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間宮邸は、山中を切り拓いて造成したニュータウンの中にあった。
いわゆる高級住宅街の中でも、ひときわ立派な屋敷を構えているのが間宮邸である。
間宮によるとこの地域では緑化が推進されているらしく、どこの住宅の庭も木々に覆われていた。
そして空を見上げれば、電柱の類が一切ない。地中に埋設しているらしい。
その、自身の実家の周囲では見られない特別感に、一宏はひとり感心を覚える。
ほどなくしてたどり着いた間宮邸の門扉――一宏の背より高い――の前に立ち、一宏は庭先を覗き込んだ。
門扉からほどほどに距離のあるお屋敷に負けず劣らず立派な庭には、一宏にはひとつも名前のわからない、美しい花々が咲き誇っていた。
深呼吸を何度かしてから、インターホンのボタンを押す。
押したあとで、先に間宮へメッセージを送れば良かったかなと考えた。
けれどもそうするより先に、インターホンのスピーカーからくぐもった成人男性らしき声が聞こえてくる。
「はい」
「あの……間宮……荘一郎くんのクラスメイトの市井です。荘一郎くんのお見舞いに――」
「――ああ、はい。聞いてますよ。今、門を開けますから」
一宏が言葉をすべて言い切る前に、男の声はそう言ってインターホンを切ったようだった。
ぶつり、という音のあと、ガーッという駆動音が響いて、巨大な門扉が開く。
入ってもいい、ということなのだろう。
そう解釈して一宏はぎゅっと学校の指定鞄の取っ手を握り締めた。
玄関扉から顔を覗かせたのは、ひどく陰鬱そうな男だった。
黒ぶちのメガネの奥にある瞳はどこか生気を感じさせず、それが全体の印象に陰気な影響を及ぼしている。
年のころは三〇前後だろうか。一宏より年上であることは確実だ。
白いシャツに灰色のスラックス、黒いベルト。顔と同じように凡庸なイメージを与える、至極無難な服装。
一宏は彼が間宮の父親なのかと一瞬考えたが、すぐに違うだろうと否定する。
間宮とは歳が離れていることはたしかではあるが、父親と言うにはこの男の容貌は若々しすぎるように感じられたからだ。
そして一宏の疑念はすぐにほどけた。
「ああ、いらっしゃい……。……弟から話は聞いてます」
「あっ、あの、荘一郎くんの体調はどうですか……?」
「もう熱も引いてますし、だいぶ退屈しているみたいだから、ぜひ会って行って」
「あ、はい。それじゃ、お邪魔します……」
男――間宮の兄の声は、その形相に負けず劣らず憂鬱げな響きを持って一宏の耳に入った。
具合が悪いのかな、とも思ったが、そのようなことを聞けるような空気ではなかったので、一宏は口を閉ざす。
間宮兄に先導されてその背を追い、廊下を行きながら、一宏は間宮邸の内装の豪奢さに目を惹きつけられる。
どれほど金がかかっているのかはわからないが、廊下に備えつけられた小さなチェストを取っても、美しい木目が目を惹き、これは相当な値打ちものだろうということをうかがわせた。
――そういえば、お兄さんはなんで家にいるんだろう?
先ほどスマートフォンを見たときは、時計は一六時に差しかかろうとしていたところだった。
仕事が休みだった? 早引け? フレックスとか? ……まさか、無職じゃないだろうな。
そんな失礼なことを考えつつ、もう一度一宏は間宮兄の背を見やった。
やや猫背で、いかにも頼りなさげな撫で肩が気になる。
言ってはなんだが、あの美しい間宮の兄とは思えないほど、彼は冴えない、地味な印象の人間だった。
……まあそれも、母親似と父親似にわかれた結果なのだろうと一宏はひとりで納得する。
間宮兄に通されたのはこれまたよく整頓された、立派な応接室と思しき部屋だった。
チャコールグレーの革張りのソファがコの字型に並び、その中心にあるガラス張りのローテーブルには白いレースがかけられている。
沈みつつある日を背景に、影が差し込むその場所は、昼間であればずいぶんと日当たりが良さそうだ。
窓は大きく取られていて、繊細な模様を描くレースカーテンが掛かっている。
「今、弟を呼んできますので」
お高そうな白亜のティーポットと揃いのカップを二脚、ソーサーを二枚出し、間宮兄はそう言い置いて応接室から出て行った。
一宏はその背を見送り、パタンという扉が閉まる音を聞いてから、せっかくだからとポットに手を伸ばす。
一宏が来ると聞いて事前に用意をしておいたのだろう。
温かいポットの中身は、すっきりとしたさわやかな香りが立ち上る、ハーブティーのようだった。
貧困な感覚で、「オシャレだなあ」などと思いつつ、一宏はカップにハーブティーを注ぐ。
それからもしかしたらすぐに間宮がくるかもしれないと、しばらくカップには手をつけず待ってみた。
けれども、間宮は一向に姿を現さない。声も、足音も聞こえない。
手持ち無沙汰になった一宏は、カップに注いだハーブティーを何度か飲み干した。
そうしてポットがそれなりに軽くなったところで、飲みすぎた、と思った。
自然の摂理、尿意である。催してしまったのだ。
やばいな、と感じる頭の隅で、ハーブティーに利尿作用でもあったのかもしれないと考える。
けれども、その考えにいたるには少々遅すぎた。
そして間宮も来ない。
一宏は仕方なくソファから立ち上がり、応接室の扉に手をかけた。
――漏らすなんて言語道断だし、恥を忍んでトイレを借りよう……。
そう思って一宏は廊下に出る。
夕日に沈む廊下にできた影は、濃く黒い。
ポケットからスマートフォンを取り出して見れば、最後に時刻を確認してから四〇分は経っていた。
――間宮はどうしたのだろう?
