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昼食を奢る代わりに散々答えのない相談ごと……という名の愚痴をこぼした真一郎は、唐突に響から呼び出された。なぜか成大と一緒に。しかも、これまで足を踏み入れたことのない響の家にお呼ばれした。成大と一緒に。真一郎の脳裏は「なぜ」の語で埋め尽くされた。
これが、真一郎ひとり家に招待されたのならばわかる。今や、真一郎と響は本当の恋人同士なのだから、そういうことがあってもおかしくはないだろう。しかし、なぜか成大も一緒にくるように響に言われてしまった。当然、「なぜ」となる。真一郎には響の意図が読めなかったが、成大もまた心当たりがないらしく、首をひねりつつ共に連れ立って響の家へと向かうことになった。
「でっ――か」
響の家の門構えを前にして、成大が素直な感想を漏らす。家屋を目隠しするように高い塀、塀の上にはぐるぐる巻かれた有刺鉄線があり、重々しい雰囲気をまとった閉じられた門扉の上部へ目を向ければ、監視カメラがついている。表札は当然のようにない。
ドアフォンを押せば、聞こえてきたのは真一郎もよく知る響の護衛官の声だったので、そこから先はスムーズだった。とは言えども、門扉が開いて出迎えてくれた護衛官の背後に建つ鷹田邸を見てまた真一郎と成大は言葉を失った。
鷹田邸があるのは市街から離れた郊外にある、ゲーテッドコミュニティ然としたいわゆる「お金持ち」の家ばかりが集まった地域である。電柱を埋設しているので空が広々と見えるし、ひとつひとつの家の敷地面積がやたらに広いことは塀の外からでもよくわかる。しかし、鷹田邸の敷地はそれら「お金持ち」の家々と比べても、頭ひとつぶんは抜きん出た広さであった。
真一郎はもちろん、ちゃらんぽらんな成大も、この光景には軽口など叩けない様子だ。
「お前って女の子の家、行ったことないの」
「あるけど、こんなデケー家には初めて来た」
「そっか……」
リビングルームではなく応接室に通されて、やたら座り心地のいいソファに腰かけ、高価そうな茶器に淹れられた紅茶をはた目に、ようやく真一郎と成大は言葉を発することができた。ふたりの頭上では、シャンデリアがきらきらと輝きを放っている。
「なんでオレ呼ばれたんだろ」
調子を取り戻しつつあるのか、出された茶菓子――フルーツの砂糖漬け――を口に放り込んで成大が言う。
「俺もなんで呼ばれたのかわかんないんだけど」
「いや、お前は恋人じゃん」
「そうだけどさ……なんでお前と一緒なのかわけわかんないんだけど」
「……本人に聞くしかなくね?」
「まあ……」
真一郎ひとりでお呼ばれされたのであれば、男子高校生らしく心躍らせて向かうところであったが、なぜか友人も一緒だ。緊張と、響の意図が読めない不安感で、真一郎は紅茶を口にするのが精いっぱい。成大のように茶菓子にまで手を伸ばす余裕はなかった。
「待たせたな、すまない」
オフホワイトの、控えめなワンピース姿で現れた響の顔が、どこか強張っていることに真一郎はすぐさま気づいた。しかし成大もいる手前、無遠慮にそのことを指摘するのは憚られたし、もしかしたら自分が緊張しているがゆえに響の顔もそのように見えているだけかもしれないと考えて、その点については黙った。
響はすぐにローテーブルを挟んで、真一郎たちと相対する向かい側のソファに腰を下ろす。すぐに壮年の使用人らしき男性が湯気立ちのぼるティーカップを載せたソーサーをほとんど音もなく置いた。響は「ありがとう」と言ってティーカップに口をつける。その品のある所作を見て、真一郎は「女の子だ!」と思った。
「……単刀直入に言いたいことがある」
ソーサーとティーカップをローテーブルに戻し、響がやにわにそう切り出す。真一郎と成大のあいだに、緊張が走った。ふたりとも、響の様子からなにやら重大な事態に直面していることは察することができたが、しかし彼女が次に発する言葉は、まったく想像がつかなかった。
「真一郎と、鳴海くんは――」
ごくりと、真一郎はたまらずツバを呑み込んだ。自分の喉仏が上下するのがわかった。
響は、まっすぐな目で真一郎と成大、ふたりを見て言う。
「つ、付き合っているのかっ?」
響の声が上擦った。真一郎にも成大にもそれはわかった。わかったが、彼女がたった今口にした言葉には、まったく理解が及ばなかった。真一郎も成大も、まるで頭上に特大のクエスチョンマークが浮かんでいるような、呆けた顔をするほか、ない。
――付き合っているのか?
