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ミオリには、その分水嶺は見えなかった。遅まきながらに理解した契機は、間違いなく父親違いの妹、マナが生まれたことだろうということ。しかし分水嶺がその前にあったのか、あとにあったのか、ミオリには未だにわからない。
ミオリの、今ではおぼろげになってしまった記憶を引き出しても、再婚したばかりのころは母親も義父も普通だったように思う。けれども次第にミオリを邪険に扱うようになり、ミオリが「悪いこと」をすると腕や太もものあたりをつねられるようになった。
ミオリには、「家族から不当な扱いを受けている」という認識はぼんやりとあった。ミオリは来年には中学生になる。そういった認識を出来るだけの判断力はあった。
あったものの、どうすればいいのかわからなかった。今では母親も義父も、ミオリの一挙手一投足が気に入らない様子だ。一方、家族ではない大人に、そのことを上手く説明できる自信が口下手なミオリにはなかったし、そもそも、そういった訴えはどこへ持っていけばいいのやら、皆目見当がつかなかった。
ミオリのクラスの担任は、ミオリがクラスメイトに行き過ぎた「からかい」を受けていても、まったく見知らぬふりをするような、熱心さのない教師だ。ミオリからしても、信頼に足る大人ではなかった。そうなると、もうミオリにはお手上げだった。
家庭に居場所もなければ、さりとて学校に居場所があるわけでもない。真綿で首を絞め上げられているかのように、じわじわと窒息していくような感覚。心臓を常に暗雲が覆っているような、憂鬱な感情。どこか見知らぬ、遠くへ行きたい――いや、煙のように消えてしまいたいという欲求。
ミオリは傷が目立ち始めた重いランドセルを背負い直し、ため息をついた。自宅への帰路を行く足は、いつの間にか止まっていた。
「もしもし、そこのお嬢ちゃん」
はじめ、ミオリはそれが己に話しかけている声だと気づかなかった。しかし周囲を見渡して、あたりに自分以外の「お嬢ちゃん」がいないことに気づくと、ミオリはゆっくりと声のしたほうを向いた。
夕暮れの住宅街の、家屋と家屋の狭間の、細い路地。彼か彼女かもわからない人間が、そこに挟まるようにして、窮屈そうにして、じっとたたずんでいた。それは間違いなく、異様だ。
「もしもし、そこのお嬢ちゃん」
「おいでおいで」とでも言うように、その男とも女とも見分けがつかぬ人物は、ミオリの前で手のひらを揺らす。ミオリは恐怖に体を硬直させた。
しかしその性別のわからぬ人物は、ミオリが顔を引きつらせているにもかかわらず、「おいでおいで」とずっと手のひらを揺らしていた。
「憂鬱そうな顔をしているね。わかるよ。どこか遠くへ行きたいんだろう。そういう顔をしているね。わかるよ」
心の内を言い当てられたミオリは、さらなる恐怖を覚えると同時に――どこか、安堵した。目の前にいるのが明らかに不審な人物であるにもかかわらず。だれか、ミオリの本心を慮ることのできる人間がひとりでもいたのなら、そんな気持ちにはならなかっただろう。けれども現実には、ミオリを気にかけてくれる人間は、いなかった。少なくとも、ミオリからすれば、そうだった。
ミオリは、吸い寄せられるようにして狭い路地へと歩み寄った。さながら、火の光に引き寄せられる虫のように、ミオリはその男とも女とも見分けがつかない人物へと不用意に近づいた。
「――わっ」
不意に狭い路地から白い腕が伸びてきて、手首をつかまれる。ミオリの喉からおどろきの声が漏れ出た。それでもそれはひどく小さなもので、風が吹けばあっという間に空気に溶けていくような、そんな声だった。
乱暴に路地の中へと引っ張られて、ようやくミオリの心に後悔の文字が浮かぶ。こんな不審者の相手をすべきではなかったと。しかし同時に、どうなってもいいという、やけっぱちの感情もミオリの心の底に湧く。
だってそうだろう。ミオリが今ここで、ひどい目に遭ったとして、いったいどんな人間が心配してくれるだろう? ミオリはどうにでもなれと思いながら、一度目をつむった。
