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記憶喪失になっていたあいだの言動が恥ずかしすぎるので、記憶喪失のままのフリをしますわっ!
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意地っ張り、居丈高、プライド激高女……そんな形容をされるシェイラは今――
「んあぁっ♡ ルークしゃまあ……♡ らいしゅきぃ……♡」
ずちゅ♡ ずちゅ♡ どちゅ♡ と、硬く熱くたぎった剛直で子宮を突き上げられながら甘い声を上げていた。白く華奢な脚はしっかりと夫であるルークの腰に回されて、決して逃がしはしまいと言うように足首をクロスさせている。
ルークの立派なカリがシェイラの膣襞を擦り上げるたびに、シェイラはぎゅう♡ と膣壁を収縮させて、早く子種が欲しいとばかりにびくり♡ びくり♡ と膣内全体をわななかせる。
「んう♡ ルークしゃまあ♡ イクっ♡ イきましゅうぅぅ――――♡♡♡」
ピンと足の爪先を軽く上げて、シェイラは絶頂を迎える。びりびりと腰のあたりから全身へとしびれが行き渡って、脳の奥にまで気持ちのいい電流が走るようだった。
その快楽を逃すように背を曲げる。自然とルークから逃げるような形になりかけるも、彼はそれを許さずシェイラの腰をつかんだまま、またその子宮めがけてペニスを突き上げた。
小柄なシェイラは内臓を押し上げられるような感覚に――身もだえする。ハッ♡ ハッ♡ と犬のように息を逃しながら、ポルチオへと与えられる快楽を享受する。
ずん♡ ずん♡ と太い勃起ペニスで小さな体をいいように突き上げられながら、シェイラは射精を懇願する。
「ルークしゃま♡ イって♡ シェイラの膣でイって♡ ルークしゃまの子種をシェイラのだいじなところにびゅーっってしてえ♡♡♡」
「シェイラ……いいのかい?」
「いいのっ♡ らいしゅきなルークしゃまの赤ちゃん……欲しい♡」
「嬉しい……僕もシェイラとの赤ちゃん見たいな♡ 僕の精子、子宮でしっかり受け止めてね?♡」
「ひゃい♡ んぅ♡ あっ♡ ぁああっ♡」
ルークの腰の動きが速くなり、シェイラはそれに翻弄される。絶頂を極めたばかりの敏感な膣肉は、シェイラの愛液とルークの先走り液でどろどろだ。ルークが動くたびに、ぶちゅ♡ ぶちゅ♡ と淫らな水音が漏れ出る。
シェイラは“元”がつくとはいえ、とうてい令嬢だった者がしていい顔ではない、快楽にとろけた顔でルークを見上げる。だらしなく開いた口からは少量のよだれと、「んお♡ ふ♡ あぅう♡」と甘い嬌声が出て行くばかりだ。
「シェイラ♡ 一番奥で出すよ♡」
ずん♡ と力強い動きでシェイラの子宮は突き上げられた。シェイラの視界で白い星が飛び散る。同時に、ポルチオへの強すぎる快楽を受けて全身が痙攣したように震えた。そして、
――ぷしっ♡ ぷしゃっ♡
シェイラは尿道から透明な液体を噴出させる。潮吹きをしたのだ。しかしそれはシェイラにとって初めてのことではない。ルークの容赦のない責めによって、シェイラは既に何度か潮吹きを経験していた。
シェイラの体から力が抜け、四肢の筋肉が弛緩する。シェイラがぼうっとしているあいだにも、ルークは彼女の膣内で鈴口から精液をほとばしらせて、シェイラの成熟した子宮に精子を送り込む。
ルークはうっとりとした顔でシェイラの腹を撫でる。シェイラはそんなルークを熱っぽい目で見上げていたが、不意に「なんでわたくしはルーク様とこんなことをしているのかしら?」という己の声が脳内に響いた。
意地っ張り、居丈高、プライド激高女。シェイラを形容する言葉はおおむね、そんな感じだった。木っ端貴族に没落して久しい両親の、歳をとってからできた一人娘として甘やかされて育ったので、シェイラは非常にわがままな少女だった。
