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1*叶人視点 僕の秘密事
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ふわふわな羊毛をニードルでチクチクしていくと、だんだん固まっていく。
ひとつひとつのパーツを、頭の中で描いている形になるように、ニードルを持っていない方の手で羊毛をギュッと押して形を作っていく。そしてひたすらチクチクチク……。パーツを繋げて、目をつけたら完成。
高校二年生になったばかりの僕は今、色んな小鳥を羊毛フェルトで作るのにハマっている。他のことを何も考えないで集中できるチクチクタイムが大好きだし、完成したふわふわでかわいい子たちも大好き。
そんな中、幼なじみの陽向くんも一緒にやりたいって言ってきた――。
☆。.:*・゜
放課後、教室で帰る支度をしている時、隣のクラスにいる陽向(ひなた)くんが教室に入ってきた。
「叶人(かなと)、帰ろ?」
「うん、帰ろ」
陽向くんは幼なじみだ。小学生の時から家がお向かいさんで、その時からの友達。僕たちは小さい頃、近所の人たちに可愛いとよく言われていた。ふたり並んでいると、おばちゃんたちに「天使が並んでいるわ」とか「妖精みたいなふたりね」とか言われていた。だけど今は、陽向くんは身長も伸びて、かっこよくなった。そして性格も強いし、みんなに頼られていてかっこいい。僕は、あんまり変わらない、かな?
鞄を持つと一緒に廊下に出る。
「叶人、バイト代入ったから帰りソフトクリーム食べに行かない? 奢るわ」
学校の玄関で、靴を履きながら陽向くんはそう言った。
「今日はちょっと……まっすぐ帰るよ」
「何か用事あるの?」
「うん。用事が――」
今羊毛フェルトでスズメを作ってて、今日完成しそうだから早く帰って作りたい。ソフトクリームも食べたいけれど。
「そっか、明後日は?」
「明後日は大丈夫だよ!」
「じゃあ明後日にしようか」
「そうしよ!」
ふたりはそれぞれ自転車に乗って、一列に並んで家に帰る。
「あれ? 家の前まで来たけど、帰りにソフトクリーム食べには行かないの?」
「叶人と明後日行くから、今日はいい。叶人、今日はなんの用事があるの?」
「家で、ちょっと……」
「内緒か。叶人もついに俺に秘密事をするようになったのか……」
「だって……」
僕の趣味は、家族以外は誰にも内緒だ。
僕の羊毛フェルトタイムは、現実世界ではなく、異世界のようなもので。なんていうか、ちょっと誰にも来て欲しくないなというか――。あぁ、でも陽向くんには教えてもいいのかな?
「いや、そんなもじもじした動きして……言いたくないなら言わなくてもいいよ別に。じゃあ、またな!」
「いや、あの……」
陽向くんはちょっと怒った様子。
秘密事して、怒らせちゃったかな?
ちょっと落ち込む。
明日の朝、いつものように迎えに来てくれるのかな?
もしも来てくれなかったら?
早めに家の前で待ってて、僕から声をかけようかな……。
僕はため息つきながら自転車を車庫にしまい、家に入った。
二階にある自分の部屋に行き、部屋着にしている白色のジャージに着替えると、机に向かう。途中まで作っていた羊毛フェルトのスズメ制作作業を再開するために。
各パーツは出来ていたから、あとはそれらを繋げるだけ。さっきの陽向くんとの件で、気持ちがもやもやしながらだったけれど、何とか完成させた。
「かわいい!」
作ったスズメの目は、目の部分に目打で穴を開け、そこに差し込むタイプのネジみたいな黒い目。つぶらでキラキラしている目と、僕の目が合った。まるで「命を吹き込んでくれてありがとう」と言われているようだ。
部屋の中は薄暗い。部屋の壁時計を確認すると十八時。窓から外を見ると、夕日も沈む頃。
集中するとあっという間に時間は過ぎていくよね。
ちょうどその時に、下から「ご飯だよ」と、お母さんの声がした。作業していた机の上にスズメを置くと下へ行った。
ご飯中、お母さんが「どうしたの? 何かあった?」と質問してきた。
お母さんの洞察力はすごい。
「陽向くんが僕にムッとした気がしていて……」
「あら、喧嘩?」
「喧嘩っていうか……喧嘩っていうか?」
喧嘩なのかな?
