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1*好きな人
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花宮中学校、1年2組の教室。
今は6月。
ほどよい暖かさで気持ちのよい日。
休み時間、廊下側の一番前にある私の席で、葵ちゃんと話をしていた。
「ねぇ、知ってる?」
葵ちゃんがこっそり私にささやく。
「なになに?」
ヒミツの話かな?
葵ちゃんが顔を近づけてきた。
「これ、お姉ちゃんから聞いた話なんだけど。この街にね、好きな人と行くと両思いになって、結ばれる場所があるんだって! でもね、どうして結ばれるのか、周りの人は分からないらしいよ」
「何それ、不思議!」
葵ちゃんから聞いた噂話、結ばれる理由は分からないらしい。
あいまいで、なんだかウソっぽい。
でも、ずっと大好きな男の子の顔が、頭の中にはっきり浮かぶ。
もしも彼と一緒に行けば、両想いになれちゃうのかな?って。そう考えながら一番後ろの窓側の席に座っている彼をちらり。
栗色をした彼の髪の毛が、窓から入ってくる風に当たり、さらさら揺れていた。
彼の周りには友達が集まっていて、いつもにぎやか。
ちなみに、彼の名前は、宮野陽希(みやのはるき)くん。
クラスでは目立っているタイプ。しょっちゅう先生とも喧嘩しちゃったりして、不良っぽい雰囲気、かな? そしてすごくかっこよくて、アイドル系なイケメン。たまにモデルのお仕事をしているらしい。
宮野くんのことは小学1年生の時から好き。
好きになったきっかけは、私は人見知りがはげしく、クラスの人に自分から話しかけられなくて。休み時間みんなで鬼ごっこをする時にみんなの輪に入れなかった。
そんな時、彼が「おいで?」って微笑みながら言ってくれて。
あとはいつもさわやかな笑顔であいさつをしてくれたり、声を掛けてくれたりして。
ひとつひとつ、鮮明に覚えている。
彼と目が合うだけでドキドキ――。
7月になった。
暑くてシャツと体が汗でくっつく。
今歩いているのは学校の通り道の坂。
暑さのせいでちょっと歩くだけで疲れて、坂がなんだか急な角度に感じる。
学校の登下校も、家が近い葵ちゃんと一緒。
「そういえばね、これ」
帰り道、葵ちゃんはそう言いながら、ふたつに折ってあった小さなメモ紙を開いた。手書きで地図が描いてあって、ひとつの星印も描かれていた。
「これね、前に言ってた、好きな人と結ばれる場所の地図。星の印ついてるとこがその場所だよ! お姉ちゃんに描いてもらっちゃった! あげるから、宮野くんと行っといで!」
そんなこと言われても、話しかけるのさえ出来ないのに、無理だよ……。
「う、うん。ありがとう」
無理っぽいけど、一応もらっておこうかな。小さなメモ紙だから、なくさない場所を考える。
カバンの中でしまえそうな場所。
とりあえずペンケースの中に入れておいた。
数日後。
一時間目の数学の授業が始まるチャイムがなった時だった。
ペンケースを開けて、筆記用具を出そうとしたらそのメモ紙が落ちた。
「これ、落ちたよ」
隣の席の新井くんが拾ってくれた。
「あ、ありがとう」
「ねぇ、小松さん。今ね、そのメモ見ちゃったんだけど」
「ん?」
「そのメモの場所って、一緒に行った人と結ばれるって噂の場所だよね?」
「そうだって聞いたけど……噂、知ってるの?」
「うん。というか前に小松さんたちがその話をしていた時、聞こえちゃった。ねぇ、その場所一緒に行かない?」
「え?」
「いや、別に深い意味はなくて。そこで何が起こって、ふたりが結ばれるのかなって気になって……」
彼からこんなふうに話しかけてくるの、とても珍しい。
ちょっとモジモジしている気がする。
私みたいに人に話しかけるの緊張しちゃうタイプなのかな?
一緒に見に行くだけなら、いいかな?
「いいよ!」
「じゃあ、いつ行くかとかは、後で決めようか」
こうやって新井くんに誘われるのって初めて。ふたりだと何話せばいいのかわからないなぁ。
「じゃあさ、後で葵ちゃんも誘ってみるね」
「いや、ふたりで。水無月さんにも誰にも行くことは内緒にしといてほしいな」
「え?」
話の途中で先生が入ってきた。
どうして内緒なのかな?
