た赤木がヒエッと小さく声を上げ、加護の後ろに隠れた。
「お前が一番関係ないんだが」
「関係なくない」
当夜はスクールバッグを持ったまま出入口付近にいる徹の後ろまで行き、その肩を掴む。
「こっち向けよ」
仕方がないといった遅い動きで振り返った徹と、当夜の目が合った。
「……お前に、僕の気持ちが分かるものか」
「俺は徹じゃねえ。分かるわけないだろ」
分かればいいけどなと真っ直ぐな目をして言う当夜に、徹は苦笑した。
「徹、俺な」
「言うな!」
徹に言葉を伝えようとした当夜の口を徹が手でふさぐ。当夜は驚いてその手に手を当てて徹を見るが、徹は再度言うなと伝えただけで、手を離すことはなかった。
「僕が元に戻れなくなる……!」
苦しげに眉を寄せて目を閉じる徹の顔を見上げた当夜は、首を横に動かす。さらに徹が当夜に口止めをするために口を開こうとしたが、
「おーい、どうした?」
加護と赤木の横から歩いてきた教師に声をかけられ、口を噤んだ。
「なんでもありません」
とっさに加護がそう返し、赤木がちょっと話してただけッスーと言いながら、当夜と徹の背を押して教室の中に入る。当夜は徹を見たが、徹に頭を振るって拒否を示されてしまった。だが、それでも負けじとスクールバッグから取り出した物を徹の背に当てるようにして押し付けた。
「徹」
徹はなんだ? と半身を捻じって当夜の方に顔を向けたが、当夜に黒い巾着袋を胸に押し中てられたために受け取ってしまう。
「徹の分の弁当。いらなかったら捨てろよ」
温かさが手から伝わってくる気がして、徹は弁当箱を強く握った。
「それやったら、二度と作んねーけど」
当夜はそれだけを言うと、俯きがちに自分の席まで行き、スクールバッグを机の上に置いた。そして、その上に腕をのせると、顔を伏せる。
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