怪淫談(カイダン) ~オカルティックエロ短編集~

やなぎ怜

文字の大きさ
上 下
1 / 14

セックス除霊法

しおりを挟む
 身長一八〇センチメートルオーバー、ショートカット、貧乳、中性的な容姿に常にラフなパンツスタイル……。かろうじて無職ではない自称フリーター霊能力者の六〆津むしめづすみれはそういう女だ。色気もなければ愛嬌もない。よって普通の男などは寄ってこないわけである。

 そう、普通の男は。

「んんっ……♡ あっ♡ はぁ……はぁ♡」

 なにもない、からっぽの部屋は、もちろんカーテンの類いも一切ない。窓ガラスを通してフローリングに降り注ぐ外界からの陽光は、今が真昼間であることを声高に主張してくる。

 とある単身者向けマンションの一室。家具もなくカーテンもないその部屋で、菫は彼女より幾ばくか背の高い男に後ろから抱きしめられ、先ほどから敏感なクリトリスを弄ばれている。菫のクリトリスは熱と硬さを持ってピンと軽く立ち上がり、彼女の膣襞からあふれ出す愛液にまみれた男の指による愛撫を健気に受け続けていた。

 菫が穿いている色気のないカーキ色のカーゴパンツの中は、熱と湿気がこもってしまっている。セールで買った五枚セットの下着のクロッチはすっかり愛液で濡れてしまっている。

 その上、菫の控えめな胸は男のもう片方の手がブラジャー越しにゆるりと揉み、これから行われるであろう行為への期待感から彼女の情欲を煽った。

 ――ドロリ♡

 膣襞からまた愛液があふれ出て、菫の下着を濡らした。膣奥から入り口まで愛液が流れ出てくる感覚。それを恥ずかしく思うと同時に、菫はどうしようもなく興奮してしまう。

 菫を抱きしめながら丁寧に愛撫を加えていく男は、菫とはまた違った方向で中性的な容姿の持ち主である。「白皙はくせきの美男子」という表現がぴったりとくる、どこか雅な雰囲気をたたえた男は、熱にとろけた目で菫の横顔を見ていた。

「菫……♡」
「あっ、あぅうっ……♡ んっ、ふっ、や、夜蜘蛛やくも……っ♡」
「乳首もおまんこもいじっていないというのに、クリだけでイってしまうのだな?♡」
「あ、や……だっ、だれのせいだと……!」
「うん。俺のせいであるな?♡」

 夜蜘蛛と呼ばれた男は、その端整な顔に笑みを浮かべる。艶っぽく、そしてどこか狂気の一端が垣間見れる笑みであったが、夜蜘蛛に後ろから抱きしめられる形で弄ばれている菫には、そんな顔は見えないのであった。

 夜蜘蛛の指の動きが速くなり、それに翻弄される形で菫の口からは艶やかな嬌声ばかりが漏れ出る。

 夜蜘蛛の指の腹は、軽く勃起した菫のクリトリスを撫で回す。ぐるりぐるりと周囲を円を描くように撫でていたかと思えば、一番敏感な箇所をこすってやり、菫の肉体を悦ばせる。菫はただそんな夜蜘蛛の愛撫を受けて、体を震わせながら淫らな水音と喘ぎ声を、からっぽの部屋に響かせる。

 菫の息が浅く速くなる。びくりびくりと臀部から膝にかけて痙攣じみた震えが止まらない。

「――夜蜘蛛ぉ♡ 夜蜘蛛ぉ♡ ダメ……!♡ イっちゃ……!♡」
「イっていいぞ菫♡ 俺の指でイってしまえ♡ クリイキは好きだろう?♡ ほら、イけ♡♡♡」

 菫が助けを求めるように、喘ぎながら夜蜘蛛の名を呼ぶ。夜蜘蛛はそれに応えるように、切れ長の目をうっとりと細めて、菫の耳元でわざといじわるな囁きをしてやる。

 普段の菫はMっ気など持ち合わせているようにはまったく見えないのだが、夜蜘蛛とセックスをするときだけは別だった。まるで、見えないスイッチが入ってしまうかのように、菫は夜蜘蛛の愛情たっぷりのいじわるな愛撫が大好きになってしまう。夜蜘蛛から与えられる快楽を貪欲に追い求め、夜蜘蛛の手の中でだけ、愛らしく喘ぐわけである。

