君はぼくの婚約者

まめだだ

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―――とはいえオレはオメガで、時にひどく非力だ。

バース性に振り回されたとき助けてくれるのはいつも決まって親友だった。


「大丈夫?さくらちゃん」

「うううん……」

「それどっちかわかんないよ…。相変わらず抑制剤とお酒の相性悪いんだね」


親友の言う通り、すこし強めの抑制剤を服用しているオレは酒との相性がめっきり悪い。
友人たちの輪に混ざり、櫻宮として挨拶をして回って顔を繋いでなかなか手応えも感じていたというのに、うっかり酒を口にしてしまったのだ。気付かなかった。


「うぐっ、も、吐く…!」

「吐いちゃえ吐いちゃえ。でもこの後はまっすぐ帰った方がいいね」


ホールからすこし離れた化粧室で介抱されるオレ。

パーティー会場から支えられて連れ出される真っ青な顔の男オメガをいろんな人が見ていた。やってしまった、失敗した。せっかくの機会だったのに。


「ねえ、本当に婚約者くん呼ばなくていいの?」

「呼べるわけ、ない、あいつアルファだぞ……」

「そうだね、薬抜けた後のこと考えたら危険だよね。まあいつもみたいにオレに任せてくれたらいいか」

「悪い……」

「大丈夫大丈夫!」


オレの背中をさすりながら、タクシー呼ぶか部屋を取るか、と思案している。やはり頼りになるのは親友だ。その彼がすんと鼻を動かした。


「ん、やっぱりちょっとフェロモン漏れてきてる。さくらちゃんの相変わらずいい匂いだね」

「まじか、やばいじゃん…」


直孝含めパーティーに参加するような有力者は軒並みアルファが多い。こんなところでヒートでも起こしてみろ、大騒ぎじゃすまない。下手したら訴訟ものだ。


「タクシー呼んで。おまえのとこでいいから」

「了解」


ああやばい、くらくらする。
親友に手配を頼んで、まだ残る不快感に目を閉じたとき、ばたばたばた!と大きな足音が聞こえた。


「智史!!」


ばん!と扉を開けて飛び込んできたのは直孝だ。
必死な形相をした婚約者は、具合の悪そうなオレを見て目を見開き、そして親友に食ってかかる。


「お前……!!」

「ちょ、やめろやめろ直孝!」


男の前に立ちはだかってどうにか止めた。
親友は直孝の勢いと威圧に顔を引きつらせている。


「助けてくれた相手になにやってんだ…」

「……大丈夫なのか?」


腰に腕をまわされ、もう片方の手でぐっと顎を持ち上げられる。「ああ」と短く答えるがじろじろ凝視されて。


「うそつけ、顔真っ白じゃないか」


直孝はオレの腰に回していた腕をもっと下げるや、ひょいと縦に抱き上げてしまった。


「うわっ!?」

「ん?なんか匂いが……」

「ま、まじビビったあ~!婚約者くんやっぱりアルファだね、威圧やべえええ!」


はっ、と息を吐き出した親友が叫ぶ。
直孝はそれに「ふん」と鼻を鳴らして、オレを抱いたまま踵を返した。


「ごめん!直孝が悪かった!あと助けてくれてありがとう!」

「いいよ、これが正解なんだから。もうオレじゃなくて彼の手を借りなよ」


笑顔で手を振る親友にもっといろいろ言いたかったが、直孝はさっさと化粧室の扉を閉めてしまう。


「おっまえ、もう…!」


ずんずん進む直孝にも言いたいことはたくさんあったが、オレは疲れてしまってぐたりと身を預けた。


「いまの」

「……ん?」


ゆさっと危なげなくオレを抱き直した直孝が低い声で言う。


「いまの人、これまでもいろいろと智史を助けてきたみたいな言い方だったけど?」

「あー。うん、まあそうだな……」


もぞもぞと直孝の首に腕を回して居心地のいい場所を探す。

親友にはいろいろと助けられてきた。
それこそ、人に、直孝に言えないようなこともいろいろと。
けれどそれ以上なにかを言う前に、ざわっ、と全身が本能的な危機感に包まれた。


「――へえ」


圧倒的なフェロモンが溢れだしている。間近でそれをぶつけられたオレは声も出せずに固まった。


「智史は全然オレを頼ってくれないのに、他人の手は借りるんだ?なにそれ?」
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