忘却のカグラヴィーダ

結月てでぃ

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一章/炎の巨神、現る

この窓を越えてよ・三

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「お久しぶりです、敏夜《としや》さん」
 どういったらいいのか悩んでいた当夜から少し離れた所で声が上がった。その方向に顔を向けると、学生鞄を手に持っている徹が立っている。
 「あ、徹。おかえり」
「久しぶりだね、徹くん」
 徹ははいと言いながら、当夜には顔を向けずに近寄ってくる。話さないという言葉が本気で言っていたのだということを知った当夜は眉を寄せて徹を睨み見た。
「そちらの方は僕の知り合いです」
「君の?」
「はい。……敏夜さん」
 姿勢を正した徹よりも少し背の高い敏夜は、眼鏡のフレームを押し上げてなんだね? と見下ろしながら訊ねる。
「申し訳御座いません」
 そう言った徹は、深々と頭を下げた。
「なっ、なにしてんだよ徹……!」
「当夜を、危険な目に合わせてしまいました」
 九十度におじぎをしている徹を見下ろした敏夜は、うんと呟いて徹の肩を一度叩く。
「徹くん、とりあえず頭を上げよう。話は君の家で聞くよ」
「……はい」
 ぐっと歯を噛み締めた徹は頭を上げた。敏夜はなにごとかと不安そうな顔になっている当夜に顔を向け、肩を抱く。
「当夜、夕飯は食べたのか?」
「え? ううん、まだ」
「そうか。なら先に食べて、もう寝なさい」
「父さんと徹は? 一緒に食べないのか?」
「そうしたいところだが、今日は徹くんと話がある」
 当夜は俯き、分かったと言った。すぐに顔を上げ、父の顔を覗き込むようにして見上げる。
「怒んないでくれよ。徹はなんも悪くないから」
「大丈夫だ、事情を聞くだけだから」
 敏夜が当夜の頭を撫でてから、背に手を当てて家へと促した。当夜は徹を見たが、徹が自分を見ないことを知ると、ポケットから鍵を出して玄関扉を開ける。
「じゃあ父さん、徹。おやすみなさい。雅臣さんも送ってくれてありがとう」
「はい、おやすみ」
「おやすみー、当夜くん」
 いつの間にか車の中から出てきた雅臣に手を振られたので、振り返してから当夜は家の中に入っていった。
「では、行こうか」
「はい」
 徹が粛々と頷くと、敏夜は雅臣にも顔を向ける。
「あなたも来てくれませんか?」
「僕ですかあ?」
「はい。車は……徹くん、君の家の車庫を使わせてもらってもいいかな」
「どうぞ」
 ではと言われた雅臣は苦笑して、あちゃーと言った。
「貧乏くじ引いちゃったなあ」
 額に手を当てる雅臣に敏夜はははと笑い声を上げ、行きましょうかと手を前へ差し出す。
「アマテラス機関の方でしょう?」
 小声で敏夜が言うと、雅臣は目を丸くした。それから徹を見て、なるほどねえと口の端を吊り上げさせる。
「君の幼馴染なんだから、そのお父さんが知っててもおかしくはないのかもねえ」
 それに敏夜は口を弓型にさせて、眼鏡のフレームを指で押し上げた。
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