君はぼくの婚約者

まめだだ

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「智史だって無関係じゃないんだぞ?」

「わかってるよ。だから役に立ちそうな資格もいくつか取ってるだろ?」

「ああ聞いてる。そうじゃなくて、櫻宮も大きな企業と取引する機会が増えてな、会合やパーティーに出席しないといけないこともあって……」

「いいよ」


ぱくぱくと箸を進めながら軽く頷く。


「オレが行った高校が結構名の通ったところだったじゃん?だからいいとこのご子息も多くて、多分顔見知りもいると思うから」


そう言うと、父は「はああ」と重い溜息をついた。


「突然進学先を変えるから、当時はかなり困惑したが、結果的に智史のすることは櫻宮の役に立っているんだよなあ」

「言ったでしょう?智史もがんばってくれているんですよ」


直孝が大きな手でオレの頭を撫でてくれる。うれしくなって「えへへ」と笑った。オレの婚約者は本当にいい男だ。


「それで智史にはさっそくオレと参加してもらいたいパーティーがあるんだが、いいか?」

「うん、いいよ」


オレは気持ちよく頷いた。



***
―――というわけで、今日のこの日だ。

直孝の隣に並んだオレはさっそく社長付の秘書である女性を紹介してもらっていた。まだ30手前の知的な彼女は、背の高い直孝と並んでも見劣りしない、すらりとしたきれいな人だった。


「これまで直孝の同伴者としてパーティーに参加してもらっていたと聞きました。ありがとうございます」

「お礼を言ってもらうほどのことではありません。智史さんが戻ってきてくれたので、私はようやくお役御免ですね!」


明るく笑って親しげに直孝を見上げる彼女。直孝もまんざらでもなさそうに頷いて――。


「いえ、あなたには変わらず直孝といっしょに参加してほしいんです」

「「え?」」


二人の声が重なった。


「業務内容的なことはオレもまだわからない事が多いし、いままでやりとりしてくれたのは直孝とあなたなので、いきなりオレが出ていくよりいいと思うんです」

「けど智史、オレのパートナーはお前で…」

「うん、わかってるよ。だからオレはオレで櫻宮の名前を広めてくるよ。実務的な話はそっちに丸投げになっちゃうけど、ごめんな」

「それは、構わないけど……」


不満そうに口を閉ざした直孝の腕をぽんと叩いて、三人並んで会場に入る。
いつも以上に仏頂面の直孝と戸惑った表情の彼女。オレだけやたらに笑顔だ。


「ほら直孝、仕事だろ」

「智史……」


少し離れたところに見覚えのある集団がいた。小さく手を振られてこちらも手を上げて返す。


「また後でな」


もう一度、直孝の広い背中を叩いて離れる。


「おかえりさくらちゃん!待ってたよお!」


さっそく声をかけてくれたのは親友だ。オレがこのパーティーに参加すると聞いて強引に参加したのだとか。


「さくらちゃんの婚約者、結構イケメンだね」

「おう、男前だろ?」


懐かしい友人たちもオレとの再会はそこそこに「あれがさくらの…」なんて遠目に直孝をひやかしている。


学生のとき、オレに婚約者がいるというのはいつの間にか広く知れ渡っていた。
名家の子息が集まる学校だけあって珍しいことでもなく、ただ婚約者持ちには手を出さないという不文律のせいで、オレは恋愛的にはまったく相手にされなかった。

そんなルールがなければ、今頃は直孝以外の番がいたかもしれないのに。


まだ遠くからちらちらと視線を寄越す直孝に軽く手を振ってやる。


まあ、おかげで頼りになる友人はたくさんできたのだけど。
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