1 / 9
1
しおりを挟む
オレが婚約者とはじめて顔を合わせたのは中学の時だ。
同級生と聞いたが頭ひとつ分以上大きいあいつを見上げて、すげえなと思うと同時に、やっぱりオレが女役か、と納得と諦めが同時にやってきたのを覚えている。
「智史」
「直孝」
振り返ると、スーツの似合う男前に成長した長身の婚約者が立っている。
「早く来いよ。もうパーティーはじまるぞ」
「うん、わかった」
***
地元では名の知れた櫻宮の息子は二次性徴でオメガであることが判り、男の婚約者を探すことになった。
なんでだよ、オメガだって女抱けるだろ――と反論したのは当事者であるオレだけで、家族も会社の人間も、婿を迎えることに賛成していた。
年齢的にも家の規模でも、ちょうどいいと選ばれたのが直孝だった。遠藤直孝。オレとしてはなかなかのイケメンだと思うけど、世間的には平凡と言われるような男前。平凡な男前ってすでに矛盾がひどい。
はじめて顔を合わせて、なんだ中身は案外普通の男だなと思ってからこれまで、ずっと友人のような距離を保ち続けている。
それでもオレのファーストキスの相手は直孝だ。
婚約者なんだからそれなりの関係を築かなければ、と思っていた最初の頃に一度だけキスをした。
でも、オレが反論したのと同じように、直孝だって突然男の婚約者をあてがわれたわけで。
制服姿の直孝が同じ学校の女の子といっしょにいるところを偶然見かけたときに気付いてしまった。オレは男の婚約者なんてと言いながら、相手からは愛されるものだと思い込んでいた。なんて矛盾だ。
直孝に合わせる顔がなくて、本当は同じ高校に行く予定だったが、もっと偏差値の高い、寮のある進学校を選択した。
卒業後もわがままを言って海外に留学した。
本当はとくに夢もやりたいこともないのに。
「あんた、いい加減帰ってきなさいよ。直孝くんずっと待ってるのよ」
しびれを切らしてそう言ったのは母親だ。
直孝は国立の大学に進み、婿養子として櫻宮の会社を手伝っていると聞いた。若様とか呼ばれて従業員からの信頼も厚いのだと。
会社もいまではすっかり大きくなった。
本当の若様は国外で放蕩生活を送っているが、直孝は周囲に「智史も海外でがんばっているから」と好意的に話しているという。なんていい奴。
「それにあなたもオメガなんだから、いくら抑制剤を使ってても何かあってからでは遅いのよ。はやく番っちゃいなさいよ」
「ううん、そればかりはなんとも」
母の心配は当然のことだ。
オレは少し強めの抑制剤を服用していたが、オメガのヒートに振り回されることはやっぱりあった。
ただ、番というのは一人で決めるものじゃない。
別に直孝を嫌いになったわけではない。
国外にいても用があればふつうに連絡をとっていた。けれど何年も前に感じた負い目が消えず、オレはずっと逃げ続けている。
「――さくらちゃん」
そんな状況を変えたのは親友の一言だった。
「そろそろ留学も終わりでしょ、帰っておいでよ。早く会いたいな。それにさくらちゃんの婚約者、最近女連れでパーティーに出てるんだよ。いいの?」
「なんだそうか!」
そのときのオレの声はやたらと明るかったとか。
親友は驚いていたが、オレはやっと帰国する決心がついた。
同級生と聞いたが頭ひとつ分以上大きいあいつを見上げて、すげえなと思うと同時に、やっぱりオレが女役か、と納得と諦めが同時にやってきたのを覚えている。
「智史」
「直孝」
振り返ると、スーツの似合う男前に成長した長身の婚約者が立っている。
「早く来いよ。もうパーティーはじまるぞ」
「うん、わかった」
***
地元では名の知れた櫻宮の息子は二次性徴でオメガであることが判り、男の婚約者を探すことになった。
なんでだよ、オメガだって女抱けるだろ――と反論したのは当事者であるオレだけで、家族も会社の人間も、婿を迎えることに賛成していた。
年齢的にも家の規模でも、ちょうどいいと選ばれたのが直孝だった。遠藤直孝。オレとしてはなかなかのイケメンだと思うけど、世間的には平凡と言われるような男前。平凡な男前ってすでに矛盾がひどい。
はじめて顔を合わせて、なんだ中身は案外普通の男だなと思ってからこれまで、ずっと友人のような距離を保ち続けている。
それでもオレのファーストキスの相手は直孝だ。
婚約者なんだからそれなりの関係を築かなければ、と思っていた最初の頃に一度だけキスをした。
でも、オレが反論したのと同じように、直孝だって突然男の婚約者をあてがわれたわけで。
制服姿の直孝が同じ学校の女の子といっしょにいるところを偶然見かけたときに気付いてしまった。オレは男の婚約者なんてと言いながら、相手からは愛されるものだと思い込んでいた。なんて矛盾だ。
直孝に合わせる顔がなくて、本当は同じ高校に行く予定だったが、もっと偏差値の高い、寮のある進学校を選択した。
卒業後もわがままを言って海外に留学した。
本当はとくに夢もやりたいこともないのに。
「あんた、いい加減帰ってきなさいよ。直孝くんずっと待ってるのよ」
