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4.撮影開始

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 スタジオ入りした。

「おはようございます。よろしくお願いします」

 控え室でヘアメイクして衣装に着替える。俺は茶色の髪の毛をふわっとさせ、衣装はボタンが前に付いたチュニックに細いパンツを合わせ、白系にまとめられた。白桃大知は黒い髪の前髪を横わけにし、俺の衣装のデザインを少し大人にした感じのタートルネックのチュニックに細パンツを合わせ、同じく白系でまとめられていた。

 スタジオの準備が整ったら撮影開始。

 背景は、水色やピンクで。事務所の方針によると俺たちのユニットは〝爽やかでパステルカラーが似合う、中性的なイメージのふたり〟で固めるらしい。

 ひとりバージョンがそれぞれ終わったら、ふたりバージョンの写真を撮る。

「遥斗くん、久しぶりだね、相変わらず表情いいね」
「ありがとうございます」
「実際に並んでみたらふたりのビジュアルの相性、良い感じだね?」
「そうですか? ありがとうございます」
「大知くんも表情いいよー、もっと笑ってー、いいねーかっこいいよー」

『大知くん、急に表情が固くなったな……』
「あっ……」

 カメラマンの心の声に思わず反応してしまった。白桃大知の表情が固くなったのは、俺が横にいるからだと思う。さっき白桃大知がひとりで写っていた時は、表情はきちんと出来ていて良かった。

 白桃大知は俺の漏らした声に反応し、こっちを見た。

「見つめ合うの、いいねー。そのままで」

カメラマンが指示を出した。

『うわっ。こんな至近距離で見つめ合うなんて、ムリムリムリムリ。それになんか、遥斗くん、いい匂いする』

 いい匂いって……。
 しかも白桃大知の呼吸がちょっと荒い。
 それにいつもは心の声もゆったりなのに、今の心の声は早口だ。

 相方の心の声がこんな感じだと、めちゃくちゃ仕事やりずらいかも。相方というか〝白桃大知の声が聞こえると〟が正しいだろう。もうすでにやりずらさを実感していた。

 それでもカメラマンの指示の他に、こうしようああしようと、俺もポージングのアイディアを出していきリードして、なんとか撮影が終了した。

「ありがとうございました」

 俺がカメラマンやスタッフたちにお礼を言うと、白桃大知も後に続いた。

 移動して次はCM撮影だ。

 大手化粧品メーカー〝y.a-collect〟のCM撮影。ここの企業は、ソロの時から俺を広告で使ってくれていた。

 白が基調な洋風のハウススタジオで冬をイメージした青系の衣装とメイクで撮る。

 お互いにメイクをし合うシーンもあり『手が震える、青系メイクの遥斗くんも恰好良い』と、白桃大知の心の声が。

 あとで反省会と称して、俺を意識しすぎないようにとさりげなくアドバイスをしよう。映像をチェックするといい感じに撮れていたが、撮影中ちょっと俺の気が散る。

 仕事中はファンとしてではなくて、相方として接して欲しいし。
 
 CM撮影の次はそのままメイクと衣装をチェンジして、同じ場所で俺らのデビュー曲のMVに使われるシーンを数カット撮った。

 これから制作されるデビュー曲のMVは、ふたり一緒に出る予定のBLドラマの映像がドラマのダイジェスト版みたいに編集され、主に使われるらしい。その映像の合間数カ所にここで撮ったスタジオの映像が使われるらしい。

 ちなみにドラマの内容は、幼なじみと一緒に歌をネット配信していくうちに人気が出てデビューする話だ。人気なBL漫画を元に作られたドラマだった。ドラマの中で歌う曲は、実は俺らのリアルなデビュー曲。その曲はドラマの中で恋に落ちた幼なじみのふたりの気持ちがすれ違い、その時に白桃大知が演じている〝晶哉〟が泣きながら〝恋煩いと願い〟というドラマの題名でもあり、曲名でもある歌を作詞するという設定だ。

 そして俺が「この歌詞の内容は、俺への気持ちか?」と気がつき、より愛は深まる。

 無名な白桃大知をSNS中心に「この人誰?」と思わせて話題にしていき、話題になった所でリアルに主演のふたりがユニットを結成してデビューすると、ドラマ枠で報告する作戦らしい。

 CM撮影の後は歌のレッスンで今日のスケジュールは終わり。

 余計な気を使ったからか、ソロの時よりも正直疲れた。 

「そうそう、ふたりのユニット名の候補も考えといてね」

 ユニットを組むことが決まってから数日後、事務所で打ち合わせの最中に社長に言われた。
 前の事務社では一方的に決まったグループ名。今回は自分たちで決めるのか。

「分かりました。白桃くんと話し合います」

『どうしよう……遥斗くんとのユニット名。どうしよう、何も思いつかない。でも憧れだった遥斗くんと僕のユニットだし、適当な名前じゃないのを何か提案しなくては……』

 社長に言われた瞬間から白桃大和の心の声はずっとこんな内容だ。
 今もマネージャーが運転する車の中でずっと呪文みたいに心の中で唱えている。

 俺のことを崇拝するような感じで見ているけど、全然白桃大和が思っているような人なんかじゃないのにな。

 ユニット名か……。
 俺と白桃大知の。

 ふたりの共通点は特にないし、本当に何も思いつかない。

 あとで改めて会議をしよう。

***

 ユニット結成してから、忙しいからかあっという間に時が過ぎていく。色んな撮影が続き、ついにドラマの撮影も本格的に始まっていた。

「遥斗くん、迷惑かけないように頑張るのでよろしくお願いします」

 撮影が開始される前日、家の中で白桃大知は正座をしながら床に手を置き、深々とお辞儀をしてきた。

 この日も朝から撮影で、ロケバスの運転席の後ろで髪とメイクの直しと全体の確認をし、町外れのカフェ前での撮影が始まる。

「遥斗さん、大知さん、お願いしまーす」

 スタッフに呼ばれて俺らはバスから降りた。

 今日は白桃大知演じる晶哉が、俺が演じている瑠依を誘い、初デートをするシーンだ。撮影中は白桃大知のままなのか晶哉としてなのか分からないけれど『めちゃくちゃ好きだ。愛してる』とか、白桃大知の心の中は賑やかだった。そして順調に撮影は進んだ。

「はい、オッケーです」
『はぁ、ドキドキした』と、心の声が聞こえる。だろうな、こんなに見られてる中で演じるのは、慣れないと緊張するよな。

『だって瑠依くん、僕に触れすぎるんだもん』

 そっちの理由か。瑠依くんって心の声で呟いていたから、遥斗ではないってことで、役に入っていたのか? どっちにしても宣材とかの時とは違い、白桃大知は演技が上手く心の声も乱れていなくて、一緒にやるシーンは全てやりやすかった。

 帰り際、マネージャーに「家でのプライベート写真とか動画とか、撮りあいしたりして、ためといてほしんだけど」と言われる。

「俺らが仲良いってファンに向けてやるあれですか?」
「そうそう、それ」
「分かりました。やってみます」
「うん、よろしくね」
『わぁ、プライベートを一緒に撮るとか……どうしよう。どうしたらいい?』

 桃白大知の心はざわめいていた。
 いや、そんな心配しなくても普段から俺はファン向けにSNS発信してるから慣れてるし、俺がリードするから大丈夫だ。

「俺らのプライベートだってさ。よろしくね」
「は、はい。よろしくお願いします」

 桃白大知は不安そうに、何回もまばたきをして見つめてきた。
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