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第二任務 寂池村
参考人の供述
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6人が霞月の門をくぐったのは、日がとっぷりと暮れたころだった。
明継と緋咲に清光らを任せた嗣己は通いなれた地下通路を通り、医務室まで足早に行く。
窓越しにクグイの存在を確認するとノックをすることもなく中へ入った。
「あれぇ? 嗣己が任務帰りに僕のところに来るなんて珍しいじゃない」
不躾な入室にもかかわらずクグイは嬉しそうに出迎えた。
「お前、おかしな研究に手をつけていないか?」
嗣己は表情を変える事なく問う。
「僕は霞月のために富国強兵を目指して常に頑張ってるけど?」
「冗談を交わしに来たわけじゃない」
「いつにもまして機嫌が悪いなぁ。何があったの?」
「寂池村を知っているか?」
「じゃくち……? 僕と関係があったかな?」
「元晴と清光は?」
「うーん。知らない」
クグイの様子を見て嗣己は首を振ると、手近にあった椅子に座って落ち着いた口調で話し始めた。
「今日、寂池村というところに行ってきた。村人は能力者に惨殺されて、畑も荒れて昔の豊かさは見る影もなかった」
「へー、そりゃ大損害だね」
「その原因となった能力者、俺たちの力を使っていたぞ」
「えぇ!?」
他人事のように返事をしていたクグイが目を見開いた。
「俺たちの能力の元は封印されているんだろう? 俺とお前の体から抜き出さん限り、あの能力は使えん」
「そうだけど……なんかしたかな? あ」
困惑していたクグイの動きが止まり、急に何かを思い出したように声を上げた。
「言われてみれば数年前に作った気がする」
嗣己の眉が一瞬歪んだのを見て、クグイは彼が苛立ちを感じているのだと理解した。
「彼らを作るだけ作って後の処理は下に任せちゃったんだよね。名前も移住先も知らないから繋がらなかった。そんなに怒らないでよ」
穏やかに笑うクグイに、嗣己は居心地悪そうに視線を外した。
「えーっと。確か嗣己のDNAが手に入ったから僕のと掛け合わせたんだよね」
間をおいて、困惑した表情の嗣己が聞き返す。
「俺のDNA……?」
「うん。精子だね」
「……」
「僕たち付き合いが長いからね。そんなこともあるよ」
さらっと言いのけるクグイに対し、嗣己は脳内で過去を振り返りながら遠くを見つめた。
「確かに研究は止まってたんだけどね。いないなら作ればいいという精神で、まずは僕と嗣己の掛け合わせでやってみたんだ。どう? 顔似てた?」
その問いに、遠のいていた意識を戻した嗣己が双子の顔を思い浮かべる。
清光と元晴の顔はよく似ているが、目元はそれぞれ特徴を持っている。清光の柔らかく丸い瞳はクグイに、元晴の切れ長の瞳は嗣己にそっくりだ。だが鼻と口はどちらの特徴も取り入れていて、角度次第でどちらにも似ている。
嗣己は彼らを見た瞬間にそれを薄々感じていた。
それが事実だとしたら、まるで――
「まるで、じゃなくて僕たちの子供だよ?」
嗣己の思考を読むようにクグイがにっこりとほほ笑む。
「しょうがないじゃない。遺伝子情報が僕と嗣己のものなんだもの。勝手に似るよ。穏平と掛け合わせるのはごめんだけど、嗣己ならいいかなって」
嗣己は複雑な表情を浮かべたが、クグイは気にするそぶりもなく、むしろ嬉しそうに笑顔を見せた。
「そっかぁ。清光と元晴って名前になったんだ。僕の息子」
楽しそうに想像をふくらませるクグイをどうしてやろうかと嗣己は考えたが、それはため息となって吐き出されるだけだった。
「いつになく楽しそうだな」
呆れたように言うと、クグイは嬉しそうに目を細めた。
「だってすごいことだよ。これがうまくいけば化け物を介入させることなく、親の性別がどうであれ、新しい能力者を作り出せる。試験的に双子の年齢を操ってみたけど、その様子ならそっちも上手くいきそうだしね」
「ついにお前も先代の研究に足を踏み入れたか。……苦しくないか?」
「大丈夫だよ。僕たち自身がそうやって造られてきたんだから」
嗣己はクグイの言葉に思いを巡らせた。
彼らは、自分が化け物と人間の間の生き物である事を自覚したうえで悲観はしていない。それはこの霞月という里で生まれ、育ってきたからだ。
それが彼らの常識だった。
「確かにそうか」
嗣己がポツリと言うと、クグイの口元が緩む。
「でも嗣己が僕の事を心配をしてくれたのは嬉しいよ。最近じゃ明継くんばっかりだもん」
「そんな事はない。アイツの中身は霞月の資産。それを護っているだけだ」
「うそつき」
月白色の瞳が見透かすように嗣己を見つめた。
「今後はどうするつもりだ?」
その視線から逃げるように嗣己が問う。
