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4. 恋煩い

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 お師匠様、申し訳ございません。僕は俗界の者に心を奪われてしまいました。
 その方は小さな村で子供達に読み書きを教えているようで…とても素敵な笑顔をしていらっしゃいます。一目で恋に落ちてしまいました。

 あの方とお話をしてみたい。僕はどうにかしてお近づきになろうと、村の子供に扮装しました。大切な羽衣は服の中から腰に巻き付けておいたので、これで落とさないでしょう。

「んぁ?初めて見る顔だなぁ お前。名前は?」
「ぼっ…ぼっ、ぼむ、ぎッ」

 心の臓が自分のものではないようでした。目も合わせられず、飛び上がるほど嬉しいはずなのにその場から逃げ出したくなりました。
 けれど先生は、「そうかそうか。なぁボムギュ、お前がどのくらい読み書きができるか見てやるよ」と優しくほほえんで下さり、僕は天にも昇る気持ちでした。こくこくとうなずき、筆を取ったところで…ハッとなりました。あんまり出来過ぎたら怪しまれる、それに教えてもらえなくなるぞ。
 少々かっこわるいとは思いましたが、僕はてんで出来ないフリをすることにしました。

「ありゃ、まぁ誰でも最初はそんなもんだ。いいか、ここはな…」  

 先生はお月様のようでした。きらきらと神々しく輝く月そのもの…あまりの眩しさにまともに見ることも叶いません。僕の胸は初々しい乙女の如くにときめきが止まりませんでした。
 読み書きなんてどうでもいい。僕の目に映るのはただ一人、先生だけ。

「うー…?」
 ちょっぴり、痛い…?

「ボムギュ、先生の話 ちゃんと聞いてっか?」
「ご、ごめんにゃひゃい」

 どうやら先生にほっぺたを引っ張られているようでした。はははっと笑うそのお顔がなんとも素敵で、僕は先生にならいくらでもつねられて構わない…かも、と頭を掻きました。

 ところが、この世界には僕と先生だけではないのです。
「せんせぇ、おっせて!」と乱暴に袖を引っ張る鼻垂れ小僧が、先生をとっていってしまいました。僕はムッとして、それから寂しい気持ちになりました。先生の目にはもう、僕は映っておりません。
 そうして、その日は静かに終わってゆきました。
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