ぶどうの蔦が絡まるように

まめだだ

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ごつぶめ

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がっくり肩を落として城に戻る王子の背中を見送って、事の顛末を知った兄さまと翠峰さまには大笑いされた。

いい気味だ、と言った兄さまも、王子に思うところがあったのだろう。


それから国王様からも文が届いた。

『息子が迷惑をかけてすまない。これからも度々そちらに伺うことがあるだろう。嫌なら断ってくれて構わないが、わたしも妻もシャスラが戻ってきてくれると嬉しい』――だそうだ。


その言葉通り、王子は館をよく訪れるようになった。

城からはそれなりに距離があるというのに、どうしてるのかと思えば、近くの街で宿をとってるらしい。
一国の王子がなにをしているのかと呆れた。護衛の人たちも大変だ。


そのせいで、ぼくは折をみて本邸に戻るはずだったのに、父さまからしばらくそちらにいろと言われてしまった。


「さて、どうしようかな…」


王子が持ってきたケーキを頬張りながら考える。

はじめはけんもほろろに追い返していたけど、食べ物に罪はないし、つんけんしながら受け取ったら、それからずっと王子は生菓子ばっかり持ってくるようになった。
嫌いじゃないからいいんだけどさ。でも、ぼくの好物だと勘違いされてるみたいで困る。


「シャスラ、どうだ今日こそオレと結婚する気になったか?」

「王子はそればかりですね」


今日も今日とて、王子はやってくる。

行き場のない感情が雪のように降り積もって、自分でもこれからどうしたいのか見えなくなっていた。


もやもやしだしたぼくを気分転換だと兄さまたちが街へと連れだして、そして事件が起こる。


「王子の気持ちをなんだと思ってるのっ?」


そう叫んだのは、いつか王子が城につれてきた、あの平民の子だった。
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