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一章/炎の巨神、現る
炎の声届く夜・三
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当夜と徹は、幼馴染だ。二月十五日に徹が産まれ、その一ヵ月後の三月十五日に当夜が産まれた。元々友人同士だった当夜と徹の母たちが結婚する際に隣の家に引っ越していたこともあり、赤ん坊の頃から二人はずっと一緒にいる。
ある事情で家を空けやすい当夜の両親と、仕事でいない両親がいない徹を育てたのは、当夜の祖母だった。その祖母も二年前に逝去した今では、祖母から全ての料理を教わった当夜が家事をして暮らしている。
子どもがまとめて楽しく、栄養も取りながら暮らせているのはどちらの両親にとっても喜ばしいことだったらしく、誰もなにも言わず、両家の父母が当夜に生活費を渡していた。
「それに、徹がいてくれると、なんか安心するしな!」
「お前が不用心すぎるんだ」
後頭部に手をやって笑う当夜にチラリと目線だけをやった徹は苦い顔になりながら漬物を口に入れる。ポリポリと咀嚼している間に、作り置きのレンコンと赤唐辛子の煮物と鰆を味噌に漬けて焼いたのをテーブルの上に並べた。
「詐欺師を家に入れて茶まで出していたのには驚いたぞ」
「へ? ああ、あのお兄さんか」
当夜も徹の前にある席を引き、座る。いただきます、と手を合わせてから自分の分のお椀を持ち上げて味噌汁を啜った。
「うーん、そんなに悪い人じゃなさそうだったけどな。丁度炊飯器壊れたとこだったしさあ」
「僕の言い方が悪かった。訪問販売は追い返せ」
「えー、でもアレ結構良かったぞ。やっぱさあ、米はガス炊きが美味いって!」
「ああ、それは分かる。分かるが、だがな」
じっと徹に見られ、むぐむぐと卵焼きを咀嚼していた当夜は首を傾げる。
「お前は……その、危なっかしいから。僕がいない時はチャイムも電話の音も無視していい」
「よくないだろー。なんか重要なコトかもしんないしさー」
「重要なことならば携帯に連絡がくる。家電は無視しろ」
当夜は鰆を口に含みながら、上目がちに徹を見つめた。
「そんな顔をしてもダメだ。お前を見ていろと言われているんだからな。これには従ってもらう」
食べ終わった徹は立ち上がり、テーブルに手をついて、もう片方の手を伸ばして当夜の頬を撫でる。
「お前を守るのが僕の役目だと決めただろう?」
頬を撫でられ、な? と優しく微笑まれた当夜は、照れて下を向いてしまった。しかし、それでもしっかり一度首を頷かせる。
「うん、ありがとう」
はにかんで笑う当夜に、徹はふっと安堵の息を吐いた。だが、すぐになにかを思い出して顔を引き締める。
「それと、道で知らない人に話し掛けられても相手をするなよ」
「えっ、なんで!?」
徹の言葉に当夜はショックを隠し切れないといった様子で顔を上げた。
「誘拐犯かもしれないだろう」
「そんな奴めったにいねーよ!?」
「その、滅多に当たったらどうするんだ」
「……た、叩きのめしてケーサツに」
唇を尖らせる当夜に、徹はふーっと大きく息を吐き出す。
「お前に危険なことをしてほしくないんだ」
「俺が危険なことをしたら、他の人がしなくていいってことじゃん」
「家に帰ってもお前がおらず、警察から連絡を受ける僕の身にもなってくれ」
当夜は茶碗に残った白米を口に放り込み、咀嚼した。
「けど、俺悪いこととかしたんじゃないんじゃん」
「ああ、お前が色んな人のために動いてくれているのはよく知っている。警察はいつ行っても感謝の言葉しかかけられないし、家にお礼に来てくれる人とも会っている」
これでは埒があかないと思ったらしい徹は歩いていって当夜の足元にしゃがみ、下から顔を覗き込む。箸を置いて膝にのせられていた手を取った。
「誰にでも優しく、正義感の強いお前が好きだ。けれど、お前が助けようとした人たちを案ずる人たちと同様に、僕だってお前を案じているんだ。怪我されたくない。どんな傷だって負ってほしくない」
両手で当夜の右手を包みながら諭すように言うと、当夜は左手で徹の手を離してしまう。徹がそれに反応を返すまでに、当夜は徹の首に抱き着いた。
「な……っ!?」
目を白黒させる徹に、気付かず当夜はあははっと明るい声を上げる。
「かっわいーなー徹!」
それから、徹の髪をぐしゃぐしゃに掻き混ぜた。
「おっ、おい! こらっ。やめろ」
掻き乱される徹は片目を閉じ、抗議の声を上げる。当夜はもう一度声を上げて笑うと、徹の顔を両手で挟んだ。
「俺はヘーキだって。徹や母さんたちを悲しませることはぜってーしない。誓う!」
目を合わせて真摯に言葉をかける当夜が、
「けど、徹が気になるならなるべく気にするようにする」
「なるべく?」
「なるべく。やっぱさ、ほっとけないから」
と言ったのに、徹がため息を吐きそうになるのを感じた。
「ご、ごめん……」
