忘却のカグラヴィーダ

結月てでぃ

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一章/炎の巨神、現る

この窓を越えてよ・二

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「君は、どうしてそんなにあの子を大事にしてくれるんだい?」
「寂しそうだったから」
「寂しい?」
「うん。寂しそうな、迷子の子どもみたいな顔してた」
 当夜は赤い海の中で見たカグラヴィーダの目を思い出しながら、雅臣に伝えた。
「子どもねえ」
「迦具土神って生まれてすぐに殺されてたし、鳥だし、刷り込み現象起こってるかも、とか」
「刷り込み?」
 真面目な顔をして言う当夜に対し、雅臣は呆けた顔を思い切り崩して笑う。いきなり腹を抱えて笑い出した雅臣に、当夜はえっ? と不思議そうな顔になった。
「お、俺なんか変なこと言った!?」
「はー……いや、なーんも」
 まだ笑いつつも目の端に滲んだ涙を指で拭う雅臣は、信じられないなと零す。
「こんなに鉄神を愛してくれる人が現れるなんて思いもしなかったよ」
 嬉しいなあと微笑む雅臣の手を、当夜は握った。
「え、なあに?」
「雅臣さんもそうじゃん。カグラヴィーダのこと大事にしてくれてる」
 そう言う当夜の手を、雅臣は両手でぎゅっと強く握り返す。
「分かる? 分かってくれる!? 僕の気持ち!」
「うん! だって、こんなに考えてるだろ。ずっと心配してるし」
 雅臣はうんうんと頷いた。
「鉄神が好きなんだ。あの肢体、美しいと思わないかい!?」
「うん! すっごくカッコイイ!」
「だよねえ、あの鉄の装甲に神の力。ああ、神ってこんなに素晴らしく残酷な存在なんだと、心から尊敬したよ……!」
 神は美しくて残酷な存在と聞いた当夜は表情を曇らせた。それに雅臣は首を傾げさせて見る。
「どうしたの?」
「あっうん……父さんが、よくそう言ってたなって」
「お父さんが?」
 ますます不思議そうな顔になる雅臣に当夜はうんと首を振って体を向けようとしたが、その前に当夜が座っている席側の窓をコツコツと小突かれた。
 二人が驚いて窓の外を見ると、そこには分厚い眼鏡をかけた、ボサボサの黒髪の男性が覗き込むようにしてしゃがんでいる。
 どう見ても不審者にしか見えず、血相を変えた雅臣が当夜の腕と肩をつかんで自分の方へ引っ張る。だが、当夜はそれに抗って車のドアを開け放った。
「当夜くん、危ない!」
「父さん!?」
「……って、ええ?」
 当夜が車外に出ると、その男性は抱きしめてくる。
「父さん、おかえり!」
「ああ、ただいま」
 もったりとした外見の男性と当夜の組み合わせは雅臣の目には変に見えたが、どちらも嬉しそうだったので口をつぐんだ。
「久しぶりだな、当夜」
「ホントだよ、父さん。もっと帰ってこいよ。体潰すぞ?」
「いや、研究が楽しくてね」
 はははと笑いながら頭をかく父に、当夜は呆れた目を向ける。
「ははは……いや、気を付けます」
「うん」
 父は当夜の肩に手を置いたまま、車内に目を移した。そこには、バツの悪そうな顔で運転席に腰かける雅臣がいる。
「ど、どーもー」
「当夜、あの人は?」
 訊ねられた当夜も、雅臣もなんと説明すればいいのか悩んだ。
「あー……えっと、父さん。あの人はね」
「それに、この髪と服はどうしたんだ」
 こんなに長かったか? と当夜の髪をすくうと、当夜はさらに顔を曇らせる。
「これは、その」
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