えっ?! レオンハルト先輩、シコらないんですか?!

やなぎ怜

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前編

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 レオンハルト、今年で一八歳。「三次は惨事」と言い切る二次元オタク――。

 レオンハルトは三次元の女に興味はない。そう思って今まで生きてきた。物心ついたころから、息を吸うようにマンガ・アニメ・ゲーム・ラノベを摂取して生きてきた。今、全力を注いでいるのはとあるスマートフォンゲーム。そのゲームに登場する「姫様」こと「エステルガルト」を推して生きている。

 レオンハルトは三次元の女に興味はない。そう思って今まで生きてきた。三次元の女などめんどうくさいことだらけ。負け犬の遠吠えではなく、本気でそう思って生きてきた。

 だというのに。

「今回イベの姫様の新衣装、露出度低いのにエロくてシコリティ高いですよね~」

 レオンハルトと今日顔を合わせて一番に、「姫様引けました?」とガチャ結果を尋ねてきたのは後輩のイナだ。外ではオタクトークをすることを憚るレオンハルトは、イナを寮のひとり部屋に呼び寄せてスマートフォンを見せた。最終学年生であるレオンハルトは寮ではひとり部屋を与えられているので、この部屋に彼らを邪魔する者はいない。

「うわエッロ」

 ゴシックで肌を見せない装いながら、主張するところは主張している上に、ぴったりとした衣装も相まって、今回のイベントのエステルガルトは実装前からネットでも大人気だった。……色々な意味で。

 そしてイナは冒頭のセリフを言い放った。

 イナはレオンハルトのひとつ下の後輩で、レオンハルトがそうであるようにオタクである。そもそもがオタク趣味を通じて仲が良くなったという経緯がある。そして気がつけば下ネタをぶつけ合えるような、気の置けない間柄となっていた。

 そんなイナが、ブレザー制服に合わせているのはスラックスだ。黒髪はショートにしているし、胸はぺったんこで膨らみは観測できない。近年まで男子校だった名残で、今も男子生徒の数のほうが圧倒的に多いこの学校で、まさかイナが女子生徒だなんてレオンハルトは思っていなかった。

 たしかに女の名前だし、男にしては華奢だなとは思った。けれどももしかしたらイナ自身がそれらをコンプレックスに思っていたら――と思うと、レオンハルトはからかい半分でも口にする気持ちにはなれなかった。それにイナも特別女性らしく振舞っている様子がなかったので、レオンハルトは勝手に勘違いしたわけである。

 きっかけはイナの女装姿――イナは女性なのでこういう表現はおかしいかもしれないが――を見たことだ。被服クラブの友人に請われて着たという装いを、わざわざレオンハルトに見せに来たことがきっかけだった。

「先輩先輩~! どうですかこの格好!」

 フリルいっぱいの白いブラウスに、胸元を飾るのは黒いバックルリボン。黒いコルセットスカートの裾をちょっと持ち上げて、いつもはしていない化粧をばっちりしたイナが小首をかしげる姿は――正直、メチャクチャ可愛かった。

 心臓がバクバクと音を立てる中、動揺を悟らせないようにしながらスマートフォンのカメラで写真を撮ったが、記憶は曖昧だ。しかしカメラロールには女装したイナがきちんと残っていて――。

 それを見ながらレオンハルトは初めてイナでシコった。

 射精したあとの賢者タイムには途方もない罪悪感が押し寄せたものの、結局、二度三度とシコっていくうちに、そういう時間も減って行っている。今でも後ろめたさはあるのだが、内心で「別にイナに直接なにかしようと考えているわけじゃないし」と言い訳をして、イナをオナネタにしてひとり励んでいるのであった。

 もちろんイナはそんなことは知らないし、レオンハルトだって、八つ裂きにされても言うつもりはない。

 まさか自分が懐いている先輩にオナネタにされているなどとは考えていないらしいイナは、今日もレオンハルトにひっついて彼のスマートフォンを見ている。

「前かがみ長乳は破壊力高いですよね~タイツに包まれたフトモモもむっちりしてるし……。――先輩?」

 今のレオンハルトにとって、「男受け装備全部載せました」みたいなエステルガルトより、普通に制服のスラックスを着こなしているイナのほうが、数倍は股間にとって危険な存在だった。

 手を伸ばせばすぐ触れる距離にいるし、これだけ近いので、このあいだの誕生日に友人に貰ったとかいうお高いシャンプーの香りがふわりと漂ってくる。

 レオンハルトは「平常心」という言葉を胸中で唱えるも、それは上手く行ったとは言い難く、脳のリソースをそちらに取られて見事にうわの空だ。

 そうなると、イナがレオンハルトの様子を不思議がるのも当然で。

「先輩先輩。どうしちゃったんですか? 姫様のシコリティ高すぎて頑張っちゃってお疲れですか?」
「ええ……オナりすぎで疲労困憊とかヤバいでしょ……」
「でも今回の姫様はヤバイですよ。これでサキュバスボイスでささやかれたら、みんな出すもん出しちゃいますよ」
「そうだね……お金とかね……」

 レオンハルトがしめたとばかりに話題をそらせば、イナも「あっ……」と言ってなにかを察したような表情を作る。

「じゃあなおさらシコって減価償却しないとですね!」
「シコって減価償却とは一体……」
「えっ?! 先輩、シコらないんですか?!」
「うーん……」

 レオンハルトは話題をそらしたつもりだったが、結局のところイナをオナネタにしていることに対する罪悪感へ、戻ってきてしまう。そうして思わず言葉を濁せば、イナは「信じられない」というような顔をしたあと、なぜか心配そうにこちらを見てきた。

「先輩……姫様でシコる元気もないんですか……?」
「いや、そんな深刻そうな顔して聞くことがそれ?! た、たしかに姫様は僕の推しだけどさ~……なにもエロいところだけが好きってわけじゃないんで……」
「えっ?! 先輩、姫様でシコらないんですか?!」
「僕のことなんだと思ってるの?!」
「童貞陰キャオタク」
「辛辣……。いや、事実だけど……」

 辛辣な言葉を口にしても、イナはにこにことしたままだ。

「男のひとは思春期が一番性欲が高まるってなんか聞いたことあるようなそんな気がします」
「曖昧!」
「なのにこんなにエッロい姫様でシコらないなんて……先輩、なにか悩み事でもあるんですか?」
「悩み事……」

 「懐いてくれてる後輩を日夜オナネタにしてしまっていて悩んでいます」――とは、口が裂けても言えるわけがない。

 特にコミュニケーション能力が高いわけでもないレオンハルトは、上手い返しが思いつかず、言葉に詰まって黙り込んでしまった。それを見たイナは、深刻そうな顔で言う。

「毎晩サルみたいにオナるのが男子高校生じゃないんですか?!」
「そうじゃないひともいるよ?!」
「ツッコむ元気はあるんですね」
「別に落ち込んでるわけじゃないんだけど……」
「そうなんですか? わたしにはそうは見えないですけど。――そうだ、わたしが一発抜いてあげましょうか?」
「……はい?」
「一発抜いてスッキリすればいいと思いますよ!」
「はいいぃ?!」
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