そんな自分の性格がよろしくないと気づいたのは、王立学園の高等部へと進学してから。
シェイラはわがまま娘であったが、プライドが高かったがために身だしなみから勉学まで、努力は惜しまなかった。
だがあれは忘れもしない高等部一年、学期はじめの実力テストでシェイラは外部からの進学組であるルークに負けた。学園に入学して以来、不動の一位の成績をキープしていたシェイラにとって、それは天地がひっくり返ったのと同じ出来事だった。
シェイラの鼻っ柱は見事に折られた。そして珍しく深く自省した結果、シェイラは多少なりとも己を客観視できるようになり、やがて自分がその性格のせいでどうも周囲からは敬遠されているということに気づいた。
シェイラは反省した。しかしすぐに態度を変えることまではできなかった。一朝一夕で変えられるものであれば、世の中で人間関係に悩む者はもっと少ないに違いない。
結果、シェイラは多少他人への当たりは弱くなったものの、シェイラのままだった。己を抜いて一位の成績に躍り出たルークにも嫉妬心から大いに突っかかった。
だが、シェイラの天地がひっくり返る出来事は二度起こった。
三年間、敵視してあれやこれやと突っかかっていたルークと、結婚することになったのだ。
理由はシェイラの実家が、とうとう借金でどうにもこうにも首が回らなくなったからだ。シェイラも学園を卒業してからは家庭教師などをして実家を支えていたが、正直に言って焼け石に水だった。
そこへ――なぜか――颯爽と現れたのが、ルークだった。学生時代はただの平民であったルークは、卒業後は友人たちと商会を起こして成功し、莫大な財産を築いていたのだ。
シェイラは、復讐だと思った。非力な令嬢であったシェイラが、在学中、ルークに対し実力行使に出たことはなかったが、口ではかなりの嫌味を言っていた。いつもルークは困ったように笑って、相手にしなかったのだが、内心では腹を立てていたに違いない。
だから、シェイラは復讐だと思った。
婚約期間中も、結婚してからも、ルークはシェイラに罵倒の言葉や嫌味など口にしなかったが、シェイラは虎視眈々と己のプライドをへし折る機会を待っているのだと思っていた。
そう思うとルークのことが怖かったし、弱味を見せられないと思った。シェイラはいつもルークにつっけんどんな態度を取っていたが、ルークはやはり学生時代と同様、困ったように笑うだけ。
あの日もそうだった。夜会から馬車で屋敷へと戻って、先に降りたルークがシェイラに手を差し伸べた。外では先ほどまで雨が降っていたから、馬車も地面も濡れていた。
「足元に気をつけて」
そう言って優しく手を差し伸べてくれたルークに、シェイラはいつも通り冷たい視線を向けて、
「ふん! 言われなくともそれくらい見ればわかりますわっ!」
などと憎まれ口を叩いた。
……にもかかわらず、シェイラは馬車から降りるときに見事に足を滑らせた。
恥である。向こう数年はこのネタでじたばたとできるくらいの、恥である。
しかもシェイラは滑って転んで頭を打って――今の今まで記憶喪失だった。……ということを、唐突に思い出した。夫婦のベッドの上で。ルークの下で散々喘がされたあとで。
恥である。ルークに憎まれ口を叩いた上で、彼の目の前で滑って転んで頭を打っただけでもじゅうぶんな恥であるのに、記憶を失った結果、
『んあぁっ♡ ルークしゃまあ……♡ らいしゅきぃ……♡』
などと口走りながら夜の営みをしていたのだ。
恥である。
「……シェイラ、疲れた?」
記憶を失ってからはだだ甘のピロートークが定番化していたために、急に黙り込んでしまったシェイラへ、ルークは心配の声をかけてくる。シェイラはそれにあわてる。
「え、ええ……そうみたい」
