9 / 11
(9)
しおりを挟む
Subとパートナー契約を結んだDomは、その証としてCollar……すなわち首輪を贈ることが多い。
私の場合は首輪そのまんまを贈るのには未だに抵抗感があるので、ネックレスを贈っていた。異世界人の場合はそうしてネックレスなどのアクセサリーをCollarの代替とすることが多いらしい。
もちろん四人も私から贈られた、Collar代わりのネックレスを常に身に着けている。メンテナンスも欠かさず、それを大切にしていることを私は知っていた。くすぐったいが、温かい気持ちになる――。
ところがある日、ユージンがいつも冷静な彼にしては珍しく、泣きそうな顔をして私の元にやってきた。
――ハナコにネックレスを奪われた。
か細い声でそう告げたユージンの言葉に、そばにいたアダムとエイブラムがぎょっとした顔になる。付き添ってやってきたユーインも、いつもの飄々とした表情はどこへやら、険しい顔つきで双子の兄の背を撫でながら言葉を継ぐ。
「取り返そうと思ったんだけど~……Glareを使われそうになってオレたちじゃどうしようもできなくて。っていうかまたオレとユージンのこと間違えて奪っていったみたい」
「はあ? ネックレス奪ったって……Collar代わりだって知ってて……?」
「わからない……。けど、ごめんヒメコ……せっかくヒメコがくれたのに……」
アダムとエイブラムも、華子の行動に言葉も無いといった顔をしつつ、私の様子をうかがうような目をする。
私は――
「ちょっと華子のところに行ってくる」
我慢の限界だった。
「え?!」
四人からおどろきの声が上がるが、それはもう私の背の後ろになっていた。
ユージンとユーインの前の授業は魔法実践だったので、実践室の近くに華子がいるのではないかと思い、ぐんぐんと走って向かう。途中途中、ぎょっとしたような顔で生徒たちが私を見たが、気にはならなかった。
実践室の近くに華子がいなければ、聞き込みをすればいい。次の授業に間に合うかなんてどうでもいい。なんだったら、次の授業が始まるタイミングで教室に入ってくるだろう華子を待ち伏せることだってやむなしだ。
私の頭は熱くなっているどころか、熱さを通り越して冷え切っていた。
――華子のことが許せなかった。私の大切なパートナーからCollarを奪い、悲しませたことは、並大抵のことでは許せない。
こんな激情が己の中で渦巻いていることにおどろきながらも、私は実践室へと向かって走って行く。
華子にはこれまでもちまちまとした嫌がらせをされていた。と言ってもありもしない噂話を流される程度だったので、まったく相手にもしていなかったが。
もしかしたらなにも言ってこないのをいいことに、つけ上がったが、あるいは我慢ならなくなって強行手段に出たか……。
今はどちらでもよかった。どちらであろうと、華子がユージンから私のパートナーである証を奪ったことに変わりはない。
それは、天地が引っくり返っても許しがたいことだ。
「華子」
よく見覚えのある華子の背中を見つけて、私は足を止め、彼女の名を呼んだ。
無防備にこちらを振り返った華子の右手には、ネックレスがある。間違えようもない。私がユージンのために選び、贈った、Collar代わりのネックレス。それを華子が持っていることが、筆舌に尽くしがたいほど許せなかった。
私は心の隅でその激情に戸惑う。しかし、じきに激情によってその戸惑いも流されて行く。
「あ、あんた! よくもこんな安っぽいCollarモドキでユーインのことを縛れるわね?! わたし、びっくりしちゃった! だってこんなゴミみたいな――」
「――黙れ」
ユージンとユーインの区別もつかないのに、未だユーインに執着している華子。その事実を突き付けられると、どうにも我慢が利かなかった。
同時に、私は華子に向かってほとんど無意識のうちにGlareを放っていた。
私たちを取り囲んでいた野次馬たちが、それを受けて一歩二歩……と外側へと下がり、散って行く。
