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7(青嵐視点)
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「ねむい」
仕事を終えて帰宅する途中、馬車の中で暘谷がぽつりと言った。
細い肩を引き寄せてもたれ掛からせると素直に体重を預けて、それどころかすんすんと鼻を寄せてくる。こそばゆいが好きにさせてやる。かわいい。
暘谷は頭がいいのに少し動物的なところがあった。
無防備に瞼を閉じたその顔を間近から見下ろす。つるりとした肌に小造りな顔立ち。確かに派手さはないがその素朴さが逆にかわいい。地味だ平凡だと揶揄するほどでもないと思うのだ。
周囲がそう評価するのは、単に暘谷がそう思われるよう仕向けていたのだろう。
暘谷は頭がよくて、少し動物的なところがある。
暘谷が文官になったばかりの頃はまだ国も平和だった。よく肥えた国土は大きな問題もなく、惰性でも十分組織が回っていた。そんな中でわざわざ自分を主張する必要もなかったのだろう。
しかし父王が亡くなった後に状況は一変。一気に戦火に飲まれて王太子も失い、国は進む方向を見失っていたはず。暘谷はただ目の前の仕事をこなしていただけと言っていたが、どうだろうか。
じっと静かに、自身の主となる存在を待っていたのではないだろうか――。
馬車が自宅の前で停まる。
馬車は城が用意したものだが、帰る先はいまも暘谷の平屋建ての家だ。
ここは暘谷が自分の金で買った暘谷の持ち物だし、何より足の悪いオレでも快適に過ごせるよう細かいところまで工夫されている。義足をあてがって何でもないように見えても、不便なことはある。私的な時間くらい楽に過ごしたいと訴えれば簡単に認められた。
先に降りて暘谷へと手を差し出すと、ぎゅむとしっかり握られる。眠いと言った暘谷は頭がふらふら泳いでいた。かわいい。
手を繋いだまま馬車の前で敬礼する護衛騎士を振り返る。
「明日は暘谷と宮に戻る。整えておくように」
オレの指示を聞いた騎士は目を瞠り、そして「承知いたしました!」と威勢よく答えた。
「青嵐様、明日は帰らないの?」
「たまにはいいだろ。それより今日は早めに休もう」
暘谷を促して家の中に入る。
今夜も「肉を焼きましょう」と言う暘谷を制して、肉と野菜と米を煮た消化にいい料理にする。
暘谷は「英気を養わないと」と言ってオレに肉を食わせようとするが、あれは単純に自分が食べたいだけだと思う。オレも肉は嫌いじゃないが、野菜もちゃんと食べなさいよ。
今夜は酒もなしだ。
食事を済ませたら暘谷を風呂につれていく。
「いっしょに入りませんか」
暘谷に誘われてオレも服を脱いだ。
介添えが必要だったのはしばらくの間だけだ。ある程度体力が戻れば、不恰好ではあるができないことはほぼなかった。
一人でも風呂に入れることを知っている暘谷がオレを呼ぶ理由はひとつ。
「やっぱり青嵐様の筋肉すごい…!」
椅子にオレを座らせて泡を立てた布で背中や腕を擦られる。はずが、肌を滑るのは暘谷の指ばかりでちっとも進まない。
「洗ってくれないのか?」
「青嵐様の汗の匂いも好き」
かわいい。オレはさっさと自分で全身を洗った。
「勃ってるぞ」
「うん」
さきほどからつんつんと背中に暘谷のものが当たってくる。ぴんと真っ直ぐ勃ち上がったそれは長さは平均的だが少し細身だ。そんなところまで暘谷らしい。
「仕方ないな」
濡れ髪の暘谷を腿に乗せる。
「手だけだぞ」
「あっ、ああん」
暘谷の反り返ったものとまだ芯のない自分のものをあわせて握り込んだ。暘谷の熱に触れてオレもすぐに太くなる。
上下に扱くと、暘谷はオレの首に両腕を乗せてなまめかしく腰を揺らした。目線はじっとオレの手元に注がれている。
「あっあっ、青嵐様、でる…っ!」
「ああ」
ぴぴっと暘谷が精を吐き出した。量はあまりない。
こめかみから汗の粒が伝い落ちる。
「はあ、気持ちよかった。青嵐様は?」
「オレのはいい」
すっかり大きくなってしまったが、放っておけばそのうち収まるだろう。
手早く暘谷を洗い上げ、二人で湯に浸かる。
共に入ると湯が半分以下しか残らない。まあオレのせいなんだが。
風呂で熱を吐き出したせいか、布団に入ると暘谷はことんと寝ついた。子供のような寝顔だった。
***
翌朝、いつもの時間に起きた暘谷と出仕し、いつものように過ごす。普段と同じように仕事をしていた暘谷だが、昼を過ぎた辺りから不機嫌そうに眉を寄せていた。
「大丈夫か?」
「はい、何ともないです」
そうは言うが、定時で上がらせて昨日の宣言通り宮へと向かう。
―――青の宮。
第二王子時代に過ごしていたオレ専用の宮だ。
