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人間という生物は大雑把に男女でわけられる。この場合、私は女ということになる。
しかし異世界では、性別とは男女でわけるもの以外に、DomとSub、そしてどちらにでもなれるSwitchと、いずれでもないUsualにわけることができる。この場合、私はDomということになる。
Domの最大の特徴は、Subを支配したいという欲求を持つこと。Subはまた、Domに支配されたいという欲求を持つ。
そしてその欲求は薬でいくらか散らせられるものの、解消されなければ心身ともに支障をきたす。欲求が満たされなければ、最悪の場合、発狂することもありうる。
ゆえにDomにはSubが必要で、その逆もまたしかり。
よって――突然異世界に拉致された上、Domとかいう性別を勝手に与えられた私は、Sub性を持つ人間と特殊なコミュニケーション……Playをしなければならなくなった。
PlayとはDomとSubの間でなされるコミュニケーション。DomがSubを躾たり、場合によってはお仕置きしたり、あるいは褒めたりといった、信頼関係を構築するコミュニケーション。
早い話がSMであった。つまり私は遥々拉致された異世界で「SM女王になれ」と言われたようなものだった。
心境としては「勇者になれ」とか「魔王を倒せ」と言われるよりはマシではあったが、それは相対的な評価に過ぎない。
「Subとパートナー契約を結ぶだけで国から給付金が出ます!」とか高らかに告げられても、その気になれというほうがだいぶ、かなり、無茶であった。
けれどもDomとなってしまった事実は変えられないらしく、パートナー契約までは行かずとも、Playに付き合ってくれるSubを見つけなければDomであるこちらは最悪、欲求不満をこじらせて発狂してしまう。
なぜこんな犯罪まがいどころか、立派な犯罪を国ぐるみでしているのかと言えば、単純にSubの数に対してDomの数が少ないからであった。
ややこしいことに、この世界には男女という性別、Dom・Sub・Switch・Usualという性別以外に、魔法使いと非魔法使いというまた違った分類法が存在している。
一般人であるUsualはおしなべて魔法が使えない。魔法という奇跡を扱えるのは、Usual以外の性別を持つ人間に限られていた。
だがそのエリートたちはいかんせん絶対数が少ない上に、DomよりもSubが多い。
そして魔法というものはメンタル面の度合いによって大いにクオリティが左右されるものらしく、Playをするパートナーを持たない魔法使いが大成するのは難しいと言う。
国力を安定させるためには魔法使いの存在は必須。しかしSubのパートナーを務められるDomはSubよりも少ない……。ちなみにどちらにでもなれるSwitchは存在はするものの、Domよりも遥かに少ない。
異世界人拉致は裏技のようなものだった。
こちらの世界へ異世界人を召喚すれば、強制的にその世界の法則に沿うように、喚ばれた異世界人の肉体は「変換」される――。
そんな「異世界人ガチャ」とでも言うべき現象を利用して、Domに「変換」された異世界人だけをこの世界に引き留め、Subとパートナー契約を交わさせる。
ハッキリ言って、クソであった。
Dom性かSwitch性だと判明した時点で、元の世界へ戻してもらうという選択肢は消失する。
クソであった。
けれどもこの「異世界人ガチャ」で排出――ではなく拉致される人間の条件は、ご丁寧に絞ってある。
「どこか異世界へ行ってしまいたい」
そんなことを考えている異世界人だけを選りすぐって召喚している。まあ、そんな風に召喚に条件を付与できるのであれば、だれだってそうするだろう。説得という一大労力を避けられるのであれば、だれだってする。
けれどもやはり、「異世界へ行きたい」と本気で思っていたって、いざそうなれば困惑するだろう。おまけに「SM女王になれ」というような意味合いのことを言われるのだ。戸惑う。
しかし一晩寝て冷静になって私は思った。
――元の世界ではクソミソ扱いだったんだから、異世界で貴重なDomとしてちやほやされるほうがいいんじゃないか?
なんだか異世界人の術中にハマったような気持ちではあったが、いずれにせよ私を元の世界に帰してやろうなんていう人間は存在しないので、前向きに現状を受け入れたほうが楽だと気づいてしまった。
己が「SM女王」みたいなマネができるかどうかはさておき、Dom性とやらで丁重に扱われるのならば万々歳ではないか?
