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うだうだと悩む時間は、ぞんぶんに与えられていた。
誠也くんは巡礼の旅の最中はあれだけ妊娠がどうの将来設計はどうのと言っていたのに、ぴたりと口にしなくなってしまっていた。
そもそもが、会える時間が少ないのだ。
元の世界では多くの時間を同じ空間ですごしていた、と言っても過言ではないのだが、ここでは違う。
誠也くんにも私にも仕事があって、職場が違う。だから、必然的に顔を合わせるのは朝方の限られた時間と、夜のちょっと長いあいだだけだった。
働いているのだから当たり前だけれども、世の中の大人はそれでも恋に趣味にと生きているのだから、スゴイ。
私はお姫様のおしゃべりの相手――と聞くと一見楽そうだが、実際はそれなりに疲れる。
相手がお姫様だからというのもあるだろうけれども、背筋は常に美しくピンと張って、言葉遣いにも気をつかわなければならない。
他にも諸々、侍女さんと同じような仕事――お姫様の着替えだとか、茶葉を選んだりだとか――を手伝うこともある。
きっと、世の中の立派な大人からすれば「それくらいで疲れるの?」とか言われそうな気がしないでもない。
けれども慣れない仕事に心構え少なく放り込まれた私は、どうしても心の内ではヘタレたことを言ってしまうのだった。
これで私がおしゃべり大好き! な人間ならよかったが、現実は違う。
仲良くなった離宮のメイドさんやらなんやらから、毎日どこかしらから情報を仕入れてお姫様に披露する。
たまにお姫様に「あれはなに?」とか「これはどういうこと?」と聞かれたら、スマートに答えるのが望ましい。
答えられなくても別にペナルティなんかないが、心情的にはこうパッと答えたいのが人情ってやつだろう。
そういうわけで私はかつてないほど熱心に勉強していた。
元の世界でのテストなんかは授業を聞いて、テスト前にちょっと復習するくらいでそこそこの点が取れていたが、生活基盤に微妙な違いのあるこの世界ではちょっとしたことを知るにも苦労する。
本だけでは感覚とか、ニュアンスとかまでをつかみきれないのだ。
となると自然とあちらこちらに人脈を築いて、そこから生の情報を引き出す必然性が生まれてくる。
そういうのをまとめて仕事だと割り切っている部分はあるし、やりがいを感じることもある。お姫様に喜ばれるのは、単純にうれしいし。
けれどもやはり生来より引っ込み思案な私に、コミュニケーション力が試されるような仕事は、キツかった。
キツかったが、しかしそれ以外に仕事がない。家庭教師だってコミュニケーション能力が必要だ。
どちらにせよここで踏ん張って、頑張るしかない。
イヤじゃないけど、早く慣れないかな~慣れるのかな~と常に思っているのも事実だった。
そして仕事に奔走しているあいだに、誠也くんは妊娠がどうのと言わなくなった。
「今回の仕事はこれくらいになったよ」とかお給金については教えてくれるが、「『つがい』になりたい」とは言わなくなった。
恐らく私にプレッシャーを与えないためなんだろう。
ここで「誠也くんが心変わりした?!」とかあせらない私は、あんまり可愛げってやつがないのかもしれない。
でも誠也くんの性格を思えば、もし私以外の好きなひとができたら包み隠さず告白してきそうである。
それに私たちの将来のためのお金は、ちゃんと家に入れているわけだし。
じゃあ大丈夫だなと、ひとりごちつつも、気を使わせているという事実だけは変わらないので、やはりあせる。
いずれ答えは出さなければならないということは、わかっている。
その答えは「妊娠したくない」「『つがい』になりたくない」でもいいはずだったが、しかし私はその選択はしないだろうという確信があった。
要は勇気が出ないのである。
誠也くんとの子供はいずれは欲しいし、誠也くんと「つがい」にもなりたい。
その答えは既に出ていた。
あとはそれを言う勇気がいつ出るか、踏ん切りがつくかという問題だった。