そんな疑問を抱きつつ、うっすらと背後に迫り来る尿意に耐える。
――本当は僕と会いたくないとか?
不測の事態に見舞われて、そんな後ろ向きな感情が頭をもたげた。
ガガッ!
そんな音が扉越しに聞こえた。イスの脚を床で引きずったときのような音だ。
音がしたということは、この部屋には人がいるのだろう。そう考えて、一宏は重厚な外見の扉をノックしようとした。
ギッ!
もう一度イスの脚でフローリングの床を引っかくような音がして、一宏は扉をノックしようとした手を止める。
「――あっ……」
今しがた気づいたのだが、扉は完全には閉まっていない。
そのごくわずかな隙間から、声が漏れてきた。
やはり、この部屋には人がいるのだ。
しかし一宏はどうしても扉をノックすることができなかったし、ましてや部屋に入るなどというマネもできなかった。
「――ひぃんっ! イイっ……! そこぉっ、もっとお……!」
ギッギィッ!
イスの脚の裏が床を擦る音が断続的に響き渡る。
そしてそこに混じる、明らかな嬌声。
一宏は好奇心に屈してドアノブを握ると、自身の視線が通るぶんだけ扉を開いた。
そうしてから、一宏は後悔した。
下心はあった。恋人なんて面倒くさいと思っている一宏にも性欲はある。だから、そういうことにも興味はある。
おおかた、間宮兄がアダルトビデオを見ているとか、彼女か、あるいはメイドさん――いそうだが、いるかどうかは知らない――とそういうコトに及んでいるのだろうと考えた。
だから、一宏は深く考えずに部屋の中を覗いた。
――そして、後悔した。
「もっとっ……! もっとぉっ……! そこっ、ハメハメしてっ……! お願いっ、おちんぽずぼずぼしてぇっ……!」
まず目に入ったのは白い脚だった。
夕暮れの薄闇の中でも目を引く白い脚が、天井へ向かって爪先をぴんと伸ばしたまま、ゆらゆらと中空で揺れている。
次いで白いシャツをまとった背中が目についた。その背は丸まっていて、首から上は下を見ている。
そして丸まった背は、白い脚の持ち主の股を割り開いていた。
細くしなやかな白い脚と同じくらいの太さの腕が、脚の持ち主の腰をつかみ――乱暴な所作で自らの股のあいだに打ちつけていた。
「――んひぃぃっ! しゅごいっ! ちんぽっ! 俺の中でちんぽっ、びくびくしてるぅぅっ!」
イスの脚が床を擦れる音が響き渡る。
そのたびに白い脚はびくびくと痙攣し、ゆらゆらと爪先が中空を漂う。
聞くに堪えない下品な水音と共に、白い脚の持ち主が発する嬌声が、天井を打った。
「あひぃっ! イイのぉっ! そこっ、そこもっとズコズコしてっ……!」
黒々と磨き上げられた美しいテーブルの上に、彼はいた。
上半身は押し倒されて、パジャマなのだろうか、水色の服の前がはだけている。
上半身とは打って変わって、下にはなにもつけていない。
女よりも細い華奢な腰は男の手でつかまれていて、くねくねと身もだえしながらも逃げることを許されない。
伸びる足先は天井へと向いて、響き渡る下品な水音にあわせてゆらゆらと揺れている。
「あーっ! あーっ! イっちゃうっ! またイっちゃうよぉぉぉ――!」
男に向かって股を大きく開いている彼は――間宮は、兄とセックスしていた。
「お友達を待たせているのに……ずいぶんな乱れっぷりだな……」
「ああっ……! だってえ……おちんぽ欲しかったんだもん……」
そんな会話をしているあいだにも、間宮兄は間宮の股に向かって腰を打ちつけている。
そのたびに粘着質な水音が響き渡り、兄弟であるふたりが性行為をしているのは明白だった。
「お願い……中出しして……! また俺の中に射精してるおちんちん、感じたい……!」
間宮の物言いは普段の姿からは想像もつかないほど、下品で卑猥だった。
一宏の知る間宮は、いつだって物腰柔らかで、穏やかな言葉遣いをする人間だった。
その幻想が、ガラガラと音を立てて崩れて行く。
間宮は細腰をくねくねと動かし、間宮兄の股のあいだに擦りつける。
ふたりの呼吸は興奮した獣と同じだった。
間宮兄の腰の動きが速くなる。同時にその腕がぐいと間宮の腰を引き寄せた。