陽向くんは僕が秘密事をしたことに怒っていた気がする。
「何があったのかは分からないけれど、陽向くんは、叶人のことが大好きだと思うよ」
「うん、そうだよね――」
僕は自分にも言い聞かすように、そう返事をした。
ご飯食べている時も、お風呂に入ってる時もずっと陽向くんのことが気になった。陽向くんの部屋は、陽向くんの家の一階にある。
寝る前に、陽向くんの部屋をそっと覗いてみようかな? さっき完成させた羊毛フェルトのスズメも持って。
僕は静かに玄関へ行くと、外に出た。
陽向くんの部屋は、陽向くん家の玄関のちょうど真逆裏側のところにある。庭におじゃまして部屋の前に着くと、カーテンが開いていたから、中を覗いた。
ちらっと中を覗いてみると、明かりがついていた。
――あっ、いた。
ベットでごろごろしながらスマホ見てる陽向くんを発見。来てみたけれど、どうしようかな。話しかける? とりあえず、窓をこんこん叩いてみた。
気が付かないのかな? 全然こっちを見なくて、気にしてない様子。
二度目のこんこんチャレンジ。
さっきよりも強く叩いてみた。強く叩きすぎてちょっと手が痛い。
あっ、陽向くんが立った。
陽向くんはこっちを見たけれど、僕は暗いところにいるから僕のこと気がついていなさそう?
どうしようか迷った末に出した答えは……とりあえずしゃがんで隠れた。
こっちに来るよね?
羊毛フェルトのスズメを持つ手を上にあげて、陽向くんにはスズメだけが見えるようにした。
窓を開ける音がした。目の前の白い壁しか見えないけれど、陽向くんが開けたのだろう。「スズメ?」と、独り言を呟く陽向くん。
「うわっ、ビックリした。叶人、何してるの?」
陽向くんに声を掛けられたから、僕は上を向いた。
「陽向くん、さっきは秘密事をしてごめんね」
謝ると、心が浄化されたみたいになってきて、自分の目が潤ってくる。
「いや、それよりも……とりあえず中に入りな?」
陽向くんが両手を出してきたから、僕はスズメをズボンのポッケの中にしまい、陽向くんの手を両手でギュッと握る。そして窓に登り、部屋の中に入った。
僕は部屋に入ると、床にぺたん座りする。
陽向くんも僕の前に座った。
「何? 叶人は、わざわざ謝りに来たの?」
「うん……そしてね、秘密事を連れてきた」
「……連れてきた?」
「陽向くんに秘密事を教えようと思って」
僕はポケットからスズメを出した。
「さっき家の中、覗いてきた子か」
「そう、これが秘密事なの」
「どういうこと?」
「僕ね、実は最近羊毛フェルトにハマっていてね――」
お母さんが時間潰しにやっていた羊毛フェルトを少しやらせてもらって、それからハマりだしたことを陽向くんに教えた。
「なんだ、別に秘密事にすることじゃないじゃん」
「そうだよね」
陽向くんが笑ってくれた。
僕も陽向くんの笑顔を見て安心し、一緒に笑う。
「俺も、作ってみたいな」
「陽向くんも?」
「うん、そのスズメみたいに可愛いやつ。陽葵(ひまり)の好きなキャラの、作ってみようかな」
陽葵ちゃんは、陽向くんの妹だ。ふたりとも名前に太陽の〝陽〟がついている。明るい兄妹で、僕の気持ちもいつも明るくしてくれて、とてもふたりに似合う名前だと思う。
いつもはひとりでのんびりやってる羊毛フェルト。陽向くんと一緒にそれぞれ好きなものを作っているところを想像してみた。
よくよく考えたら、羊毛フェルトを作っている空間に陽向くんがいても、全然嫌じゃないな。
陽向くんだけは特別――。
「いいよ、一緒に作ろ?」
「その、羊毛フェルトって、何準備すればいいんだ?」
「教えてあげる! 手芸屋さんにも売ってるし、100円ショップにも種類がたくさんあるよ」
「じゃあ、明後日のソフトクリーム食べる日に、買いに行くの付き合ってもらおうかな?」
「いいよ!」
良かった!