「つがい」になるにはセックスが必要で、加えて発情期中でなければならないという条件が付く。
そしてその条件がそろっていると妊娠は不可避なのであるわけで……。
だから「妊娠したい」と「『つがい』になりたい」というふたつの決意は、同時にせねばならない。
そのハードルが、ひどく高い。
だって私、元の世界じゃまだ高校生だったんだ。成人すらしていない。
いや、既に結婚も妊娠もできる年齢だったけれども、でも私と同じ年でそれらを経験する人間は多くはない。
結婚も妊娠も「いずれするのかな?」くらいの、ぼんやりとした認識しか抱いていなかった。
強く「妊娠したい」だなんて思ったことは、なかった。
それが急に異世界に召喚されて、オメガとやらになって、早く「つがい」を作った方がいいなんて言われて――。
……改めて並べてみると、なかなか理不尽というか不条理というか……。
やっぱり神様ってやつは鬼畜だな! と目に見えない存在に対して悪態を吐く。
……もしかしたら、それが悪かったのかもしれない。
心の狭い神様は、それで私にバチを与えたのか、あるいは救いの手を与えたのか……。
真実はまさしく神のみぞ知る、といったところだろう。
ことは臥せっているあいだにすっかりインドア派になってしまったお姫様が、次の式典を前にしてぶーたれていたときのことである。
私といつもお姫様に付き従っている侍女さんは、どうにかお姫様の機嫌を取ろうと、あれやこれやと手を尽くしていた。
「この時期は庭の薔薇が綺麗に咲いていますから、気分転換に外へ出ましょう!」
と、言い出したのは私だった。
私だってできれば外には出たくない派である。けれどもさすがにまったく外へ出ないでいるのは精神衛生上よろしくない。
そういうわけで安易ではあったが、まあまあ安牌と言える選択であったと言えるだろう。
離宮――当たり前だが、私たちが最初に与えられた離宮とは別――の庭は、正確には庭園と言ってしまっていいくらいには、広大かつ豪奢だった。
庭園にはこの季節特有の柔らかい日差しが降り注ぎ、その下では豪華な薔薇の花々が咲き誇っている。
「この薔薇は殿下がお生まれになった年に作出されたもので……」
さながら学芸員のごとく薔薇の解説を始める私に対して、少しは興味が出てきたらしいお姫様は耳を傾けてくれた。
知識を総動員して必死に説明していたから、とも言い訳できるし、香りの強い花々に囲まれていたから、とも言い訳ができる。
……つまり私は、アルファの強烈なフェロモン臭に気づくのに遅れてしまったのだ。
最初に気づいたのは侍女さんだった。
「そこにいるのはだれですか?!」
庭園の隅でうごめいた陰を誰何した侍女さんは、サッとお姫様を背中に隠すようにして後ろに下がらせる。
私はびっくりして思わず体を硬直させたあと、頭だけをうごめく影へと向けた。
「ああ、すいません! 怪しいものではないのです! 少々、道に迷ってしまって――」
そう言いながら腕を軽く前に突き出した恰好で出てきたのは、きらびやかな容貌の男だった。
誠也くんが静かなたたずまいの白百合であれば、男は華やかな見た目の薔薇といったところだろう。
やや垂れ目がちの瞳が、心底困ったという色を持って、私の視線とぶつかった。
――その瞬間、私は腰砕けになって、その場に崩れ落ちるようにしてへたり込んでしまった。
「タマキ?! どうしたの?!」
びっくりしたらしいお姫様が、私に駆け寄って肩に手をやる。
侍女さんもお姫様の声に釣られたのか、レンガ敷きの地面に座り込んでしまった私を困惑の目で見下ろす。
強い、花の香りがした。鼻腔を突き上げるようなその香りに、脳がしびれて頭がクラクラとした。
体中がしびれてしまったかのようになって、周囲の声のひとつひとつに体がビリビリと反応するのがわかる。
「――おどろいた。こんなところで、出会うなんて……」
男の声が耳朶を打つ。途端にじんわりと、下着が濡れるのがわかった。子宮がうずくのがわかった。