 それはもう、夜蜘蛛にとってはたまらなくうれしい。そして、なおさら菫をいとおしく感じる。

「イくっ♡ イくっ♡ 夜蜘蛛ぉ♡♡♡ 夜蜘蛛の指でっ、クリイキする~~~~~~っ♡♡♡♡♡♡」

 唇がだらしなく開いて、背が反り、臀部に力がこもる。クリトリスで絶頂を迎えた菫の膣襞はびくびくと蠕動しながらまた愛液を分泌した。それは膣洞を通って流れ落ち、菫の下着どころかそれを通り越してカーゴパンツの股座まで濡らしてしまう。また今日選んだ色がカーキであったから、濡れているのが丸わかりになってしまった。

「あ~……菫、ズボン脱ごうか……」

 まだ絶頂の余韻から抜け出せない菫の脚から夜蜘蛛はカーゴパンツを引き抜く。そしてそのままフローリングの床に投げ捨てて、腕の中でぐったりとしている菫の頬に口づけをひとつ落とす。その行為に菫の体は小さく震える。それを感じ取った夜蜘蛛は、淫蕩に笑って菫を抱きしめた。

 同時に、菫の尾骨から尻の谷間にかけて夜蜘蛛の硬いものが押しつけられた。

「夜蜘蛛……」

 もちろんその硬いもの、とは夜蜘蛛の怒張したペニスである。

 ――ごくり。

 菫が期待に生唾を飲み込んだのは夜蜘蛛にも伝わった。そして熱に浮かされたようにとろけた菫の瞳が、その背後に向けられる。

「夜蜘蛛…………めちゃくちゃ見られてる気配がするんだけど……」

 夜蜘蛛は振り向かなかった。完璧な笑みをその美しい顔にたたえたまま、菫の濡れそぼった膣内に、男らしい筋張った長い指を潜り込ませる。

 ――じゅぷっ♡ ぐちゅり♡

 夜蜘蛛の侵入を許した菫の膣口から淫音が漏れ出る。同時に膣襞を優しく指の腹で撫で上げられて、菫は快楽に耐え切れず背を反らした。

「や、夜蜘蛛っ……」
「なんだ?♡」
「んっ♡ や、やっぱりこのまま……最後まで……? あっ♡ ダメ♡ ひとが話してるときに指増やさないで……♡」

 ――ぐちゅ♡ ぐちゅ♡ じゅぽ♡ じゅぽ♡

 いつの間にやら三本もの夜蜘蛛の長い指が菫の膣内に入ってしまっている。

 菫の気持ちのいいところを知り尽くしている夜蜘蛛は、感じやすい浅い部分を重点的に撫で上げていたかと思うと、ぐっと三本の指を開いて菫の頑なな膣を広げてやる。愛液に濡れた膣の入り口は外気に触れ、ひんやりとした感覚が菫を襲う。それだけで菫は恥ずかしくなってしまい、しかしその膣襞はさらに愛液をしたたらせるのであった。

「あ♡ 視線が……♡ み、見られてる……♡」

 それでも菫は夜蜘蛛の背後が気になって仕方がない。ほとんど零感――霊感がまったくないことを指す――人間である菫には、その正体は見えていなかったが、ずっと視線だけは感じていた。

 この部屋を借りた人間はみなそうであったらしい。やがてを見てしまったり、あるいは不躾な視線に耐えかねて部屋をあとにする――。そういうことを幾度となく繰り返している、いわゆる「いわくつき」の部屋なのであった。

 じっとりと、湿度と怨念がこもった視線。夜蜘蛛には当然その正体はわかっている。

 夜蜘蛛は人間ではない。神なのだ。

 しかし「狂い神」や「呪い神」などと呼ばれる、通常人間の手に余る神なのであったが――もはや夜蜘蛛自身にすら、なぜ己がそうなってしまったかの覚えはない。ただ気がついたらそうなってしまっていた。恐らくそうなってしまった経緯はもはやだれにもわからないのだろう。それほど長いあいだ、夜蜘蛛は「狂い神」や「呪い神」として過ごしていた。

 しかしそうなったことで菫と出会い、いとしい存在となった彼女と今こうしてまぐわおうとしているのだから、人生――もとい、神生じんせい、なにが起こるか予測がつかないものである。

 夜蜘蛛は己の神生に満足していた。なので、今己の背後でたたずんでいる男のことなどどうでもいいのだ。菫とのまぐわいを見られることについても、夜蜘蛛は特に気にしていない。むしろ、いとしい菫と深く繋がっているところをどんどん見てくれ――というくらいの気持ちですらある。