加減なし、容赦なしの、私が出せる全開のGlare。
それを受けた華子は、その場で失神こそしなかったものの、床に向かって嘔吐した。
苦しそうに胃と胸の辺りを押さえて、真っ青な顔をしてげえげえとえづいている。
私はそんな哀れな華子の姿を軽蔑の目で見ながら、彼女に近づいた。
Glareは出しっぱなしだったから、華子の顔は青を通り越して紙のように白くなる。
でも、どうでもよかった。
華子の手からネックレスを奪う。幸いにも吐瀉物にはまみれていなかった。華子なんぞの吐瀉物で汚されていたら、なにをしていたかわからないので、これは彼女にとっても幸いなことだろう。
「こ、ころさないれ……」
いつの間にか鼻からも吐瀉物を流し、涙でぐちゃぐちゃになった汚い顔の華子が命乞いをする。その醜悪さには思わず目を背けたくなる。
が、私はあえて華子を見続けた。Glareを弱めずに。
そして言った。
「殺さない。でも一発殴らせて」
華子が了承の意思を示す前に、私は彼女の頬に拳を打ち入れた。
華子は今度こそ意識を手放して、床に広がる己が垂れ流した吐瀉物の中に倒れ込んだ。
私の場合は首輪そのまんまを贈るのには未だに抵抗感があるので、ネックレスを贈っていた。異世界人の場合はそうしてネックレスなどのアクセサリーをCollarの代替とすることが多いらしい。
もちろん四人も私から贈られた、Collar代わりのネックレスを常に身に着けている。メンテナンスも欠かさず、それを大切にしていることを私は知っていた。くすぐったいが、温かい気持ちになる――。
ところがある日、ユージンがいつも冷静な彼にしては珍しく、泣きそうな顔をして私の元にやってきた。
――ハナコにネックレスを奪われた。
か細い声でそう告げたユージンの言葉に、そばにいたアダムとエイブラムがぎょっとした顔になる。付き添ってやってきたユーインも、いつもの飄々とした表情はどこへやら、険しい顔つきで双子の兄の背を撫でながら言葉を継ぐ。
「取り返そうと思ったんだけど~……Glareを使われそうになってオレたちじゃどうしようもできなくて。っていうかまたオレとユージンのこと間違えて奪っていったみたい」
「はあ? ネックレス奪ったって……Collar代わりだって知ってて……?」
「わからない……。けど、ごめんヒメコ……せっかくヒメコがくれたのに……」
アダムとエイブラムも、華子の行動に言葉も無いといった顔をしつつ、私の様子をうかがうような目をする。
私は――
「ちょっと華子のところに行ってくる」
我慢の限界だった。
「え?!」
四人からおどろきの声が上がるが、それはもう私の背の後ろになっていた。
ユージンとユーインの前の授業は魔法実践だったので、実践室の近くに華子がいるのではないかと思い、ぐんぐんと走って向かう。途中途中、ぎょっとしたような顔で生徒たちが私を見たが、気にはならなかった。
実践室の近くに華子がいなければ、聞き込みをすればいい。次の授業に間に合うかなんてどうでもいい。なんだったら、次の授業が始まるタイミングで教室に入ってくるだろう華子を待ち伏せることだってやむなしだ。
私の頭は熱くなっているどころか、熱さを通り越して冷え切っていた。
――華子のことが許せなかった。私の大切なパートナーからCollarを奪い、悲しませたことは、並大抵のことでは許せない。
こんな激情が己の中で渦巻いていることにおどろきながらも、私は実践室へと向かって走って行く。
華子にはこれまでもちまちまとした嫌がらせをされていた。と言ってもありもしない噂話を流される程度だったので、まったく相手にもしていなかったが。
もしかしたらなにも言ってこないのをいいことに、つけ上がったが、あるいは我慢ならなくなって強行手段に出たか……。
今はどちらでもよかった。どちらであろうと、華子がユージンから私のパートナーである証を奪ったことに変わりはない。