これで明日はいつも通りに、陽向くんと一緒に学校へ行ける。
一緒に買い物に行く約束をした日、放課後いつものように陽向くんが教室に迎えに来てくれた。僕は鞄に物を入れて、帰る準備をする。
「まず、羊毛の材料買ってからソフトクリーム食べに行くでいい?」と、陽向くんは質問してきた。
「うん、そうしよう」
「手芸屋って、駅前にあるよな?」
「そうそう、そこだよ!」
羊毛フェルトが売っていて、自転車で行けるお店はこの辺にいくつかあるんだけど、陽向くんは僕と同じお店を想像していた。いつも僕が行きたい場所と陽向くんが行きたい場所が一致するんだよね。
「色々教えてな」
「うん、もちろんだよ」
僕たちは、自転車で目的地の手芸屋さんに向かった。陽向くんに羊毛フェルトについて教えるのが楽しみだ。いつも陽向くんは僕に色々教えてくれたりしてくれるから、力になればいいな!って思う。そう考えているうちに、あっという間に駅前に着いた。駐輪場に自転車を停めて、手芸屋さんへ。
店の中に入ると早速「こっちだよ」と、羊毛フェルトがある場所まで案内した。
「まずはね、ニードルだけでもできるんだけど、このスターターセットがおすすめかな? あとは、使う色の羊毛を選ぶだけで、揃う感じ」
「こんな感じのを使って作るんだ? 初めて知った。楽しそうだな」
僕が手に取った、羊毛フェルト制作のための道具たちが袋に入っている商品を、まじまじと陽向くんは見つめた。
「羊毛をぶすぶす刺すニードルと、ニードルホルダー。作業台になって、針が折れるのを防止するマットがセットになってるよ」
「じゃあ、これ買おうかな?」
「うん!」
まるで自分がここのお店の店員になって、お客さんの陽向くんに説明しているみたいで、楽しい。
「あとは、羊毛だね! 陽葵ちゃんは何のキャラが好きなの?」
「今、ネットではやってるウサギのキャラ……名前、なんだっけ? ど忘れした」
「うさぎのもっふんちゃま?」
「そう、それそれ」
うさぎのもっふんちゃまは、真っ白な姿で、つぶらな瞳。とても可愛く、今動画サイトで子供たちに人気なアニメキャラクターだ。ちなみに他にも色や形が違ううさぎたちが出てきて、ミニゲームで競ったり色々遊んだり動画内でしている。
「うちに白い羊毛沢山ありすぎるから使う?」
「ありすぎるの?」
「うん、白色の羊毛は可愛くてね、買いすぎたんだ」
「叶人は、羊毛だけですでに可愛く感じるんだな」
「可愛いよ! ふわふわだもん!」
そんなこんなで、耳や頬に使うピンク色や、耳についている花とか……白以外で必要な色の羊毛を選び、無事に陽向くんの羊毛フェルトグッズを買えた。よかった!
