忘却のカグラヴィーダ

結月てでぃ

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一章/炎の巨神、現る

この窓を越えてよ・四

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 家に入った当夜は台所まで行くと椅子を引いて鞄を置き、洗面所で顔と手を洗った。タオルで顔を拭ってから台所に戻り、冷蔵庫から昨日の残り物である鯖の味噌煮とほうれん草のおひたしを取り出す。指にジンと伝わってくる冷たさの器の内、ほうれん草が入った方はテーブルの上に置いておき、鯖の味噌煮は食器棚の横にあるレンジの中に入れてスイッチを押した。
 鍋を取り出し、水と鰹節を入れて火にかける。まな板を調理台の上にのせ、冷蔵庫からわかめとネギと味噌を取ってきて、まずはわかめを水で洗って塩気をとった。わかめとネギを切って鍋に放り込み、お玉ですくった味噌を少しだけ入れて箸で溶く。
 チンとレンジが鳴ったので、鯖の味噌煮を取り出しておひたしの隣に並べた。ご飯と沸騰した赤だしを器に盛ってから席につき、手を合わせる。 
「いただきます」
 遅い夕食を黙々と食べ、食器を洗う間に湯船にお湯を入れておいた。体を温めてから鞄と服を持って二階に上がり、自分の部屋に入る。鞄を床に置き、乱れたベッドをセットし直した当夜は、スウェットの上下を身につけた。
 ガシガシと乱暴にタオルで拭いて乾かした髪を後ろでぎゅっと一まとめにすると、勉強机のペン入れに差しているハサミを握って、勢いよく切っていく。一日で髪が伸びたとは言えないが、散髪屋はすでにどこも閉まっている時間なので自分で切ることを選んだのだ。
 ゴミ箱に切った髪を捨てた当夜は、窓まで歩いていってカーテンを開く。
「……徹」
 向かいの部屋の窓には光がなかった。カーテンの隙間も暗いことに当夜は眉を寄せて気持ちが萎みそうになるが、振り切るように窓を開ける。春の冷たい風が中に入ってきたので、当夜は目を閉じてぶるりと肩を震わせるが、すぐに頭を振るって、目を大きく開いて手を外に伸ばした。
 ぺたりと手の平を徹の部屋の窓につけて、じっと自分しか映らないガラスを見つめる。
「いいって言ったのに」
 ふてくされたような自分の顔がひどく子どもっぽく見えた。
「徹の意気地なし」
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