そして唐突に私の頭の中で、「運命」の二文字が浮かんだ。
「お知り合いですか?」
侍女さんは警戒を解かずに男へ問いかける。
男は困惑した顔を向けながら、同じように困ったような顔をした侍女さんを見た。
「知り合いではありませんが……いや、どうも、私と彼女は――『運命』のようだ」
男の声が私の鼓膜を震わせる。
同時に体中に甘い刺激が吹き上がって、どうしようもなく切なくなった。
膣の奥から愛液が分泌され、それがどろりと膣口から流れ出る感覚が私を襲う。
理性が溶けて行きそうで――子宮が彼を求めていて――それがたまらなく――
――たまらなく、イヤだった。
「タマキ、大丈夫?」
「大丈夫、じゃないです……申し訳ありませ……」
「謝らなくていいの。辛いでしょう?」
「え?」
「あなた、発情期に入っているわ。恐らくアイツ――アルファと出会ったからね。きっと」
既に私と誠也くんとの仲を知っているお姫様は、どうも突如現れた男に対していい感情を持っていないようだった。
年の割にやや幼さが残るお姫様は、敵意に満ちた目で男を見る。
それに対して――当たり前だが――男はますます困惑の色を強くし、また身を縮こまらせているようだった。
「タマキ、発情期に入ったのなら危険だわ。今すぐ帰って――そうね、セイヤにも使いを出して呼び戻してあげるから」
「そ、それは――」
「遠慮しなくていいのよ! セイヤがいれば安心でしょ? タマキはセイヤと『つがい』になるんだものね」
だからお前――もちろん闖入者であるアルファの彼――の居場所はないんだぞとばかりに、お姫様は説明的なセリフをまくし立てた。
「殿下、この方は――」
「ここはわたしの離宮よ? 放り出してしまいなさいっ」
侍女さんの問いかけにお姫様は高らかと男の追放を言い放つ。
男はと言えば、このごちゃごちゃとした流れについて行けていないようで、私と視線が合うと肩をすくめられた。
そしてあれよあれよというあいだに、私は侍女さんに付き添われて自宅へ強制送還されてしまったのだった――。
誠也くんは巡礼の旅の最中はあれだけ妊娠がどうの将来設計はどうのと言っていたのに、ぴたりと口にしなくなってしまっていた。
そもそもが、会える時間が少ないのだ。
元の世界では多くの時間を同じ空間ですごしていた、と言っても過言ではないのだが、ここでは違う。
誠也くんにも私にも仕事があって、職場が違う。だから、必然的に顔を合わせるのは朝方の限られた時間と、夜のちょっと長いあいだだけだった。
働いているのだから当たり前だけれども、世の中の大人はそれでも恋に趣味にと生きているのだから、スゴイ。
私はお姫様のおしゃべりの相手――と聞くと一見楽そうだが、実際はそれなりに疲れる。
相手がお姫様だからというのもあるだろうけれども、背筋は常に美しくピンと張って、言葉遣いにも気をつかわなければならない。
他にも諸々、侍女さんと同じような仕事――お姫様の着替えだとか、茶葉を選んだりだとか――を手伝うこともある。
きっと、世の中の立派な大人からすれば「それくらいで疲れるの?」とか言われそうな気がしないでもない。
けれども慣れない仕事に心構え少なく放り込まれた私は、どうしても心の内ではヘタレたことを言ってしまうのだった。
これで私がおしゃべり大好き! な人間ならよかったが、現実は違う。
仲良くなった離宮のメイドさんやらなんやらから、毎日どこかしらから情報を仕入れてお姫様に披露する。
たまにお姫様に「あれはなに?」とか「これはどういうこと?」と聞かれたら、スマートに答えるのが望ましい。
答えられなくても別にペナルティなんかないが、心情的にはこうパッと答えたいのが人情ってやつだろう。
そういうわけで私はかつてないほど熱心に勉強していた。
元の世界でのテストなんかは授業を聞いて、テスト前にちょっと復習するくらいでそこそこの点が取れていたが、生活基盤に微妙な違いのあるこの世界ではちょっとしたことを知るにも苦労する。
本だけでは感覚とか、ニュアンスとかまでをつかみきれないのだ。