どうにかうなずいて答えたものの、シェイラの内心では豪華客船が難破するほどの嵐が吹き荒れていた。ルークに対し、「おのれ~!」という気持ちでいっぱいだった。
無事記憶を取り戻したシェイラであったが、記憶喪失だったあいだの出来事を綺麗さっぱり忘れる、などという都合のいい展開が訪れなかったがゆえに、恥ずかしい気持ちでいっぱいになった。
ルークは記憶がないシェイラをいいように丸め込んで、熱い夫婦生活を送らせていた。当然、本来のシェイラからすると恥ずかしいことをいっぱい言わされたし、させられもした。思い出すのも憚られるような恥ずかしい言動を、シェイラはたくさんしていた。
再び、ルークに対し、「おのれ~!」という気持ちが湧き上がる。
今すぐ記憶が戻ったことを宣言してルークの無駄に整った顔を引っぱたいてやりたかったが、記憶を失っていたあいだの言動があまりに恥ずかしすぎて、合わせる顔がなかった。
ルークに何度も好きだと言ったし、愛していると言われた。記憶がなくても愛してくれるルークはなんと出来た人間だろうと感嘆した。熱い夜を過ごして、とても人前では口に出せない恥ずかしいセリフを仕込まれて、しかしルークには何度も言った。
三度、ルークに対し「おのれ~!」という気持ちが湧き上がった。
「頭、痛くない?」
「そ、そんなことありませんわ……」
「そう……。記憶が戻ったのかなって思ったんだけれど」
鋭い。シェイラは内心で冷や汗をかいた。ルークに対し「おのれ~!」という気持ちはあったが、とにかく彼に合わせる顔がない。恥ずかしい。わりと厚顔であるほうのシェイラが恥じ入るほどに、記憶喪失中のルークとの夫婦生活の際の己の言動は、彼女にとって恥であった。
その結果、
――記憶喪失になっていたあいだの言動が恥ずかしすぎますわっ……そうだ! 記憶喪失のままのフリをしましょう!
という、あまりにも浅はかすぎる結論をシェイラは出してしまったのだった。シェイラの決定は、問題を先送りにしているだけであったが、記憶が戻って混乱のさなかにあった彼女は、すぐにそのことに気づけなかった。
記憶喪失のフリをするということは、ルークと――シェイラにとっては非常に――恥ずかしい夫婦生活も続行されるということなのだと、シェイラはすぐには気づけなかった。シェイラは勉強はできたが、根本的には「おバカ」に分類される人間であった。
「あっ♡ んあ♡ ルークしゃまあ♡ ダメっ♡ わたくしを乱さないでえ♡♡♡」
シェイラは記憶が戻ってから何度「おのれ~!」とルークを憎々しく思う気持ちを募らせたかわからない。
「ルークしゃまあ♡ くるひぃ♡ おなかにいっぱいルークひゃまが……♡」
ルークは、シェイラの記憶が戻り、無駄にプライドの高い女に戻っていることを知らない。
「あん♡ あぁっ♡ ルークしゃま♡ おねがいっ♡ わたくしもう我慢できませんわ♡♡♡」
ルークに恥ずかしい夫婦生活を強いられるたびに、「おのれ~!」とシェイラは恥ずかしさで死にそうになりながら記憶喪失のフリを続けた。
言うはいっときの恥、言わぬは一生の恥。
そのことに気づけないまま、シェイラはルークに夜ごと散々に乱される生活を送っていた。昼はしおらしい態度でルークを愛しているフリをし、夜はルークの前で乱れに乱れた。内心では恥ずかしく思いながら、記憶喪失のフリを続けるために、シェイラは――無駄に――耐え忍んで夜の営みを続けた。
だが、それも長くは続かなかった。
「いっ――いい加減にしなさいよ! あなた! 毎度毎度! このわたくしに恥ずかしいことをさせて――! ――ハッ」
蒸し暑い昼を越えて、涼しい夜風が吹く庭園へ涼みに出たシェイラとルーク。ガゼボに腰を下ろしたところまでは良かったが、あろうことかルークはそこでシェイラを求めてきたのだった。
――ありえない! ありえないですわ! 外で、なんて! なんて、なんて、野蛮なのかしら?!