戻ってきた以上、本来ならばここで過ごすのが道理だが、それだと暘谷が自分の家に帰ってしまうので断った。足の理由も本当だけどな。
仕事を終えて帰宅する途中、馬車の中で暘谷がぽつりと言った。
細い肩を引き寄せてもたれ掛からせると素直に体重を預けて、それどころかすんすんと鼻を寄せてくる。こそばゆいが好きにさせてやる。かわいい。
暘谷は頭がいいのに少し動物的なところがあった。
無防備に瞼を閉じたその顔を間近から見下ろす。つるりとした肌に小造りな顔立ち。確かに派手さはないがその素朴さが逆にかわいい。地味だ平凡だと揶揄するほどでもないと思うのだ。
周囲がそう評価するのは、単に暘谷がそう思われるよう仕向けていたのだろう。
暘谷は頭がよくて、少し動物的なところがある。
暘谷が文官になったばかりの頃はまだ国も平和だった。よく肥えた国土は大きな問題もなく、惰性でも十分組織が回っていた。そんな中でわざわざ自分を主張する必要もなかったのだろう。
しかし父王が亡くなった後に状況は一変。一気に戦火に飲まれて王太子も失い、国は進む方向を見失っていたはず。暘谷はただ目の前の仕事をこなしていただけと言っていたが、どうだろうか。
じっと静かに、自身の主となる存在を待っていたのではないだろうか――。
馬車が自宅の前で停まる。
馬車は城が用意したものだが、帰る先はいまも暘谷の平屋建ての家だ。
ここは暘谷が自分の金で買った暘谷の持ち物だし、何より足の悪いオレでも快適に過ごせるよう細かいところまで工夫されている。義足をあてがって何でもないように見えても、不便なことはある。私的な時間くらい楽に過ごしたいと訴えれば簡単に認められた。
先に降りて暘谷へと手を差し出すと、ぎゅむとしっかり握られる。眠いと言った暘谷は頭がふらふら泳いでいた。かわいい。
手を繋いだまま馬車の前で敬礼する護衛騎士を振り返る。
「明日は暘谷と宮に戻る。整えておくように」
オレの指示を聞いた騎士は目を瞠り、そして「承知いたしました!」と威勢よく答えた。
「青嵐様、明日は帰らないの?」
「たまにはいいだろ。それより今日は早めに休もう」
暘谷を促して家の中に入る。
今夜も「肉を焼きましょう」と言う暘谷を制して、肉と野菜と米を煮た消化にいい料理にする。
暘谷は「英気を養わないと」と言ってオレに肉を食わせようとするが、あれは単純に自分が食べたいだけだと思う。オレも肉は嫌いじゃないが、野菜もちゃんと食べなさいよ。
今夜は酒もなしだ。
食事を済ませたら暘谷を風呂につれていく。
「いっしょに入りませんか」
暘谷に誘われてオレも服を脱いだ。
介添えが必要だったのはしばらくの間だけだ。ある程度体力が戻れば、不恰好ではあるができないことはほぼなかった。
一人でも風呂に入れることを知っている暘谷がオレを呼ぶ理由はひとつ。
「やっぱり青嵐様の筋肉すごい…!」
椅子にオレを座らせて泡を立てた布で背中や腕を擦られる。はずが、肌を滑るのは暘谷の指ばかりでちっとも進まない。
「洗ってくれないのか?」
「青嵐様の汗の匂いも好き」
かわいい。オレはさっさと自分で全身を洗った。
「勃ってるぞ」
「うん」
さきほどからつんつんと背中に暘谷のものが当たってくる。ぴんと真っ直ぐ勃ち上がったそれは長さは平均的だが少し細身だ。そんなところまで暘谷らしい。
「仕方ないな」
濡れ髪の暘谷を腿に乗せる。
「手だけだぞ」
「あっ、ああん」
暘谷の反り返ったものとまだ芯のない自分のものをあわせて握り込んだ。暘谷の熱に触れてオレもすぐに太くなる。
上下に扱くと、暘谷はオレの首に両腕を乗せてなまめかしく腰を揺らした。目線はじっとオレの手元に注がれている。
「あっあっ、青嵐様、でる…っ!」
「ああ」
ぴぴっと暘谷が精を吐き出した。量はあまりない。
こめかみから汗の粒が伝い落ちる。
「はあ、気持ちよかった。青嵐様は?」
「オレのはいい」
すっかり大きくなってしまったが、放っておけばそのうち収まるだろう。
手早く暘谷を洗い上げ、二人で湯に浸かる。
共に入ると湯が半分以下しか残らない。まあオレのせいなんだが。
風呂で熱を吐き出したせいか、布団に入ると暘谷はことんと寝ついた。子供のような寝顔だった。
***
翌朝、いつもの時間に起きた暘谷と出仕し、いつものように過ごす。普段と同じように仕事をしていた暘谷だが、昼を過ぎた辺りから不機嫌そうに眉を寄せていた。
「大丈夫か?」
「はい、何ともないです」
そうは言うが、定時で上がらせて昨日の宣言通り宮へと向かう。
―――青の宮。
第二王子時代に過ごしていたオレ専用の宮だ。
戻ってきた以上、本来ならばここで過ごすのが道理だが、それだと暘谷が自分の家に帰ってしまうので断った。足の理由も本当だけどな。
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