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一章/炎の巨神、現る
八咫烏の鳴く夕闇・三
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「当夜、当夜……ッ! 無事でいてくれ、当夜!」
気持ちばかりが急く中、両手を握りしめて長い長い時間を待った。
「徹くん、いいよ! 出て!」
赤いライトを振っているスタッフたちから、拡声器で言われる。瞬間、目を開いて顔を上げた。
「ヤタドゥーエ、行くぞ!」
叫ぶように言うと、自動でコックピットブロックが閉まり、スーツから出ている背中と腿の裏側に無数の獣の牙のようなものが突き刺さってくる。
「ぐうっ」
痛みに徹は顔をしかめて耐えた。
その間も機体はレールに乗って運ばれていく。じょじょに命が入るかのように薄水色の重厚なロボットがスカイブルーに色づいていき、金の目が光を伴った。
四角いフォルムのヤタドゥーエは、肩に巨大な砲を二対持っており、胸には五つの砲口が開いている。腰にライフルとサーベルを帯びていた。
『とーるくんっ!』
正面の小さな通信用のモニターに四葉の顔が映る。今から戦闘に向かうとは思えない弾んだ声と明るい表情をしていた。
『想い人くんが近くにいるんだって?』
「ええ」
『じゃ、サクッと倒して避難所に迎えに行ったげよ! ねっ?』
ぐっと手を握ってウインクする姿は、先程とはまるで別人のように見える。
「ああ!」
ぐっと徹の体に重圧がかかってきて、勢いよくヤタドゥーエが施設の入り口から発進していく。徹は慣れた手つきで機体を持ち上げ、背面のスラスターを開く。ヤタドゥーエはそのまま真っ直ぐ夕闇に隠される町の上空を突き進んだ。
次いで発進した四葉の機体『ミカヅチ』が隣までやって来る。ミカヅチは全身が白で関節部が淡い黄の細いフォルムをしている。
ヤタドゥーエと違い、人型に近い姿だ。まるで髪のように頭部についている白い鞭、大きな薙刀と左腕に取り付けてある盾が特徴的な機体である。
「見つけた! 六条さん、一時の方向に――五体いる!」
『相変わらずレーダーよりも早いねっ!』
軽やかな笑い声を上げた四葉は、ぐんっとスピードを上げて飛んでいき、ミカヅチの手から発生させた雷を落とした。
鉄や土でできている化け物に雷を叩きつけられた衝撃でヒビが入る。追いついた徹も両肩の砲からレーザーを発射した。
「援護します!」
『はーいはい! あーもう、今日も結局二人だけなのね!』
やんなるわ! と叫んだ四葉がミカヅチを地上に着地させ、背に負った薙刀を引き抜いてアクガミに切りかかる。
徹もその場を見渡しやすいビルの屋上に降り、ミカヅチが動きやすいように、当たってしまわないようにと援護射撃を連続して撃った。
『二人共気を付けて! またアクガミが現れたわ!』
「何体です!?」
司令官の鏡子の声に、徹が怒鳴り返した。すると、ぎょっとする返事がくる。
『十五体よ!』
『そんなに!?』
徹も目を見開いて驚いたが、四葉も同じく驚いたらしく、引きつった声が聞こえた。徹はくっと喉の奥から声をだし、胸の砲口からビームを出して醜い姿をした化け物の胴体に穴をあける。
アクガミを倒す度に、背の後ろからジュルジュルと自分の血を啜る音が聞こえてき、輸血パックの血が波打って音を立てた。
「当夜は僕が守る!!」
避難所にいるはずだが、巻き込まれてしまうかもしれない。当夜に怪我の一つもさせてなるものかと徹は操縦桿を握る手に力を込めた。
『キョーコちゃん!!』
だが、その耳を四葉の悲痛な声がつんざく。
『どうしたの? 四葉』
『人がいるの!』
『なんですって!?』
徹はアクガミにレーザーを放った後、機体と飛ばしてミカヅチの近くに下りた。
『小さい子と中学生くらいの男の子が三人、倒れてるのよ! 私の見間違えじゃないわ!』
薙刀で果敢に切り込む四葉に、徹は冷静に訊ねた。
「六条さん、その人たちはどこに? 由川司令、救助隊をお願いします」
