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一章/炎の巨神、現る
炎の声届く夜・四
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大きく首を振った当夜は勢いよく立ち上がる。そして、自分の分の皿を持ち上げると徹の横を通って流しに向かった。
「いつもありがとな!」
と振り返って言うと、腕まくりをして皿を洗っていく。ぶくぶくと手に持ったスポンジを泡立てながら鼻歌混じりになる当夜に徹は近づき、背後から抱きしめた。
「んー、どうした?」
ぎゅっと強く抱き締め、首元に摺り寄せる。当夜からふんわりと香る匂いに、徹は目を細める。
「シャンプーでも変えたか?」
「へ? うん、昨日切れた」
さらにすり寄ると、
「あははっ! 髪が擦れてくすぐったいって!」
当夜は笑いながら徹の顔面を軽く叩いた。洗い流していた最中だったために泡はつかなかったが、顔と髪に水をつけられた徹は目を閉じて顔をしかめる。
「あっ……ごめん! つい」
「いや、いい。僕が悪かった」
いささか傷つきはしたが口にはしなかった徹に濡れたままの両手を合わせて謝った当夜は洗面所に走っていき、タオルを手に戻ってきた。
「ほんっとーにごめん!」
柔軟剤を使っているタオルはふわっふわの手触りだ。徹の方が当夜よりも頭一つ分は背が高いために頭を拭こうとすると爪先立ちになってしまう。それで顔を申し訳なさそうに拭いてもらった徹は、柔らかく心まで癒してくれるようなタオルと当夜の様子に目を和ませる。
「本当にいいんだ、僕は大丈夫だから」
それより、と言いながら当夜から離れると、椅子にかけてあった当夜のブレザーを手に取った。当夜の正面まで行き、当夜の肩にかける。
「そろそろ学校に行こう」
「へっ、もうそんな時間?」
「四十五分だ。いつもの電車に間に合わなくなる」
もう!? と驚きながらも、当夜はブレザーに腕を通して鞄取ってくる! と行って階段を駆け上がった。部屋のドアを開けて鞄と机の上に置いていた腕時計を手に下りていく。
「お待たせっ!」
「じゃあ行くか」
すでにリビングから玄関に繋がる廊下に立って待っていた徹に言われ、当夜はうんっ! と返した。徹の後ろをついていき、まだま新しい靴を履いて外に出る。鍵を手にしていた徹がしっかりと施錠をして、二人は歩き始めた。
「忘れ物はないか?」
「ねーよ。バッチリ確かめたって!」
指でVサインを作って見せた当夜に、徹は顎に手を当てる。
「本当か? 昨日もそう言っていたが体操着を忘れていたぞ」
「あれはたまたま! 今日はマジ大丈夫だってば!」
うっかりスクールバッグに詰め忘れたまま学校に行ってしまったのを指摘された当夜は一瞬ぐっと詰まったが、すぐに言い返した。
「同じクラスなのは嬉しいが、物の貸し借りができないのは不便だな」
「徹は忘れないじゃん」
「お前はたまに忘れるだろう」
再度言われた当夜はむっと唇を平らにした状態で上げる。
「俺、そんな忘れっぽくないし、クラス一緒のが良かった」
拗ねた調子で言われた徹は瞬きをしてから、歩調を早めた当夜の後を追った。
「と、当夜!」
手を握ることで歩みを止めると、当夜は眉を寄せたままそっぽを向く。
「イジワルな奴とは喋んないから」
「すまない、僕も嬉しかった」
「……マジで?」
「ああ、本当だ」
逃げられないように手をぎゅっと握りながら言うと、当夜は徹の方に顔を向けた。
「じゃ、許してやんよ!」
にっと歯を見せて笑った当夜は腕時計を見て、電車逃しちゃうじゃんと呟く。そして、そのまま徹の手を引っ張っていった。手が離されないことに徹はいささか驚いて目を白黒とさせたが、当夜のつむじを見下ろして和やかに微笑んだ。
「いつもありがとな!」
と振り返って言うと、腕まくりをして皿を洗っていく。ぶくぶくと手に持ったスポンジを泡立てながら鼻歌混じりになる当夜に徹は近づき、背後から抱きしめた。
「んー、どうした?」
ぎゅっと強く抱き締め、首元に摺り寄せる。当夜からふんわりと香る匂いに、徹は目を細める。
「シャンプーでも変えたか?」
「へ? うん、昨日切れた」
さらにすり寄ると、
「あははっ! 髪が擦れてくすぐったいって!」
当夜は笑いながら徹の顔面を軽く叩いた。洗い流していた最中だったために泡はつかなかったが、顔と髪に水をつけられた徹は目を閉じて顔をしかめる。
「あっ……ごめん! つい」
「いや、いい。僕が悪かった」
いささか傷つきはしたが口にはしなかった徹に濡れたままの両手を合わせて謝った当夜は洗面所に走っていき、タオルを手に戻ってきた。
「ほんっとーにごめん!」
柔軟剤を使っているタオルはふわっふわの手触りだ。徹の方が当夜よりも頭一つ分は背が高いために頭を拭こうとすると爪先立ちになってしまう。それで顔を申し訳なさそうに拭いてもらった徹は、柔らかく心まで癒してくれるようなタオルと当夜の様子に目を和ませる。
「本当にいいんだ、僕は大丈夫だから」
それより、と言いながら当夜から離れると、椅子にかけてあった当夜のブレザーを手に取った。当夜の正面まで行き、当夜の肩にかける。
「そろそろ学校に行こう」
「へっ、もうそんな時間?」
「四十五分だ。いつもの電車に間に合わなくなる」
もう!? と驚きながらも、当夜はブレザーに腕を通して鞄取ってくる! と行って階段を駆け上がった。部屋のドアを開けて鞄と机の上に置いていた腕時計を手に下りていく。
「お待たせっ!」
「じゃあ行くか」
すでにリビングから玄関に繋がる廊下に立って待っていた徹に言われ、当夜はうんっ! と返した。徹の後ろをついていき、まだま新しい靴を履いて外に出る。鍵を手にしていた徹がしっかりと施錠をして、二人は歩き始めた。
「忘れ物はないか?」
「ねーよ。バッチリ確かめたって!」
指でVサインを作って見せた当夜に、徹は顎に手を当てる。
「本当か? 昨日もそう言っていたが体操着を忘れていたぞ」
「あれはたまたま! 今日はマジ大丈夫だってば!」
うっかりスクールバッグに詰め忘れたまま学校に行ってしまったのを指摘された当夜は一瞬ぐっと詰まったが、すぐに言い返した。
「同じクラスなのは嬉しいが、物の貸し借りができないのは不便だな」
「徹は忘れないじゃん」
「お前はたまに忘れるだろう」
再度言われた当夜はむっと唇を平らにした状態で上げる。
「俺、そんな忘れっぽくないし、クラス一緒のが良かった」
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「と、当夜!」
手を握ることで歩みを止めると、当夜は眉を寄せたままそっぽを向く。
「イジワルな奴とは喋んないから」
「すまない、僕も嬉しかった」
「……マジで?」
「ああ、本当だ」
逃げられないように手をぎゅっと握りながら言うと、当夜は徹の方に顔を向けた。
「じゃ、許してやんよ!」
にっと歯を見せて笑った当夜は腕時計を見て、電車逃しちゃうじゃんと呟く。そして、そのまま徹の手を引っ張っていった。手が離されないことに徹はいささか驚いて目を白黒とさせたが、当夜のつむじを見下ろして和やかに微笑んだ。
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