38 / 46
霞月の秘密
仁義と正義
しおりを挟む デーアは結婚し、デーア・アルメヒティヒとなった。ヴァイスハイトが侯爵家を継いだので、アルメヒティヒ侯爵夫人になる。アンジュはゲニーがオラーケル家の婿養子になりゲニー・オラーケルとなったので、名前は変わらずオラーケル侯爵夫人になった。
ヴァイスハイトは文官になり、新人らしく事務仕事から始め、デーアも外務関連の部署の文官になった。だがある日定期的に行われる討論会で発言する機会があり、ヴァイスハイトはその場で宰相であるブライ侯爵に気に入られ、文官になって一ヶ月で宰相補佐に抜擢される。一方ゲニーは魔法の研究がしたいということで魔法団の第五部署、研究職の部署に就きたかったのだが、師匠である魔法団総帥のレーラー・ムスケルに第三部署の副団長の座が例の王子とその右腕を陥れるための事件で空白になったからなれと言われ、しぶしぶその座に就いた。第三部署は所謂戦いの時の皮切りの部署で、怪我も絶えなく、最悪命も落とす。なので治癒魔法が得意な者を集めた魔法治癒士もその部署に配属される。アンジュは治癒魔法が得意だったので、必然と第三部署に配属され、実質ゲニーの部下になった。
忙しい毎日だったが毎晩のように愛し合っていた二組の夫婦の蜜月は想像よりも甘く、両家の使用人が見てられないと恥ずかしがるほどだった。それは隠居し田舎へ引っ込んだ両親たちにも届いていて、孫が見られるのも早いと期待も必然と高くなっていた。
元々仲の良い四人は、週末各屋敷に交代で集まり食事を共にし、ついでにその日は泊まることになっている。
いつものように食事も終えて、四人だけでリビングルームでお茶を飲んでると、ヴァイスハイトが口を開く。
「これは極秘情報だが、隣国のクリーク帝国が我がエーデルシュタイン王国に攻め入る計画を立ててるらしい」
「それでか。師匠も最近眉間にしわ寄せて各団長たちと会議を重ねてるのは」
納得といったようにゲニーが頷く。
「ってか、極秘情報言っていいの?! ヴィーは仮にも宰相補佐でしょ?!」
アンジュがヴァイスハイトに突っ込み、デーアは心配そうにヴァイスハイトを見つめた。
「ちゃんと許可は取ってある。明日にはデーアの部署にも、ゲニーたちの部署にも通達される予定だ」
何事にも抜かりないヴァイスハイトが失態を犯すわけはなく、デーアは安心し胸を撫でおろす。
とうとう新生活になり三ヶ月が過ぎようとした頃、隣国のクリーク帝国がエーデルシュタイン王国に攻め入ってきた。事前に情報が入っていたエーデルシュタイン王国の応戦の支度は万全だった。魔力が少なく銃や剣など武力に優れているクリーク帝国と、魔力が多く魔法に優れているエーデルシュタイン王国の戦いの勢力は明白で、エーデルシュタイン王国が優勢である。ヴァイスハイトは宰相と共に戦略にあたり、ゲニーは魔法団総帥からの命令で戦いの最前線に出て、軍の指揮をとることになった。
ゲニーの帰りを待つアンジュは心細くなり、デーアのいるアルメヒティヒ家に住まわせてもらうようになった。
「ゲニーが最前線で指揮をとってから怪我人はいるもの、死者は出てないそうよ」
デーアは朝食の席で浮かない顔をしていたアンジュを励ました。愛する夫がいつ命を落とすか分からない状況の妹の心境は手に取るようにわかる。
「うん。ヴィーも被害が少ないような戦略を立ててるって聞いたよ。大丈夫、ゲニーが死ぬわけないよね」
そう言った可愛い妹が何とも辛そうにしていて、デーアは思わずアンジュを抱きしめる。
「そうよ。ゲニーなら大丈夫だわ。それに死んだらアンジュが未亡人になって、もしかしたら家のために再婚するかもしれないわ。ゲニーがそれを許すとは思えないもの。何がなんでも生き延びると思うわ。アンジュに対する執着心は底知れないもの」
「そこは執着より愛情と言って欲しいけど。ふふ、そうね。ゲニーなら死んでも自分に魔法をかけて生き返ってきそう。あと執着心はデーアの愛しの旦那様も底知れないよ? だって戦場から毎日朝晩と手紙が来るんでしょ?」
アンジュはやっと頬を緩まし、姉を揶揄った。
「あら、それはアンジュの愛しの旦那様もじゃなかったかしら? ゲニーの場合小さな花束も手紙につけて送ってくるみたいじゃない。アンジュもその花を毎回押し花にして大切にとってあるんでしょ? 羨ましいわ。ヴィーに見習って欲しいと言おうかしら?」
アンジュに揶揄われ、姉も負けじと目の前の妹を揶揄い返す。
そして二人はふふっと笑い合った。
