父と息子、婿と花嫁

ななな

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7. ゆうくん

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 彼の靴を脱がせるのは、僕の役目だ。
「父さん、ありがとぉ」という、その笑顔のためなら僕はなんだってする。


「ゆうくん、どうしたのかな。しょんぼりさんだ」

 ところが今日は少し違った。父さん…ありがと。そんな弱々しい声を出すのだ。
 よしよしと彼の頬を撫で、目に、鼻に、口にと唇を落としてゆく。今日の天使はどこか浮かない様子だった。

「父さん…怒ってないの?」

 恐る恐る、といった具合でこちらをうかがう彼に、僕はにこりとほほえみ返す。
「父さんが?どうして」
「だって…他の人には内緒だよって父さんに言われたことを、しゃべっちゃいそうになったから…」

 ごめんなさい、と彼はしょぼくれてしまう。それが捨てられた子犬に見え、僕は拾い上げるようにして抱きしめた。何を言うのかと思えば…だ。

「でも、言わなかったじゃないか。偉いね。父さんはとっても嬉しいよ…ゆうくんは良い子だ」

「本当?」
「うん、本当だよ。だからね…その内緒のことを今からしよう。ねぇ、いいだろう?」

 期待の眼差しで彼を見つめる。すると彼は、「ぁぅ…っ…ま、またするの?おれ、恥ずかしいよぅ…」と顔を真っ赤にして目を伏せた。僕の身体の芯は、すでに熱を噴き上げていた。
 
「父さんはね、恥ずかしがっているゆうくんが大好きなんだ」
「…本当?」
「もちろん。でもね、甘えん坊なゆうくんも大好き」
「どっちがいいの」

 どっちもだよ。じゃあ、父さんと仲良ししようか。
 ひょいと担いでお姫様抱っこ。ベッドを目指し、のっしのっしと彼を運んで行く。気分はさながら王子様だ。

「姫、生まれたての姿にしてあげまちゅからね」
 生まれたてのお姫様は、ベッドの上でもじもじしながら三角座り。おむすびケースに入れてよしよししたい。
 それで、海苔を巻いてかぶりつこうとしたら、「た、食べないでぇ~」って泣かれたい。たっ、食べないよっ。

 …はっ。
 そうやって僕がニヨニヨしていたら、クスクス笑う彼と目が合った。ど、どうしたんだろう。
「父さん…あはは、変な顔」
「えっ」
 そんなに…?ちょっと、ショック。気分だけは王子様のつもりだったんだけど。

「ぷっ、裸の王様だよぅ」
「こら」
 けらけら笑って、すっかり気分は台無しに。僕のお腹をつついては、「あんぱんみたいだね」などと軽口を叩くから、うがぁっと僕は襲いかかった。あははっ、父さん重いよぉ……
 ゆうくん…楽しそうだな。まぁ、たまにはこういうのも…いいか。





『違うよぉ 由貴くん、これは親子のコミュニケーションさ…そんなお口の利き方、しちゃいけませんよぉ』

 彼はこう言った。お父さんになって欲しい、と。僕は少し考えて、彼がそう望むなら… と父のように愛そうとした。
 でも、酷い言葉を浴びせられてしまったんだ。
 

『い゛う゛ッァッ ひっ ンンッ イ゛ッ゛ぃいッ!!』

 ただひたすら、愛のムチを打ち続けた。彼に僕の気持ちを思い知らせないと…そう思ったからだ。
 逃れようとする彼を組み敷き、力いっぱいに突き上げる。お尻を何度も引っ叩いて、これでもかと奥に注ぎ込むと、蛙が潰れたような声が下から聞こえてきた。いつものように優しくゆっくりと、大切に大切に抱くことはしなかった。

『ふんッ!ンンッ、ふッ、んんぎィッ ゆうくんっ 悪い子!おちっ、おちんちんっ、ぱぱのおちんちんの刑ぃぃッッ!!』
 

 どれだけ時間が経ったのか。揺れているのは僕だけだ、彼は動かなくなっていた。だらんと伸びた彼の肢体が、ようやく僕の目に映り込む。
 形の良い、綺麗なお尻は真っ赤に腫れ上がり、荒々しい手跡がまだ残っていた。少し切れてしまったのか、肛門のあたりが血で滲んでいる。
 こ、これは…‥酷い。一体、なんてことを。

 僕は泣きながら彼の手当てをした。なんてことを、なんてことをっ、なんてことをッ!
 自分でも信じられない。どうかしていた。愛する彼に、こんなむごい仕打ち…僕は畜生だったんだ。

 彼が目を覚ますまでには、随分と長い時間が経っていたように思う。うめき声を上げたその子に、僕はすがりついた。
 だけど、彼がぼんやり口にした言葉に息を呑んでしまう。『おじさん、誰…?』と。

 あんまり驚いて、その虚ろな眼を覗き込む。『と、父さんだよ』なぜだかそう答えてしまい、彼もまた目を丸くする。
 次第にその顔はくしゃくしゃに歪んでゆき、うわぁぁぁと僕の耳をつんざいた。

『今までどこ行ってたんだよ!ばかっ、ばかっ、ばかばかばか!』

 それはただ、待ちわびる子の姿だった。
 父さぁんん 会いたかったよぉぉ…うぅっ、あァッ、あぁっ!あぁあぁぅうっうっ……僕の腕の中で、彼は泣くに泣いた。全てをぶちまけた。
 長年に渡る彼の悲痛な叫びは、僕に昔のことを思い出させたようだ。涙が頬を伝ってゆく。
 彼は……僕だ。この子は、僕が守る。

 
 まずは綺麗にしてあげないと。家へ連れ帰ってくるなり、彼をお風呂へと放り込んだ。
 けれど、さっそく困ってしまう。くすぐったいのか身をくねらせるのだ。生唾を飲み込み、彼のお尻へ視線を這わせる。それは可哀想なほどに腫れ上がっていた。

 早々に終わらせ、頭からスウェットを着せてやることにした。こんなことがあろうと用意していた真新しいものだ。
 彼は着心地の良いものが好きらしい。その華やかな顔立ちがよく映え、実に似合っている。

 髪を乾かし、ご飯を食べさせ、歯を磨いてやる。よく眠れるようにと子守唄を歌っていたら、泣き出してしまった。
 あわてて抱きしめると、彼はまた笑顔になる。ちょっとばかし…音痴だっただろうか。

 僕はつきっきりでお世話をした。ただ、ただ幸せだった。信じられない…夢にまでみた、彼との生活。

 そうして傷ついたお尻が癒えると、彼にのしかかった。彼は恥ずかしがったが、『親子はこうして仲良くなるんだよ』と言ったら、おそるおそる 可愛いところを見せてくれた。幼い彼は僕を魅了し、骨の髄まで虜にした。

 けれど時々、怯えたような顔を向けてくる。父さん、怒ってないの?…と。
 僕は心からの懺悔を誓い、彼を抱きしめた。早く治してあげないと。それから今度は、ちゃんと伝えるんだ。

 僕と結婚して下さい……と。
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