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「おまえと代表って付き合ってんの?」
煙草屋の店長にそう訊かれて、首を傾げる。
「太郎くんと?付き合ってないけど?」
「は、まじかよ。いつもイチャイチャしてんじゃん」
ぷかーと煙を吐かれて眉を寄せる。イチャイチャ?
「あの人すごい絶倫なんだよ?まともに付き合ったらオレすぐ腹上死するよ。そもそも奥さんいるし」
「…………」
店長は納得いかない顔をしていた。
「……おまえと代表ってどんな関係?」
「エッチしてお金もらう関係?」
「最低。もう何も聞かねえ」
オレは楠野尚人。自他共に認めるクズだ。
行き当たりばったりでいろんなことをしてきたが、少し前から太郎くんという年上の男の人といっしょに暮らしている。以前はエッチしてお金もらう関係だったけど、いまはエッチ込みで生活の面倒を見てもらってるからヒモかもしれない。
あれ、それなんにも変わんないじゃん。
太郎くんはいろんな仕事をしていてとても忙しく、対してバイトを辞めたオレは時間が余っていた。部屋でひとり好きに過ごすか、パチンコに行くか。
見かねた太郎くんがこの煙草屋のバイトを紹介してくれた。もちろんここも太郎くんの持ち物のひとつで、グレーな店ばかり手広くやっているような太郎くんにしてはめずらしくまともな店だった。
「いらっしゃいませー」
煙草屋は従来の紙巻タバコから流行りの電子タバコ、水タバコ、葉タバコとありとあらゆるものが揃っていて、結構客の入りがいい。煙草文化は斜陽だけど好きな人は好きだもんな。
接客業は苦じゃない。
店長とどうでもいいことを話しながら、ゆるゆる仕事ができるのは楽しかった。
新しい客が店に入ってきて、それを見たオレはこそこそと店長の後ろに隠れる。「どうした?」と不思議そうにされるが、しーだ、しー。
客は若い男だった。
きょろきょろと店内を見回して、お目当てのものがなかったのだろう。残念そうに店を出ていった。
いなくなってホッと胸を撫で下ろす。
「なんだ、知り合いか?」
「え、うーん?」
オレの煮え切らない答えに店長がチッと舌打ちした。どうでもいいけど、この人、気が短すぎる。
「いやさ、むかしの後輩なんだよね」
「なんだよ、馴染みなら声かけてやれよ。何か探してるみたいだったじゃねえか。場合によってはサービスするぜ?」
店長は気が短いが、案外気もいい。
「いやー、探してるのって多分オレのことで」
「はあ?」
「この前ばったり会っちゃって、慌てて逃げたんだけど、どうもオレがこの辺で働いてるって知ったみたいで最近よく見かけるんだよね」
「ああ?なんだ、おまえのストーカーか?」
店長がにやにやしながら言う。
地味な見た目のオレにストーカーなんているわけないと思ってるんだろう。わかる、わかるぞ。オレは派手な格好は似合わないし、地味なら地味な方が需要があったりする。人畜無害な男を飼いたい女の人もいるからな。
でも、そんなオレにも若気の至りがあった。
「当たらずとも遠からず、かな。オレあいつのことぶん殴って逃げちゃったんだ」
「はあ?なんでまた?」
「舐めるだけって約束だったのに、乗っかってきたから?」
「はああ?」
店長が大口開けてこちらを見る。わけがわからないって顔だな、なら説明しよう。
「あいつさあ、高校のときの後輩なんだけど、なんかどっかの社長令息らしくて金持ちなんだ」
「はあ」
「オレ、高校のときは親から金もらって遊んでたんだけど、大学行けって言われても勉強しないで遊んでたら小遣い打ち切られちゃって。けど、高校生って遊ぶのにも結構金かかるじゃん?」
「はあ、遊ばないで親の言うとおり勉強すればよかったのでは…?」
「それはそれ。で、金がほしかったオレに、ちょうどあいつが物欲しそうな顔で寄ってきて」
「はあ」
「あいつオレのこと好きだって言うから、じゃあ一万円でちんこ舐める?って聞いたら、いいよって」
「はあああ?まじでクズだな、おまえ!」
バイトしろよって?それはそれ。
「だからオレ、金が必要なときは一万円であいつにちんこ舐めてもらってたの。気持ちよかったあ。でもいきなり、もう我慢できない、もっと金出すから抱かせてくれ!って迫られて」
「……そうか。で?」
「殴って逃げた。それから避けまくってて会ってない」
「おまえを恨んで追いかけてるのか、片恋こじらせてるのかわかんねーな、これじゃ」
店長は額を押さえて「はああ」と重たい溜息を吐いた。
「とりあえず、このことは代表には言わずに――」
「…尚人、お前…」
ぬっ、と大きな影が落ち、顔を上げたオレはにこりと微笑む。
「あ、太郎くん」
「えっ、代表!?いつからここに…って、どこから聞いてました?」
「いらっしゃいませー、のとこから」
「最初からああああ!」
荒ぶる店長を無視して太郎くんがオレに向き直る。
「女のヒモだったのは知ってるが、男の相手もしてたのか?」
「え?」
「ちゃんと答えろ、尚人。男はオレがはじめてじゃなかったのか」
「や、そうだけど…」
え、太郎くん、瞳孔開いてるうううう!?