となると自然とあちらこちらに人脈を築いて、そこから生の情報を引き出す必然性が生まれてくる。
そういうのをまとめて仕事だと割り切っている部分はあるし、やりがいを感じることもある。お姫様に喜ばれるのは、単純にうれしいし。
けれどもやはり生来より引っ込み思案な私に、コミュニケーション力が試されるような仕事は、キツかった。
キツかったが、しかしそれ以外に仕事がない。家庭教師だってコミュニケーション能力が必要だ。
どちらにせよここで踏ん張って、頑張るしかない。
イヤじゃないけど、早く慣れないかな~慣れるのかな~と常に思っているのも事実だった。
そして仕事に奔走しているあいだに、誠也くんは妊娠がどうのと言わなくなった。
「今回の仕事はこれくらいになったよ」とかお給金については教えてくれるが、「『つがい』になりたい」とは言わなくなった。
恐らく私にプレッシャーを与えないためなんだろう。
ここで「誠也くんが心変わりした?!」とかあせらない私は、あんまり可愛げってやつがないのかもしれない。
でも誠也くんの性格を思えば、もし私以外の好きなひとができたら包み隠さず告白してきそうである。
それに私たちの将来のためのお金は、ちゃんと家に入れているわけだし。
じゃあ大丈夫だなと、ひとりごちつつも、気を使わせているという事実だけは変わらないので、やはりあせる。
いずれ答えは出さなければならないということは、わかっている。
その答えは「妊娠したくない」「『つがい』になりたくない」でもいいはずだったが、しかし私はその選択はしないだろうという確信があった。
要は勇気が出ないのである。
誠也くんとの子供はいずれは欲しいし、誠也くんと「つがい」にもなりたい。
その答えは既に出ていた。
あとはそれを言う勇気がいつ出るか、踏ん切りがつくかという問題だった。
「つがい」になるにはセックスが必要で、加えて発情期中でなければならないという条件が付く。
そしてその条件がそろっていると妊娠は不可避なのであるわけで……。
だから「妊娠したい」と「『つがい』になりたい」というふたつの決意は、同時にせねばならない。
そのハードルが、ひどく高い。
だって私、元の世界じゃまだ高校生だったんだ。成人すらしていない。
いや、既に結婚も妊娠もできる年齢だったけれども、でも私と同じ年でそれらを経験する人間は多くはない。
結婚も妊娠も「いずれするのかな?」くらいの、ぼんやりとした認識しか抱いていなかった。
強く「妊娠したい」だなんて思ったことは、なかった。
それが急に異世界に召喚されて、オメガとやらになって、早く「つがい」を作った方がいいなんて言われて――。
……改めて並べてみると、なかなか理不尽というか不条理というか……。
やっぱり神様ってやつは鬼畜だな! と目に見えない存在に対して悪態を吐く。
……もしかしたら、それが悪かったのかもしれない。
心の狭い神様は、それで私にバチを与えたのか、あるいは救いの手を与えたのか……。
真実はまさしく神のみぞ知る、といったところだろう。
ことは臥せっているあいだにすっかりインドア派になってしまったお姫様が、次の式典を前にしてぶーたれていたときのことである。
私といつもお姫様に付き従っている侍女さんは、どうにかお姫様の機嫌を取ろうと、あれやこれやと手を尽くしていた。
「この時期は庭の薔薇が綺麗に咲いていますから、気分転換に外へ出ましょう!」
と、言い出したのは私だった。
私だってできれば外には出たくない派である。けれどもさすがにまったく外へ出ないでいるのは精神衛生上よろしくない。
そういうわけで安易ではあったが、まあまあ安牌と言える選択であったと言えるだろう。
離宮――当たり前だが、私たちが最初に与えられた離宮とは別――の庭は、正確には庭園と言ってしまっていいくらいには、広大かつ豪奢だった。
庭園にはこの季節特有の柔らかい日差しが降り注ぎ、その下では豪華な薔薇の花々が咲き誇っている。