シェイラの中で恥ずかしさが爆発した結果、まろび出たのが先ほどのセリフである。言ってしまったあとで、シェイラは「しまった!」と思った。記憶喪失状態のシェイラは、こんな言葉遣いをしていなかったからだ。
――これでは、記憶が戻っていたことがバレてしまいますわっ!
「記憶……戻ってたの?」
「え、ええっとぉ……そ、そんなことは……」
シェイラはまた猫をかぶってはみたものの、その猫は続くルークのセリフでどこかへと飛んで行ってしまう。
「……まあ、知ってたけどね♪」
「――はいいぃ?!」
シェイラは思わず素っ頓狂な声を出す。目を丸くしておどろくシェイラを見て、ルークは例の困ったような笑みを浮かべる。
「わかっていたけれど、恥を耐え忍んで演技しているシェイラが可愛くて、つい……。ごめんね?」
「ゆ、許しませんわっ!」
「そんなこと言わないでよシェイラ」
「許しませんわ! た、たとえわたくしへの復讐だとしても! このわたくしに恥ずかしい思いをさせるなんてっ……!」
「復讐?」
ルークがきょとんとした顔でシェイラを見る。シェイラは「おのれ~! こういうときも無駄に絵になる顔~!」などと、見当違いの方向にまで怒りの炎を点けていた。
ルークはしばし思い悩むような仕草を見せたあと、なにがしか納得がいったのか、「ああ」と声を出す。
「なにか誤解しているみたいだけれど、僕はシェイラのこときちんと愛しているからね?」
「そ、そんなの信じられるわけないでしょう?! だって、だってわたくし、あなたに突っかかってばかりで――」
「まあそうだけど……」
「復讐以外ありえませんわっ!」
「うーん。いつもと違うシェイラが可愛かったからってだけの理由なんだけどなあ。あ、記憶のないシェイラとこれまでのシェイラ、どっちも好きだけど、やっぱり惚れたのは記憶があるほうのシェイラだからね。そこは間違えないでね?」
「――い、意味がわかりませんわっ」
シェイラは混乱しきっていた。もとより、柔軟性があまりなく強情な性質もあり、己が出した結論が間違いだと指摘されても、素直に受け入れられないという事情もあった。
そんなシェイラを見て、ルークはやはり困ったような笑みを浮かべる。
「……確かにはじめは態度はいけ好かないし、性格も最悪だなって思ってたけど」
「さっ……」
「でも、こそこそと僕を裏で中傷したり、変な噂を流したりする連中と君は違ったし。真っ向からぶつかってきてくれたのなんて、本当、君くらいだった。すると不思議なことになんだか愛おしくなってきてね? 君の嫌味も子猫が爪を立ててくるようなものだったし。気がついたら可愛いなあ、欲しいなあって思っていて――」
ルークの顔がぐっとシェイラに近くなる。
「まあ、そういうわけで、一生離すつもりはないから、覚悟しておいてね?」
ルークは困ったような笑みを浮かべたままそう告げる。そして鈍すぎるシェイラはこのときになって悟った。ルークの「困ったような笑顔」は、シェイラを「微笑ましく思っている慈愛の顔」なのだと。だがその笑顔も一筋縄でいくものではない。記憶のないシェイラをその笑顔でだまくらかしていたこともまた事実。
「しゅっ、趣味が悪いですわよっっっ!!!」
……だがしかし、その「趣味の悪い」男に身も心も陥落することになろうとは、このときのシェイラはまだ予想だにしていないのであった。
「んあぁっ♡ ルークしゃまあ……♡ らいしゅきぃ……♡」
ずちゅ♡ ずちゅ♡ どちゅ♡ と、硬く熱くたぎった剛直で子宮を突き上げられながら甘い声を上げていた。白く華奢な脚はしっかりと夫であるルークの腰に回されて、決して逃がしはしまいと言うように足首をクロスさせている。