「――あ゛あ゛ぁ~~~~~~~~~っ!」
間宮のか細い嬌声が、長く響く。
背をそらせて白い喉を見せて、間宮は体をびくびくと跳ねさせた。
間宮兄の腰も止まる。小刻みにぷるぷると動いている。
今、間宮は兄に射精されている。
アナルを望んで犯されて、その直腸で兄の精液を受けている。
間宮は兄に股を開いて、犯されて、セックスをして、中出しされて、喜んでいる。
それを理解した一宏は、頭の中がぐちゃぐちゃになった。
美しい間宮、優しい間宮、だれもが羨望の目で見る優等生の間宮……。
それらは木っ端微塵に粉砕されて、臭い精液をぶっかけられた。そんな気分だった。
駅のホームでスマートフォンが震えた。
『用事を思い出したから帰るね。ごめん』――そんな苦し紛れの一宏のメッセージに、『そうなんだ~。今日はきてくれてありがとう♪ またあした学校でね!』……間宮はいつもと同じような調子で返信を送ってきた。
一宏にはわからなかった。
先ほど見た光景が現実だったのか、あるいは白昼夢のようなものだったのか――。
ただひとつたしかなのは、ホームベンチに座る一宏の、膝に置いた通学鞄の下に硬く勃起したペニスがあるという事実だけだった。
いわゆる高級住宅街の中でも、ひときわ立派な屋敷を構えているのが間宮邸である。
間宮によるとこの地域では緑化が推進されているらしく、どこの住宅の庭も木々に覆われていた。
そして空を見上げれば、電柱の類が一切ない。地中に埋設しているらしい。
その、自身の実家の周囲では見られない特別感に、一宏はひとり感心を覚える。
ほどなくしてたどり着いた間宮邸の門扉――一宏の背より高い――の前に立ち、一宏は庭先を覗き込んだ。
門扉からほどほどに距離のあるお屋敷に負けず劣らず立派な庭には、一宏にはひとつも名前のわからない、美しい花々が咲き誇っていた。
深呼吸を何度かしてから、インターホンのボタンを押す。
押したあとで、先に間宮へメッセージを送れば良かったかなと考えた。
けれどもそうするより先に、インターホンのスピーカーからくぐもった成人男性らしき声が聞こえてくる。
「はい」
「あの……間宮……荘一郎くんのクラスメイトの市井です。荘一郎くんのお見舞いに――」
「――ああ、はい。聞いてますよ。今、門を開けますから」
一宏が言葉をすべて言い切る前に、男の声はそう言ってインターホンを切ったようだった。
ぶつり、という音のあと、ガーッという駆動音が響いて、巨大な門扉が開く。
入ってもいい、ということなのだろう。
そう解釈して一宏はぎゅっと学校の指定鞄の取っ手を握り締めた。
玄関扉から顔を覗かせたのは、ひどく陰鬱そうな男だった。
黒ぶちのメガネの奥にある瞳はどこか生気を感じさせず、それが全体の印象に陰気な影響を及ぼしている。
年のころは三〇前後だろうか。一宏より年上であることは確実だ。
白いシャツに灰色のスラックス、黒いベルト。顔と同じように凡庸なイメージを与える、至極無難な服装。
一宏は彼が間宮の父親なのかと一瞬考えたが、すぐに違うだろうと否定する。
間宮とは歳が離れていることはたしかではあるが、父親と言うにはこの男の容貌は若々しすぎるように感じられたからだ。
そして一宏の疑念はすぐにほどけた。
「ああ、いらっしゃい……。……弟から話は聞いてます」
「あっ、あの、荘一郎くんの体調はどうですか……?」
「もう熱も引いてますし、だいぶ退屈しているみたいだから、ぜひ会って行って」
「あ、はい。それじゃ、お邪魔します……」
男――間宮の兄の声は、その形相に負けず劣らず憂鬱げな響きを持って一宏の耳に入った。
具合が悪いのかな、とも思ったが、そのようなことを聞けるような空気ではなかったので、一宏は口を閉ざす。
間宮兄に先導されてその背を追い、廊下を行きながら、一宏は間宮邸の内装の豪奢さに目を惹きつけられる。
どれほど金がかかっているのかはわからないが、廊下に備えつけられた小さなチェストを取っても、美しい木目が目を惹き、これは相当な値打ちものだろうということをうかがわせた。
――そういえば、お兄さんはなんで家にいるんだろう?
先ほどスマートフォンを見たときは、時計は一六時に差しかかろうとしていたところだった。
仕事が休みだった? 早引け? フレックスとか? ……まさか、無職じゃないだろうな。
そんな失礼なことを考えつつ、もう一度一宏は間宮兄の背を見やった。
やや猫背で、いかにも頼りなさげな撫で肩が気になる。
言ってはなんだが、あの美しい間宮の兄とは思えないほど、彼は冴えない、地味な印象の人間だった。
……まあそれも、母親似と父親似にわかれた結果なのだろうと一宏はひとりで納得する。
間宮兄に通されたのはこれまたよく整頓された、立派な応接室と思しき部屋だった。
チャコールグレーの革張りのソファがコの字型に並び、その中心にあるガラス張りのローテーブルには白いレースがかけられている。
沈みつつある日を背景に、影が差し込むその場所は、昼間であればずいぶんと日当たりが良さそうだ。
窓は大きく取られていて、繊細な模様を描くレースカーテンが掛かっている。
「今、弟を呼んできますので」
お高そうな白亜のティーポットと揃いのカップを二脚、ソーサーを二枚出し、間宮兄はそう言い置いて応接室から出て行った。
一宏はその背を見送り、パタンという扉が閉まる音を聞いてから、せっかくだからとポットに手を伸ばす。
一宏が来ると聞いて事前に用意をしておいたのだろう。
温かいポットの中身は、すっきりとしたさわやかな香りが立ち上る、ハーブティーのようだった。
貧困な感覚で、「オシャレだなあ」などと思いつつ、一宏はカップにハーブティーを注ぐ。
それからもしかしたらすぐに間宮がくるかもしれないと、しばらくカップには手をつけず待ってみた。
けれども、間宮は一向に姿を現さない。声も、足音も聞こえない。
手持ち無沙汰になった一宏は、カップに注いだハーブティーを何度か飲み干した。
そうしてポットがそれなりに軽くなったところで、飲みすぎた、と思った。
自然の摂理、尿意である。催してしまったのだ。
やばいな、と感じる頭の隅で、ハーブティーに利尿作用でもあったのかもしれないと考える。
けれども、その考えにいたるには少々遅すぎた。
そして間宮も来ない。
一宏は仕方なくソファから立ち上がり、応接室の扉に手をかけた。
――漏らすなんて言語道断だし、恥を忍んでトイレを借りよう……。
そう思って一宏は廊下に出る。
夕日に沈む廊下にできた影は、濃く黒い。
ポケットからスマートフォンを取り出して見れば、最後に時刻を確認してから四〇分は経っていた。
――間宮はどうしたのだろう?
そんな疑問を抱きつつ、うっすらと背後に迫り来る尿意に耐える。
――本当は僕と会いたくないとか?
不測の事態に見舞われて、そんな後ろ向きな感情が頭をもたげた。
ガガッ!
そんな音が扉越しに聞こえた。イスの脚を床で引きずったときのような音だ。
音がしたということは、この部屋には人がいるのだろう。そう考えて、一宏は重厚な外見の扉をノックしようとした。
ギッ!
もう一度イスの脚でフローリングの床を引っかくような音がして、一宏は扉をノックしようとした手を止める。
「――あっ……」
今しがた気づいたのだが、扉は完全には閉まっていない。
そのごくわずかな隙間から、声が漏れてきた。
やはり、この部屋には人がいるのだ。
しかし一宏はどうしても扉をノックすることができなかったし、ましてや部屋に入るなどというマネもできなかった。
「――ひぃんっ! イイっ……! そこぉっ、もっとお……!」
ギッギィッ!
イスの脚の裏が床を擦る音が断続的に響き渡る。
そしてそこに混じる、明らかな嬌声。
一宏は好奇心に屈してドアノブを握ると、自身の視線が通るぶんだけ扉を開いた。
そうしてから、一宏は後悔した。
下心はあった。恋人なんて面倒くさいと思っている一宏にも性欲はある。だから、そういうことにも興味はある。
おおかた、間宮兄がアダルトビデオを見ているとか、彼女か、あるいはメイドさん――いそうだが、いるかどうかは知らない――とそういうコトに及んでいるのだろうと考えた。
だから、一宏は深く考えずに部屋の中を覗いた。
――そして、後悔した。
「もっとっ……! もっとぉっ……! そこっ、ハメハメしてっ……! お願いっ、おちんぽずぼずぼしてぇっ……!」
まず目に入ったのは白い脚だった。
夕暮れの薄闇の中でも目を引く白い脚が、天井へ向かって爪先をぴんと伸ばしたまま、ゆらゆらと中空で揺れている。
次いで白いシャツをまとった背中が目についた。その背は丸まっていて、首から上は下を見ている。
そして丸まった背は、白い脚の持ち主の股を割り開いていた。
細くしなやかな白い脚と同じくらいの太さの腕が、脚の持ち主の腰をつかみ――乱暴な所作で自らの股のあいだに打ちつけていた。
「――んひぃぃっ! しゅごいっ! ちんぽっ! 俺の中でちんぽっ、びくびくしてるぅぅっ!」
イスの脚が床を擦れる音が響き渡る。
そのたびに白い脚はびくびくと痙攣し、ゆらゆらと爪先が中空を漂う。
聞くに堪えない下品な水音と共に、白い脚の持ち主が発する嬌声が、天井を打った。
「あひぃっ! イイのぉっ! そこっ、そこもっとズコズコしてっ……!」
黒々と磨き上げられた美しいテーブルの上に、彼はいた。
上半身は押し倒されて、パジャマなのだろうか、水色の服の前がはだけている。
上半身とは打って変わって、下にはなにもつけていない。
女よりも細い華奢な腰は男の手でつかまれていて、くねくねと身もだえしながらも逃げることを許されない。
伸びる足先は天井へと向いて、響き渡る下品な水音にあわせてゆらゆらと揺れている。
「あーっ! あーっ! イっちゃうっ! またイっちゃうよぉぉぉ――!」
男に向かって股を大きく開いている彼は――間宮は、兄とセックスしていた。
「お友達を待たせているのに……ずいぶんな乱れっぷりだな……」
「ああっ……! だってえ……おちんぽ欲しかったんだもん……」
そんな会話をしているあいだにも、間宮兄は間宮の股に向かって腰を打ちつけている。
そのたびに粘着質な水音が響き渡り、兄弟であるふたりが性行為をしているのは明白だった。
「お願い……中出しして……! また俺の中に射精してるおちんちん、感じたい……!」
間宮の物言いは普段の姿からは想像もつかないほど、下品で卑猥だった。
一宏の知る間宮は、いつだって物腰柔らかで、穏やかな言葉遣いをする人間だった。
その幻想が、ガラガラと音を立てて崩れて行く。
間宮は細腰をくねくねと動かし、間宮兄の股のあいだに擦りつける。
ふたりの呼吸は興奮した獣と同じだった。
間宮兄の腰の動きが速くなる。同時にその腕がぐいと間宮の腰を引き寄せた。
「――あ゛あ゛ぁ~~~~~~~~~っ!」
間宮のか細い嬌声が、長く響く。
背をそらせて白い喉を見せて、間宮は体をびくびくと跳ねさせた。
間宮兄の腰も止まる。小刻みにぷるぷると動いている。
今、間宮は兄に射精されている。
アナルを望んで犯されて、その直腸で兄の精液を受けている。
間宮は兄に股を開いて、犯されて、セックスをして、中出しされて、喜んでいる。
それを理解した一宏は、頭の中がぐちゃぐちゃになった。
美しい間宮、優しい間宮、だれもが羨望の目で見る優等生の間宮……。
それらは木っ端微塵に粉砕されて、臭い精液をぶっかけられた。そんな気分だった。
駅のホームでスマートフォンが震えた。
『用事を思い出したから帰るね。ごめん』――そんな苦し紛れの一宏のメッセージに、『そうなんだ~。今日はきてくれてありがとう♪ またあした学校でね!』……間宮はいつもと同じような調子で返信を送ってきた。
一宏にはわからなかった。
先ほど見た光景が現実だったのか、あるいは白昼夢のようなものだったのか――。
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