ミオリの手首をつかんでいた手のひらの感覚が、つかまれたときと同様に、不意に消えた。ミオリの予想に反して、なにも痛いことは起きなかった。なにかしらの言葉をかけられることもなかった。
恐る恐るまぶたを持ち上げる。目の前には狭く暗い路地ではなく――湖があった。ミオリの視界に収まりきらないほどに広大で、透明な水をたたえた水面が、きらきらと白く輝きを放っていた。
白昼夢を見るとすれば、こんな感じなのだろうか? ミオリは何度か目をしばたたかせてみたものの、目の前の景色は一切変わらない。色あせたぼろぼろのスニーカーの、薄っぺらな靴底が、住宅街の道路ではなく、モザイク状に配置された石畳を踏んでいることを知らせる。
白い薄雲がかかった空の色は薄青く、夕暮れどきから真昼間に時間が変わっていることに気づく。鼻腔をかすめるのは、目の前に広がる湖から漂ってきているであろう水のにおいだけで、それ以外の臭気は特段感じられなかった。
ぼんやりと目の前の光景を見ていれば、ミオリはようやく湖の真ん中に真っ白な彫像が立っていることに気づいた。いつだったか、どこかで見たヴィーナス像に似た彫像をよく見ようと無意識のうちに目を細めたところで、「こら!」と叱りつける声がかかり、ミオリは飛び上がらんばかりにおどろいた。
そしてその拍子に足を滑らせ――気がつけば、視界に水しぶきが上がり、たちまちのうちに服は水を吸って肌に貼りつき、重くなった。鼻や口から水が入り込み、一瞬息ができなくなる。ミオリは湖に落ちたのだ。
水底は遠いらしく足がつかなかった。そのことで、ミオリはパニックになる。水が入って咳き込んで、鼻や喉の奥がつんと痛くなる。それがまた、ミオリの混乱に拍車をかけた。
先ほどまでは、やけになって「どうなってもいい」とすら思っていたのに、溺れ死にしそうになると、今度は「助けて欲しい」という感情があふれ出てくる。
湖の水は冷たくなく、どちらかと言えば温かかったものの、手足の先から凍えて行きそうな感覚がミオリを襲う。それが怖くて泣き叫びたくなったが、水中ではそれすらもままならないことだった。
しかしそれも唐突に終わりを告げる。ゆるゆるになったTシャツの襟ぐりが、乱暴に捕まれ、上に引っ張りあげられた。少しのあいだだけ首が絞まった。しかしすぐに口内に入り込んだ水を吐き出す機会が訪れる。ミオリは鼻から口から、水を垂れ流しながら、長いこと咳き込んだ。
「息、できてるな?」
石畳にすっかり座り込んだミオリの顔を覗いたのは、壮年の男性だった。ミオリを心配している様子の、低い声が耳朶を打つ。その背後には当惑した顔の老齢の男性がいる。恐らく、先ほどミオリの背後から声をかけたのはこの老齢の男性だろうと、妙に冷静な頭でミオリは判断する。
ミオリを湖から引き上げただろう壮年の男性は、黙ってハンカチを差し出す。ミオリはそれを受け取るのに躊躇する心もあったが、今、自分の顔は見るに堪えないだろうと考えて、咳き込みながら差し出されたハンカチを手に取る。そのまま、涎や鼻水が混じっているだろう、顔面に付着した水分をハンカチに吸わせる。
げほげほと咳き込むミオリの背に、いつの間にか壮年の男性の、大きな手のひらが当たっていた。そのまま優しく上下に撫でられて、ミオリはわけもわからず泣きそうになった。それを誤魔化すように、広げたハンカチで顔を覆う。ハンカチはすでに水分をだいぶ吸って、湿っていた。
ハンカチを顔から外せば、顎に貼りついた黒い髪の毛の先から、雫のいくつかがミオリの膝へと落ちて行く。当たり前だが、下着まですっかり濡れてしまっていることに気づいて、ミオリは気持ちの悪さを覚えた。
咳も落ち着いてきたところで、ミオリは男性らに迷惑をかけてしまったことを謝ろうと顔を上げる。しかし、話しかけるタイミングを見計らっていたのは、向こうも同じだったらしい。
「お前、女なのか」
しかし壮年の男性の言葉は、ほとんど独りごとに近く聞こえた。ミオリはウサギがプリントされた、子供っぽい白いTシャツが水を吸って透けていることに気づく。着古されたスポーツブラが見えてしまっている。ミオリは反射的に腕で胸元を隠した。