夏休みになったら噂の場所に行こうって話になった。
今日は夏休みの初日。
お昼ご飯を食べ終わったら新井くんが家まで迎えに来てくれる予定。
準備を終えて、壁の時計を見るとちょうど午後1時。
リビングの窓から外を覗いたら新井くんが自転車にまたがりながらこっちを見ていた。手を振り、ショルダーバッグを持ち、あわてて外に出る。
「地図見せて!」
「うん」
新井くんに地図を渡した。
「よし、覚えた。行こうか!」
「うん」
返された地図のメモ紙をバッグにしまい、私も自転車に乗った。
新井くんの後ろをついて行く感じ。だって、もらった地図、道がちょっと複雑で全部覚えていなかったから。
新井くんは覚えているっぽい。
地図をあれから一度も見ていないのに、すらすらと迷わないで進んでいる。
止まるのは信号の前でぐらい。
すごい! 彼の頭の中には、地図の道がはっきり描いてあるのかな?
30分ぐらいたつと目的地についた。
生まれた時からずっと住んでいる街の中にある公園だけど、多分、初めて来る公園。
駐輪場があったからふたりの自転車をそこに停めた。
公園っていっても遊具とかはなくて、散歩出来る感じの大きな公園。
駐輪場から見える場所に池がある。
地図によると池の横を通って、右に曲がって、更に奥に進み……。最後に木のイラストが円を描くように5つある。その木に囲まれた場所に星のマークはあった。
地図の通りに進んでいくと、木が円になるようにぎっしり生えていて、真ん中は草が生えているだけで何もない場所が見えてきた。
そこに、見覚えのあるふたりが。
「えっ?」
わたしは思わず声をもらす。
だって――。
「小松さん、どうしたの?」
「あれ、見て?」
私が指さしたその先に、なんと宮野くんと葵ちゃんがいた。
そしてなぜか私は別に悪いことをしているわけじゃないのに、木の陰に隠れてしまった。
「別に、隠れる必要ないんじゃない?」
「そうだけど……」
気になる。
すごく気になる。
ふたりはなんでここにいるわけ?
そして何をしているの?
心がもやもやしすぎて、泣きそう。
「そんなに気になるなら、直接聞いてみれば? なんだか僕も気になるし」
そう言いながら新井くんが歩き出した。
「ち、ちょっと待ってよ!」
新井くんの後ろをついて行き、木に囲まれた空間に入った。私たちの気配に気がついたふたりが振り向く。
「えっ? 結芽たち、なんで?」
「それはこっちのセリフ! 葵ちゃんたち、なんで一緒にここにいるの?」
「それは……」
葵ちゃんが何か言いかけた時、突然目の前がひかりだした。
「何これ! 嫌だ! 怖い」
葵ちゃんが叫びながら消えた。
そして目の前が真っ白になって私の意識がなくなっていき――。
今は6月。
ほどよい暖かさで気持ちのよい日。
休み時間、廊下側の一番前にある私の席で、葵ちゃんと話をしていた。
「ねぇ、知ってる?」
葵ちゃんがこっそり私にささやく。
「なになに?」
ヒミツの話かな?
葵ちゃんが顔を近づけてきた。
「これ、お姉ちゃんから聞いた話なんだけど。この街にね、好きな人と行くと両思いになって、結ばれる場所があるんだって! でもね、どうして結ばれるのか、周りの人は分からないらしいよ」
「何それ、不思議!」
葵ちゃんから聞いた噂話、結ばれる理由は分からないらしい。
あいまいで、なんだかウソっぽい。
でも、ずっと大好きな男の子の顔が、頭の中にはっきり浮かぶ。
もしも彼と一緒に行けば、両想いになれちゃうのかな?って。そう考えながら一番後ろの窓側の席に座っている彼をちらり。
栗色をした彼の髪の毛が、窓から入ってくる風に当たり、さらさら揺れていた。
彼の周りには友達が集まっていて、いつもにぎやか。
ちなみに、彼の名前は、宮野陽希(みやのはるき)くん。
クラスでは目立っているタイプ。しょっちゅう先生とも喧嘩しちゃったりして、不良っぽい雰囲気、かな? そしてすごくかっこよくて、アイドル系なイケメン。たまにモデルのお仕事をしているらしい。
宮野くんのことは小学1年生の時から好き。
好きになったきっかけは、私は人見知りがはげしく、クラスの人に自分から話しかけられなくて。休み時間みんなで鬼ごっこをする時にみんなの輪に入れなかった。
そんな時、彼が「おいで?」って微笑みながら言ってくれて。
あとはいつもさわやかな笑顔であいさつをしてくれたり、声を掛けてくれたりして。
ひとつひとつ、鮮明に覚えている。
彼と目が合うだけでドキドキ――。
7月になった。
暑くてシャツと体が汗でくっつく。
今歩いているのは学校の通り道の坂。
暑さのせいでちょっと歩くだけで疲れて、坂がなんだか急な角度に感じる。
学校の登下校も、家が近い葵ちゃんと一緒。
「そういえばね、これ」
