忘却のカグラヴィーダ

結月てでぃ

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一章/炎の巨神、現る

迫る気配・四

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 運動場に歓声と土ぼこりが舞う。その中心で行われているのはドッジボールだ。
「渋木! いい加減当たれよっ!」
 そう言いながら、三方向から男子がボールを投げた。
「やだよ。痛いじゃん!」
 左右から勢いよく放たれたボールを体を翻して当夜は避ける。正面から投げられたボールは腕の中に包み込むようにして受け取り、腕を振りかぶって投げ返した。ボールは一直線に先程投げた少年の胸に当たり、地面に落ちる。
 投げたところを、右側に立っていた少年が転がってきたボールを拾い、当てようと狙ったが当夜はそれも避けた。
「くっそおぉー!」
「あったんねえー」
 側頭部を手で押さえて喚く男子に、当夜はへっへーんと自慢げに笑う。
「おい、暁美!!」
 すでに試合が終わったチームメンバーと一緒に土の上に座って試合を見ていた徹に、当夜と対戦しているチームメイトの一人が声をかける。
「なんだ?」
「お前こっち入ってくれよ!」
「辞退する」
 ふっと笑って拒否を示した徹に、対戦チームのメンバーはえーっと大きく非難の声を上げた。
「なんでだよ!」
「お前なら渋木倒せんじゃねーのー?」
「来いよ!」
 両手を振って誘うが、徹は苦笑して首を横に振るだけだ。
「僕じゃ無理だ」
 えーっともう一度大きく叫び声が出た。
「いけるって! なあ!?」
「徹ならいけるってー! 来いよー」
 そのやりとりに、白線でできたコートの片側の中に一人立っている当夜があははっと明るい笑い声を上げる。
「俺、徹にだって負けないぞ!」
「笑うなー!!」
「いや、笑うだろー」
 腰に両手を当てて笑う当夜の背後からボールを投げるが、それも避けた。投げた人はあーっと叫びながらその場にしゃがみ込む。
「おっ前……後ろに目でもついてんのかあ!?」
「ついてねーよ!」
「あー、昼飯の賭けとかすんじゃなかった」
「つーかボール五個使ってもアイツ当たんねーし、円形ドッジでもアイツが外野行ったとこ見たことねーわ。マジで無理」
 戦意喪失した対戦チームの面々が座り込んだ。それを見た徹は、諦めたのか? と呟く。
「諦めるしかないだろ、アレは」
「どういう運動神経してんだっつーの」
「お前の幼馴染どうなってんだよ。前やった模試も一位だったろ?」
「身長低いのを可哀想に思った神様がせめて他のは……ってくれたんだよ」
 徹の隣で話していると、駆け寄ってきた当夜が話しかけてきた。疲れた様子が一切ない当夜に二人は苦笑する。
「神様与えすぎだろ」
「それくらい身長欲しかったかんな」
「お前ちっせーもんな」
 中腰の状態で話している当夜の頭を二人がぽんぽんと叩くと、当夜はやめろよと膨れた顔をした。
「優秀すぎる幼馴染がいると大変だな」
 右横から寄ってきた加護が含み笑いをしながら徹に声をかける。
「まあ、見ていて飽きないな」
「だろうな。……集合だってよ」
「分かった、すぐ行く」
 頷いた徹は立ち上がって、笑い話をしている当夜の肩を叩き、集合だと言って歩き出した。
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