『右の公園の近く! 生垣の影だから、上手く隠れられてる!』
徹はその辺りを拡大して見てみる。
「……あ」
思わず、小さく声が漏れた。そこには、小学校低学年くらいの少年少女と、二人を庇うように両腕に抱えて地面に倒れている小柄な少年が倒れていた。
黒髪で顔は隠れてはいるが、紺の制服は先程まで自分が着ている物と同じデザインだと分かった。
「とっ、当夜あぁっ!!」
瞬間、頭の中が真っ白になった徹を衝撃が襲う。アクガミが放ったビームはシールドが防いだものの、もう一体が体当たりをしてきたことによって後方にはじき飛ばされたのだ。
「くっ!」
クラクラと眩暈を引き起こしかけている頭を振り、徹はヤタドゥーエを持ち上げようと操縦桿を握り直す。
『徹くん、大丈夫!?』
四葉が薙刀を振るってアクガミを分断してくれたおかげで、撃墜されることもなく体勢を整えることができた。だが、徹の目に映ったのは、近づくアクガミから逃げるために子どもを抱えて走るアマテラス機関のスタッフ二名と、頭を強く打って失神しているのか未だ気を失って地面に倒れ伏す当夜の姿だった。
「当夜に触れるなっ!!」
頭に血を上らせた徹だが、先程はじき飛ばされてしまったために射程範囲外だ。一気に距離を詰めようとスラスターを全開にして飛ぶが、その前にアクガミの土でできた無骨な手が当夜に触れる。
『やっ……』
その光景を見ていた四葉が最悪の事態を予測したのか、か弱い悲鳴を上げかけた。
当夜の赤い瞳を一度も見ることなく、ぐったりとした体がアクガミによって持ち上げられる。アクガミはぬちゃりと口を開き、その中に当夜を放り入れようとした。
「やめろおおおぉぉ!!」
四葉が叫びながら一文字にアクガミに接近し、その腕を切り落とす。そのまま地面に叩きつけられるかと思われた当夜を、別のアクガミがやってきて手の平で受け止めた。そのアクガミは当夜を掌にのせたまま、踵を返して走っていく。
人間はアクガミの好物だ。見つけたその場で食す場合もあるが、どこかにある巣に持ち帰ることもある。
「当夜ッ、当夜あぁー!!」
気持ちばかりが急く中、両手を握りしめて長い長い時間を待った。
「徹くん、いいよ! 出て!」
赤いライトを振っているスタッフたちから、拡声器で言われる。瞬間、目を開いて顔を上げた。
「ヤタドゥーエ、行くぞ!」
叫ぶように言うと、自動でコックピットブロックが閉まり、スーツから出ている背中と腿の裏側に無数の獣の牙のようなものが突き刺さってくる。
「ぐうっ」
痛みに徹は顔をしかめて耐えた。
その間も機体はレールに乗って運ばれていく。じょじょに命が入るかのように薄水色の重厚なロボットがスカイブルーに色づいていき、金の目が光を伴った。
四角いフォルムのヤタドゥーエは、肩に巨大な砲を二対持っており、胸には五つの砲口が開いている。腰にライフルとサーベルを帯びていた。
『とーるくんっ!』
正面の小さな通信用のモニターに四葉の顔が映る。今から戦闘に向かうとは思えない弾んだ声と明るい表情をしていた。
『想い人くんが近くにいるんだって?』
「ええ」
『じゃ、サクッと倒して避難所に迎えに行ったげよ! ねっ?』
ぐっと手を握ってウインクする姿は、先程とはまるで別人のように見える。
「ああ!」
ぐっと徹の体に重圧がかかってきて、勢いよくヤタドゥーエが施設の入り口から発進していく。徹は慣れた手つきで機体を持ち上げ、背面のスラスターを開く。ヤタドゥーエはそのまま真っ直ぐ夕闇に隠される町の上空を突き進んだ。
次いで発進した四葉の機体『ミカヅチ』が隣までやって来る。ミカヅチは全身が白で関節部が淡い黄の細いフォルムをしている。
ヤタドゥーエと違い、人型に近い姿だ。まるで髪のように頭部についている白い鞭、大きな薙刀と左腕に取り付けてある盾が特徴的な機体である。
「見つけた! 六条さん、一時の方向に――五体いる!」
『相変わらずレーダーよりも早いねっ!』
