忘却のカグラヴィーダ

結月てでぃ

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一章/炎の巨神、現る

暗い路でもあなたとなら・二

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 二人が門を出たところで、徹が指差した。
「当夜、今日はこの道から帰ろう」
 狭い路地を差された当夜はえっ? と徹の顔を見る。学校と隣の変電所の間にあるその路地は駅への近道と言われていたが、あまりにも暗いために不審者が出ると噂されているために誰も通る生徒はいなかった。
「大丈夫だ、僕がいる」
「うええ……おばけ出そう」
 眉を寄せて歯を噛み合わせる当夜に徹はそっちか、と肩を落とす。
「それ以外になにが出るんだよー。怖いって!」
「なら手を繋ごう」
「えっ」
 すっと手を差し出された当夜は、微笑を浮かべている徹の顔を見てから目を伏せて頷いた。
「別に手じゃなくてもいいんだけどな」
 そう言いながら徹の手の上に、己のそれを重ねる。薄く染まった当夜の頬を見た徹は、ふっと息を吐いて笑った。
「じゃあ行こうか」 
「うん」
 学校の壁沿いに植えられた木々の影で埋められた灰色の空間に二人は進んでいく。当夜は普段通らない道をもの珍しそうにきょろきょろと首を回して見た。
「けどさあ、徹。なんで今日はこっち通んの?」
「向こうの道は朝あんな感じだったからな。こっちの方がいいと思ったんだ」
「ああ。まだいんのかなあ?」
 変電所の周りをぐるりと回ることになる向こうのルートだと、今朝人垣ができていた所をまた通ることになる。
「さあ。どちらにしろ通らない方がいい」
「うーん、俺は別に気にしないけどなあ」
「興奮している人がいるから怪我をするかもしれないし、インタビューを受けることになったら面倒だからな」
「それは確かに……そうかもな」
 徹の手をぎゅっと強く握りしめて歩いていた当夜が前を指さした。
「出口っぽいな!」
 つられて見た徹は、ああと言う。当夜が指差す方向から光が入ってきていた。
「ここは一本道だし、通行できるんだから出口はあるんだぞ?」
「そーだけどさー。こんだけ暗い所だとなんか一生出られねえって気ィしてこない?」
「いや、僕は特に思わないな」
「ちぇっ。なんだよ、怖いのは俺だけか?」
「まあ、そうだな」
 明るい所に出た二人は、目を細くさせて急な光に慣れようとする。
「まぶしーっ!」
 もう無理だと感じた徹は名残惜しみながらも手を離した。当夜はぐっと手を上へ伸ばしつつも、通ってきた道を振り返る。
「ほんっと、暗かったな!」
「ああ」
「誰もここ通んないのマジで分かった」
 そう言いながら、駅の繋がる道を歩いていく。駅へは後五十メートルくらい歩けばいいだけなので、先程の道を遣えば一直線に歩くだけでいいことになるのだ。
「でも、一人じゃ通りたくないけど楽だな」
「ああ」
「もしかしてさ、一人で歩いたことあんの?」
「時々な。どうしても早く帰りたい時は通るな」
「ふーん。けど、不審者出るって話だからあんま一人で通んない方がいいんじゃねえの?」
「数回だけだ。僕だってあんなに暗い所はそうそう通りたいとは思わない」
「ならいいんだけどさ」
 話している内に駅に着き、当夜はチェーンに取りつけた定期入れから、徹は鞄の外ポケットから定期を取り出して改札を通る。二つある後口の内、改札から近い方に行くために階段を上っていく。
「お、後二分くらいで来るって!」
「丁度だな」
 赤木と話していたが、近道を遣ったためまだ生徒は少ない。きっと座ることだろう。
「もう少し前へ行くか?」
「だな」
 風に吹かれて遊ばれる髪を手で押さえた徹を横目で見ながら当夜は二号車の停車位置まで歩いていった。
 そのうちにアナウンスが流れ、強い風と共にチョコレート色の電車が入ってくる。大きな口の中に二人は入り込み、緑色の座席に二人並んで腰かけた。徹に膝にのせた鞄から本を取り出して開き、当夜は徹の肩に頭を預けてそれを覗き見た。
「古事記?」
「ああ」
「外文学が好きじゃなかったっけ?」
「ああ。だが、これは……ちょっと。別なんだ」
 ふうん、と呟いて当夜は目を閉じる。なんとなく、徹が触れてほしくないと感じているような気がしたのだ。
 ガタンゴトンと二人が住んでいる市内にある駅まで連れて行く電車の音と、徹が本のページをめくる音、微かに聞こえる話し声を子守唄にしながら当夜は眠る。
「当夜、起きろ。着いたぞ」
 だが、すぐに徹に揺り起こされた。
「なに、もう着いたのか?」
「ああ。下りよう」
 寝ぼけ眼のまま、膝の上に置いていたスクールバッグを肩にかけて、徹に腕を引かれるままに下りる。階段を下っていき、駅の改札も抜けた。
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