申し訳なさと恥ずかしさが先立って、このときのミオリは、壮年の男性が口にした言葉の重要性などなにひとつわかっていなかった。
ミオリの、今ではおぼろげになってしまった記憶を引き出しても、再婚したばかりのころは母親も義父も普通だったように思う。けれども次第にミオリを邪険に扱うようになり、ミオリが「悪いこと」をすると腕や太もものあたりをつねられるようになった。
ミオリには、「家族から不当な扱いを受けている」という認識はぼんやりとあった。ミオリは来年には中学生になる。そういった認識を出来るだけの判断力はあった。
あったものの、どうすればいいのかわからなかった。今では母親も義父も、ミオリの一挙手一投足が気に入らない様子だ。一方、家族ではない大人に、そのことを上手く説明できる自信が口下手なミオリにはなかったし、そもそも、そういった訴えはどこへ持っていけばいいのやら、皆目見当がつかなかった。
ミオリのクラスの担任は、ミオリがクラスメイトに行き過ぎた「からかい」を受けていても、まったく見知らぬふりをするような、熱心さのない教師だ。ミオリからしても、信頼に足る大人ではなかった。そうなると、もうミオリにはお手上げだった。
家庭に居場所もなければ、さりとて学校に居場所があるわけでもない。真綿で首を絞め上げられているかのように、じわじわと窒息していくような感覚。心臓を常に暗雲が覆っているような、憂鬱な感情。どこか見知らぬ、遠くへ行きたい――いや、煙のように消えてしまいたいという欲求。
ミオリは傷が目立ち始めた重いランドセルを背負い直し、ため息をついた。自宅への帰路を行く足は、いつの間にか止まっていた。
「もしもし、そこのお嬢ちゃん」
はじめ、ミオリはそれが己に話しかけている声だと気づかなかった。しかし周囲を見渡して、あたりに自分以外の「お嬢ちゃん」がいないことに気づくと、ミオリはゆっくりと声のしたほうを向いた。
夕暮れの住宅街の、家屋と家屋の狭間の、細い路地。彼か彼女かもわからない人間が、そこに挟まるようにして、窮屈そうにして、じっとたたずんでいた。それは間違いなく、異様だ。
「もしもし、そこのお嬢ちゃん」
「おいでおいで」とでも言うように、その男とも女とも見分けがつかぬ人物は、ミオリの前で手のひらを揺らす。ミオリは恐怖に体を硬直させた。
しかしその性別のわからぬ人物は、ミオリが顔を引きつらせているにもかかわらず、「おいでおいで」とずっと手のひらを揺らしていた。
「憂鬱そうな顔をしているね。わかるよ。どこか遠くへ行きたいんだろう。そういう顔をしているね。わかるよ」
心の内を言い当てられたミオリは、さらなる恐怖を覚えると同時に――どこか、安堵した。目の前にいるのが明らかに不審な人物であるにもかかわらず。だれか、ミオリの本心を慮ることのできる人間がひとりでもいたのなら、そんな気持ちにはならなかっただろう。けれども現実には、ミオリを気にかけてくれる人間は、いなかった。少なくとも、ミオリからすれば、そうだった。
ミオリは、吸い寄せられるようにして狭い路地へと歩み寄った。さながら、火の光に引き寄せられる虫のように、ミオリはその男とも女とも見分けがつかない人物へと不用意に近づいた。
「――わっ」
不意に狭い路地から白い腕が伸びてきて、手首をつかまれる。ミオリの喉からおどろきの声が漏れ出た。それでもそれはひどく小さなもので、風が吹けばあっという間に空気に溶けていくような、そんな声だった。
乱暴に路地の中へと引っ張られて、ようやくミオリの心に後悔の文字が浮かぶ。こんな不審者の相手をすべきではなかったと。しかし同時に、どうなってもいいという、やけっぱちの感情もミオリの心の底に湧く。
だってそうだろう。ミオリが今ここで、ひどい目に遭ったとして、いったいどんな人間が心配してくれるだろう? ミオリはどうにでもなれと思いながら、一度目をつむった。
ミオリの手首をつかんでいた手のひらの感覚が、つかまれたときと同様に、不意に消えた。ミオリの予想に反して、なにも痛いことは起きなかった。なにかしらの言葉をかけられることもなかった。