無事に使命を達成できて安心した気持ちになった。それから歩いてソフトクリームのお店に向かう。
「最近いつもソフトクリーム奢ってくれて、ありがとう。いつも奢ってもらってばかりで、ごめんね」
「いいんだよ、だって叶人に奢りたいから奢ってるんだもん」
陽向くんは本当に優しい――。
ひとつひとつのパーツを、頭の中で描いている形になるように、ニードルを持っていない方の手で羊毛をギュッと押して形を作っていく。そしてひたすらチクチクチク……。パーツを繋げて、目をつけたら完成。
高校二年生になったばかりの僕は今、色んな小鳥を羊毛フェルトで作るのにハマっている。他のことを何も考えないで集中できるチクチクタイムが大好きだし、完成したふわふわでかわいい子たちも大好き。
そんな中、幼なじみの陽向くんも一緒にやりたいって言ってきた――。
☆。.:*・゜
放課後、教室で帰る支度をしている時、隣のクラスにいる陽向(ひなた)くんが教室に入ってきた。
「叶人(かなと)、帰ろ?」
「うん、帰ろ」
陽向くんは幼なじみだ。小学生の時から家がお向かいさんで、その時からの友達。僕たちは小さい頃、近所の人たちに可愛いとよく言われていた。ふたり並んでいると、おばちゃんたちに「天使が並んでいるわ」とか「妖精みたいなふたりね」とか言われていた。だけど今は、陽向くんは身長も伸びて、かっこよくなった。そして性格も強いし、みんなに頼られていてかっこいい。僕は、あんまり変わらない、かな?
鞄を持つと一緒に廊下に出る。
「叶人、バイト代入ったから帰りソフトクリーム食べに行かない? 奢るわ」
学校の玄関で、靴を履きながら陽向くんはそう言った。
「今日はちょっと……まっすぐ帰るよ」
「何か用事あるの?」
「うん。用事が――」
今羊毛フェルトでスズメを作ってて、今日完成しそうだから早く帰って作りたい。ソフトクリームも食べたいけれど。
「そっか、明後日は?」
「明後日は大丈夫だよ!」
「じゃあ明後日にしようか」
「そうしよ!」
ふたりはそれぞれ自転車に乗って、一列に並んで家に帰る。
「あれ? 家の前まで来たけど、帰りにソフトクリーム食べには行かないの?」
「叶人と明後日行くから、今日はいい。叶人、今日はなんの用事があるの?」
「家で、ちょっと……」
「内緒か。叶人もついに俺に秘密事をするようになったのか……」
「だって……」
僕の趣味は、家族以外は誰にも内緒だ。
僕の羊毛フェルトタイムは、現実世界ではなく、異世界のようなもので。なんていうか、ちょっと誰にも来て欲しくないなというか――。あぁ、でも陽向くんには教えてもいいのかな?
「いや、そんなもじもじした動きして……言いたくないなら言わなくてもいいよ別に。じゃあ、またな!」
「いや、あの……」
陽向くんはちょっと怒った様子。
秘密事して、怒らせちゃったかな?
ちょっと落ち込む。
明日の朝、いつものように迎えに来てくれるのかな?
もしも来てくれなかったら?
早めに家の前で待ってて、僕から声をかけようかな……。
僕はため息つきながら自転車を車庫にしまい、家に入った。
二階にある自分の部屋に行き、部屋着にしている白色のジャージに着替えると、机に向かう。途中まで作っていた羊毛フェルトのスズメ制作作業を再開するために。
各パーツは出来ていたから、あとはそれらを繋げるだけ。さっきの陽向くんとの件で、気持ちがもやもやしながらだったけれど、何とか完成させた。
「かわいい!」
作ったスズメの目は、目の部分に目打で穴を開け、そこに差し込むタイプのネジみたいな黒い目。つぶらでキラキラしている目と、僕の目が合った。まるで「命を吹き込んでくれてありがとう」と言われているようだ。
部屋の中は薄暗い。部屋の壁時計を確認すると十八時。窓から外を見ると、夕日も沈む頃。
集中するとあっという間に時間は過ぎていくよね。
ちょうどその時に、下から「ご飯だよ」と、お母さんの声がした。作業していた机の上にスズメを置くと下へ行った。
ご飯中、お母さんが「どうしたの? 何かあった?」と質問してきた。
お母さんの洞察力はすごい。
「陽向くんが僕にムッとした気がしていて……」
「あら、喧嘩?」
「喧嘩っていうか……喧嘩っていうか?」
喧嘩なのかな?
