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しばらくマサキとは会わない日々が続き、一ヶ月が過ぎた。
棗はひばりの言ったことを守り、できる限りひとりきりにはならないようにした。
その目論見は成功したのだろうか?
いつマサキが現れるのか、どこかビクビクとした日々を送っていた棗も、一ヶ月を過ぎれば気が緩み始める。
それがいけなかったのだろうか、再びマサキは棗の前に現れた。
ただし、それは夢の中の話だった。
「ナツメくん」
棗はマサキを避けているような自覚があったので、夢中とあっても彼に対して罪悪感を抱いた。
ひばりの言うことは、本当に正しいのだろうか?
マサキは本当に人外の存在なのだろうか?
そんなことを気まずく考えながら棗はマサキの前に所在なく立っていた。
「ナツメくん、俺のこと、キライになった?」
マサキのつんとしたネコ目が、今日は心なしかな下がっているような気がした。
マサキも棗と同じように気まずい気持ちなのかもしれない。
マサキなら、棗の心のありようを目ざとく察していてもおかしくはない――と棗は思う。
女子のようにもじもじと胸の前で両の指を絡めていじるマサキの姿は、やはりどこか芝居がかっているような気がした。
しかしそんなあざとい仕草を見ても、棗の胸に去来するのは不気味さばかりだ。
どこかわざとらしいマサキの所作。それは人外のものがヒトのフリをしているからなのではないだろうか。
そんな妄想をして、妄想がすぎると自分で自分を一笑するが、しかし一度抱いた疑念はとうてい簡単には払えなかった。
「ナツメくん……」
マサキはハッとしたような顔をしたあと、ネコ目を歪めて泣きそうな表情になる。
そんなマサキを見ていると、棗はなんだか悪いことをしているような気になった。
ひばりの言うことを鵜呑みにして、マサキを悪いものだと身勝手に断じてしまった自分。
そんな自分がひどい卑怯者のように感じられた。
「ナツメくん……」
「……ごめん」
棗は重苦しい空気に耐えかねてそれだけ口にした。
マサキの目を見られなかった。
自分の足元に視線を落とし、マサキから目をそらす。
すると、マサキの足先が棗の視界に入ってくる。
近づいてきた、と思うと同時に、まるで金縛りにでも遭ったかのように棗の体は感覚を失った。
ぞわぞわとしたものが背骨を伝って全身へと回り、キーンとした音が耳朶を打つ。
「俺、ナツメくんのこと好きって、言ったよね?」
「うん」という簡単な言葉すら棗の口からは出てこなかった。
マサキは棗に近づくと、その胸にそっと鼻先を押しつけ、次には頬をそわせた。
マサキから熱は感じられなかった。
かといって、冷たいという感覚もなく、不思議な感じだった。
触れているような、触れていないような――夢の中だからだろうか、いつもは感じられる肉感を、このときのマサキからは感じられない。
「ナツメくんは、俺のこと、キライ?」
嫌いではないし、嫌いになったわけではなかった。
不意にマサキとキスをしたことを思い出す。
それは短いあいだの出来事だったが、その柔らかな感触と温かな触れあいは、不確かな夢中にあってもまざまざと思い出せる。
マサキのことを思うと、きゅーっと胸が痛んだ。
気がつけばしびれるような体の感覚はどこかへ去っていた。
「ナツメく……!」
マサキの声が棗の腕阻まれて、くぐもる。
棗は、マサキを抱きしめていた。
心臓がドクドクと音を立てているのがわかる。
けれどもそれは、ひとりぶんだけしか感じられなかった。
それは夢の中だからなのか、それとも――。
しかし棗はそんなことはどうでもいい、と思った。
「マサキ、ごめん」
今度は、気まずさから出た言葉ではなかった。
ひばりの言葉に惑わされた自分を叱咤する声だった。
自分はマサキが好きだ。
身も世もなくそう言えるくらいに、彼のことが好きだ。
棗は唐突にそう思った。
「ナツメくん……」
どこか安堵した声が、棗の腕の中にいるマサキからこぼれた。
「マサキのこと、好きだ」
「うん……。知ってる」
マサキの顔にいつもの笑みが戻ったのを見て、棗はほっとした。
「ん……」
マサキの頬に手をやって、棗は彼の唇に口づけを落とす。
皮膚に包まれた柔らかな肉の感触に棗は酔い知れる。
何度も角度を変えてキスを降らせ、ついばむようにマサキの唇をはんだ。
マサキの口内へと棗は舌を押し入らせると同時に、彼の短いスカートの裾の下へと手を潜らせる。
女よりもずっと肉づきの悪い――けれども、棗にとっては魅惑の双丘をゆるゆると撫で上げる。
「んっ……んぅ……」
鼻にかかった声を出しながら、苦しそうに何度も息継ぎをするマサキ。
そんなマサキの呼気を飲み込むようにして、棗は彼の舌を自身の舌で絡め取る。
つるつるとした歯列をなぞり、歯肉をくすぐり、上顎の裏を舐め上げる。
そのたびにその感覚がこそばゆいのか、はてまた快楽を得ているのか、マサキの肩がびくびくと震えた。
棗はマサキの女物の下着を暴いて、そのアナルへと指を這わせる。
そこは女の膣のようにしっとりと濡れそぼっていた。
ぐいっと乱暴に指を挿入させると、マサキは背をそらして肩を揺らす。
「ん゛ぃ゛っ……♥♥♥」
反射的にきゅっと締まったマサキのアナルだったが、その内側はとろとろと蕩けており、優しく棗の指に絡みつく。
「あっ……♥ もお♥ ナツメくんたら、乱暴なんだから♥♥♥」
「こういうの、好きなんじゃないの?」
ぐりぐりとマサキのとろとろアナルの中で指を動かせば、彼の口からはかすれた甘い声が漏れ出る。
そして声に合わせてぎゅっぎゅっとマサキのアナルは蠕動した。
「はあ……♥ ナツメくんとこういうことするの好きだけど、今はダーメ♥」
そう言うや、マサキは棗の手首に指をかけると、「ん♥」と言ってズルリと棗の指をアナルから抜いた。
「ナツメくんの家に行くから……待ってて♥」
マサキは棗の首に腕をからめると、初めてキスをしたときのような、軽やかな口づけを送った。
棗はひばりの言ったことを守り、できる限りひとりきりにはならないようにした。
その目論見は成功したのだろうか?
いつマサキが現れるのか、どこかビクビクとした日々を送っていた棗も、一ヶ月を過ぎれば気が緩み始める。
それがいけなかったのだろうか、再びマサキは棗の前に現れた。
ただし、それは夢の中の話だった。
「ナツメくん」
棗はマサキを避けているような自覚があったので、夢中とあっても彼に対して罪悪感を抱いた。
ひばりの言うことは、本当に正しいのだろうか?
マサキは本当に人外の存在なのだろうか?
そんなことを気まずく考えながら棗はマサキの前に所在なく立っていた。
「ナツメくん、俺のこと、キライになった?」
マサキのつんとしたネコ目が、今日は心なしかな下がっているような気がした。
マサキも棗と同じように気まずい気持ちなのかもしれない。
マサキなら、棗の心のありようを目ざとく察していてもおかしくはない――と棗は思う。
女子のようにもじもじと胸の前で両の指を絡めていじるマサキの姿は、やはりどこか芝居がかっているような気がした。
しかしそんなあざとい仕草を見ても、棗の胸に去来するのは不気味さばかりだ。
どこかわざとらしいマサキの所作。それは人外のものがヒトのフリをしているからなのではないだろうか。
そんな妄想をして、妄想がすぎると自分で自分を一笑するが、しかし一度抱いた疑念はとうてい簡単には払えなかった。
「ナツメくん……」
マサキはハッとしたような顔をしたあと、ネコ目を歪めて泣きそうな表情になる。
そんなマサキを見ていると、棗はなんだか悪いことをしているような気になった。
ひばりの言うことを鵜呑みにして、マサキを悪いものだと身勝手に断じてしまった自分。
そんな自分がひどい卑怯者のように感じられた。
「ナツメくん……」
「……ごめん」
棗は重苦しい空気に耐えかねてそれだけ口にした。
マサキの目を見られなかった。
自分の足元に視線を落とし、マサキから目をそらす。
すると、マサキの足先が棗の視界に入ってくる。
近づいてきた、と思うと同時に、まるで金縛りにでも遭ったかのように棗の体は感覚を失った。
ぞわぞわとしたものが背骨を伝って全身へと回り、キーンとした音が耳朶を打つ。
「俺、ナツメくんのこと好きって、言ったよね?」
「うん」という簡単な言葉すら棗の口からは出てこなかった。
マサキは棗に近づくと、その胸にそっと鼻先を押しつけ、次には頬をそわせた。
マサキから熱は感じられなかった。
かといって、冷たいという感覚もなく、不思議な感じだった。
触れているような、触れていないような――夢の中だからだろうか、いつもは感じられる肉感を、このときのマサキからは感じられない。
「ナツメくんは、俺のこと、キライ?」
嫌いではないし、嫌いになったわけではなかった。
不意にマサキとキスをしたことを思い出す。
それは短いあいだの出来事だったが、その柔らかな感触と温かな触れあいは、不確かな夢中にあってもまざまざと思い出せる。
マサキのことを思うと、きゅーっと胸が痛んだ。
気がつけばしびれるような体の感覚はどこかへ去っていた。
「ナツメく……!」
マサキの声が棗の腕阻まれて、くぐもる。
棗は、マサキを抱きしめていた。
心臓がドクドクと音を立てているのがわかる。
けれどもそれは、ひとりぶんだけしか感じられなかった。
それは夢の中だからなのか、それとも――。
しかし棗はそんなことはどうでもいい、と思った。
「マサキ、ごめん」
今度は、気まずさから出た言葉ではなかった。
ひばりの言葉に惑わされた自分を叱咤する声だった。
自分はマサキが好きだ。
身も世もなくそう言えるくらいに、彼のことが好きだ。
棗は唐突にそう思った。
「ナツメくん……」
どこか安堵した声が、棗の腕の中にいるマサキからこぼれた。
「マサキのこと、好きだ」
「うん……。知ってる」
マサキの顔にいつもの笑みが戻ったのを見て、棗はほっとした。
「ん……」
マサキの頬に手をやって、棗は彼の唇に口づけを落とす。
皮膚に包まれた柔らかな肉の感触に棗は酔い知れる。
何度も角度を変えてキスを降らせ、ついばむようにマサキの唇をはんだ。
マサキの口内へと棗は舌を押し入らせると同時に、彼の短いスカートの裾の下へと手を潜らせる。
女よりもずっと肉づきの悪い――けれども、棗にとっては魅惑の双丘をゆるゆると撫で上げる。
「んっ……んぅ……」
鼻にかかった声を出しながら、苦しそうに何度も息継ぎをするマサキ。
そんなマサキの呼気を飲み込むようにして、棗は彼の舌を自身の舌で絡め取る。
つるつるとした歯列をなぞり、歯肉をくすぐり、上顎の裏を舐め上げる。
そのたびにその感覚がこそばゆいのか、はてまた快楽を得ているのか、マサキの肩がびくびくと震えた。
棗はマサキの女物の下着を暴いて、そのアナルへと指を這わせる。
そこは女の膣のようにしっとりと濡れそぼっていた。
ぐいっと乱暴に指を挿入させると、マサキは背をそらして肩を揺らす。
「ん゛ぃ゛っ……♥♥♥」
反射的にきゅっと締まったマサキのアナルだったが、その内側はとろとろと蕩けており、優しく棗の指に絡みつく。
「あっ……♥ もお♥ ナツメくんたら、乱暴なんだから♥♥♥」
「こういうの、好きなんじゃないの?」
ぐりぐりとマサキのとろとろアナルの中で指を動かせば、彼の口からはかすれた甘い声が漏れ出る。
そして声に合わせてぎゅっぎゅっとマサキのアナルは蠕動した。
「はあ……♥ ナツメくんとこういうことするの好きだけど、今はダーメ♥」
そう言うや、マサキは棗の手首に指をかけると、「ん♥」と言ってズルリと棗の指をアナルから抜いた。
「ナツメくんの家に行くから……待ってて♥」
マサキは棗の首に腕をからめると、初めてキスをしたときのような、軽やかな口づけを送った。
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