恐る恐るまぶたを持ち上げる。目の前には狭く暗い路地ではなく――湖があった。ミオリの視界に収まりきらないほどに広大で、透明な水をたたえた水面が、きらきらと白く輝きを放っていた。
白昼夢を見るとすれば、こんな感じなのだろうか? ミオリは何度か目をしばたたかせてみたものの、目の前の景色は一切変わらない。色あせたぼろぼろのスニーカーの、薄っぺらな靴底が、住宅街の道路ではなく、モザイク状に配置された石畳を踏んでいることを知らせる。
白い薄雲がかかった空の色は薄青く、夕暮れどきから真昼間に時間が変わっていることに気づく。鼻腔をかすめるのは、目の前に広がる湖から漂ってきているであろう水のにおいだけで、それ以外の臭気は特段感じられなかった。
ぼんやりと目の前の光景を見ていれば、ミオリはようやく湖の真ん中に真っ白な彫像が立っていることに気づいた。いつだったか、どこかで見たヴィーナス像に似た彫像をよく見ようと無意識のうちに目を細めたところで、「こら!」と叱りつける声がかかり、ミオリは飛び上がらんばかりにおどろいた。
そしてその拍子に足を滑らせ――気がつけば、視界に水しぶきが上がり、たちまちのうちに服は水を吸って肌に貼りつき、重くなった。鼻や口から水が入り込み、一瞬息ができなくなる。ミオリは湖に落ちたのだ。
水底は遠いらしく足がつかなかった。そのことで、ミオリはパニックになる。水が入って咳き込んで、鼻や喉の奥がつんと痛くなる。それがまた、ミオリの混乱に拍車をかけた。
先ほどまでは、やけになって「どうなってもいい」とすら思っていたのに、溺れ死にしそうになると、今度は「助けて欲しい」という感情があふれ出てくる。
湖の水は冷たくなく、どちらかと言えば温かかったものの、手足の先から凍えて行きそうな感覚がミオリを襲う。それが怖くて泣き叫びたくなったが、水中ではそれすらもままならないことだった。
しかしそれも唐突に終わりを告げる。ゆるゆるになったTシャツの襟ぐりが、乱暴に捕まれ、上に引っ張りあげられた。少しのあいだだけ首が絞まった。しかしすぐに口内に入り込んだ水を吐き出す機会が訪れる。ミオリは鼻から口から、水を垂れ流しながら、長いこと咳き込んだ。
「息、できてるな?」
石畳にすっかり座り込んだミオリの顔を覗いたのは、壮年の男性だった。ミオリを心配している様子の、低い声が耳朶を打つ。その背後には当惑した顔の老齢の男性がいる。恐らく、先ほどミオリの背後から声をかけたのはこの老齢の男性だろうと、妙に冷静な頭でミオリは判断する。
ミオリを湖から引き上げただろう壮年の男性は、黙ってハンカチを差し出す。ミオリはそれを受け取るのに躊躇する心もあったが、今、自分の顔は見るに堪えないだろうと考えて、咳き込みながら差し出されたハンカチを手に取る。そのまま、涎や鼻水が混じっているだろう、顔面に付着した水分をハンカチに吸わせる。
げほげほと咳き込むミオリの背に、いつの間にか壮年の男性の、大きな手のひらが当たっていた。そのまま優しく上下に撫でられて、ミオリはわけもわからず泣きそうになった。それを誤魔化すように、広げたハンカチで顔を覆う。ハンカチはすでに水分をだいぶ吸って、湿っていた。
ハンカチを顔から外せば、顎に貼りついた黒い髪の毛の先から、雫のいくつかがミオリの膝へと落ちて行く。当たり前だが、下着まですっかり濡れてしまっていることに気づいて、ミオリは気持ちの悪さを覚えた。
咳も落ち着いてきたところで、ミオリは男性らに迷惑をかけてしまったことを謝ろうと顔を上げる。しかし、話しかけるタイミングを見計らっていたのは、向こうも同じだったらしい。
「お前、女なのか」
しかし壮年の男性の言葉は、ほとんど独りごとに近く聞こえた。ミオリはウサギがプリントされた、子供っぽい白いTシャツが水を吸って透けていることに気づく。着古されたスポーツブラが見えてしまっている。ミオリは反射的に腕で胸元を隠した。
申し訳なさと恥ずかしさが先立って、このときのミオリは、壮年の男性が口にした言葉の重要性などなにひとつわかっていなかった。
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