ヴァイスハイトは文官になり、新人らしく事務仕事から始め、デーアも外務関連の部署の文官になった。だがある日定期的に行われる討論会で発言する機会があり、ヴァイスハイトはその場で宰相であるブライ侯爵に気に入られ、文官になって一ヶ月で宰相補佐に抜擢される。一方ゲニーは魔法の研究がしたいということで魔法団の第五部署、研究職の部署に就きたかったのだが、師匠である魔法団総帥のレーラー・ムスケルに第三部署の副団長の座が例の王子とその右腕を陥れるための事件で空白になったからなれと言われ、しぶしぶその座に就いた。第三部署は所謂戦いの時の皮切りの部署で、怪我も絶えなく、最悪命も落とす。なので治癒魔法が得意な者を集めた魔法治癒士もその部署に配属される。アンジュは治癒魔法が得意だったので、必然と第三部署に配属され、実質ゲニーの部下になった。
忙しい毎日だったが毎晩のように愛し合っていた二組の夫婦の蜜月は想像よりも甘く、両家の使用人が見てられないと恥ずかしがるほどだった。それは隠居し田舎へ引っ込んだ両親たちにも届いていて、孫が見られるのも早いと期待も必然と高くなっていた。
元々仲の良い四人は、週末各屋敷に交代で集まり食事を共にし、ついでにその日は泊まることになっている。
いつものように食事も終えて、四人だけでリビングルームでお茶を飲んでると、ヴァイスハイトが口を開く。
「これは極秘情報だが、隣国のクリーク帝国が我がエーデルシュタイン王国に攻め入る計画を立ててるらしい」
「それでか。師匠も最近眉間にしわ寄せて各団長たちと会議を重ねてるのは」
納得といったようにゲニーが頷く。
「ってか、極秘情報言っていいの?! ヴィーは仮にも宰相補佐でしょ?!」
アンジュがヴァイスハイトに突っ込み、デーアは心配そうにヴァイスハイトを見つめた。
「ちゃんと許可は取ってある。明日にはデーアの部署にも、ゲニーたちの部署にも通達される予定だ」
何事にも抜かりないヴァイスハイトが失態を犯すわけはなく、デーアは安心し胸を撫でおろす。
とうとう新生活になり三ヶ月が過ぎようとした頃、隣国のクリーク帝国がエーデルシュタイン王国に攻め入ってきた。事前に情報が入っていたエーデルシュタイン王国の応戦の支度は万全だった。魔力が少なく銃や剣など武力に優れているクリーク帝国と、魔力が多く魔法に優れているエーデルシュタイン王国の戦いの勢力は明白で、エーデルシュタイン王国が優勢である。ヴァイスハイトは宰相と共に戦略にあたり、ゲニーは魔法団総帥からの命令で戦いの最前線に出て、軍の指揮をとることになった。
ゲニーの帰りを待つアンジュは心細くなり、デーアのいるアルメヒティヒ家に住まわせてもらうようになった。
「ゲニーが最前線で指揮をとってから怪我人はいるもの、死者は出てないそうよ」
デーアは朝食の席で浮かない顔をしていたアンジュを励ました。愛する夫がいつ命を落とすか分からない状況の妹の心境は手に取るようにわかる。
「うん。ヴィーも被害が少ないような戦略を立ててるって聞いたよ。大丈夫、ゲニーが死ぬわけないよね」
そう言った可愛い妹が何とも辛そうにしていて、デーアは思わずアンジュを抱きしめる。
「そうよ。ゲニーなら大丈夫だわ。それに死んだらアンジュが未亡人になって、もしかしたら家のために再婚するかもしれないわ。ゲニーがそれを許すとは思えないもの。何がなんでも生き延びると思うわ。アンジュに対する執着心は底知れないもの」
「そこは執着より愛情と言って欲しいけど。ふふ、そうね。ゲニーなら死んでも自分に魔法をかけて生き返ってきそう。あと執着心はデーアの愛しの旦那様も底知れないよ? だって戦場から毎日朝晩と手紙が来るんでしょ?」
アンジュはやっと頬を緩まし、姉を揶揄った。
「あら、それはアンジュの愛しの旦那様もじゃなかったかしら? ゲニーの場合小さな花束も手紙につけて送ってくるみたいじゃない。アンジュもその花を毎回押し花にして大切にとってあるんでしょ? 羨ましいわ。ヴィーに見習って欲しいと言おうかしら?」
アンジュに揶揄われ、姉も負けじと目の前の妹を揶揄い返す。
そして二人はふふっと笑い合った。
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。



サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
セクスカリバーをヌキました!
桂
ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。
国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。
ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる