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第7話
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その後、誉さんのパートナーである祐吾さんも合流して、しばらく話をしてから、祐吾さんの運転する車で部屋まで送ってもらった。
笑顔で手を振る誉さんは幸せそうで、つられて笑みが浮かんだ。心持ち軽い足取りで部屋の扉に手をかけて、そういえばと思い至る。
オレは間宮の部屋の鍵を持っていないのに。
エントランスの入り口は誉さんが開けていたのに、部屋の前までは来なかった。
自分が持っていない鍵を誉さんが持っているという事実に、どんな態度をとれば正解なのか――。
手に力を込めると、がちゃんと軽い手応えで扉が開いた。
大きくドアを開いた途端ざあっと風が吹き抜ける。導かれるように奥へと進むとバルコニーが大きく開け放たれており、そこから風が吹き込んでいた。
バルコニーに持ち込んだカウチに間宮が優雅に横たわっている。
「おかえり、楽しかった?誉と会ってきたんでしょ?」
「…間宮…」
開口一番それか、と眉を寄せる。
ちっとも帰ってこなかったくせに、オレが少し外に出ると戻ってくるのか。誉さんやほかのΩが絡むと当てつけるように現れるのか。
明るい日差しの下で目を閉じる間宮は芸術品のように美しかった。
それがどうにも苦しくて、ぎりと奥歯が鳴る。
オレはいつも日陰に押し込められているのに、とこの首にかけられた手綱が息苦しくてたまらない。楽しかった気分が霧散する。
は、と息を吐いて間宮から顔を背けると、「吉成」と名前を呼ばれた。
「なに…っ!」
振り返って息を飲む。
オレを強く見つめる間宮の瞳が嫉妬で色濃く揺れていたから。
「ねえ吉成、楽しかった?」
「なに…」
「吉成、誉に笑いかけたの?祐吾さんにも?」
「なんだよ…!」
「吉成、東坂とも仲良くなった?」
「なんだってんだよ!!」
おまえは釣った魚に餌もやらないくせに。
まるで浮気を責めるような言い方をして、本当に他のΩと身体を繋げているのはおまえのくせに…!
カッとして間宮の胸倉を掴み上げると、わずかに上体を浮かせた間宮が目を細めて頬に手を添えてくる。
こんな明るい太陽の下にいたのに、その手はとても冷たかった。
「吉成はすぐにどこかへ行ってしまいそうだ」
「行くかよ、ここに閉じ込められてるようなもんなのに!」
「閉じ込めておかないと逃げられてしまうじゃないか」
「オレが逃げるとでも!?」
「あんな失敗は二度としない。この手を離したら、また誰かに見つかってしまう…」
長い睫毛を憂いに伏せた間宮の顔がそっと寄せられて、オレは強くその胸を突き飛ばした。
「ふざけんな!!」
悔しくて、ぐっと拳を強く握る。
「Ωみたいに身体で陥落できると思うなよ!」
「…それができたなら、どれだけ…」
間宮の言葉を最後まで聞かず、ドタドタと足音荒く寝室に立て籠る。
閉めた扉を背にずるずるとしゃがみこんだ。
「逃げるとかだっせえの、オレ…」
ばかみたいだ。
オレはΩのようにはなれないのに、いつまでも執着してくる間宮も。
閉じ込めておくだけで満足で、追いかけてまではこないんだろ、と失望している自分も。
「あほくさ」
ふて寝してやる、とジャケットだけ放り出して布団をかぶる。
どうしてほしかったんだろう、一体。自分は。
「オレはただ、笑いあって隣にいたかっただけなんだけどな…」
横になった枕にぽろりと滴が染み込んだ。
***
するり、と指先で掬いとられた前髪がさらさらと額に落ちる。するり、するり、と繰り返される、指遊びのようなゆるい撫で方。
「んぅ、やめ…、琉……」
手を伸ばした自分の動きにぼんやりと目を開くと、「吉成」と妙に切ない表情をした間宮がそこにいた。
「…琉…?」
薄暮れの部屋をぐるりと見渡して、ああ本気で眠ってしまったんだと思い至る。
もぞと手の中でなにかが動く。
掴まえていたのは間宮の手だった。
大きくて、指が長くて、爪の形まで整っていて、それでいて筋張った男らしい手。
まだまどろみに浸っている身体は動かすのも億劫で、そのまま手を離しも、握りもしなかった。間宮も逃げなかった。
「あ」
視線が、壁にかけられたジャケットに止まる。
オレが寝る前に放り出したジャケットだ。
「服、間宮がかけてくれたのか?」
「そうだよ」
「うそだろ、本当に?」
「うそじゃないよ、ほんとだよ。オレのことなんだと思ってるの」
「え、α様?」
一瞬身体を強ばらせた間宮は、ごろんと勢いよく隣に寝転がった。
「α様?なにそれ?」
そしておもしろそうに問いかける。
そうだ、α様だ。
αはなんでもできて、なんでも持っている。まるで王様だ。王様だから、下々の者のことは気にも止めない。間宮だってそうだろう?
「まさか、そんなはずない」
間宮は笑って否定した。
くつくつと肩を揺らして笑う間宮に、なんとなくばつが悪くて目を反らす。
笑顔で手を振る誉さんは幸せそうで、つられて笑みが浮かんだ。心持ち軽い足取りで部屋の扉に手をかけて、そういえばと思い至る。
オレは間宮の部屋の鍵を持っていないのに。
エントランスの入り口は誉さんが開けていたのに、部屋の前までは来なかった。
自分が持っていない鍵を誉さんが持っているという事実に、どんな態度をとれば正解なのか――。
手に力を込めると、がちゃんと軽い手応えで扉が開いた。
大きくドアを開いた途端ざあっと風が吹き抜ける。導かれるように奥へと進むとバルコニーが大きく開け放たれており、そこから風が吹き込んでいた。
バルコニーに持ち込んだカウチに間宮が優雅に横たわっている。
「おかえり、楽しかった?誉と会ってきたんでしょ?」
「…間宮…」
開口一番それか、と眉を寄せる。
ちっとも帰ってこなかったくせに、オレが少し外に出ると戻ってくるのか。誉さんやほかのΩが絡むと当てつけるように現れるのか。
明るい日差しの下で目を閉じる間宮は芸術品のように美しかった。
それがどうにも苦しくて、ぎりと奥歯が鳴る。
オレはいつも日陰に押し込められているのに、とこの首にかけられた手綱が息苦しくてたまらない。楽しかった気分が霧散する。
は、と息を吐いて間宮から顔を背けると、「吉成」と名前を呼ばれた。
「なに…っ!」
振り返って息を飲む。
オレを強く見つめる間宮の瞳が嫉妬で色濃く揺れていたから。
「ねえ吉成、楽しかった?」
「なに…」
「吉成、誉に笑いかけたの?祐吾さんにも?」
「なんだよ…!」
「吉成、東坂とも仲良くなった?」
「なんだってんだよ!!」
おまえは釣った魚に餌もやらないくせに。
まるで浮気を責めるような言い方をして、本当に他のΩと身体を繋げているのはおまえのくせに…!
カッとして間宮の胸倉を掴み上げると、わずかに上体を浮かせた間宮が目を細めて頬に手を添えてくる。
こんな明るい太陽の下にいたのに、その手はとても冷たかった。
「吉成はすぐにどこかへ行ってしまいそうだ」
「行くかよ、ここに閉じ込められてるようなもんなのに!」
「閉じ込めておかないと逃げられてしまうじゃないか」
「オレが逃げるとでも!?」
「あんな失敗は二度としない。この手を離したら、また誰かに見つかってしまう…」
長い睫毛を憂いに伏せた間宮の顔がそっと寄せられて、オレは強くその胸を突き飛ばした。
「ふざけんな!!」
悔しくて、ぐっと拳を強く握る。
「Ωみたいに身体で陥落できると思うなよ!」
「…それができたなら、どれだけ…」
間宮の言葉を最後まで聞かず、ドタドタと足音荒く寝室に立て籠る。
閉めた扉を背にずるずるとしゃがみこんだ。
「逃げるとかだっせえの、オレ…」
ばかみたいだ。
オレはΩのようにはなれないのに、いつまでも執着してくる間宮も。
閉じ込めておくだけで満足で、追いかけてまではこないんだろ、と失望している自分も。
「あほくさ」
ふて寝してやる、とジャケットだけ放り出して布団をかぶる。
どうしてほしかったんだろう、一体。自分は。
「オレはただ、笑いあって隣にいたかっただけなんだけどな…」
横になった枕にぽろりと滴が染み込んだ。
***
するり、と指先で掬いとられた前髪がさらさらと額に落ちる。するり、するり、と繰り返される、指遊びのようなゆるい撫で方。
「んぅ、やめ…、琉……」
手を伸ばした自分の動きにぼんやりと目を開くと、「吉成」と妙に切ない表情をした間宮がそこにいた。
「…琉…?」
薄暮れの部屋をぐるりと見渡して、ああ本気で眠ってしまったんだと思い至る。
もぞと手の中でなにかが動く。
掴まえていたのは間宮の手だった。
大きくて、指が長くて、爪の形まで整っていて、それでいて筋張った男らしい手。
まだまどろみに浸っている身体は動かすのも億劫で、そのまま手を離しも、握りもしなかった。間宮も逃げなかった。
「あ」
視線が、壁にかけられたジャケットに止まる。
オレが寝る前に放り出したジャケットだ。
「服、間宮がかけてくれたのか?」
「そうだよ」
「うそだろ、本当に?」
「うそじゃないよ、ほんとだよ。オレのことなんだと思ってるの」
「え、α様?」
一瞬身体を強ばらせた間宮は、ごろんと勢いよく隣に寝転がった。
「α様?なにそれ?」
そしておもしろそうに問いかける。
そうだ、α様だ。
αはなんでもできて、なんでも持っている。まるで王様だ。王様だから、下々の者のことは気にも止めない。間宮だってそうだろう?
「まさか、そんなはずない」
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