それは、天地が引っくり返っても許しがたいことだ。
「華子」
よく見覚えのある華子の背中を見つけて、私は足を止め、彼女の名を呼んだ。
無防備にこちらを振り返った華子の右手には、ネックレスがある。間違えようもない。私がユージンのために選び、贈った、Collar代わりのネックレス。それを華子が持っていることが、筆舌に尽くしがたいほど許せなかった。
私は心の隅でその激情に戸惑う。しかし、じきに激情によってその戸惑いも流されて行く。
「あ、あんた! よくもこんな安っぽいCollarモドキでユーインのことを縛れるわね?! わたし、びっくりしちゃった! だってこんなゴミみたいな――」
「――黙れ」
ユージンとユーインの区別もつかないのに、未だユーインに執着している華子。その事実を突き付けられると、どうにも我慢が利かなかった。
同時に、私は華子に向かってほとんど無意識のうちにGlareを放っていた。
私たちを取り囲んでいた野次馬たちが、それを受けて一歩二歩……と外側へと下がり、散って行く。
加減なし、容赦なしの、私が出せる全開のGlare。
それを受けた華子は、その場で失神こそしなかったものの、床に向かって嘔吐した。
苦しそうに胃と胸の辺りを押さえて、真っ青な顔をしてげえげえとえづいている。
私はそんな哀れな華子の姿を軽蔑の目で見ながら、彼女に近づいた。
Glareは出しっぱなしだったから、華子の顔は青を通り越して紙のように白くなる。
でも、どうでもよかった。
華子の手からネックレスを奪う。幸いにも吐瀉物にはまみれていなかった。華子なんぞの吐瀉物で汚されていたら、なにをしていたかわからないので、これは彼女にとっても幸いなことだろう。
「こ、ころさないれ……」
いつの間にか鼻からも吐瀉物を流し、涙でぐちゃぐちゃになった汚い顔の華子が命乞いをする。その醜悪さには思わず目を背けたくなる。
が、私はあえて華子を見続けた。Glareを弱めずに。
そして言った。
「殺さない。でも一発殴らせて」
華子が了承の意思を示す前に、私は彼女の頬に拳を打ち入れた。
華子は今度こそ意識を手放して、床に広がる己が垂れ流した吐瀉物の中に倒れ込んだ。
0
お気に入りに追加
51
あなたにおすすめの小説
旦那様が多すぎて困っています!? 〜逆ハー異世界ラブコメ〜
ことりとりとん
恋愛
男女比8:1の逆ハーレム異世界に転移してしまった女子大生・大森泉
転移早々旦那さんが6人もできて、しかも魔力無限チートがあると教えられて!?
のんびりまったり暮らしたいのにいつの間にか国を救うハメになりました……
イケメン山盛りの逆ハーです
前半はラブラブまったりの予定。後半で主人公が頑張ります
小説家になろう、カクヨムに転載しています
男女比崩壊世界で逆ハーレムを
クロウ
ファンタジー
いつからか女性が中々生まれなくなり、人口は徐々に減少する。
国は女児が生まれたら報告するようにと各地に知らせを出しているが、自身の配偶者にするためにと出生を報告しない事例も少なくない。
女性の誘拐、売買、監禁は厳しく取り締まられている。
地下に監禁されていた主人公を救ったのはフロムナード王国の最精鋭部隊と呼ばれる黒龍騎士団。
線の細い男、つまり細マッチョが好まれる世界で彼らのような日々身体を鍛えてムキムキな人はモテない。
しかし転生者たる主人公にはその好みには当てはまらないようで・・・・
更新再開。頑張って更新します。
男女比が偏っている異世界に転移して逆ハーレムを築いた、その後の話
やなぎ怜
恋愛
花嫁探しのために異世界から集団で拉致されてきた少女たちのひとりであるユーリ。それがハルの妻である。色々あって学生結婚し、ハルより年上のユーリはすでに学園を卒業している。この世界は著しく男女比が偏っているから、ユーリには他にも夫がいる。ならば負けないようにストレートに好意を示すべきだが、スラム育ちで口が悪いハルは素直な感情表現を苦手としており、そのことをもどかしく思っていた。そんな中でも、妊娠適正年齢の始まりとして定められている二〇歳の誕生日――有り体に言ってしまえば「子作り解禁日」をユーリが迎える日は近づく。それとは別に、ユーリたち拉致被害者が元の世界に帰れるかもしれないという噂も立ち……。