陽向くんは僕が秘密事をしたことに怒っていた気がする。
「何があったのかは分からないけれど、陽向くんは、叶人のことが大好きだと思うよ」
「うん、そうだよね――」
僕は自分にも言い聞かすように、そう返事をした。
ご飯食べている時も、お風呂に入ってる時もずっと陽向くんのことが気になった。陽向くんの部屋は、陽向くんの家の一階にある。
寝る前に、陽向くんの部屋をそっと覗いてみようかな? さっき完成させた羊毛フェルトのスズメも持って。
僕は静かに玄関へ行くと、外に出た。
陽向くんの部屋は、陽向くん家の玄関のちょうど真逆裏側のところにある。庭におじゃまして部屋の前に着くと、カーテンが開いていたから、中を覗いた。
ちらっと中を覗いてみると、明かりがついていた。
――あっ、いた。
ベットでごろごろしながらスマホ見てる陽向くんを発見。来てみたけれど、どうしようかな。話しかける? とりあえず、窓をこんこん叩いてみた。
気が付かないのかな? 全然こっちを見なくて、気にしてない様子。
二度目のこんこんチャレンジ。
さっきよりも強く叩いてみた。強く叩きすぎてちょっと手が痛い。
あっ、陽向くんが立った。
陽向くんはこっちを見たけれど、僕は暗いところにいるから僕のこと気がついていなさそう?
どうしようか迷った末に出した答えは……とりあえずしゃがんで隠れた。
こっちに来るよね?
羊毛フェルトのスズメを持つ手を上にあげて、陽向くんにはスズメだけが見えるようにした。
窓を開ける音がした。目の前の白い壁しか見えないけれど、陽向くんが開けたのだろう。「スズメ?」と、独り言を呟く陽向くん。
「うわっ、ビックリした。叶人、何してるの?」
陽向くんに声を掛けられたから、僕は上を向いた。
「陽向くん、さっきは秘密事をしてごめんね」
謝ると、心が浄化されたみたいになってきて、自分の目が潤ってくる。
「いや、それよりも……とりあえず中に入りな?」
陽向くんが両手を出してきたから、僕はスズメをズボンのポッケの中にしまい、陽向くんの手を両手でギュッと握る。そして窓に登り、部屋の中に入った。
僕は部屋に入ると、床にぺたん座りする。
陽向くんも僕の前に座った。
「何? 叶人は、わざわざ謝りに来たの?」
「うん……そしてね、秘密事を連れてきた」
「……連れてきた?」
「陽向くんに秘密事を教えようと思って」
僕はポケットからスズメを出した。
「さっき家の中、覗いてきた子か」
「そう、これが秘密事なの」
「どういうこと?」
「僕ね、実は最近羊毛フェルトにハマっていてね――」
お母さんが時間潰しにやっていた羊毛フェルトを少しやらせてもらって、それからハマりだしたことを陽向くんに教えた。
「なんだ、別に秘密事にすることじゃないじゃん」
「そうだよね」
陽向くんが笑ってくれた。
僕も陽向くんの笑顔を見て安心し、一緒に笑う。
「俺も、作ってみたいな」
「陽向くんも?」
「うん、そのスズメみたいに可愛いやつ。陽葵(ひまり)の好きなキャラの、作ってみようかな」
陽葵ちゃんは、陽向くんの妹だ。ふたりとも名前に太陽の〝陽〟がついている。明るい兄妹で、僕の気持ちもいつも明るくしてくれて、とてもふたりに似合う名前だと思う。
いつもはひとりでのんびりやってる羊毛フェルト。陽向くんと一緒にそれぞれ好きなものを作っているところを想像してみた。
よくよく考えたら、羊毛フェルトを作っている空間に陽向くんがいても、全然嫌じゃないな。
陽向くんだけは特別――。
「いいよ、一緒に作ろ?」
「その、羊毛フェルトって、何準備すればいいんだ?」
「教えてあげる! 手芸屋さんにも売ってるし、100円ショップにも種類がたくさんあるよ」
「じゃあ、明後日のソフトクリーム食べる日に、買いに行くの付き合ってもらおうかな?」
「いいよ!」
良かった!