ルークの立派なカリがシェイラの膣襞を擦り上げるたびに、シェイラはぎゅう♡ と膣壁を収縮させて、早く子種が欲しいとばかりにびくり♡ びくり♡ と膣内全体をわななかせる。
「んう♡ ルークしゃまあ♡ イクっ♡ イきましゅうぅぅ――――♡♡♡」
ピンと足の爪先を軽く上げて、シェイラは絶頂を迎える。びりびりと腰のあたりから全身へとしびれが行き渡って、脳の奥にまで気持ちのいい電流が走るようだった。
その快楽を逃すように背を曲げる。自然とルークから逃げるような形になりかけるも、彼はそれを許さずシェイラの腰をつかんだまま、またその子宮めがけてペニスを突き上げた。
小柄なシェイラは内臓を押し上げられるような感覚に――身もだえする。ハッ♡ ハッ♡ と犬のように息を逃しながら、ポルチオへと与えられる快楽を享受する。
ずん♡ ずん♡ と太い勃起ペニスで小さな体をいいように突き上げられながら、シェイラは射精を懇願する。
「ルークしゃま♡ イって♡ シェイラの膣でイって♡ ルークしゃまの子種をシェイラのだいじなところにびゅーっってしてえ♡♡♡」
「シェイラ……いいのかい?」
「いいのっ♡ らいしゅきなルークしゃまの赤ちゃん……欲しい♡」
「嬉しい……僕もシェイラとの赤ちゃん見たいな♡ 僕の精子、子宮でしっかり受け止めてね?♡」
「ひゃい♡ んぅ♡ あっ♡ ぁああっ♡」
ルークの腰の動きが速くなり、シェイラはそれに翻弄される。絶頂を極めたばかりの敏感な膣肉は、シェイラの愛液とルークの先走り液でどろどろだ。ルークが動くたびに、ぶちゅ♡ ぶちゅ♡ と淫らな水音が漏れ出る。
シェイラは“元”がつくとはいえ、とうてい令嬢だった者がしていい顔ではない、快楽にとろけた顔でルークを見上げる。だらしなく開いた口からは少量のよだれと、「んお♡ ふ♡ あぅう♡」と甘い嬌声が出て行くばかりだ。
「シェイラ♡ 一番奥で出すよ♡」
ずん♡ と力強い動きでシェイラの子宮は突き上げられた。シェイラの視界で白い星が飛び散る。同時に、ポルチオへの強すぎる快楽を受けて全身が痙攣したように震えた。そして、
――ぷしっ♡ ぷしゃっ♡
シェイラは尿道から透明な液体を噴出させる。潮吹きをしたのだ。しかしそれはシェイラにとって初めてのことではない。ルークの容赦のない責めによって、シェイラは既に何度か潮吹きを経験していた。
シェイラの体から力が抜け、四肢の筋肉が弛緩する。シェイラがぼうっとしているあいだにも、ルークは彼女の膣内で鈴口から精液をほとばしらせて、シェイラの成熟した子宮に精子を送り込む。
ルークはうっとりとした顔でシェイラの腹を撫でる。シェイラはそんなルークを熱っぽい目で見上げていたが、不意に「なんでわたくしはルーク様とこんなことをしているのかしら?」という己の声が脳内に響いた。
意地っ張り、居丈高、プライド激高女。シェイラを形容する言葉はおおむね、そんな感じだった。木っ端貴族に没落して久しい両親の、歳をとってからできた一人娘として甘やかされて育ったので、シェイラは非常にわがままな少女だった。
そんな自分の性格がよろしくないと気づいたのは、王立学園の高等部へと進学してから。
シェイラはわがまま娘であったが、プライドが高かったがために身だしなみから勉学まで、努力は惜しまなかった。
だがあれは忘れもしない高等部一年、学期はじめの実力テストでシェイラは外部からの進学組であるルークに負けた。学園に入学して以来、不動の一位の成績をキープしていたシェイラにとって、それは天地がひっくり返ったのと同じ出来事だった。