順風満帆に見えた一家に、ささやかな波風が立つ二日間のお話。
※作品の性質上、露骨に性的な話題が出てきます。
二度目の人生は異世界で溺愛されています
ノッポ
恋愛
私はブラック企業で働く彼氏ナシのおひとりさまアラフォー会社員だった。
ある日 信号で轢かれそうな男の子を助けたことがキッカケで異世界に行くことに。
加護とチート有りな上に超絶美少女にまでしてもらったけど……中身は今まで喪女の地味女だったので周りの環境変化にタジタジ。
おまけに女性が少ない世界のため
夫をたくさん持つことになりー……
周りに流されて愛されてつつ たまに前世の知識で少しだけ生活を改善しながら異世界で生きていくお話。
男女比がおかしい世界にオタクが放り込まれました
かたつむり
恋愛
主人公の本条 まつりはある日目覚めたら男女比が40:1の世界に転生してしまっていた。
「日本」とは似てるようで違う世界。なんてったって私の推しキャラが存在してない。生きていけるのか????私。無理じゃね?
周りの溺愛具合にちょっぴり引きつつ、なんだかんだで楽しく過ごしたが、高校に入学するとそこには前世の推しキャラそっくりの男の子。まじかよやったぜ。
※この作品の人物および設定は完全フィクションです
※特に内容に影響が無ければサイレント編集しています。
※一応短編にはしていますがノープランなのでどうなるかわかりません。(2021/8/16 長編に変更しました。)
※処女作ですのでご指摘等頂けると幸いです。
※作者の好みで出来ておりますのでご都合展開しかないと思われます。ご了承下さい。
気付いたら異世界の娼館に売られていたけど、なんだかんだ美男子に救われる話。
sorato
恋愛
20歳女、東京出身。親も彼氏もおらずブラック企業で働く日和は、ある日突然異世界へと転移していた。それも、気を失っている内に。
気付いたときには既に娼館に売られた後。娼館の店主にお薦め客候補の姿絵を見せられるが、どの客も生理的に受け付けない男ばかり。そんな中、日和が目をつけたのは絶世の美男子であるヨルクという男で――……。
※男は太っていて脂ぎっている方がより素晴らしいとされ、女は細く印象の薄い方がより美しいとされる美醜逆転的な概念の異世界でのお話です。
!直接的な行為の描写はありませんが、そういうことを匂わす言葉はたくさん出てきますのでR15指定しています。苦手な方はバックしてください。
※小説家になろうさんでも投稿しています。
異世界転生先で溺愛されてます!
目玉焼きはソース
恋愛
異世界転生した18歳のエマが転生先で色々なタイプのイケメンたちから溺愛される話。
・男性のみ美醜逆転した世界
・一妻多夫制
・一応R指定にしてます
⚠️一部、差別的表現・暴力的表現が入るかもしれません
タグは追加していきます。
女性の少ない異世界に生まれ変わったら
Azuki
恋愛
高校に登校している途中、道路に飛び出した子供を助ける形でトラックに轢かれてそのまま意識を失った私。
目を覚ますと、私はベッドに寝ていて、目の前にも周りにもイケメン、イケメン、イケメンだらけーーー!?
なんと私は幼女に生まれ変わっており、しかもお嬢様だった!!
ーーやった〜!勝ち組人生来た〜〜〜!!!
そう、心の中で思いっきり歓喜していた私だけど、この世界はとんでもない世界で・・・!?
これは、女性が圧倒的に少ない異世界に転生した私が、家族や周りから溺愛されながら様々な問題を解決して、更に溺愛されていく物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる