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龍族は長命で、番を深く愛する生き物だという。
「石英……!」
眩しさにきつく閉じていた目を開けると、宝石のように煌めく青い髪をしたイケメンがぼろぼろと涙を落としていた。
「この魂の色はまさしく石英殿だ」
「これでようやく菫青殿も報われる」
「よかった、本当によかった…!!」
石造りの神殿のような場所には長衣を纏った人たちが数人いて、それぞれに喜びを口にしている。
「ああ、石英、私の石英…!」
「石英…?オレは輝ですけど……」
座り込むオレの前で膝をついた青い人は、端正な顔に慈愛の表情を浮かべてゆっくりと首を横に振った。
「いいや、お前は私の愛しい石英だ。私にはわかる」
微笑みながらもぽろぽろと流れる涙が美しい。
でも、オレはこんなきれいな人は知らない。
「石英殿はこの者に生まれ変わる前にも一度転生しているようだな。魂の色がわずかに違う」
「いきなりのことで混乱しているんだろう。大丈夫、番のことならすぐに思い出すよ」
周囲に立つ人々が言う。
つまりオレは、この菫青という人の番の生まれ変わり、らしい。
「――おかえり、石英」
それからオレは菫青の屋敷に連れて行かれて、手厚く保護された。
おいしい食事に、あたたかな寝床。与えられる衣服も見るからに上等なもので、元の生活より快適だった。
屋敷の使用人たちはみんな優しく、菫青自身もすごく尽くしてくれた。いろんな贈り物をしてくれたり、珍しい菓子を取り寄せてくれたり、美しい景色を見せてくれたり。
菫青はいつもとろけるような笑顔を浮かべていて、オレがドキドキと胸を高鳴らせるようになるまで、さして時間はかからなかった。
***
「…本当に、いきなりだったんだ」
オレはちょっと家族関係に難ありの、それだってさほど深刻なものではなく、ごくごく普通の大学生だった。
「あの日だって前の晩に飲み会があって、酔っぱらって帰って自分のベッドで寝たはずなのに、目が覚めたら知らない場所にいて」
この世界に呼ばれた日のことは、いまでも鮮明に思い出せる。非現実的すぎて夢でも見ているのかと思った。いっそ夢の続きだったらよかったのに。
「それでも菫青はやさしくて、きれいで、かっこよくて、好きにならない理由がなかった。でも……」
「それは全部おまえが石英だったからって?」
腹に回った、まだ頼りない、でも長い腕がぎゅっと背後から抱き締めてくる。
返された言葉にそっと俯くと額に前髪が落ちてくる。それはよくよく知った黒い色だ。
「菫青はオレを好きなんじゃない、石英が好きなんだ」
オレにくれた贈り物は石英が欲しがったものだったし、菓子は石英の好物だった。きれいな景色も石英との思い出の場所だったらしい。
本当にうれしかったのに、それを知ってしまったときなにかが淀んだ。
極めつけはこの髪の色だ。オレは染めもしていないただの黒髪だが、石英はその名の通り、透き通るように輝く白色だったそうだ。
「それでオレの誘いに乗ってくれたわけ?」
ことんと肩に置かれた小さな頭。さらりと流れるのは艶やかな白髪で、その色は石英にとても似ているのだそう。
「それだけ、じゃ、なくて…」
首筋に埋まっていた頭がもぞりと動いて、幼げな少年の血のように赤い瞳が覗き込んでくる。獲物を見つけた獣のような視線を受け止めて。
「だって、おまえもそうだろ?――柘榴」
「うん。そうだね」
「石英……!」
眩しさにきつく閉じていた目を開けると、宝石のように煌めく青い髪をしたイケメンがぼろぼろと涙を落としていた。
「この魂の色はまさしく石英殿だ」
「これでようやく菫青殿も報われる」
「よかった、本当によかった…!!」
石造りの神殿のような場所には長衣を纏った人たちが数人いて、それぞれに喜びを口にしている。
「ああ、石英、私の石英…!」
「石英…?オレは輝ですけど……」
座り込むオレの前で膝をついた青い人は、端正な顔に慈愛の表情を浮かべてゆっくりと首を横に振った。
「いいや、お前は私の愛しい石英だ。私にはわかる」
微笑みながらもぽろぽろと流れる涙が美しい。
でも、オレはこんなきれいな人は知らない。
「石英殿はこの者に生まれ変わる前にも一度転生しているようだな。魂の色がわずかに違う」
「いきなりのことで混乱しているんだろう。大丈夫、番のことならすぐに思い出すよ」
周囲に立つ人々が言う。
つまりオレは、この菫青という人の番の生まれ変わり、らしい。
「――おかえり、石英」
それからオレは菫青の屋敷に連れて行かれて、手厚く保護された。
おいしい食事に、あたたかな寝床。与えられる衣服も見るからに上等なもので、元の生活より快適だった。
屋敷の使用人たちはみんな優しく、菫青自身もすごく尽くしてくれた。いろんな贈り物をしてくれたり、珍しい菓子を取り寄せてくれたり、美しい景色を見せてくれたり。
菫青はいつもとろけるような笑顔を浮かべていて、オレがドキドキと胸を高鳴らせるようになるまで、さして時間はかからなかった。
***
「…本当に、いきなりだったんだ」
オレはちょっと家族関係に難ありの、それだってさほど深刻なものではなく、ごくごく普通の大学生だった。
「あの日だって前の晩に飲み会があって、酔っぱらって帰って自分のベッドで寝たはずなのに、目が覚めたら知らない場所にいて」
この世界に呼ばれた日のことは、いまでも鮮明に思い出せる。非現実的すぎて夢でも見ているのかと思った。いっそ夢の続きだったらよかったのに。
「それでも菫青はやさしくて、きれいで、かっこよくて、好きにならない理由がなかった。でも……」
「それは全部おまえが石英だったからって?」
腹に回った、まだ頼りない、でも長い腕がぎゅっと背後から抱き締めてくる。
返された言葉にそっと俯くと額に前髪が落ちてくる。それはよくよく知った黒い色だ。
「菫青はオレを好きなんじゃない、石英が好きなんだ」
オレにくれた贈り物は石英が欲しがったものだったし、菓子は石英の好物だった。きれいな景色も石英との思い出の場所だったらしい。
本当にうれしかったのに、それを知ってしまったときなにかが淀んだ。
極めつけはこの髪の色だ。オレは染めもしていないただの黒髪だが、石英はその名の通り、透き通るように輝く白色だったそうだ。
「それでオレの誘いに乗ってくれたわけ?」
ことんと肩に置かれた小さな頭。さらりと流れるのは艶やかな白髪で、その色は石英にとても似ているのだそう。
「それだけ、じゃ、なくて…」
首筋に埋まっていた頭がもぞりと動いて、幼げな少年の血のように赤い瞳が覗き込んでくる。獲物を見つけた獣のような視線を受け止めて。
「だって、おまえもそうだろ?――柘榴」
「うん。そうだね」
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