読切怪奇談話集(仮)

やなぎ怜

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 某怖い話のまとめサイトにあった怖い話を読んだら記憶がよみがえった。


 俺が幼稚園に上がる前に実母が死んで、親父が再婚したんで継母がやってきた。

 でも俺はその継母には嫌われてた。当時は幼すぎたからかわかんなかったけど、今思い返してみると色々とアレな思い出が多々あるなってことで。

 今はもう(継母含む)実家とは没交渉なんだけど、俺の記憶にある継母の顔は常時能面(の増女の面のやつ)って印象。それだけでまあ、好かれてなかったんだなあというのがよくわかる。

 継母は俺が幼稚園に上がる前まではパートのバイトもやってない主婦だったのかな。たぶん。親父は普通に会社勤めのサラリーマン。親父は日中は当たり前だが家にいなかったから、今でもあのときのことは知らんと思う。

 あのとき、というのは珍しく継母が俺を家から連れ出した一件。継母は俺を公園とかに連れて行ったことはなかったはず。継母と外出するのを物珍しいというか、幼心に不思議に思ったから、たぶんそう。

 継母はもしかしたら出かける前日に俺になにか言ったかもしれないけど、俺の中ではその外出は突然の出来事だった。

 継母は「これから試験を受けに行く」みたいなことを言った。幼稚園上がる前のガキのときの記憶だから、細部が違ってたり、なんか捏造しているところはあるかもしれない。以降の記憶もその可能性があるとは書いておく。

 で、継母には「行儀よくしろ」とか色々言われた気がする。ただ当時の俺はガキすぎたから継母の話をちゃんとは聞いてなかった。

 継母に連れて行かれた先は真っ白で豆腐みたいなのっぺりした印象の施設? まあとにかく横に長い、長方形の建物だった。その周囲を取りかこむでかい壁についた、でかくて真っ黒な門をくぐったことは覚えてる。

 継母は「試験」と言っていたし、その建物の中には俺と同じ年頃くらいの男女の子供が集められていたから、私立幼稚園の入園試験? とか、あるいはなんかの機関とか団体の実験とかだったのかなーと思ってる。

 先に書いたけど、今は実家とは没交渉だし今さら継母と話なんてできないから、真相はわからん。

 継母よりももっと若い、にこにこした姉ちゃんに案内されて、継母とは建物のエントランスっぽい場所で別れた。

 連れてこられたのは会議室っぽい白い部屋で、木目がプリントされた、よくある長机の前に座らされてしばらく待たされた。ガキの体感だからあてになんないけど、ヒマすぎて机の木目をじっと見ていたことはなんか覚えている。

 次第に会議室っぽい部屋の中には、俺と同じように連れてこられた子供たちが等間隔に座らされて、席も大体埋まったところで俺を連れてきたひととは別のお姉さんが部屋に入ってきてプリントを配り始めた。

 なんか言われたんだけど、ガキの俺には難しかったのか、思い出せない。プリントの内容もはっきりとは思い出せない。たぶんアンケートみたいな感じのものだったと思う。

 先に入園試験だったかも? みたいなこと書いたけど、試験て感じの、問題を解かされるような内容じゃなかった気がする。

 幼稚園に入る前だったけど、俺はずっと家にいたせいなのかちょっとは読み書きができた(ひらがなとカタカナ少しだけだったが)から、そこで詰まった記憶というのはない。忘れてるだけかもしれないけど。

 プリントのあとは部屋にあったテレビでビデオを見せられた。まだDVDが普及してなかった時代だからVHSだし、正方形の立方体に近いでかいテレビだった。

 部屋を暗くしたので、ガキの俺には慣れない場所ということもあってちょっと怖かった。

 暗い部屋で、テレビの画面に白っぽい、荒い映像が映し出された。映像にはノイズが走りまくっていて、その向こうにどんな映像があるのか見取るのが難しく、とにかく見づらかった。

 しかも頑張ってどんな映像なのか見取ろうとしても、なんていうか……環境映像みたいな? なんか自然(原っぱとか空き地とか)を映した映像が延々と流れているだけという、非常につまらないシロモノだった。

 ガキだから早々に飽きてテレビから視線を外し、周囲を見回してみた。といっても幼心にビデオを真剣に見ないことでこの施設のお姉さんに怒られたくないという思いもあって、目玉だけ動かして周りを見てみた。

 他の子供たちは俺と違って大部分がわりと真剣にビデオを見ていたように思う。

 ちょっと間をあけた右隣にはポニーテールの女の子が座ってたんだけど、その子は特に真剣にビデオを見ていた。真剣すぎて真に迫りすぎているというか、なんか顔が引きつっていて、それが気にかかった。

 ビデオが終わると、お姉さんがまたスイッチを操作して部屋を明るくしてから、プリントを配った。最初に配られたものとは明らかに違って、書き込む欄が大きくて質問部分が短かった。

 質問の内容は「なにかみましたか?」とか「みつかりましたか?」みたいな感じだったと思う。

 当時の俺がなんて書いたか思い出せない。

 それでなにか書くことに迷って手本が見たくなったのか、単純に気になったのかは今ではもうわからないけど、右隣のポニーテールの女の子のプリントを覗いた。

 子供らしいくねくねした安定感のない文字で、「ぐちゃぐちゃのおんなのひと」みたいなことが書いてあった。いや、もしかしたら「ぐちゃぐちゃ」だけだったかも? この年齢でそんな文章めいたことが書けるかわからんし。

 ただ俺の回答と全然違ったことになんか「あれ?」となったことだけはなんとなく覚えてる。

 そのプリントを回収されると、部屋にいた子供のうち六人くらいがお姉さんに連れられて出て行った。俺の右隣の女の子も、お姉さんに連れられて部屋を出た。六人という人数は、部屋にいた子供の四分の一くらいかな。たぶん。

 連れて行かれなかった子供たちは、部屋にまたやってきた別のお姉さんから缶ジュース(たぶんオレンジジュースだった)とお菓子(個包装のクッキー)を持たされて、別室にいる母親たちのもとに帰された。

 その部屋では親同士、子供同士でちょっとした会話をしているグループもあったんだけど、俺の継母は俺を連れてさっさとその建物を後にした。そのときの記憶の中の継母は、やっぱり能面顔だった気がする。

 その後はなんもない。再びあの建物を訪れることはなかった。


 ここまで改めて書き出してみて、ちょっとカルト宗教っぽい雰囲気を感じたりはしたけど、よくわからん。継母は別にどっかの信者とかではなかったはず。実家には神棚も仏壇もなかったし、実家にいたころに墓参りへ行った記憶もない。

 実家と没交渉になって十年以上経つし、上に書いた出来事は三十年は前の話。

 だからこの記憶がなんなのか、どこまで本当にあったことなのかもわからない。
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