【純愛BL】心が読める推しとアイドルユニットを組んだモノガタリ

立坂雪花

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10.真相

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「なんで泣いてるかって? 白桃の顔を見たからだよ。どうして帰ってこないんだよ……」
「だって、遥斗くんに嫌われたから」
「ふざけるなよ。嫌いじゃねーし」

 俺は白桃大知の肩をぐんと押した。
 人に、こんなに感情をぶつけたのは初めてだ。

「ごめんなさい」

 相手に本音を全力でぶつけるのが慣れてなくて、謝られると罪悪感が湧いてくる。いや、だまって帰ってこなくなったのが悪いんだ。会った瞬間に寂しさや怒りで感情が込み上げてきたけれど、謝られたら治まってきた。今は喧嘩をしに来たわけじゃないし。

「その、撮られた相手とはどんな関係なの?」

 撮られた相手の名前は〝木野宮 華〟だと知っている。だけどなんか、その名前は呼びたくない。

「どんな関係って?」
「その、恋仲とか……」
「そういうのは一切ありません」
「ありませんって、マンション前で撮られてたじゃん」
「マンションには入りましたけど
……」
「中に入ったんだ……」

「だけど、何もやましいことはなくて」
「じゃあ何しに行ったんだよ?」
「はぁ……」

 白桃大知は突然ため息をついた。
 心が読めないから、このため息はとても恐ろしく感じた。

 質問をしすぎて嫌われたのだろうか。
 プライベートを詮索しすぎて嫌がられたのだろうか。
 
 考えこんで下を向いていると、突然両手を握られた。はっとして白桃大知の顔を見る。

「まだ早いけれど、渡したい物があります。帰りましょう」

 渡したいもの? 

 白桃大知は荷物をまとめ、帰る準備をはじめた。じっと見つめていると、強く手を引っ張られ、部屋の外へ。そのまま駐車場に連れられ、助手席に乗せられる。

 車は走り出した。
 
「……白桃の心が分からなくなってから、怖い……」

 きらびやかでにぎやかな街並みが助手席から見えるけれど、俺の心は暗くて静かだった。白桃大知の心の声が聞こえなくなってから、ずっと静かだ。

 白桃大知は自分の話を進んでするわけではない。白桃大知の気持ちが知れて、俺のことを常に想ってくれていると分かっていたのは、心の声が聞こえていたからだ。

「……もしかして、聞こえなくなったんですか?」

 白桃大知は前を見ながら、驚いた様子の表情をしている。

「そう、聞こえなくなった」

 それから車内でふたりは言葉も交わさず、本当に静かになった。

 白桃大知は今も、何を考えているんだろうか。もう何も分からない。

 マンションに着くと、白桃大知は何も言わずにまっすぐ部屋に向かっていく。しばらく出てこない。リビングでひとり取り残され、隣に白桃大知が戻ってきたはずなのに、孤独を感じた。

 しばらくすると、大きな紙袋を持って部屋から出てきた。

「遥斗くん、活動10周年おめでとうございます」
「はっ? 10周年?」
「遥斗くんが初めて撮影した日は分からないけれど、前に遥斗くんがいたグループが結成されて、遥斗くんが世間に初披露された日から10年です」
「10年か……」

〝白桃大知とballoonflowerを結成してから何日目〟かは考えていたけれど……。自分が活動を初めてからどのくらい経ったのかとかは、気にしてなかった。

「これ、どうぞ」

 白い紙袋を渡され、中身を出した。

 黄色のつるつるな鉢植えの上に透明なバルーンが乗っている。バルーンには〝遥斗くん、10周年おめでとう〟と白い文字で書いてあり、そのバルーンの中には薄い紫の桔梗と、かすみ草の造花が並んで入っていた。

「balloonflowerって名前を提案した時、僕の中では『永遠の愛って意味の花言葉がある桔梗』って意味だったけど、遥斗くんは風船の中に花が入ってるやつを想像してて……」
「うん、してた」
「その時にバルーンフラワーのこと可愛いって言っていたので、作ってみました」
「そんな俺の発言まで覚えてるの?」
「はい、遥斗くんの言葉も動きも、ひとつひとつ、忘れません」

 紙袋の中にはまだ何か入っていた。
 2頭身ぐらいの、俺と白桃大知の可愛いぬいぐるみだ。初めてふたり一緒にCMに出た時に着ていた、白い衣装を着ている。

「これは、僕たちもちょっと縫いましたけど、華さんのお姉さんがほとんど作ってくれました」
「……お姉さん?」
「はい、お姉さんもずっと遥斗くんのファンで。ついでに僕も作ってもらいました」
「そうなんだ……」
「あと、1週間後の遥斗くん10周年の当日、SNSチェックしてみてください」
「SNSチェック? 毎日チェックしてるけど」

 そう言うと、白桃大知はふふっと微笑んだ。

 話を詳しく訊くと、木野宮 華とふたりきりになったことは一回もなかったらしい。常にお姉さんもいて、3人で黙々と作業をしていたんだと教えてくれた。最近は特に詰まっていて忙しいスケジュールなのに、忙しい中のわずかなスキマ時間に、俺にバレないように作業をしていたんだと――。

「ありがとう。疑ってごめん」
「僕の方こそ、本当にごめんなさい……」

 自分から白桃大知を抱きしめにいく。
 白桃大知はそれに応えてくれる。俺の背中に手をまわし、ぎゅっと強く抱きしめてくれた。

 俺のために10周年のグッズを作ってくれて、そのせいで白桃大知は世間からたたかれることになったのかと考えると、胸が痛くなる。

「白桃、俺のこと好きか?」
「はい、大好きです」
「本当か?」
「本当です」

 俺は、白桃大知が誰よりも好きで、大切だ――。

 ファンの人たち、世間の人たちにさえ嫌われるかもだけど、俺はある決心をした。
 
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