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花標
花標・2
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御頭の部屋を出てその足で蔓の元へと向かう。部屋に近づくにつれ、けたけたと明るい笑い声が聞こえた。
誰だ?
開け放たれた襖の向こうで、蔓に寄り添う小さな背中が見えた。
「辛夷。また来てくれたのか」
オレに気付いた蔓につられて、隣に座る少年が顔を上げる。幼さの残る線の細い子だった。
「ずいぶん可愛らしい子だな」
「はは、そうだろう?」
「やだ蔓様…!」
無意識にこぼれ落ちた言葉に、蔓が僅かに頬を上気させて答える。だが少年はからかわれたと思ったのだろう、甘えるように蔓の腕を掴む。
「辛夷様はどうされたんですか?」
「いや、蔓の様子を見に来たんだが、その必要はなさそうだったな」
「ああ、身の回りのことはこいつが世話してくれている」
「はい!」
見つめ合う二人にずきんと胸が痛む。
怪我をした身では不便もあるだろうと思っていたけれど、もうオレの出る幕はどこにもない。
「もう戻るのか?」
「ああ、少し覗きにきただけだしな」
「そうか、ありがとう。相棒冥利に尽きるな」
「…いや」
きれいに微笑みかけられて言葉に詰まる。
相棒でもあったが、恋仲でもあったと知ったら、いまのお前はどんな顔をするのだろうか。
蔓がもうオレの知る蔓ではないと思い知るばかり。
「蔓様、ほらまだ横になっていないと」
「そうだな」
仲睦まじい会話を背に部屋を出る。
引き留められないことにただ寂しさだけが募る。
「――なんだ、腑抜けたものだな」
視線を落とし、溜め息を圧し殺して歩くオレの耳にそんな声が届いた。
「本当にまったくの別人だ」
「…三椏」
廊下の先で背を壁に預け、腕を組んだ男がこちらを見ている。
…以前の蔓は気難しくて、易々と人を近付けるようなことはなかった。そのくせオレが傍から離れるのをただで許すような男ではなく、それを面倒な性格だとすら思っていたのに、いつの間にか当たり前と受け止めてしまっていたようだ。
「あの子供は茉莉といって、色子衆に入れる事が決まっている」
「色子か」
三椏の言葉に頷く。どうりで甘い顔立ちだったわけだ。
色子とは、隠密衆の中でも閨房術を主とする者たちのことである。寝所で性技を尽くして情報を聞き出したり、油断したところで寝首を掻いたりする。
「正式に任務を命じられる前に蔓の情が欲しいのだろうな。自分から蔓の世話役を名乗り出た」
「そうか」
色子にはよくあることだ。
任務の前に自分の想い人と添い遂げたい。あの少年は蔓に憧れていたのだろう。
蔓は厳しい男だが、その有能さは一目置かれていた。凛々しく整った顔立ちは目を惹く。オレも同じだったからよくわかる。
「黙って見ていていいのかよ」
突然腕を捕まれ、思いがけない強さに眉を顰めて三椏を見上げる。
「なんで」
「なんでって、蔓はお前の男だろうが!」
その言葉に思わず笑みが込み上げた。
諦めたような色をしていたんだろう、捕まれた腕から三椏の動揺が伝わった。
「いまの蔓は別人だよ。以前の、オレの相棒で恋人だった蔓は、もう死んだんだ」
御頭にも告げた言葉を繰り返す。
「オレが殺したんだ」
誰だ?
開け放たれた襖の向こうで、蔓に寄り添う小さな背中が見えた。
「辛夷。また来てくれたのか」
オレに気付いた蔓につられて、隣に座る少年が顔を上げる。幼さの残る線の細い子だった。
「ずいぶん可愛らしい子だな」
「はは、そうだろう?」
「やだ蔓様…!」
無意識にこぼれ落ちた言葉に、蔓が僅かに頬を上気させて答える。だが少年はからかわれたと思ったのだろう、甘えるように蔓の腕を掴む。
「辛夷様はどうされたんですか?」
「いや、蔓の様子を見に来たんだが、その必要はなさそうだったな」
「ああ、身の回りのことはこいつが世話してくれている」
「はい!」
見つめ合う二人にずきんと胸が痛む。
怪我をした身では不便もあるだろうと思っていたけれど、もうオレの出る幕はどこにもない。
「もう戻るのか?」
「ああ、少し覗きにきただけだしな」
「そうか、ありがとう。相棒冥利に尽きるな」
「…いや」
きれいに微笑みかけられて言葉に詰まる。
相棒でもあったが、恋仲でもあったと知ったら、いまのお前はどんな顔をするのだろうか。
蔓がもうオレの知る蔓ではないと思い知るばかり。
「蔓様、ほらまだ横になっていないと」
「そうだな」
仲睦まじい会話を背に部屋を出る。
引き留められないことにただ寂しさだけが募る。
「――なんだ、腑抜けたものだな」
視線を落とし、溜め息を圧し殺して歩くオレの耳にそんな声が届いた。
「本当にまったくの別人だ」
「…三椏」
廊下の先で背を壁に預け、腕を組んだ男がこちらを見ている。
…以前の蔓は気難しくて、易々と人を近付けるようなことはなかった。そのくせオレが傍から離れるのをただで許すような男ではなく、それを面倒な性格だとすら思っていたのに、いつの間にか当たり前と受け止めてしまっていたようだ。
「あの子供は茉莉といって、色子衆に入れる事が決まっている」
「色子か」
三椏の言葉に頷く。どうりで甘い顔立ちだったわけだ。
色子とは、隠密衆の中でも閨房術を主とする者たちのことである。寝所で性技を尽くして情報を聞き出したり、油断したところで寝首を掻いたりする。
「正式に任務を命じられる前に蔓の情が欲しいのだろうな。自分から蔓の世話役を名乗り出た」
「そうか」
色子にはよくあることだ。
任務の前に自分の想い人と添い遂げたい。あの少年は蔓に憧れていたのだろう。
蔓は厳しい男だが、その有能さは一目置かれていた。凛々しく整った顔立ちは目を惹く。オレも同じだったからよくわかる。
「黙って見ていていいのかよ」
突然腕を捕まれ、思いがけない強さに眉を顰めて三椏を見上げる。
「なんで」
「なんでって、蔓はお前の男だろうが!」
その言葉に思わず笑みが込み上げた。
諦めたような色をしていたんだろう、捕まれた腕から三椏の動揺が伝わった。
「いまの蔓は別人だよ。以前の、オレの相棒で恋人だった蔓は、もう死んだんだ」
御頭にも告げた言葉を繰り返す。
「オレが殺したんだ」
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