真一郎と成大は友人関係である。つまり、「付き合い」はあるが、響が聞きたいのがそういうことではないことは、真一郎にも成大にもわかった。わかったが、なぜ響がそのような質問をしてきたのかは、さっぱりわからなかった。
ゆえに真一郎は響の真意をつかみかねて黙り込んでしまったし、成大も成大で、ここで自分が先に口を開けば場がこじれることになると察して、口をつぐんだ。
真一郎と成大が響の意図が読めないように、響も、相対するふたりの困惑の真意を察せない様子を見せる。
「もしそうなら――鳴海くんも私のハーレムに入ればいい。そう、思って……今日呼び出したんだ」
右斜め上にひとりかっ飛んでいく響について行けず、真一郎は間抜けヅラを晒すほか、なかった。
これが、真一郎ひとり家に招待されたのならばわかる。今や、真一郎と響は本当の恋人同士なのだから、そういうことがあってもおかしくはないだろう。しかし、なぜか成大も一緒にくるように響に言われてしまった。当然、「なぜ」となる。真一郎には響の意図が読めなかったが、成大もまた心当たりがないらしく、首をひねりつつ共に連れ立って響の家へと向かうことになった。
「でっ――か」
響の家の門構えを前にして、成大が素直な感想を漏らす。家屋を目隠しするように高い塀、塀の上にはぐるぐる巻かれた有刺鉄線があり、重々しい雰囲気をまとった閉じられた門扉の上部へ目を向ければ、監視カメラがついている。表札は当然のようにない。
ドアフォンを押せば、聞こえてきたのは真一郎もよく知る響の護衛官の声だったので、そこから先はスムーズだった。とは言えども、門扉が開いて出迎えてくれた護衛官の背後に建つ鷹田邸を見てまた真一郎と成大は言葉を失った。
鷹田邸があるのは市街から離れた郊外にある、ゲーテッドコミュニティ然としたいわゆる「お金持ち」の家ばかりが集まった地域である。電柱を埋設しているので空が広々と見えるし、ひとつひとつの家の敷地面積がやたらに広いことは塀の外からでもよくわかる。しかし、鷹田邸の敷地はそれら「お金持ち」の家々と比べても、頭ひとつぶんは抜きん出た広さであった。
真一郎はもちろん、ちゃらんぽらんな成大も、この光景には軽口など叩けない様子だ。
「お前って女の子の家、行ったことないの」
「あるけど、こんなデケー家には初めて来た」
「そっか……」
リビングルームではなく応接室に通されて、やたら座り心地のいいソファに腰かけ、高価そうな茶器に淹れられた紅茶をはた目に、ようやく真一郎と成大は言葉を発することができた。ふたりの頭上では、シャンデリアがきらきらと輝きを放っている。
「なんでオレ呼ばれたんだろ」
調子を取り戻しつつあるのか、出された茶菓子――フルーツの砂糖漬け――を口に放り込んで成大が言う。
「俺もなんで呼ばれたのかわかんないんだけど」
「いや、お前は恋人じゃん」
「そうだけどさ……なんでお前と一緒なのかわけわかんないんだけど」
「……本人に聞くしかなくね?」
「まあ……」
真一郎ひとりでお呼ばれされたのであれば、男子高校生らしく心躍らせて向かうところであったが、なぜか友人も一緒だ。緊張と、響の意図が読めない不安感で、真一郎は紅茶を口にするのが精いっぱい。成大のように茶菓子にまで手を伸ばす余裕はなかった。
「待たせたな、すまない」
オフホワイトの、控えめなワンピース姿で現れた響の顔が、どこか強張っていることに真一郎はすぐさま気づいた。しかし成大もいる手前、無遠慮にそのことを指摘するのは憚られたし、もしかしたら自分が緊張しているがゆえに響の顔もそのように見えているだけかもしれないと考えて、その点については黙った。
響はすぐにローテーブルを挟んで、真一郎たちと相対する向かい側のソファに腰を下ろす。すぐに壮年の使用人らしき男性が湯気立ちのぼるティーカップを載せたソーサーをほとんど音もなく置いた。響は「ありがとう」と言ってティーカップに口をつける。その品のある所作を見て、真一郎は「女の子だ!」と思った。
「……単刀直入に言いたいことがある」
ソーサーとティーカップをローテーブルに戻し、響がやにわにそう切り出す。真一郎と成大のあいだに、緊張が走った。ふたりとも、響の様子からなにやら重大な事態に直面していることは察することができたが、しかし彼女が次に発する言葉は、まったく想像がつかなかった。
「真一郎と、鳴海くんは――」
ごくりと、真一郎はたまらずツバを呑み込んだ。自分の喉仏が上下するのがわかった。
響は、まっすぐな目で真一郎と成大、ふたりを見て言う。
「つ、付き合っているのかっ?」
響の声が上擦った。真一郎にも成大にもそれはわかった。わかったが、彼女がたった今口にした言葉には、まったく理解が及ばなかった。真一郎も成大も、まるで頭上に特大のクエスチョンマークが浮かんでいるような、呆けた顔をするほか、ない。
――付き合っているのか?
真一郎と成大は友人関係である。つまり、「付き合い」はあるが、響が聞きたいのがそういうことではないことは、真一郎にも成大にもわかった。わかったが、なぜ響がそのような質問をしてきたのかは、さっぱりわからなかった。
ゆえに真一郎は響の真意をつかみかねて黙り込んでしまったし、成大も成大で、ここで自分が先に口を開けば場がこじれることになると察して、口をつぐんだ。
真一郎と成大が響の意図が読めないように、響も、相対するふたりの困惑の真意を察せない様子を見せる。
「もしそうなら――鳴海くんも私のハーレムに入ればいい。そう、思って……今日呼び出したんだ」
右斜め上にひとりかっ飛んでいく響について行けず、真一郎は間抜けヅラを晒すほか、なかった。
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