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9. 秘め事
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ボムギュは異変を感じておりました。しかし気のせいだと、自分は人並み外れた者であるゆえ大丈夫であろうと、目を逸らし続けていました。それは全て、愛する男のそばにいたいという思いがあってのことでした。
ところが、日を追うごとにボムギュの身体の具合は悪くなってゆきました。ボムギュには訳がわかりません。迷惑をかけてはならないと男には黙っておりましたが、とうとう耐えかねてしまい、師である仙人の元へ相談しに行くことを決意しました。
「身体の調子が良くないので、しばらく実家の方で静養してもよろしいでしょうか」
ボムギュの突然の申し出に、男はとても驚いた顔をしていました。
それから怒った声で、「なんでもっと早く言わなかったんだ。医者にみてもらいに行くぞ」と少々乱暴に手を引かれ、ボムギュは軽いショックを覚えました。
「おっ、お医者様にはすでにみてもらいました。それでっ、ゆっくり休めば良くなるって…」
「…は?」
男の声が今までに聞いたことのないほど冷え切っており、ボムギュは小さくなるばかりでした。
「お前、俺に黙ってコソコソと行ってきたのか。人の金を勝手に使って」
鈍器で頭を殴られた、ボムギュはそう思いました。それで、しまったと。男の支えで生活していたボムギュでありましたから、そう思われるのは至極当たり前のことでした。お医者様にみてもらったなんてのは当然嘘です。
男は大きなため息をつき、「ボムギュ…俺に一体、何を隠しているんだ」と力無く尋ねます。
「本当のことを言ってくれ。言えないのなら…もう二度と帰ってくるな」
それはボムギュにとって突然の言葉でした。そこでようやく気づきます。愛する男に対して、自分がいかに不誠実であったかを。
ボムギュは涙を流しておりました。はらりはらりと落ちてゆくしずくが頬を伝い、やがて着物を濡らします。その姿はあまりにも弱々しく儚げで、男は弾かれたようにボムギュを抱きすくめました。
「ごめんなさい…っ…先生、ごめんなさい、ごめんなさい…」
それでとうとう、ボムギュは本当のことを言ってしまいました。自分が何者であるのか、どこからやって来たのか…仙人とのあの一夜のことから羽衣まで、包み隠さず男に伝えたのです。
すると、今度は男の方が泣き出してしまいました。「嫌だ、帰らないでくれ!二度と会えなくなっちまう!」と半狂乱です。また元気になったら必ず戻って来ます、とボムギュがいくら申しましても首を横に振ります。
「そのオヤジが許すわけねぇだろ!記憶を消して引き離すに決まってる!」
男は必死の形相でボムギュに掴みかかりました。そうして腰元に巻き付けてあった羽衣を取り上げたのですから、ボムギュは大慌てです。
「返してっ、どうか返して下さいっ」
「俺がお前の面倒をみてやる。大丈夫、ずっとそばにいるから何も怖くない…一緒にいこう。な…?」
そう言って、男はとうとう羽衣を燃やしてしまったのです。あまりのことにボムギュはすっかり気が動転し、外に出ようとしました。
「どこへ行く気だ、ボムギュ。帰る場所はここだぞ」
怯えるボムギュを軽々と抱き上げ、男はそのまま布団の方へと歩いて行きます。仙界の食物を口にしたボムギュは、俗界のものを受け付けられない身体になっておりました。もう抵抗する力も残っていません。
そうして、日に日に弱り果ててゆくボムギュを男は甲斐甲斐しく世話しました。ボムギュがわずかに口にできた分だけ 男も食しました。片時も離れることなく、話しかけても返事のないボムギュを前に、男の顔はどこか満足そうです。
やがて、先生が村に来なくなったと心配し、一人の少年が様子を見に来ました。家の戸を開けると、つんと鼻をつく匂いが立ち込めております。恐る恐る中を覗いて目にしたのは、あの利口な少年を腕に抱いたまま、幸せそうに眠る先生の姿でありました。
ところが、日を追うごとにボムギュの身体の具合は悪くなってゆきました。ボムギュには訳がわかりません。迷惑をかけてはならないと男には黙っておりましたが、とうとう耐えかねてしまい、師である仙人の元へ相談しに行くことを決意しました。
「身体の調子が良くないので、しばらく実家の方で静養してもよろしいでしょうか」
ボムギュの突然の申し出に、男はとても驚いた顔をしていました。
それから怒った声で、「なんでもっと早く言わなかったんだ。医者にみてもらいに行くぞ」と少々乱暴に手を引かれ、ボムギュは軽いショックを覚えました。
「おっ、お医者様にはすでにみてもらいました。それでっ、ゆっくり休めば良くなるって…」
「…は?」
男の声が今までに聞いたことのないほど冷え切っており、ボムギュは小さくなるばかりでした。
「お前、俺に黙ってコソコソと行ってきたのか。人の金を勝手に使って」
鈍器で頭を殴られた、ボムギュはそう思いました。それで、しまったと。男の支えで生活していたボムギュでありましたから、そう思われるのは至極当たり前のことでした。お医者様にみてもらったなんてのは当然嘘です。
男は大きなため息をつき、「ボムギュ…俺に一体、何を隠しているんだ」と力無く尋ねます。
「本当のことを言ってくれ。言えないのなら…もう二度と帰ってくるな」
それはボムギュにとって突然の言葉でした。そこでようやく気づきます。愛する男に対して、自分がいかに不誠実であったかを。
ボムギュは涙を流しておりました。はらりはらりと落ちてゆくしずくが頬を伝い、やがて着物を濡らします。その姿はあまりにも弱々しく儚げで、男は弾かれたようにボムギュを抱きすくめました。
「ごめんなさい…っ…先生、ごめんなさい、ごめんなさい…」
それでとうとう、ボムギュは本当のことを言ってしまいました。自分が何者であるのか、どこからやって来たのか…仙人とのあの一夜のことから羽衣まで、包み隠さず男に伝えたのです。
すると、今度は男の方が泣き出してしまいました。「嫌だ、帰らないでくれ!二度と会えなくなっちまう!」と半狂乱です。また元気になったら必ず戻って来ます、とボムギュがいくら申しましても首を横に振ります。
「そのオヤジが許すわけねぇだろ!記憶を消して引き離すに決まってる!」
男は必死の形相でボムギュに掴みかかりました。そうして腰元に巻き付けてあった羽衣を取り上げたのですから、ボムギュは大慌てです。
「返してっ、どうか返して下さいっ」
「俺がお前の面倒をみてやる。大丈夫、ずっとそばにいるから何も怖くない…一緒にいこう。な…?」
そう言って、男はとうとう羽衣を燃やしてしまったのです。あまりのことにボムギュはすっかり気が動転し、外に出ようとしました。
「どこへ行く気だ、ボムギュ。帰る場所はここだぞ」
怯えるボムギュを軽々と抱き上げ、男はそのまま布団の方へと歩いて行きます。仙界の食物を口にしたボムギュは、俗界のものを受け付けられない身体になっておりました。もう抵抗する力も残っていません。
そうして、日に日に弱り果ててゆくボムギュを男は甲斐甲斐しく世話しました。ボムギュがわずかに口にできた分だけ 男も食しました。片時も離れることなく、話しかけても返事のないボムギュを前に、男の顔はどこか満足そうです。
やがて、先生が村に来なくなったと心配し、一人の少年が様子を見に来ました。家の戸を開けると、つんと鼻をつく匂いが立ち込めております。恐る恐る中を覗いて目にしたのは、あの利口な少年を腕に抱いたまま、幸せそうに眠る先生の姿でありました。
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