シェイラの鼻っ柱は見事に折られた。そして珍しく深く自省した結果、シェイラは多少なりとも己を客観視できるようになり、やがて自分がその性格のせいでどうも周囲からは敬遠されているということに気づいた。
シェイラは反省した。しかしすぐに態度を変えることまではできなかった。一朝一夕で変えられるものであれば、世の中で人間関係に悩む者はもっと少ないに違いない。
結果、シェイラは多少他人への当たりは弱くなったものの、シェイラのままだった。己を抜いて一位の成績に躍り出たルークにも嫉妬心から大いに突っかかった。
だが、シェイラの天地がひっくり返る出来事は二度起こった。
三年間、敵視してあれやこれやと突っかかっていたルークと、結婚することになったのだ。
理由はシェイラの実家が、とうとう借金でどうにもこうにも首が回らなくなったからだ。シェイラも学園を卒業してからは家庭教師などをして実家を支えていたが、正直に言って焼け石に水だった。
そこへ――なぜか――颯爽と現れたのが、ルークだった。学生時代はただの平民であったルークは、卒業後は友人たちと商会を起こして成功し、莫大な財産を築いていたのだ。
シェイラは、復讐だと思った。非力な令嬢であったシェイラが、在学中、ルークに対し実力行使に出たことはなかったが、口ではかなりの嫌味を言っていた。いつもルークは困ったように笑って、相手にしなかったのだが、内心では腹を立てていたに違いない。
だから、シェイラは復讐だと思った。
婚約期間中も、結婚してからも、ルークはシェイラに罵倒の言葉や嫌味など口にしなかったが、シェイラは虎視眈々と己のプライドをへし折る機会を待っているのだと思っていた。
そう思うとルークのことが怖かったし、弱味を見せられないと思った。シェイラはいつもルークにつっけんどんな態度を取っていたが、ルークはやはり学生時代と同様、困ったように笑うだけ。
あの日もそうだった。夜会から馬車で屋敷へと戻って、先に降りたルークがシェイラに手を差し伸べた。外では先ほどまで雨が降っていたから、馬車も地面も濡れていた。
「足元に気をつけて」
そう言って優しく手を差し伸べてくれたルークに、シェイラはいつも通り冷たい視線を向けて、
「ふん! 言われなくともそれくらい見ればわかりますわっ!」
などと憎まれ口を叩いた。
……にもかかわらず、シェイラは馬車から降りるときに見事に足を滑らせた。
恥である。向こう数年はこのネタでじたばたとできるくらいの、恥である。
しかもシェイラは滑って転んで頭を打って――今の今まで記憶喪失だった。……ということを、唐突に思い出した。夫婦のベッドの上で。ルークの下で散々喘がされたあとで。
恥である。ルークに憎まれ口を叩いた上で、彼の目の前で滑って転んで頭を打っただけでもじゅうぶんな恥であるのに、記憶を失った結果、
『んあぁっ♡ ルークしゃまあ……♡ らいしゅきぃ……♡』
などと口走りながら夜の営みをしていたのだ。
恥である。
「……シェイラ、疲れた?」
記憶を失ってからはだだ甘のピロートークが定番化していたために、急に黙り込んでしまったシェイラへ、ルークは心配の声をかけてくる。シェイラはそれにあわてる。
「え、ええ……そうみたい」
どうにかうなずいて答えたものの、シェイラの内心では豪華客船が難破するほどの嵐が吹き荒れていた。ルークに対し、「おのれ~!」という気持ちでいっぱいだった。
無事記憶を取り戻したシェイラであったが、記憶喪失だったあいだの出来事を綺麗さっぱり忘れる、などという都合のいい展開が訪れなかったがゆえに、恥ずかしい気持ちでいっぱいになった。