帰り道、葵ちゃんはそう言いながら、ふたつに折ってあった小さなメモ紙を開いた。手書きで地図が描いてあって、ひとつの星印も描かれていた。
「これね、前に言ってた、好きな人と結ばれる場所の地図。星の印ついてるとこがその場所だよ! お姉ちゃんに描いてもらっちゃった! あげるから、宮野くんと行っといで!」
そんなこと言われても、話しかけるのさえ出来ないのに、無理だよ……。
「う、うん。ありがとう」
無理っぽいけど、一応もらっておこうかな。小さなメモ紙だから、なくさない場所を考える。
カバンの中でしまえそうな場所。
とりあえずペンケースの中に入れておいた。
数日後。
一時間目の数学の授業が始まるチャイムがなった時だった。
ペンケースを開けて、筆記用具を出そうとしたらそのメモ紙が落ちた。
「これ、落ちたよ」
隣の席の新井くんが拾ってくれた。
「あ、ありがとう」
「ねぇ、小松さん。今ね、そのメモ見ちゃったんだけど」
「ん?」
「そのメモの場所って、一緒に行った人と結ばれるって噂の場所だよね?」
「そうだって聞いたけど……噂、知ってるの?」
「うん。というか前に小松さんたちがその話をしていた時、聞こえちゃった。ねぇ、その場所一緒に行かない?」
「え?」
「いや、別に深い意味はなくて。そこで何が起こって、ふたりが結ばれるのかなって気になって……」
彼からこんなふうに話しかけてくるの、とても珍しい。
ちょっとモジモジしている気がする。
私みたいに人に話しかけるの緊張しちゃうタイプなのかな?
一緒に見に行くだけなら、いいかな?
「いいよ!」
「じゃあ、いつ行くかとかは、後で決めようか」
こうやって新井くんに誘われるのって初めて。ふたりだと何話せばいいのかわからないなぁ。
「じゃあさ、後で葵ちゃんも誘ってみるね」
「いや、ふたりで。水無月さんにも誰にも行くことは内緒にしといてほしいな」
「え?」
話の途中で先生が入ってきた。
どうして内緒なのかな?
夏休みになったら噂の場所に行こうって話になった。
今日は夏休みの初日。
お昼ご飯を食べ終わったら新井くんが家まで迎えに来てくれる予定。
準備を終えて、壁の時計を見るとちょうど午後1時。
リビングの窓から外を覗いたら新井くんが自転車にまたがりながらこっちを見ていた。手を振り、ショルダーバッグを持ち、あわてて外に出る。
「地図見せて!」
「うん」
新井くんに地図を渡した。
「よし、覚えた。行こうか!」
「うん」
返された地図のメモ紙をバッグにしまい、私も自転車に乗った。
新井くんの後ろをついて行く感じ。だって、もらった地図、道がちょっと複雑で全部覚えていなかったから。
新井くんは覚えているっぽい。
地図をあれから一度も見ていないのに、すらすらと迷わないで進んでいる。
止まるのは信号の前でぐらい。
すごい! 彼の頭の中には、地図の道がはっきり描いてあるのかな?
30分ぐらいたつと目的地についた。
生まれた時からずっと住んでいる街の中にある公園だけど、多分、初めて来る公園。
駐輪場があったからふたりの自転車をそこに停めた。
公園っていっても遊具とかはなくて、散歩出来る感じの大きな公園。
駐輪場から見える場所に池がある。
地図によると池の横を通って、右に曲がって、更に奥に進み……。最後に木のイラストが円を描くように5つある。その木に囲まれた場所に星のマークはあった。
地図の通りに進んでいくと、木が円になるようにぎっしり生えていて、真ん中は草が生えているだけで何もない場所が見えてきた。
そこに、見覚えのあるふたりが。
「えっ?」
わたしは思わず声をもらす。
だって――。
「小松さん、どうしたの?」
「あれ、見て?」
私が指さしたその先に、なんと宮野くんと葵ちゃんがいた。
そしてなぜか私は別に悪いことをしているわけじゃないのに、木の陰に隠れてしまった。
「別に、隠れる必要ないんじゃない?」
「そうだけど……」
気になる。
すごく気になる。
ふたりはなんでここにいるわけ?
そして何をしているの?
心がもやもやしすぎて、泣きそう。
「そんなに気になるなら、直接聞いてみれば? なんだか僕も気になるし」
そう言いながら新井くんが歩き出した。
「ち、ちょっと待ってよ!」
新井くんの後ろをついて行き、木に囲まれた空間に入った。私たちの気配に気がついたふたりが振り向く。
「えっ? 結芽たち、なんで?」
「それはこっちのセリフ! 葵ちゃんたち、なんで一緒にここにいるの?」
「それは……」
葵ちゃんが何か言いかけた時、突然目の前がひかりだした。
「何これ! 嫌だ! 怖い」
葵ちゃんが叫びながら消えた。
そして目の前が真っ白になって私の意識がなくなっていき――。
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