 夜蜘蛛は神なので、その辺りの感覚は普通の人間とはズレがあるのであった。

 ――ちゅぷ♡ じゅぷ♡ ぶちゅ♡ ぶちゅ♡

 夜蜘蛛の右の手指が菫の膣内を撫で回し、左の手指は菫の胸を揉んだり、シャツの中に入り込んでその細い腰を撫で回したりしている。夜蜘蛛の指が動くたびに、一度絶頂を迎えて敏感になった菫の体は、びくりびくりと震えて応える。

 そしてそうしているあいだにも、夜蜘蛛の背後からの視線はキツくなり――そしてついに明らかな舌打ちが聞こえた。

 その瞬間――男の顔面に夜蜘蛛の拳がめり込んだ。見事な裏拳だった。

 菫にはもちろん夜蜘蛛の腕の動き以外はすべて見えていないのだが、なんとなく部屋の空気が変わったことだけは彼女にも伝わった。

「なんか……部屋の空気が湿っぽくなったね……」

 夜蜘蛛の背後で男は泣いていた。顔をくしゃくしゃにして涙を流していた。痛みゆえか、悔しさゆえか、情けなさゆえか、全部だろうか――。

 しかし夜蜘蛛にとっては、どうでもいいことであった。

 男はしょせんはただの人間の幽霊。「狂い神」や「呪い神」と呼ばれ、恐れられる夜蜘蛛の敵ではないのである。

 夜蜘蛛は男の様子など歯牙にもかけず、菫への愛撫を続ける。

「菫……やつのことなどどうでもいいだろう」

 そのまま夜蜘蛛は左手で菫の顎をすくい、口づける。

「ん、んんん……♡」

 ――じゅぷ♡ ちゅぷ♡ ちゅうぅぅ♡

 菫の唇をついばむようなバードキスは、すぐにディープキスへと変わる。開いた菫の唇を舐め上げて、夜蜘蛛は彼女の舌を己の舌で絡め取った。そのまま互いの唾液を飲みあいながら、深く深く奥で味わうように口づけを続けた。

「んっ♡ 夜蜘蛛……」
「は……菫、そろそろよいか?♡」

 そう言いながら夜蜘蛛はぐりぐりと、菫の臀部に勃起した怒張をズボン越しながら露骨に擦りつけた。もう完勃起してからいくらか経っているせいで、夜蜘蛛の勃起ペニスは限界に近い。鈴口から漏れ出た先走り液が布越しに染み出てしまっている。

「…………」

 菫は無言のまま、腰を軽くゆするように振って、尻の谷間で夜蜘蛛の怒張を弄んだ。散々己を翻弄した仕返しのつもりであった。しかしもちろん夜蜘蛛にとってはそんな行為ひとつとっても、興奮の材料にしかならないわけで――。

「あっ! や、夜蜘蛛――」

 夜蜘蛛の手が菫の下着を引き摺り下ろす。濡れに濡れたクロッチ部分と菫の膣の入り口が、透明な愛液が糸を引いて繋がってしまっている。しかしその糸も夜蜘蛛の右指が遠慮なく菫の膣内に挿入されたので、ぷつりと途切れた。

「準備はできておるな? 菫♡ 俺も準備は万端だ♡」

 夜蜘蛛は意地悪く笑いながら今度は己のズボンを引き摺り下ろした。

 ――ぶるんっ♡

 そんな音が聞こえそうなほど、勢いよく飛び出してきたのは夜蜘蛛の完勃起ペニスだ。先走り液で濡れてテラテラと光る赤黒い亀頭の先を、菫の濡れそぼった膣の入り口にあてがう。

 ――ちゅっ♡

 まるでキスでもしたかのようなかすかな水音が菫の耳にも聞こえた。膣の入り口に亀頭をあてがわれているだけなのに、そのどうしようもない熱と脈動が菫にも伝わってくるようだ。

 ――くちゅ♡ くちゅ♡

 夜蜘蛛が完勃起ペニスを、まるで菫の膣の入り口をまぜるかのように動かす。ただでさえ愛液まみれでぐちゃぐちゃだった菫のおまんこは、夜蜘蛛の先走り液も混ざって惨状が出来上がっている。