「まずは彼の力を精製して経口接種できる状態にする。取り出すのはその後かな」
「そうか」
目を伏せた嗣己に、クグイが眉尻を下げて微笑んだ。
明継と緋咲に清光らを任せた嗣己は通いなれた地下通路を通り、医務室まで足早に行く。
窓越しにクグイの存在を確認するとノックをすることもなく中へ入った。
「あれぇ? 嗣己が任務帰りに僕のところに来るなんて珍しいじゃない」
不躾な入室にもかかわらずクグイは嬉しそうに出迎えた。
「お前、おかしな研究に手をつけていないか?」
嗣己は表情を変える事なく問う。
「僕は霞月のために富国強兵を目指して常に頑張ってるけど?」
「冗談を交わしに来たわけじゃない」
「いつにもまして機嫌が悪いなぁ。何があったの?」
「寂池村を知っているか?」
「じゃくち……? 僕と関係があったかな?」
「元晴と清光は?」
「うーん。知らない」
クグイの様子を見て嗣己は首を振ると、手近にあった椅子に座って落ち着いた口調で話し始めた。
「今日、寂池村というところに行ってきた。村人は能力者に惨殺されて、畑も荒れて昔の豊かさは見る影もなかった」
「へー、そりゃ大損害だね」
「その原因となった能力者、俺たちの力を使っていたぞ」
「えぇ!?」
他人事のように返事をしていたクグイが目を見開いた。
「俺たちの能力の元は封印されているんだろう? 俺とお前の体から抜き出さん限り、あの能力は使えん」
「そうだけど……なんかしたかな? あ」
困惑していたクグイの動きが止まり、急に何かを思い出したように声を上げた。
「言われてみれば数年前に作った気がする」
嗣己の眉が一瞬歪んだのを見て、クグイは彼が苛立ちを感じているのだと理解した。
「彼らを作るだけ作って後の処理は下に任せちゃったんだよね。名前も移住先も知らないから繋がらなかった。そんなに怒らないでよ」
穏やかに笑うクグイに、嗣己は居心地悪そうに視線を外した。
「えーっと。確か嗣己のDNAが手に入ったから僕のと掛け合わせたんだよね」
間をおいて、困惑した表情の嗣己が聞き返す。
「俺のDNA……?」
「うん。精子だね」
「……」
「僕たち付き合いが長いからね。そんなこともあるよ」
さらっと言いのけるクグイに対し、嗣己は脳内で過去を振り返りながら遠くを見つめた。
「確かに研究は止まってたんだけどね。いないなら作ればいいという精神で、まずは僕と嗣己の掛け合わせでやってみたんだ。どう? 顔似てた?」
その問いに、遠のいていた意識を戻した嗣己が双子の顔を思い浮かべる。
清光と元晴の顔はよく似ているが、目元はそれぞれ特徴を持っている。清光の柔らかく丸い瞳はクグイに、元晴の切れ長の瞳は嗣己にそっくりだ。だが鼻と口はどちらの特徴も取り入れていて、角度次第でどちらにも似ている。
嗣己は彼らを見た瞬間にそれを薄々感じていた。
それが事実だとしたら、まるで――
「まるで、じゃなくて僕たちの子供だよ?」
嗣己の思考を読むようにクグイがにっこりとほほ笑む。
「しょうがないじゃない。遺伝子情報が僕と嗣己のものなんだもの。勝手に似るよ。穏平と掛け合わせるのはごめんだけど、嗣己ならいいかなって」
嗣己は複雑な表情を浮かべたが、クグイは気にするそぶりもなく、むしろ嬉しそうに笑顔を見せた。
「そっかぁ。清光と元晴って名前になったんだ。僕の息子」
楽しそうに想像をふくらませるクグイをどうしてやろうかと嗣己は考えたが、それはため息となって吐き出されるだけだった。
「いつになく楽しそうだな」
呆れたように言うと、クグイは嬉しそうに目を細めた。
「だってすごいことだよ。これがうまくいけば化け物を介入させることなく、親の性別がどうであれ、新しい能力者を作り出せる。試験的に双子の年齢を操ってみたけど、その様子ならそっちも上手くいきそうだしね」
「ついにお前も先代の研究に足を踏み入れたか。……苦しくないか?」
「大丈夫だよ。僕たち自身がそうやって造られてきたんだから」
嗣己はクグイの言葉に思いを巡らせた。
彼らは、自分が化け物と人間の間の生き物である事を自覚したうえで悲観はしていない。それはこの霞月という里で生まれ、育ってきたからだ。
それが彼らの常識だった。
「確かにそうか」
嗣己がポツリと言うと、クグイの口元が緩む。
「でも嗣己が僕の事を心配をしてくれたのは嬉しいよ。最近じゃ明継くんばっかりだもん」
「そんな事はない。アイツの中身は霞月の資産。それを護っているだけだ」
「うそつき」
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「今後はどうするつもりだ?」
その視線から逃げるように嗣己が問う。
「まずは彼の力を精製して経口接種できる状態にする。取り出すのはその後かな」
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