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2. 初めての喪失

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「ボムギュ、おいで」
 
 閨の方でお師匠様が手をひらひらとさせておりました。「ふぁい」と僕は大あくびをしながら向かいます。お師匠様は毎晩 僕を抱き枕のようにしてお眠りになるのです。

「疲れていないかい」
「はい、今日も無事に何事もなくお務めをさせて頂きましたので…もう慣れたものです」
 横になり、そのまま深い眠りに落ちてゆく…はずでしたが、その日はそうはいきませんでした。お師匠様が何やら僕の着物に手をつけているようでした。

「お師匠様、どうなさいました?」

 お師匠様は手を止め、にこりと僕に笑いかけて下さいます。僕もついほほえみ返しますと、「ボムギュ、わしはの…お前さんのことを深く、深く愛しておるのじゃ」と嬉しいことをおっしゃるので、「僕も…お師匠様のことを深くお慕いしております」と返しました。けれども、お師匠様は首を横に振ります。

「ボムギュ、わしのことをどうか許して欲しい」
 そう言ってお師匠様は…僕に口吸いをしてきたのです。ぬるりとした感覚に、僕は頭が真っ白になりました。
「おっ、おししょうさまっ、まってっ」
 それで、それからのことは…僕も何がなんだか。

 朝になり目を覚ますと、丸裸のお師匠様の腕の中に僕はいました。鈍い痛み、生肌の温もり、蘇る記憶…何もかもが信じられず、僕はもがき抜け出ようとしました。けれどもぎゅぎゅっと、お師匠様の腕に力が入ってゆきます。

「おはよう、ボムギュ…身体の方は大丈夫かい」
「はなしてっ、はなして下さいっ」
 大粒の涙が僕の目からは溢れておりました。お師匠様のたくましい腕は、僕のことを離しては下さいません。

「いきなり…すまなかったと思っている」
「ぼっ、僕っ、何度も嫌だって…やめてって言ったじゃありませんか…っ」

 僕は悲しくて堪りませんでした。お師匠様はすまない、すまないと繰り返すだけで、もうしないとは言って下さらないのです。それが僕を酷く絶望させました。

「お願いです、しばらく一人にさせて下さい」
 それでようやく、お師匠様は僕を離して下さいました。逃げるように着物を身につけ、僕は走り出します。どこでもいい、どこでもいいから…気づいたらお気に入りの花畑に飛び込んでいました。

 花はみな美しく、どれも清らかです。なんだかそのことが無性に腹が立って、僕はむしり取っていました。それを乱暴に池に投げ込んでゆくのですが、気分は晴れず、むしろ一層曇ってゆくのです。

(…池?)

 池があるなら…そうだ、滝があるじゃないか。僕はまた走り出していました。あそこに飛び込めば、僕だって清らかな花になれる…!!!
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