軽やかな笑い声を上げた四葉は、ぐんっとスピードを上げて飛んでいき、ミカヅチの手から発生させた雷を落とした。
鉄や土でできている化け物に雷を叩きつけられた衝撃でヒビが入る。追いついた徹も両肩の砲からレーザーを発射した。
「援護します!」
『はーいはい! あーもう、今日も結局二人だけなのね!』
やんなるわ! と叫んだ四葉がミカヅチを地上に着地させ、背に負った薙刀を引き抜いてアクガミに切りかかる。
徹もその場を見渡しやすいビルの屋上に降り、ミカヅチが動きやすいように、当たってしまわないようにと援護射撃を連続して撃った。
『二人共気を付けて! またアクガミが現れたわ!』
「何体です!?」
司令官の鏡子の声に、徹が怒鳴り返した。すると、ぎょっとする返事がくる。
『十五体よ!』
『そんなに!?』
徹も目を見開いて驚いたが、四葉も同じく驚いたらしく、引きつった声が聞こえた。徹はくっと喉の奥から声をだし、胸の砲口からビームを出して醜い姿をした化け物の胴体に穴をあける。
アクガミを倒す度に、背の後ろからジュルジュルと自分の血を啜る音が聞こえてき、輸血パックの血が波打って音を立てた。
「当夜は僕が守る!!」
避難所にいるはずだが、巻き込まれてしまうかもしれない。当夜に怪我の一つもさせてなるものかと徹は操縦桿を握る手に力を込めた。
『キョーコちゃん!!』
だが、その耳を四葉の悲痛な声がつんざく。
『どうしたの? 四葉』
『人がいるの!』
『なんですって!?』
徹はアクガミにレーザーを放った後、機体と飛ばしてミカヅチの近くに下りた。
『小さい子と中学生くらいの男の子が三人、倒れてるのよ! 私の見間違えじゃないわ!』
薙刀で果敢に切り込む四葉に、徹は冷静に訊ねた。
「六条さん、その人たちはどこに? 由川司令、救助隊をお願いします」
『右の公園の近く! 生垣の影だから、上手く隠れられてる!』
徹はその辺りを拡大して見てみる。
「……あ」
思わず、小さく声が漏れた。そこには、小学校低学年くらいの少年少女と、二人を庇うように両腕に抱えて地面に倒れている小柄な少年が倒れていた。
黒髪で顔は隠れてはいるが、紺の制服は先程まで自分が着ている物と同じデザインだと分かった。
「とっ、当夜あぁっ!!」
瞬間、頭の中が真っ白になった徹を衝撃が襲う。アクガミが放ったビームはシールドが防いだものの、もう一体が体当たりをしてきたことによって後方にはじき飛ばされたのだ。
「くっ!」
クラクラと眩暈を引き起こしかけている頭を振り、徹はヤタドゥーエを持ち上げようと操縦桿を握り直す。
『徹くん、大丈夫!?』
四葉が薙刀を振るってアクガミを分断してくれたおかげで、撃墜されることもなく体勢を整えることができた。だが、徹の目に映ったのは、近づくアクガミから逃げるために子どもを抱えて走るアマテラス機関のスタッフ二名と、頭を強く打って失神しているのか未だ気を失って地面に倒れ伏す当夜の姿だった。
「当夜に触れるなっ!!」
頭に血を上らせた徹だが、先程はじき飛ばされてしまったために射程範囲外だ。一気に距離を詰めようとスラスターを全開にして飛ぶが、その前にアクガミの土でできた無骨な手が当夜に触れる。
『やっ……』
その光景を見ていた四葉が最悪の事態を予測したのか、か弱い悲鳴を上げかけた。
当夜の赤い瞳を一度も見ることなく、ぐったりとした体がアクガミによって持ち上げられる。アクガミはぬちゃりと口を開き、その中に当夜を放り入れようとした。
「やめろおおおぉぉ!!」
四葉が叫びながら一文字にアクガミに接近し、その腕を切り落とす。そのまま地面に叩きつけられるかと思われた当夜を、別のアクガミがやってきて手の平で受け止めた。そのアクガミは当夜を掌にのせたまま、踵を返して走っていく。
人間はアクガミの好物だ。見つけたその場で食す場合もあるが、どこかにある巣に持ち帰ることもある。
「当夜ッ、当夜あぁー!!」
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