しびれを切らしてそう言ったのは母親だ。
直孝は国立の大学に進み、婿養子として櫻宮の会社を手伝っていると聞いた。若様とか呼ばれて従業員からの信頼も厚いのだと。
会社もいまではすっかり大きくなった。
本当の若様は国外で放蕩生活を送っているが、直孝は周囲に「智史も海外でがんばっているから」と好意的に話しているという。なんていい奴。
「それにあなたもオメガなんだから、いくら抑制剤を使ってても何かあってからでは遅いのよ。はやく番っちゃいなさいよ」
「ううん、そればかりはなんとも」
母の心配は当然のことだ。
オレは少し強めの抑制剤を服用していたが、オメガのヒートに振り回されることはやっぱりあった。
ただ、番というのは一人で決めるものじゃない。
別に直孝を嫌いになったわけではない。
国外にいても用があればふつうに連絡をとっていた。けれど何年も前に感じた負い目が消えず、オレはずっと逃げ続けている。
「――さくらちゃん」
そんな状況を変えたのは親友の一言だった。
「そろそろ留学も終わりでしょ、帰っておいでよ。早く会いたいな。それにさくらちゃんの婚約者、最近女連れでパーティーに出てるんだよ。いいの?」
「なんだそうか!」
そのときのオレの声はやたらと明るかったとか。
親友は驚いていたが、オレはやっと帰国する決心がついた。
41
お気に入りに追加
336
あなたにおすすめの小説
【完結】何一つ僕のお願いを聞いてくれない彼に、別れてほしいとお願いした結果。
N2O
BL
好きすぎて一部倫理観に反することをしたα × 好きすぎて馬鹿なことしちゃったΩ
※オメガバース設定をお借りしています。
※素人作品です。温かな目でご覧ください。
【完結】幼馴染から離れたい。
June
BL
隣に立つのは運命の番なんだ。
βの谷口優希にはαである幼馴染の伊賀崎朔がいる。だが、ある日の出来事をきっかけに、幼馴染以上に大切な存在だったのだと気づいてしまう。
番外編 伊賀崎朔視点もあります。
(12月:改正版)
読んでくださった読者の皆様、たくさんの❤️ありがとうございます😭
1/27 1000❤️ありがとうございます😭
恋した貴方はαなロミオ
須藤慎弥
BL
Ω性の凛太が恋したのは、ロミオに扮したα性の結城先輩でした。
Ω性に引け目を感じている凛太。
凛太を運命の番だと信じているα性の結城。
すれ違う二人を引き寄せたヒート。
ほんわか現代BLオメガバース♡
※二人それぞれの視点が交互に展開します
※R 18要素はほとんどありませんが、表現と受け取り方に個人差があるものと判断しレーティングマークを付けさせていただきますm(*_ _)m
※fujossy様にて行われました「コスプレ」をテーマにした短編コンテスト出品作です
Ωの不幸は蜜の味
grotta
BL
俺はΩだけどαとつがいになることが出来ない。うなじに火傷を負ってフェロモン受容機能が損なわれたから噛まれてもつがいになれないのだ――。
Ωの川西望はこれまで不幸な恋ばかりしてきた。
そんな自分でも良いと言ってくれた相手と結婚することになるも、直前で婚約は破棄される。
何もかも諦めかけた時、望に同居を持ちかけてきたのはマンションのオーナーである北条雪哉だった。
6千文字程度のショートショート。
思いついてダダっと書いたので設定ゆるいです。
紹介なんてされたくありません!
mahiro
BL
普通ならば「家族に紹介したい」と言われたら、嬉しいものなのだと思う。
けれど僕は男で目の前で平然と言ってのけたこの人物も男なわけで。
断りの言葉を言いかけた瞬間、来客を知らせるインターフォンが鳴り響き……?
離したくない、離して欲しくない
mahiro
BL
自宅と家の往復を繰り返していた所に飲み会の誘いが入った。
久しぶりに友達や学生の頃の先輩方とも会いたかったが、その日も仕事が夜中まで入っていたため断った。
そんなある日、社内で女性社員が芸能人が来ると話しているのを耳にした。
テレビなんて観ていないからどうせ名前を聞いたところで誰か分からないだろ、と思いあまり気にしなかった。
翌日の夜、外での仕事を終えて社内に戻って来るといつものように誰もいなかった。
そんな所に『すみません』と言う声が聞こえた。
完結・オメガバース・虐げられオメガ側妃が敵国に売られたら激甘ボイスのイケメン王から溺愛されました
美咲アリス
BL
虐げられオメガ側妃のシャルルは敵国への貢ぎ物にされた。敵国のアルベルト王は『人間を食べる』という恐ろしい噂があるアルファだ。けれども実際に会ったアルベルト王はものすごいイケメン。しかも「今日からそなたは国宝だ」とシャルルに激甘ボイスで囁いてくる。「もしかして僕は国宝級の『食材』ということ?」シャルルは恐怖に怯えるが、もちろんそれは大きな勘違いで⋯⋯? 虐げられオメガと敵国のイケメン王、ふたりのキュン&ハッピーな異世界恋愛オメガバースです!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる