忘却のカグラヴィーダ

結月てでぃ

文字の大きさ
上 下
27 / 124
一章/炎の巨神、現る

コックピットで唇を・一

しおりを挟む
 格納庫への階段を、当夜は辺りを見渡しながら下りていく。使い古された所と、そうでない所。違いは一目瞭然だった。
「なんで十番だけ使われてるんだ?」
 五番までは頻繁に使われているのか、無数の傷がついていたが、六番から九番にはあまりついていないか、無傷のままだ。だが、十番は傷やサビ――赤い跡が残されている。
 当夜は首を傾げながら歩いていき、一番に置かれているミカヅチを見上げた。四葉に会ったからか、女性的な印象を受ける。
「……あれ?」
 そこでも首を傾げたが、とにかく進もうと歩みを止めない。早足で正面の二番に近づいていく。
「すみませーん!」
「はい?」
 機体の近くでパソコンのキーボードを熱心に叩いているスタッフに話しかけた。スタッフは見たこともない中学生くらいの小柄な――髪が長いため少女に見えないこともないが――少年に話しかけられ、瞬きをする。
「こらっ! どこから入ったんだ!」
 だが、すぐに我に返ってキーボードから手を離し、デスクの周りを回って当夜を捕まえに行こうとした。
「おい、止めろ! それ新しい贄だぞ!」
「贄!?」
 だが、すぐ近くでヤタドゥーエの装甲の状態を見ていたスタッフが跳びついて止める。贄という単語に当夜が眉をひそめたが、男たちは当夜を訝しげな眼で見るだけだ。
「こんな女の子みたいな子があんな鬼神みたいな戦い方を?」
「らしいぞ。あんなほそっちいのになあ」
 当夜はじろじろと舐めるように体を上から下まで見られたため、なんだこの人たちは、という気分になり男たちから顔を逸らす。
「ほーんと、こんなほっそい体で大丈夫かあ!?」
 当夜のすぐ後ろから野太い声が発された。驚いて振り向く前に大きな手で尻を掴まれ、当夜は叫び声を上げる。
「ちっせー尻だなあ、おい!」
「えっ、う、うわあ!」
 尻を遠慮なく揉まれた上に、平手で叩かれた。文句を言う隙もなく、ガッシリした筋骨隆々とした腕に抱えられる。
「海前さん!!」
 当夜が叫びだす前に、ヤタドゥーエのコックピットから上半身を乗り出した徹が大声で叫んだ。
「セクハラしていないで、早く当夜をリフトに乗せてください!」
「おお? リフトかあ?」
「ええ。……当夜、上に来い」
 なんか偉そう、と当夜は一瞬ムッとしたが、このまま下にいても目立つだけだと思い直してうんっと頷いた。海前は左腕に当夜を抱え、右手に点滴スタンドを持ち、下されていたリフトの上に当夜を座らせる。
「上げろー!」
 海前に命じられた先程のスタッフはバツが悪そうな顔で手元のパソコンを操作した。リフトが上がっていき、ヤタドゥーエのコックピットの前で止まる。当夜がヤタドゥーエのコックピットの中を覗くと、徹は端末になにかを打ち込んでいた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ヤンデレだらけの短編集

BL
ヤンデレだらけの1話(+おまけ)読切短編集です。 全8話。1日1話更新(20時)。 □ホオズキ:寡黙執着年上とノンケ平凡 □ゲッケイジュ:真面目サイコパスとただ可哀想な同級生 □アジサイ:不良の頭と臆病泣き虫 □ラベンダー:希死念慮不良とおバカ □デルフィニウム:執着傲慢幼馴染と地味ぼっち ムーンライトノベル様に別名義で投稿しています。 かなり昔に書いたもので、最近の作品と書き方やテーマが違うと思いますが、楽しんでいただければ嬉しいです。

いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜

きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員 Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。 そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。 初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。 甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。 第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。 ※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり) ※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り 初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。

【BL】国民的アイドルグループ内でBLなんて勘弁してください。

白猫
BL
国民的アイドルグループ【kasis】のメンバーである、片桐悠真(18)は悩んでいた。 最近どうも自分がおかしい。まさに悪い夢のようだ。ノーマルだったはずのこの自分が。 (同じグループにいる王子様系アイドルに恋をしてしまったかもしれないなんて……!) (勘違いだよな? そうに決まってる!) 気のせいであることを確認しようとすればするほどドツボにハマっていき……。

目が覚めたら囲まれてました

るんぱっぱ
BL
燈和(トウワ)は、いつも独りぼっちだった。 燈和の母は愛人で、すでに亡くなっている。愛人の子として虐げられてきた燈和は、ある日家から飛び出し街へ。でも、そこで不良とぶつかりボコボコにされてしまう。 そして、目が覚めると、3人の男が燈和を囲んでいて…話を聞くと、チカという男が燈和を拾ってくれたらしい。 チカに気に入られた燈和は3人と共に行動するようになる。 不思議な3人は、闇医者、若頭、ハッカー、と異色な人達で! 独りぼっちだった燈和が非日常な幸せを勝ち取る話。

ヤンデレBL作品集

みるきぃ
BL
主にヤンデレ攻めを中心としたBL作品集となっています。

学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語

紅林
BL
『桜田門学院高等学校』 日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である

愉快な生活

白鳩 唯斗
BL
王道学園で風紀副委員長を務める主人公のお話。

普通の男の子がヤンデレや変態に愛されるだけの短編集、はじめました。

山田ハメ太郎
BL
タイトル通りです。 お話ごとに章分けしており、ひとつの章が大体1万文字以下のショート詰め合わせです。 サクッと読めますので、お好きなお話からどうぞ。

処理中です...