「この薔薇は殿下がお生まれになった年に作出されたもので……」
さながら学芸員のごとく薔薇の解説を始める私に対して、少しは興味が出てきたらしいお姫様は耳を傾けてくれた。
知識を総動員して必死に説明していたから、とも言い訳できるし、香りの強い花々に囲まれていたから、とも言い訳ができる。
……つまり私は、アルファの強烈なフェロモン臭に気づくのに遅れてしまったのだ。
最初に気づいたのは侍女さんだった。
「そこにいるのはだれですか?!」
庭園の隅でうごめいた陰を誰何した侍女さんは、サッとお姫様を背中に隠すようにして後ろに下がらせる。
私はびっくりして思わず体を硬直させたあと、頭だけをうごめく影へと向けた。
「ああ、すいません! 怪しいものではないのです! 少々、道に迷ってしまって――」
そう言いながら腕を軽く前に突き出した恰好で出てきたのは、きらびやかな容貌の男だった。
誠也くんが静かなたたずまいの白百合であれば、男は華やかな見た目の薔薇といったところだろう。
やや垂れ目がちの瞳が、心底困ったという色を持って、私の視線とぶつかった。
――その瞬間、私は腰砕けになって、その場に崩れ落ちるようにしてへたり込んでしまった。
「タマキ?! どうしたの?!」
びっくりしたらしいお姫様が、私に駆け寄って肩に手をやる。
侍女さんもお姫様の声に釣られたのか、レンガ敷きの地面に座り込んでしまった私を困惑の目で見下ろす。
強い、花の香りがした。鼻腔を突き上げるようなその香りに、脳がしびれて頭がクラクラとした。
体中がしびれてしまったかのようになって、周囲の声のひとつひとつに体がビリビリと反応するのがわかる。
「――おどろいた。こんなところで、出会うなんて……」
男の声が耳朶を打つ。途端にじんわりと、下着が濡れるのがわかった。子宮がうずくのがわかった。
そして唐突に私の頭の中で、「運命」の二文字が浮かんだ。
「お知り合いですか?」
侍女さんは警戒を解かずに男へ問いかける。
男は困惑した顔を向けながら、同じように困ったような顔をした侍女さんを見た。
「知り合いではありませんが……いや、どうも、私と彼女は――『運命』のようだ」
男の声が私の鼓膜を震わせる。
同時に体中に甘い刺激が吹き上がって、どうしようもなく切なくなった。
膣の奥から愛液が分泌され、それがどろりと膣口から流れ出る感覚が私を襲う。
理性が溶けて行きそうで――子宮が彼を求めていて――それがたまらなく――
――たまらなく、イヤだった。
「タマキ、大丈夫?」
「大丈夫、じゃないです……申し訳ありませ……」
「謝らなくていいの。辛いでしょう?」
「え?」
「あなた、発情期に入っているわ。恐らくアイツ――アルファと出会ったからね。きっと」
既に私と誠也くんとの仲を知っているお姫様は、どうも突如現れた男に対していい感情を持っていないようだった。
年の割にやや幼さが残るお姫様は、敵意に満ちた目で男を見る。
それに対して――当たり前だが――男はますます困惑の色を強くし、また身を縮こまらせているようだった。
「タマキ、発情期に入ったのなら危険だわ。今すぐ帰って――そうね、セイヤにも使いを出して呼び戻してあげるから」
「そ、それは――」
「遠慮しなくていいのよ! セイヤがいれば安心でしょ? タマキはセイヤと『つがい』になるんだものね」
だからお前――もちろん闖入者であるアルファの彼――の居場所はないんだぞとばかりに、お姫様は説明的なセリフをまくし立てた。
「殿下、この方は――」
「ここはわたしの離宮よ? 放り出してしまいなさいっ」
侍女さんの問いかけにお姫様は高らかと男の追放を言い放つ。
男はと言えば、このごちゃごちゃとした流れについて行けていないようで、私と視線が合うと肩をすくめられた。
そしてあれよあれよというあいだに、私は侍女さんに付き添われて自宅へ強制送還されてしまったのだった――。
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