 しかしこれからする行為を思えば――それはむしろ都合がいいのだろう。

 夜蜘蛛の両手が菫の腰に添えられた。菫はまたごくりと興奮から生唾を飲み込む。

 夜蜘蛛のペニスは巨大だ。太さも長さも、子供の腕くらいはある。菫は夜蜘蛛しか男を知らないので、昔はこれが男の標準だと思っていたが、どうやら違うらしいことを遅まきながら知ったという過去を持つ。

 最初のころは恐怖しか感じなかった夜蜘蛛のペニスも、慣れ切って――慣らされてしまった今となっては、最高に相性がいいと言い切れてしまう。

 菫は太く長い夜蜘蛛のペニスが己のなかを優しく蹂躙するさまを思い浮かべて――また愛液をしたたらせた。

「よいな? 菫」
「うん……きて、夜蜘蛛♡」

 菫の許可を得た夜蜘蛛はぐいと腰を押し進めて、ひと息で彼女を貫いてしまう。

「――んお♡♡♡」

 夜蜘蛛の亀頭は菫の子宮口に到達している。赤子を育む大事な部屋の入り口――そのすぐそばまで迫った夜蜘蛛は、亀頭を密着させて――ずんずんと菫の体を突き上げた。

「――ん♡ ううっ♡ お♡ お♡ おぅっ♡♡♡」

 菫は苦しげな声を出しながらも、快楽に震えていることは明らかで、だからこそ夜蜘蛛の動きも遠慮のないものになる。

 ゆるゆると緩慢な動きで限界までペニスを引き抜いたかと思えば、今度はまた一度に菫の子宮口までペニスを押し込む。

 夜蜘蛛の立派なカリがごりごりと菫の膣壁に擦りついて、彼女に終わりのない快楽を与える。

 ――じゅぷんっ♡ ぱちゅんっ♡

 夜蜘蛛と菫が繋がった部分からは絶え間なく淫らな水音が奏でられた。夜蜘蛛の腰が菫の臀部にぶつかるたびに、肉音が響き渡り、それは菫の耳にもとど置いて彼女の興奮を煽った。

「や♡ 夜蜘蛛ぉ♡ あ♡ だめ♡ だめ♡ こわれちゃうぅ♡♡♡」

 ――ぶちゅ♡ じゅぷ♡ ぷちゅ♡

 硬く熱い夜蜘蛛のペニスは菫を容赦なく蹂躙する。そして菫の膣内は悦んで夜蜘蛛のペニスにしゃぶりつき、時折痙攣すら見せて夜蜘蛛のペニスを歓待する。夜蜘蛛のペニスが抜けそうになると、嫌がるように吸いついて膣内を狭めた。夜蜘蛛はそんな本人よりも素直な菫の膣内を楽しみながら、いとおしさから彼女に口づける。

「菫♡ そろそろ限界だ……♡ 膣内なかに出すが……よいな?♡」
「夜蜘蛛……♡ いいよ♡♡♡ 私の膣内《なか》でイって♡ たくさん出して気持ちよくなって♡♡♡」

 夜蜘蛛の腰の動きが速くなる。菫も限界が近く、二度目の絶頂へと向けて無意識に腰を悶えさせるように振っていた。

 夜蜘蛛は射精を悟り菫の子宮口に亀頭を押しつける。二度三度と押しつけると、それに反応して菫の膣内がぎゅうと狭まった。

 次の瞬間、夜蜘蛛の亀頭から大量の白濁液がほとばしる。菫の膣内でぶちまけられた精液は、彼女の子宮口へ向けて勢いよく飛び出していった。

 夜蜘蛛がびくびくと脈動するペニスを動かせば、菫も絶頂を迎えて途切れ途切れの嬌声を上げる。ぐっとまた菫の膣内が狭くなって、夜蜘蛛の精液を一滴でも漏らさないとばかりだ。

 そんな菫の様子にさらなるいとおしさが夜蜘蛛の中で湧き上がる。菫の腰を抱きしめるようにして、最後の一滴まで精液を彼女の膣内に出し切った。いつかそれが、菫の胎内で実を結ぶようにと願いながら――。


 ◆◆◆


 ……菫は前述の通りほとんど零感だ。それでも霊能力者として収入を得られているのは、ひとえに夜蜘蛛のお陰である。頑固な汚れのような幽霊も、夜蜘蛛の「行動」ひとつでどこかへ去ってしまう。その「行動」とは性行為のことであった。別に夜蜘蛛がひとり自慰行為に励んでも効果はほとんど変わらないが、彼が嫌がるためその計画は見事に座礁した。