ルークは記憶がないシェイラをいいように丸め込んで、熱い夫婦生活を送らせていた。当然、本来のシェイラからすると恥ずかしいことをいっぱい言わされたし、させられもした。思い出すのも憚られるような恥ずかしい言動を、シェイラはたくさんしていた。
再び、ルークに対し、「おのれ~!」という気持ちが湧き上がる。
今すぐ記憶が戻ったことを宣言してルークの無駄に整った顔を引っぱたいてやりたかったが、記憶を失っていたあいだの言動があまりに恥ずかしすぎて、合わせる顔がなかった。
ルークに何度も好きだと言ったし、愛していると言われた。記憶がなくても愛してくれるルークはなんと出来た人間だろうと感嘆した。熱い夜を過ごして、とても人前では口に出せない恥ずかしいセリフを仕込まれて、しかしルークには何度も言った。
三度、ルークに対し「おのれ~!」という気持ちが湧き上がった。
「頭、痛くない?」
「そ、そんなことありませんわ……」
「そう……。記憶が戻ったのかなって思ったんだけれど」
鋭い。シェイラは内心で冷や汗をかいた。ルークに対し「おのれ~!」という気持ちはあったが、とにかく彼に合わせる顔がない。恥ずかしい。わりと厚顔であるほうのシェイラが恥じ入るほどに、記憶喪失中のルークとの夫婦生活の際の己の言動は、彼女にとって恥であった。
その結果、
――記憶喪失になっていたあいだの言動が恥ずかしすぎますわっ……そうだ! 記憶喪失のままのフリをしましょう!
という、あまりにも浅はかすぎる結論をシェイラは出してしまったのだった。シェイラの決定は、問題を先送りにしているだけであったが、記憶が戻って混乱のさなかにあった彼女は、すぐにそのことに気づけなかった。
記憶喪失のフリをするということは、ルークと――シェイラにとっては非常に――恥ずかしい夫婦生活も続行されるということなのだと、シェイラはすぐには気づけなかった。シェイラは勉強はできたが、根本的には「おバカ」に分類される人間であった。
「あっ♡ んあ♡ ルークしゃまあ♡ ダメっ♡ わたくしを乱さないでえ♡♡♡」
シェイラは記憶が戻ってから何度「おのれ~!」とルークを憎々しく思う気持ちを募らせたかわからない。
「ルークしゃまあ♡ くるひぃ♡ おなかにいっぱいルークひゃまが……♡」
ルークは、シェイラの記憶が戻り、無駄にプライドの高い女に戻っていることを知らない。
「あん♡ あぁっ♡ ルークしゃま♡ おねがいっ♡ わたくしもう我慢できませんわ♡♡♡」
ルークに恥ずかしい夫婦生活を強いられるたびに、「おのれ~!」とシェイラは恥ずかしさで死にそうになりながら記憶喪失のフリを続けた。
言うはいっときの恥、言わぬは一生の恥。
そのことに気づけないまま、シェイラはルークに夜ごと散々に乱される生活を送っていた。昼はしおらしい態度でルークを愛しているフリをし、夜はルークの前で乱れに乱れた。内心では恥ずかしく思いながら、記憶喪失のフリを続けるために、シェイラは――無駄に――耐え忍んで夜の営みを続けた。
だが、それも長くは続かなかった。
「いっ――いい加減にしなさいよ! あなた! 毎度毎度! このわたくしに恥ずかしいことをさせて――! ――ハッ」
蒸し暑い昼を越えて、涼しい夜風が吹く庭園へ涼みに出たシェイラとルーク。ガゼボに腰を下ろしたところまでは良かったが、あろうことかルークはそこでシェイラを求めてきたのだった。
――ありえない! ありえないですわ! 外で、なんて! なんて、なんて、野蛮なのかしら?!