これで明日はいつも通りに、陽向くんと一緒に学校へ行ける。
一緒に買い物に行く約束をした日、放課後いつものように陽向くんが教室に迎えに来てくれた。僕は鞄に物を入れて、帰る準備をする。
「まず、羊毛の材料買ってからソフトクリーム食べに行くでいい?」と、陽向くんは質問してきた。
「うん、そうしよう」
「手芸屋って、駅前にあるよな?」
「そうそう、そこだよ!」
羊毛フェルトが売っていて、自転車で行けるお店はこの辺にいくつかあるんだけど、陽向くんは僕と同じお店を想像していた。いつも僕が行きたい場所と陽向くんが行きたい場所が一致するんだよね。
「色々教えてな」
「うん、もちろんだよ」
僕たちは、自転車で目的地の手芸屋さんに向かった。陽向くんに羊毛フェルトについて教えるのが楽しみだ。いつも陽向くんは僕に色々教えてくれたりしてくれるから、力になればいいな!って思う。そう考えているうちに、あっという間に駅前に着いた。駐輪場に自転車を停めて、手芸屋さんへ。
店の中に入ると早速「こっちだよ」と、羊毛フェルトがある場所まで案内した。
「まずはね、ニードルだけでもできるんだけど、このスターターセットがおすすめかな? あとは、使う色の羊毛を選ぶだけで、揃う感じ」
「こんな感じのを使って作るんだ? 初めて知った。楽しそうだな」
僕が手に取った、羊毛フェルト制作のための道具たちが袋に入っている商品を、まじまじと陽向くんは見つめた。
「羊毛をぶすぶす刺すニードルと、ニードルホルダー。作業台になって、針が折れるのを防止するマットがセットになってるよ」
「じゃあ、これ買おうかな?」
「うん!」
まるで自分がここのお店の店員になって、お客さんの陽向くんに説明しているみたいで、楽しい。
「あとは、羊毛だね! 陽葵ちゃんは何のキャラが好きなの?」
「今、ネットではやってるウサギのキャラ……名前、なんだっけ? ど忘れした」
「うさぎのもっふんちゃま?」
「そう、それそれ」
うさぎのもっふんちゃまは、真っ白な姿で、つぶらな瞳。とても可愛く、今動画サイトで子供たちに人気なアニメキャラクターだ。ちなみに他にも色や形が違ううさぎたちが出てきて、ミニゲームで競ったり色々遊んだり動画内でしている。
「うちに白い羊毛沢山ありすぎるから使う?」
「ありすぎるの?」
「うん、白色の羊毛は可愛くてね、買いすぎたんだ」
「叶人は、羊毛だけですでに可愛く感じるんだな」
「可愛いよ! ふわふわだもん!」
そんなこんなで、耳や頬に使うピンク色や、耳についている花とか……白以外で必要な色の羊毛を選び、無事に陽向くんの羊毛フェルトグッズを買えた。よかった!
無事に使命を達成できて安心した気持ちになった。それから歩いてソフトクリームのお店に向かう。
「最近いつもソフトクリーム奢ってくれて、ありがとう。いつも奢ってもらってばかりで、ごめんね」
「いいんだよ、だって叶人に奢りたいから奢ってるんだもん」
陽向くんは本当に優しい――。
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