「怖!どうしたの太郎くん、怒ってる!?」
「…怒ってない…」
「嘘だ、めちゃこわ!なんで!?」
とりあえずこんなときは。
「ごめんなさい、太郎くんんん!!」
煙草屋の店長にそう訊かれて、首を傾げる。
「太郎くんと?付き合ってないけど?」
「は、まじかよ。いつもイチャイチャしてんじゃん」
ぷかーと煙を吐かれて眉を寄せる。イチャイチャ?
「あの人すごい絶倫なんだよ?まともに付き合ったらオレすぐ腹上死するよ。そもそも奥さんいるし」
「…………」
店長は納得いかない顔をしていた。
「……おまえと代表ってどんな関係?」
「エッチしてお金もらう関係?」
「最低。もう何も聞かねえ」
オレは楠野尚人。自他共に認めるクズだ。
行き当たりばったりでいろんなことをしてきたが、少し前から太郎くんという年上の男の人といっしょに暮らしている。以前はエッチしてお金もらう関係だったけど、いまはエッチ込みで生活の面倒を見てもらってるからヒモかもしれない。
あれ、それなんにも変わんないじゃん。
太郎くんはいろんな仕事をしていてとても忙しく、対してバイトを辞めたオレは時間が余っていた。部屋でひとり好きに過ごすか、パチンコに行くか。
見かねた太郎くんがこの煙草屋のバイトを紹介してくれた。もちろんここも太郎くんの持ち物のひとつで、グレーな店ばかり手広くやっているような太郎くんにしてはめずらしくまともな店だった。
「いらっしゃいませー」
煙草屋は従来の紙巻タバコから流行りの電子タバコ、水タバコ、葉タバコとありとあらゆるものが揃っていて、結構客の入りがいい。煙草文化は斜陽だけど好きな人は好きだもんな。
接客業は苦じゃない。
店長とどうでもいいことを話しながら、ゆるゆる仕事ができるのは楽しかった。
新しい客が店に入ってきて、それを見たオレはこそこそと店長の後ろに隠れる。「どうした?」と不思議そうにされるが、しーだ、しー。
客は若い男だった。
きょろきょろと店内を見回して、お目当てのものがなかったのだろう。残念そうに店を出ていった。
いなくなってホッと胸を撫で下ろす。
「なんだ、知り合いか?」
「え、うーん?」
オレの煮え切らない答えに店長がチッと舌打ちした。どうでもいいけど、この人、気が短すぎる。
「いやさ、むかしの後輩なんだよね」
「なんだよ、馴染みなら声かけてやれよ。何か探してるみたいだったじゃねえか。場合によってはサービスするぜ?」
店長は気が短いが、案外気もいい。
「いやー、探してるのって多分オレのことで」
「はあ?」
「この前ばったり会っちゃって、慌てて逃げたんだけど、どうもオレがこの辺で働いてるって知ったみたいで最近よく見かけるんだよね」
「ああ?なんだ、おまえのストーカーか?」
店長がにやにやしながら言う。
地味な見た目のオレにストーカーなんているわけないと思ってるんだろう。わかる、わかるぞ。オレは派手な格好は似合わないし、地味なら地味な方が需要があったりする。人畜無害な男を飼いたい女の人もいるからな。
でも、そんなオレにも若気の至りがあった。
「当たらずとも遠からず、かな。オレあいつのことぶん殴って逃げちゃったんだ」
「はあ?なんでまた?」
「舐めるだけって約束だったのに、乗っかってきたから?」
「はああ?」
店長が大口開けてこちらを見る。わけがわからないって顔だな、なら説明しよう。
「あいつさあ、高校のときの後輩なんだけど、なんかどっかの社長令息らしくて金持ちなんだ」
「はあ」
「オレ、高校のときは親から金もらって遊んでたんだけど、大学行けって言われても勉強しないで遊んでたら小遣い打ち切られちゃって。けど、高校生って遊ぶのにも結構金かかるじゃん?」
「はあ、遊ばないで親の言うとおり勉強すればよかったのでは…?」
「それはそれ。で、金がほしかったオレに、ちょうどあいつが物欲しそうな顔で寄ってきて」
「はあ」
「あいつオレのこと好きだって言うから、じゃあ一万円でちんこ舐める?って聞いたら、いいよって」
「はあああ?まじでクズだな、おまえ!」
バイトしろよって?それはそれ。
「だからオレ、金が必要なときは一万円であいつにちんこ舐めてもらってたの。気持ちよかったあ。でもいきなり、もう我慢できない、もっと金出すから抱かせてくれ!って迫られて」
「……そうか。で?」
「殴って逃げた。それから避けまくってて会ってない」
「おまえを恨んで追いかけてるのか、片恋こじらせてるのかわかんねーな、これじゃ」
店長は額を押さえて「はああ」と重たい溜息を吐いた。
「とりあえず、このことは代表には言わずに――」
「…尚人、お前…」
ぬっ、と大きな影が落ち、顔を上げたオレはにこりと微笑む。
「あ、太郎くん」
「えっ、代表!?いつからここに…って、どこから聞いてました?」
「いらっしゃいませー、のとこから」
「最初からああああ!」
荒ぶる店長を無視して太郎くんがオレに向き直る。
「女のヒモだったのは知ってるが、男の相手もしてたのか?」
「え?」
「ちゃんと答えろ、尚人。男はオレがはじめてじゃなかったのか」
「や、そうだけど…」
え、太郎くん、瞳孔開いてるうううう!?
「怖!どうしたの太郎くん、怒ってる!?」
「…怒ってない…」
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とりあえずこんなときは。
「ごめんなさい、太郎くんんん!!」
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