お世辞にも……いや、口が裂けても育ちがいいとは言えない私は、異世界でエリートらしい魔法使いSubの人生にタダ乗りしてやる、という気持ちで己のDom性を受け入れることにした。
そんな風に腹を括って早一年。
パートナーとなるSubを求めて、今年一八歳であったが王立学園の高等部一年に籍を置いて早半年近く。
「姫子みたいな悪女に騙されてかわいそうっ!」
どういうわけだか私は実の妹に罵られている。
しかし異世界では、性別とは男女でわけるもの以外に、DomとSub、そしてどちらにでもなれるSwitchと、いずれでもないUsualにわけることができる。この場合、私はDomということになる。
Domの最大の特徴は、Subを支配したいという欲求を持つこと。Subはまた、Domに支配されたいという欲求を持つ。
そしてその欲求は薬でいくらか散らせられるものの、解消されなければ心身ともに支障をきたす。欲求が満たされなければ、最悪の場合、発狂することもありうる。
ゆえにDomにはSubが必要で、その逆もまたしかり。
よって――突然異世界に拉致された上、Domとかいう性別を勝手に与えられた私は、Sub性を持つ人間と特殊なコミュニケーション……Playをしなければならなくなった。
PlayとはDomとSubの間でなされるコミュニケーション。DomがSubを躾たり、場合によってはお仕置きしたり、あるいは褒めたりといった、信頼関係を構築するコミュニケーション。
早い話がSMであった。つまり私は遥々拉致された異世界で「SM女王になれ」と言われたようなものだった。
心境としては「勇者になれ」とか「魔王を倒せ」と言われるよりはマシではあったが、それは相対的な評価に過ぎない。
「Subとパートナー契約を結ぶだけで国から給付金が出ます!」とか高らかに告げられても、その気になれというほうがだいぶ、かなり、無茶であった。
けれどもDomとなってしまった事実は変えられないらしく、パートナー契約までは行かずとも、Playに付き合ってくれるSubを見つけなければDomであるこちらは最悪、欲求不満をこじらせて発狂してしまう。
なぜこんな犯罪まがいどころか、立派な犯罪を国ぐるみでしているのかと言えば、単純にSubの数に対してDomの数が少ないからであった。
ややこしいことに、この世界には男女という性別、Dom・Sub・Switch・Usualという性別以外に、魔法使いと非魔法使いというまた違った分類法が存在している。
一般人であるUsualはおしなべて魔法が使えない。魔法という奇跡を扱えるのは、Usual以外の性別を持つ人間に限られていた。
だがそのエリートたちはいかんせん絶対数が少ない上に、DomよりもSubが多い。
そして魔法というものはメンタル面の度合いによって大いにクオリティが左右されるものらしく、Playをするパートナーを持たない魔法使いが大成するのは難しいと言う。
国力を安定させるためには魔法使いの存在は必須。しかしSubのパートナーを務められるDomはSubよりも少ない……。ちなみにどちらにでもなれるSwitchは存在はするものの、Domよりも遥かに少ない。
異世界人拉致は裏技のようなものだった。
こちらの世界へ異世界人を召喚すれば、強制的にその世界の法則に沿うように、喚ばれた異世界人の肉体は「変換」される――。
そんな「異世界人ガチャ」とでも言うべき現象を利用して、Domに「変換」された異世界人だけをこの世界に引き留め、Subとパートナー契約を交わさせる。
ハッキリ言って、クソであった。
Dom性かSwitch性だと判明した時点で、元の世界へ戻してもらうという選択肢は消失する。
クソであった。
けれどもこの「異世界人ガチャ」で排出――ではなく拉致される人間の条件は、ご丁寧に絞ってある。
「どこか異世界へ行ってしまいたい」
そんなことを考えている異世界人だけを選りすぐって召喚している。まあ、そんな風に召喚に条件を付与できるのであれば、だれだってそうするだろう。説得という一大労力を避けられるのであれば、だれだってする。
けれどもやはり、「異世界へ行きたい」と本気で思っていたって、いざそうなれば困惑するだろう。おまけに「SM女王になれ」というような意味合いのことを言われるのだ。戸惑う。
しかし一晩寝て冷静になって私は思った。
――元の世界ではクソミソ扱いだったんだから、異世界で貴重なDomとしてちやほやされるほうがいいんじゃないか?
なんだか異世界人の術中にハマったような気持ちではあったが、いずれにせよ私を元の世界に帰してやろうなんていう人間は存在しないので、前向きに現状を受け入れたほうが楽だと気づいてしまった。
己が「SM女王」みたいなマネができるかどうかはさておき、Dom性とやらで丁重に扱われるのならば万々歳ではないか?
お世辞にも……いや、口が裂けても育ちがいいとは言えない私は、異世界でエリートらしい魔法使いSubの人生にタダ乗りしてやる、という気持ちで己のDom性を受け入れることにした。
そんな風に腹を括って早一年。
パートナーとなるSubを求めて、今年一八歳であったが王立学園の高等部一年に籍を置いて早半年近く。
「姫子みたいな悪女に騙されてかわいそうっ!」
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