おりがみさま

ふんわり鏡月

文字の大きさ
上 下
1 / 1

おりがみさま

しおりを挟む
どうしてこんなことになったのか。
先ほどから答えのない問いを繰り返し続けている。



遡ること5時間ほど前。
唐突に社長室に呼び出された俺と同僚の佐々木は、社長から信じがたい指令を受けた。



"明日までに折り紙で龍を作れ。出来なければ来季のボーナスは全額カット"



「どういうことですか?」
流石に理由を聞かないわけにはいかなかった。

社長の話を要約すると、製紙メーカーであるうちの経営は年々右肩下がりになっており、何とか世間に注目されるような面白い企画を打ち出したい、ということで、うちのロングセラー商品である折り紙で、会社のロゴマークのモチーフになっている龍を折り、その様子を動画として配信するという突拍子もない企画だった。


全容を撮影するので終わるまでこの部屋から出ないでほしいと言われ、会議室に軟禁された。
窓はなく、外側から鍵をかけられたため、完全な密室状態だ。

食料として用意されているのはパン、オリーブオイル、サラダ、ハム、ワイン。
ふざけるな。お洒落なホテルのモーニングか。
大の男2人がこんなメニューで満足できると思っているのか。社長は何を考えているんだ。

そもそも折り紙なんて鶴くらいしか折れない。ましてや龍なんて、最初の一手すら思いつかない。八方塞がりの状況に頭を抱える俺の隣で、同僚の佐々木は呑気にパンを食べている。


「おい佐々木、お前も少しは何か考えろよ」

「なあ、このパンにオリーブオイル付けるとめちゃくちゃうまいよ」

会話が成り立たない。

「いい加減にしろよ!それともお前、龍の折り方を知ってるって言うのか!?」

「うん。知ってるよ。」


…は??知ってる?
どういうことだ。こいつは何者なんだ。

「だって俺、趣味で折り紙学会の会長もしてるもん。龍くらい2時間あればできるよ。」


折り紙学会という単語は初めて耳にしたが、こいつはどうやら俺の救世主らしい。
…いや、だったら早く折ってくれれば良かったのに。何故今の今まで何の行動も起こさなかったのか。


「で、俺が龍を折れるって知ったお前はどうするんだ?人にものを頼む時にはそれなりの態度ってもんがあるだろ?」



ゴクリ。と生唾を飲み込みながら佐々木の顔を見ると、今まで見たこともないくらい歪んだ笑みを浮かべていた。

しかし不思議と俺に湧き上がったこの高揚感には、まだ名前をつけたくはない。
しおりを挟む

この作品の感想を投稿する


処理中です...