シェイラの中で恥ずかしさが爆発した結果、まろび出たのが先ほどのセリフである。言ってしまったあとで、シェイラは「しまった!」と思った。記憶喪失状態のシェイラは、こんな言葉遣いをしていなかったからだ。
――これでは、記憶が戻っていたことがバレてしまいますわっ!
「記憶……戻ってたの?」
「え、ええっとぉ……そ、そんなことは……」
シェイラはまた猫をかぶってはみたものの、その猫は続くルークのセリフでどこかへと飛んで行ってしまう。
「……まあ、知ってたけどね♪」
「――はいいぃ?!」
シェイラは思わず素っ頓狂な声を出す。目を丸くしておどろくシェイラを見て、ルークは例の困ったような笑みを浮かべる。
「わかっていたけれど、恥を耐え忍んで演技しているシェイラが可愛くて、つい……。ごめんね?」
「ゆ、許しませんわっ!」
「そんなこと言わないでよシェイラ」
「許しませんわ! た、たとえわたくしへの復讐だとしても! このわたくしに恥ずかしい思いをさせるなんてっ……!」
「復讐?」
ルークがきょとんとした顔でシェイラを見る。シェイラは「おのれ~! こういうときも無駄に絵になる顔~!」などと、見当違いの方向にまで怒りの炎を点けていた。
ルークはしばし思い悩むような仕草を見せたあと、なにがしか納得がいったのか、「ああ」と声を出す。
「なにか誤解しているみたいだけれど、僕はシェイラのこときちんと愛しているからね?」
「そ、そんなの信じられるわけないでしょう?! だって、だってわたくし、あなたに突っかかってばかりで――」
「まあそうだけど……」
「復讐以外ありえませんわっ!」
「うーん。いつもと違うシェイラが可愛かったからってだけの理由なんだけどなあ。あ、記憶のないシェイラとこれまでのシェイラ、どっちも好きだけど、やっぱり惚れたのは記憶があるほうのシェイラだからね。そこは間違えないでね?」
「――い、意味がわかりませんわっ」
シェイラは混乱しきっていた。もとより、柔軟性があまりなく強情な性質もあり、己が出した結論が間違いだと指摘されても、素直に受け入れられないという事情もあった。
そんなシェイラを見て、ルークはやはり困ったような笑みを浮かべる。
「……確かにはじめは態度はいけ好かないし、性格も最悪だなって思ってたけど」
「さっ……」
「でも、こそこそと僕を裏で中傷したり、変な噂を流したりする連中と君は違ったし。真っ向からぶつかってきてくれたのなんて、本当、君くらいだった。すると不思議なことになんだか愛おしくなってきてね? 君の嫌味も子猫が爪を立ててくるようなものだったし。気がついたら可愛いなあ、欲しいなあって思っていて――」
ルークの顔がぐっとシェイラに近くなる。
「まあ、そういうわけで、一生離すつもりはないから、覚悟しておいてね?」
ルークは困ったような笑みを浮かべたままそう告げる。そして鈍すぎるシェイラはこのときになって悟った。ルークの「困ったような笑顔」は、シェイラを「微笑ましく思っている慈愛の顔」なのだと。だがその笑顔も一筋縄でいくものではない。記憶のないシェイラをその笑顔でだまくらかしていたこともまた事実。
「しゅっ、趣味が悪いですわよっっっ!!!」
……だがしかし、その「趣味の悪い」男に身も心も陥落することになろうとは、このときのシェイラはまだ予想だにしていないのであった。
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でも、誘惑に抗えるわけないでしょっ!
全員美味しくいただいちゃいまーす。

美幼女に転生したら地獄のような逆ハーレム状態になりました
市森 唯
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私は侯爵令嬢らしく多分異世界転生してるし、そして何故か婚約者が2人?!
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