そのため、当夜は謝罪の言葉を口にして頭も項垂れる。
「いい、僕も気を付ける」
その頭を撫でた徹は、ふっと笑った。
「目の届く所にいるようにいるようにする」
「……うんっ!」
ある事情で家を空けやすい当夜の両親と、仕事でいない両親がいない徹を育てたのは、当夜の祖母だった。その祖母も二年前に逝去した今では、祖母から全ての料理を教わった当夜が家事をして暮らしている。
子どもがまとめて楽しく、栄養も取りながら暮らせているのはどちらの両親にとっても喜ばしいことだったらしく、誰もなにも言わず、両家の父母が当夜に生活費を渡していた。
「それに、徹がいてくれると、なんか安心するしな!」
「お前が不用心すぎるんだ」
後頭部に手をやって笑う当夜にチラリと目線だけをやった徹は苦い顔になりながら漬物を口に入れる。ポリポリと咀嚼している間に、作り置きのレンコンと赤唐辛子の煮物と鰆を味噌に漬けて焼いたのをテーブルの上に並べた。
「詐欺師を家に入れて茶まで出していたのには驚いたぞ」
「へ? ああ、あのお兄さんか」
当夜も徹の前にある席を引き、座る。いただきます、と手を合わせてから自分の分のお椀を持ち上げて味噌汁を啜った。
「うーん、そんなに悪い人じゃなさそうだったけどな。丁度炊飯器壊れたとこだったしさあ」
「僕の言い方が悪かった。訪問販売は追い返せ」
「えー、でもアレ結構良かったぞ。やっぱさあ、米はガス炊きが美味いって!」
「ああ、それは分かる。分かるが、だがな」
じっと徹に見られ、むぐむぐと卵焼きを咀嚼していた当夜は首を傾げる。
「お前は……その、危なっかしいから。僕がいない時はチャイムも電話の音も無視していい」
「よくないだろー。なんか重要なコトかもしんないしさー」
「重要なことならば携帯に連絡がくる。家電は無視しろ」
当夜は鰆を口に含みながら、上目がちに徹を見つめた。
「そんな顔をしてもダメだ。お前を見ていろと言われているんだからな。これには従ってもらう」
食べ終わった徹は立ち上がり、テーブルに手をついて、もう片方の手を伸ばして当夜の頬を撫でる。
「お前を守るのが僕の役目だと決めただろう?」
頬を撫でられ、な? と優しく微笑まれた当夜は、照れて下を向いてしまった。しかし、それでもしっかり一度首を頷かせる。
「うん、ありがとう」
はにかんで笑う当夜に、徹はふっと安堵の息を吐いた。だが、すぐになにかを思い出して顔を引き締める。
「それと、道で知らない人に話し掛けられても相手をするなよ」
「えっ、なんで!?」
徹の言葉に当夜はショックを隠し切れないといった様子で顔を上げた。
「誘拐犯かもしれないだろう」
「そんな奴めったにいねーよ!?」
「その、滅多に当たったらどうするんだ」
「……た、叩きのめしてケーサツに」
唇を尖らせる当夜に、徹はふーっと大きく息を吐き出す。
「お前に危険なことをしてほしくないんだ」
「俺が危険なことをしたら、他の人がしなくていいってことじゃん」
「家に帰ってもお前がおらず、警察から連絡を受ける僕の身にもなってくれ」
当夜は茶碗に残った白米を口に放り込み、咀嚼した。
「けど、俺悪いこととかしたんじゃないんじゃん」
「ああ、お前が色んな人のために動いてくれているのはよく知っている。警察はいつ行っても感謝の言葉しかかけられないし、家にお礼に来てくれる人とも会っている」
これでは埒があかないと思ったらしい徹は歩いていって当夜の足元にしゃがみ、下から顔を覗き込む。箸を置いて膝にのせられていた手を取った。
「誰にでも優しく、正義感の強いお前が好きだ。けれど、お前が助けようとした人たちを案ずる人たちと同様に、僕だってお前を案じているんだ。怪我されたくない。どんな傷だって負ってほしくない」
両手で当夜の右手を包みながら諭すように言うと、当夜は左手で徹の手を離してしまう。徹がそれに反応を返すまでに、当夜は徹の首に抱き着いた。
「な……っ!?」
目を白黒させる徹に、気付かず当夜はあははっと明るい声を上げる。
「かっわいーなー徹!」
それから、徹の髪をぐしゃぐしゃに掻き混ぜた。
「おっ、おい! こらっ。やめろ」
掻き乱される徹は片目を閉じ、抗議の声を上げる。当夜はもう一度声を上げて笑うと、徹の顔を両手で挟んだ。
「俺はヘーキだって。徹や母さんたちを悲しませることはぜってーしない。誓う!」
目を合わせて真摯に言葉をかける当夜が、
「けど、徹が気になるならなるべく気にするようにする」
「なるべく?」
「なるべく。やっぱさ、ほっとけないから」
と言ったのに、徹がため息を吐きそうになるのを感じた。
「ご、ごめん……」
そのため、当夜は謝罪の言葉を口にして頭も項垂れる。
「いい、僕も気を付ける」
その頭を撫でた徹は、ふっと笑った。
「目の届く所にいるようにいるようにする」
「……うんっ!」
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