忘却のカグラヴィーダ

結月てでぃ

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一章/炎の巨神、現る

コックピットで唇を・二

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「大丈夫だったか?」
「うん。ありがとう」
 素直に礼を口にすると、徹はわずかに口に微笑を浮かべる。当夜は気になって下を見てみると、スタッフが見上げているのが分かった。
「なあ、徹。それなんかやってんの?」
「ただ確認をしているだけだ」
「じゃ、それどけてくれよ」
 頼むと、徹は眉をひそめつつも端末を右に避けてスペースを作る。当夜はありがとうと言うと、点滴スタンドから残り半分程になってきた輸血パックを取った。
「しかし、これを退けてどうするつもりだ?」
 不思議そうな面持ちになった徹は、繋いでいた回線を全て切る。当夜はそろりと猫のようにコックポットの中に入ってくると、徹の膝の上に腰を下ろした。
「とっ、当夜!?」
「なあ、扉閉めてくれよ。なんかここ、人の目ェ気になる」
「えっ、い、いいのか?」
「うん」
 徹は戸惑いつつも、コックピットのハッチを閉じる。当夜はようやく体の力を抜き、安心したように徹にもたれ掛った。
「ありがとう」
「い、いや……」
 赤くなりつつも徹は当夜が落ちないように腕で支えるが、頭に海前が言っていたことがちらついてしまう。
(柔らかいし、小さいな)
 膝の上にのっている当夜の小ぶりな丸い尻の感触がどうしても気になって仕方がなかった。長い髪から香ってくる当夜の甘い匂いをもっと感じたくなり、項にすり寄る。
(いい匂いだ)
 こんな風に簡単に身を任せてしまわれては困るのだ。
「徹、もう怒ってないのか?」
「いや、怒っている」
 黙り込んでしまっている徹に当夜は不安に思った当夜は訊ねたのだが、徹にキッパリと答えられた。
「お前が悪いわけではないのは分かっている。だからこそお前を守れなかった自分にも怒っているんだ」
「そっ、そんなの!」
 当夜は勢いよく身体を捻じって振り向いたが、真剣な顔をしている徹と目があったため、前に体を戻して俯く。
「俺がどんくさかっただけだし、徹は悪くない」
 ぎゅっと水色の服を握りながら言う当夜に、徹は微笑んだ。
「当夜、分かってくれたのか」
「分かったって?」
「僕の気持ちだ。お前に危険なことはされたくない」
「徹が危険なことしてたら?」
 当夜を抱きしめつつ徹は囁いたが、当夜はそれに眉をしかめる。
「俺は安全なトコでなーんも知んないでトボけた顔してなきゃなんないのか」
「ああ、お前は家で僕を待っていてくれ」
「……嫌だ」
 急に低くなった当夜の声に、徹は目を丸くさせた。
「俺だってお前が危ないことすんの嫌だ!」
「当夜、僕はいいんだ」
「よくない!」
 当夜が叫んだため、徹は驚いて当夜を囲うように回していた腕を解く。
「よくないだろ。なんで俺はダメなのに徹はいいんだよ。命も危険性も、誰だって一緒だろ!?」
「僕と当夜では命の価値が違う」
「それは徹の中での基準だ。俺の中の基準とも、他人の中の基準とも違う」
「僕はいいんだ」
 ムッとした顔になった当夜はもう一度よくない、と呟いた。
「なんでそんな、突き放したような言い方すんだよ」
「あの時誓っただろう、お前を守ると」
「そうだけど、でもあれは……俺を花澄と間違えたんだろ」
「違う」
 え? と当夜は振り返って徹を見上げる。徹は手を上げて当夜のぴょんぴょんと髪の跳ねている頭を撫で、指の背で頬を触った。
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