 そして現在。幽霊がいるであろう――繰り返しになるが菫はほぼ零感なので幽霊がいるのかどうかはわからない――場所で夜蜘蛛と励み、霊能力者の仕事をして収入を得ている。

「呪い神」などと呼ばれる夜蜘蛛が、幽霊を追い払い場を清められる力を持っている理由は謎だ。しかし「呪い」も「祝福」も、「だれかをどうこうしてやりたい」という面においては一致している。だから夜蜘蛛には結果的に場を清められる力を有しているのだ――と菫は解釈していた。

 その効果を引き出すため、夜蜘蛛と致すことはイヤではないのだが――毎度毎度幽霊の視線がある中で励むことには複雑な感情を抱かざるを得ない。それでも近頃はそれすら興奮の材料にできてしまえているフシがある。どんどんとスキモノになっていく己に、やはり菫は複雑な感情を抱かざるを得ないのであった。

 菫と夜蜘蛛はあらかじめ用意して持ち込んでいた服に着替えて、マンションの空き部屋から出る準備をする。盛り上がりすぎて服を汚してしまうことがあってから、予備の着替えを持ち込むことは必ずしているのであった。「これもプロ意識の芽生え?」と菫は思ったが、やはり複雑な感情を抱いてしまう。

 カーテンのない窓から陽光がフローリングの床に降り注ぐ空き部屋に、先ほどまで感じていた湿っぽい空気は霧散してしまっている。痛いほどの視線も感じない。……どうやら、除霊は成功したようだ。

 ここは除霊が失敗し続けていた「いわくつき」の部屋であったので、既に前金でいくらか貰えている。今の部屋の様子であれば、成功報酬はそのうち支払われるだろう。とは言え、その金が消費されるのはもっぱら生活費が中心で、特に趣味を持たない菫は少々持て余しているのだが。

 趣味とは絶対に言いたくないが――最も長く続けているのは夜蜘蛛との関係……すなわちセックスだ。それを思うと無理にでも趣味を作った方がいいのかもしれないと菫は危機感を抱いた。

 フローリングの床で励んだせいで、少々痛い背中を撫でる。

「……さすがにフローリングですると痛いか?」
「まあね」
「では今度からは騎乗位で――」

 菫は無言で夜蜘蛛の背中を叩いた。しかし背丈は菫とあまり変わらないとは言え、体の厚みなどはまったく違う夜蜘蛛。動じた様子もなく鼻歌でも歌い出しそうな様子だった。

 菫を愛する夜蜘蛛は、彼女と致したあとはひどく機嫌が良くなる。それは菫にとってはうれしくもあり――恥ずかしくもある。むずがゆい気持ちになって、先ほどまでの行為を思い出してしまうのだ。

 もう一度、からっぽの部屋に目をやる。汚してしまった部分はすべて拭き清めたので、問題はないはずだ。

「じゃー帰りますか……」

 やや疲労のにじむ声で夜蜘蛛に言えば、当然とばかりに菫の腰に手をやる。今の菫にはそれを振り払う気力も体力も残っていなかった。夜蜘蛛はそれをわかっていてあからさまな行動に出ているのだ。

「はあ……」

 絶倫の夜蜘蛛が一度の射精だけでは満足していないことを菫はよくわかっている。これから依頼人のところへ寄って家に帰れば、第二ラウンドの始まりだ。

 今日の夜はきっと長い。それを思うと夜蜘蛛のことが嫌いではないから、行為自体はイヤではないものの、いかんせん菫は人間で、体力が続かない。走り込みをするなどして鍛えてはいるものの、いかんせん相手は神だ。少々鍛えたくらいで太刀打ちできるものではないのだろう。

 今日帰ってからのことを思うと、ため息が止まらない菫であった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

だんだんおかしくなった姉の話

暗黒神ゼブラ
ホラー
弟が死んだことでおかしくなった姉の話

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

体育座りでスカートを汚してしまったあの日々

yoshieeesan
現代文学
学生時代にやたらとさせられた体育座りですが、女性からすると服が汚れた嫌な思い出が多いです。そういった短編小説を書いていきます。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

今日の授業は保健体育

にのみや朱乃
恋愛
(性的描写あり) 僕は家庭教師として、高校三年生のユキの家に行った。 その日はちょうどユキ以外には誰もいなかった。 ユキは勉強したくない、科目を変えようと言う。ユキが提案した科目とは。

処理中です...