31 / 124
一章/炎の巨神、現る
この窓を越えてよ・二
しおりを挟む
「君は、どうしてそんなにあの子を大事にしてくれるんだい?」
「寂しそうだったから」
「寂しい?」
「うん。寂しそうな、迷子の子どもみたいな顔してた」
当夜は赤い海の中で見たカグラヴィーダの目を思い出しながら、雅臣に伝えた。
「子どもねえ」
「迦具土神って生まれてすぐに殺されてたし、鳥だし、刷り込み現象起こってるかも、とか」
「刷り込み?」
真面目な顔をして言う当夜に対し、雅臣は呆けた顔を思い切り崩して笑う。いきなり腹を抱えて笑い出した雅臣に、当夜はえっ? と不思議そうな顔になった。
「お、俺なんか変なこと言った!?」
「はー……いや、なーんも」
まだ笑いつつも目の端に滲んだ涙を指で拭う雅臣は、信じられないなと零す。
「こんなに鉄神を愛してくれる人が現れるなんて思いもしなかったよ」
嬉しいなあと微笑む雅臣の手を、当夜は握った。
「え、なあに?」
「雅臣さんもそうじゃん。カグラヴィーダのこと大事にしてくれてる」
そう言う当夜の手を、雅臣は両手でぎゅっと強く握り返す。
「分かる? 分かってくれる!? 僕の気持ち!」
「うん! だって、こんなに考えてるだろ。ずっと心配してるし」
雅臣はうんうんと頷いた。
「鉄神が好きなんだ。あの肢体、美しいと思わないかい!?」
「うん! すっごくカッコイイ!」
「だよねえ、あの鉄の装甲に神の力。ああ、神ってこんなに素晴らしく残酷な存在なんだと、心から尊敬したよ……!」
神は美しくて残酷な存在と聞いた当夜は表情を曇らせた。それに雅臣は首を傾げさせて見る。
「どうしたの?」
「あっうん……父さんが、よくそう言ってたなって」
「お父さんが?」
ますます不思議そうな顔になる雅臣に当夜はうんと首を振って体を向けようとしたが、その前に当夜が座っている席側の窓をコツコツと小突かれた。
二人が驚いて窓の外を見ると、そこには分厚い眼鏡をかけた、ボサボサの黒髪の男性が覗き込むようにしてしゃがんでいる。
どう見ても不審者にしか見えず、血相を変えた雅臣が当夜の腕と肩をつかんで自分の方へ引っ張る。だが、当夜はそれに抗って車のドアを開け放った。
「当夜くん、危ない!」
「父さん!?」
「……って、ええ?」
当夜が車外に出ると、その男性は抱きしめてくる。
「父さん、おかえり!」
「ああ、ただいま」
もったりとした外見の男性と当夜の組み合わせは雅臣の目には変に見えたが、どちらも嬉しそうだったので口をつぐんだ。
「久しぶりだな、当夜」
「ホントだよ、父さん。もっと帰ってこいよ。体潰すぞ?」
「いや、研究が楽しくてね」
はははと笑いながら頭をかく父に、当夜は呆れた目を向ける。
「ははは……いや、気を付けます」
「うん」
父は当夜の肩に手を置いたまま、車内に目を移した。そこには、バツの悪そうな顔で運転席に腰かける雅臣がいる。
「ど、どーもー」
「当夜、あの人は?」
訊ねられた当夜も、雅臣もなんと説明すればいいのか悩んだ。
「あー……えっと、父さん。あの人はね」
「それに、この髪と服はどうしたんだ」
こんなに長かったか? と当夜の髪をすくうと、当夜はさらに顔を曇らせる。
「これは、その」
「寂しそうだったから」
「寂しい?」
「うん。寂しそうな、迷子の子どもみたいな顔してた」
当夜は赤い海の中で見たカグラヴィーダの目を思い出しながら、雅臣に伝えた。
「子どもねえ」
「迦具土神って生まれてすぐに殺されてたし、鳥だし、刷り込み現象起こってるかも、とか」
「刷り込み?」
真面目な顔をして言う当夜に対し、雅臣は呆けた顔を思い切り崩して笑う。いきなり腹を抱えて笑い出した雅臣に、当夜はえっ? と不思議そうな顔になった。
「お、俺なんか変なこと言った!?」
「はー……いや、なーんも」
まだ笑いつつも目の端に滲んだ涙を指で拭う雅臣は、信じられないなと零す。
「こんなに鉄神を愛してくれる人が現れるなんて思いもしなかったよ」
嬉しいなあと微笑む雅臣の手を、当夜は握った。
「え、なあに?」
「雅臣さんもそうじゃん。カグラヴィーダのこと大事にしてくれてる」
そう言う当夜の手を、雅臣は両手でぎゅっと強く握り返す。
「分かる? 分かってくれる!? 僕の気持ち!」
「うん! だって、こんなに考えてるだろ。ずっと心配してるし」
雅臣はうんうんと頷いた。
「鉄神が好きなんだ。あの肢体、美しいと思わないかい!?」
「うん! すっごくカッコイイ!」
「だよねえ、あの鉄の装甲に神の力。ああ、神ってこんなに素晴らしく残酷な存在なんだと、心から尊敬したよ……!」
神は美しくて残酷な存在と聞いた当夜は表情を曇らせた。それに雅臣は首を傾げさせて見る。
「どうしたの?」
「あっうん……父さんが、よくそう言ってたなって」
「お父さんが?」
ますます不思議そうな顔になる雅臣に当夜はうんと首を振って体を向けようとしたが、その前に当夜が座っている席側の窓をコツコツと小突かれた。
二人が驚いて窓の外を見ると、そこには分厚い眼鏡をかけた、ボサボサの黒髪の男性が覗き込むようにしてしゃがんでいる。
どう見ても不審者にしか見えず、血相を変えた雅臣が当夜の腕と肩をつかんで自分の方へ引っ張る。だが、当夜はそれに抗って車のドアを開け放った。
「当夜くん、危ない!」
「父さん!?」
「……って、ええ?」
当夜が車外に出ると、その男性は抱きしめてくる。
「父さん、おかえり!」
「ああ、ただいま」
もったりとした外見の男性と当夜の組み合わせは雅臣の目には変に見えたが、どちらも嬉しそうだったので口をつぐんだ。
「久しぶりだな、当夜」
「ホントだよ、父さん。もっと帰ってこいよ。体潰すぞ?」
「いや、研究が楽しくてね」
はははと笑いながら頭をかく父に、当夜は呆れた目を向ける。
「ははは……いや、気を付けます」
「うん」
父は当夜の肩に手を置いたまま、車内に目を移した。そこには、バツの悪そうな顔で運転席に腰かける雅臣がいる。
「ど、どーもー」
「当夜、あの人は?」
訊ねられた当夜も、雅臣もなんと説明すればいいのか悩んだ。
「あー……えっと、父さん。あの人はね」
「それに、この髪と服はどうしたんだ」
こんなに長かったか? と当夜の髪をすくうと、当夜はさらに顔を曇らせる。
「これは、その」
0
お気に入りに追加
4
あなたにおすすめの小説
いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜
きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員
Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。
そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。
初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。
甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。
第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。
※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり)
※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り
初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。
ヤンデレだらけの短編集
八
BL
ヤンデレだらけの1話(+おまけ)読切短編集です。
全8話。1日1話更新(20時)。
□ホオズキ:寡黙執着年上とノンケ平凡
□ゲッケイジュ:真面目サイコパスとただ可哀想な同級生
□アジサイ:不良の頭と臆病泣き虫
□ラベンダー:希死念慮不良とおバカ
□デルフィニウム:執着傲慢幼馴染と地味ぼっち
ムーンライトノベル様に別名義で投稿しています。
かなり昔に書いたもので、最近の作品と書き方やテーマが違うと思いますが、楽しんでいただければ嬉しいです。
【BL】国民的アイドルグループ内でBLなんて勘弁してください。
白猫
BL
国民的アイドルグループ【kasis】のメンバーである、片桐悠真(18)は悩んでいた。
最近どうも自分がおかしい。まさに悪い夢のようだ。ノーマルだったはずのこの自分が。
(同じグループにいる王子様系アイドルに恋をしてしまったかもしれないなんて……!)
(勘違いだよな? そうに決まってる!)
気のせいであることを確認しようとすればするほどドツボにハマっていき……。
目が覚めたら囲まれてました
るんぱっぱ
BL
燈和(トウワ)は、いつも独りぼっちだった。
燈和の母は愛人で、すでに亡くなっている。愛人の子として虐げられてきた燈和は、ある日家から飛び出し街へ。でも、そこで不良とぶつかりボコボコにされてしまう。
そして、目が覚めると、3人の男が燈和を囲んでいて…話を聞くと、チカという男が燈和を拾ってくれたらしい。
チカに気に入られた燈和は3人と共に行動するようになる。
不思議な3人は、闇医者、若頭、ハッカー、と異色な人達で!
独りぼっちだった燈和が非日常な幸せを勝ち取る話。
塾の先生を舐めてはいけません(性的な意味で)
ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
個別指導塾で講師のアルバイトを始めたが、妙にスキンシップ多めで懐いてくる生徒がいた。
そしてやがてその生徒の行為はエスカレートし、ついに一線を超えてくる――。
真面目系委員長の同室は王道転校生⁉~王道受けの横で適度に巻き込まれて行きます~
シキ
BL
全寮制学園モノBL。
倉科誠は真面目で平凡な目立たない学級委員長だった。そう、だった。季節外れの王道転入生が来るまでは……。
倉科の通う私立藤咲学園は山奥に位置する全寮制男子高校だ。外界と隔絶されたそこでは美形生徒が信奉され、親衛隊が作られ、生徒会には俺様会長やクール系副会長が在籍する王道学園と呼ぶに相応しいであろう場所。そんな学園に一人の転入生がやってくる。破天荒な美少年の彼を中心に巻き起こる騒動に同室・同クラスな委員長も巻き込まれていき……?
真面目で平凡()な学級委員長が王道転入生くんに巻き込まれ何だかんだ総受けする青春系ラブストーリー。
一部固定CP(副会長×王道転入生)もいつつ、基本は主人公総受けです。
こちらは個人サイトで数年前に連載していて、途中だったお話です。
今度こそ完走させてあげたいと思いたってこちらで加筆修正して再連載させていただいています。
当時の企画で書いた番外編なども掲載させていただきますが、生暖かく見守ってください。
学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語
紅林
BL
『桜田門学院高等学校』
日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ
しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ
そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる