17 / 22
#16 イレギュラー・ホームレス
しおりを挟む
ねえ、聞いてよ。
ちょっとうれしいことがあったの。
え? 愚痴?
今日は愚痴じゃないってば。
というか、まるで毎回わたしが愚痴ばかり垂れてるような言い草じゃないの。
ふつうにおしゃべりするときだってあるでしょ?
ええ? 愚痴に付き合うのとそう変わらないって言いたいの?
冷たいわねえ……。
話っていうのはそう、聖女様のことなんだけれど。
あ、今は元聖女か。
そうそう、その一年半ほど前に召喚された聖女のことなんだけれどね。
とうとう就職先が決まったのよ。もぎとった、とも言えるかしら?
こちらに残るって宣言してから……もう半年も経つのね……それくらい経っているんだけれど、ようやく。
で、どんな職に就いたと思う?
え? 推測するには情報が少なすぎるって? まあそうね。
もったいぶっていても話が進まないし、言っちゃうけれど……巫女よ。巫女。
ちょっとはおどろくかと思ったんだけど……って、そういえばどんな子かまだ話していなかったんだっけ?
ちょっと! 違うわよ。ぜったい、老化なんかじゃないってば。
っていうか魔女は老化なんてしないわよ!
ホントよ。ホント。
わたしがウソを話したことなんてある?
まあ、そんなことは置いておいて。あの子の話なんだけれど。
あの子は召喚したときにはひどく怯えている様子だったわ。
まあ、仕方ないわよね。突然、見知らぬ場所へ拉致されれば、だれだってそうなるわ。
それでも説明されればまあ理解して、次の印象は気さくな女の子って感じだった。
気になったのは体がちょっと臭ったことくらいかしら?
あ、もうひとつあったわ。ちょっと服がボロっちかった。
それから、大きな荷物をひとつだけ持っていたわね。
今まで来た子の多くは清潔だったし、服もちゃんとしてたから、面食らった人がいたのはたしかね。
でもだれもそこには触れなかったわ。
おおかた、家出している最中だとか、たまたまちょっと体が臭っていて、たまたまちょっと古い服を着ていたんだろうって、たいていの人間は解釈した。
せっかく落ち着いたところだったから、そこからまた機嫌を損ねたくなかったっていうのもあるでしょうけどね。
だからまずしたのはあの子を風呂に入れることだった。
まあ、ここまでは普通よね。
あの子も普通にこちらの言うことを聞いているように見えた。
でも、実際は違ったのね。
王宮内の警備って、出入口はガチガチだけれど、中に入っちゃえばそうでもないのよね。
まあ、国王の私室とかになるとまた話は変わってくるんだけれど……。
とにかく広いし、部屋数も多いから、全部の部屋に衛兵を置くなんていうのは現実的じゃない。
だから、一度中に入っちゃうと、場所によってはかなり警備が手薄なところがあるのよね。
なんでこんな話をしたかって言うと、あの子がやらかしたからね。
窃盗。盗んだのよ。
王宮の警備が手薄な部屋から金目のものやらなんやら、恐らく持てるだけ持って、逃げたのよね。
そう、王宮から逃亡したの。
侍女が気づいたときには部屋の窓から抜けだしていて、そのあと王宮の部屋を荒らしまわったみたい。
狙われたのは女中部屋が多かったわね。王宮のパッと目につかない場所にあって、衛兵もいない場所だからかしら?
中には形見の品を盗まれたって子もいて、阿鼻叫喚だったわ。
聖女が逃げたっていう意味でも、阿鼻叫喚ではあったわね。
王宮中が上を下への大さわぎ。
最初は聖女の逃亡と窃盗事件を結びつける人間はいなかったんだけれど、わたしは全部わかっちゃうからね。
そう。聖女が逃亡した件でまず呼ばれて、謁見する途中で女中に窃盗事件の話を聞かされたの。
それでピンと来ちゃった。
で、調べたらふたつの事件は繋がっていて、犯人は聖女様だったってわけ。
これにはみんなおどろいていたわ。
過去に窃盗を働いた聖女や、逃亡した聖女はいなかったわけじゃないけれど、その両方をやって、かつこんな大々的に荒らしまわった聖女はいなかったからね。
どうやって逃げ出したかって?
どうやら、定時に食材を運び入れる荷馬車に忍び込んで脱出したみたいなのよ。
異世界って馬車なんかは珍しいハズなんだけれど、とっさにそこまで頭が回るなんて、ちょっとおどろきよね?
たいていの子は未知の世界に警戒して、王宮で大人しくしているものなんだけれどね。
あの子はちょっと、そういうタイプじゃなかったってわけ。
それにしても大胆よね。初めて来た場所で金品を荒らし回れるのは、ちょっと豪胆がすぎると思うわ。
え? 褒めてないわよ。
まあたしかに、ちょっと目を見張るような一大事件だなとは思ったけれど、れっきとした犯罪だしねえ……。
わたしがのんびりしているように見えるのなら、それは事件が解決しているからよ。
あの子はちゃんと盗品を返して、ひとりひとりに謝罪もしたから、こうやって振り返れるの。
意外? まあ、そうかもね。
わたしもあのときは逃亡しちゃうくらいだから、素直に帰ってはこないだろうとは思っていたのよね。
わたしがいるんだから、あの子の行方はすぐにわかったわ。
王都からちょっと離れた場所にある神殿にいたのね。
そう、あの森の中の。巫女しかいない神殿。
どうして神殿にいるんだろうと思ったんだけれど、どうもそこで再び盗みに入ろうとしたらしくってねえ……。
そう、あの神殿に。
どういう場所か知っている人間だったら、まあまず盗みになんて入らないんでしょうけれど、あの子は異世界人だからね……。
あそこの巫女はどんな階級の人間だろうが巫女になれる機会がある代わりに、なる方法が荒っぽいもの。
そうそう。武器はなんでもOK。とにかく今いる巫女と戦って勝てれば新たな巫女になれる、っていう。
まあそんなところに盗みに入って気づかれたら、どうなるか……わかるわよね?
……そう。案の定、ボッコボコにされたみたいよ。まあ、死なない程度ではあったんだけれど。
でもわたしたちが来たときはあの子、折れた右腕を布で吊り下げたまま、スープを飲んでいたわ。
どうしてそんなことになっているのかわからなくて、神殿に急行した騎士たちは不思議そうな顔をしていたわね。
どうやらあの子の身の上話を聞いて同情した巫女がスープを出してあげたみたいなの。
窃盗犯をボコボコにしたあと同情してスープを出すほうも出すほうだけれど、それで素直に飲むほうも飲むほうよね……。
まあとにかく、聖女は見つかったんだし連れ戻そうってことになったんだけれど、あの子は抵抗してね。
戻りたくないって言ったのよ。まあ、盗みを働いた場所に戻りたくないのは、道理よね。
でね、どうしようかって雰囲気になる間もなく、巫女のひとりがあの子をぶん殴ったのよ。
「アンタは一度戻るべきだよ。それで、盗んだもの全部返してみんなに謝ってきな。盗人なんて、この神殿にいちゃあいけないんだよ」って。
いきなり殴るもんだから騎士たちもビビってたわね。屈強な男どもでもあそこの巫女は怖いのねえ……。
まあわたしもあそこの巫女の思考回路はちょっと理解しにくいんだけれど。
おどろきなのは、そこまでされてもあの子は帰るのを迷ったってところかしら。
よっぽど巫女たちになついていたのね。
帰ったら、もう二度とここには来れないんじゃないかって思っていたみたい。
でもそれをどうにか説き伏せて、盗品といっしょに王宮へ戻ることを了承させたんだけど。
あの子はどうも、今までの子たちとは違って、路上生活者っていうやつだったらしいのね。
両親がロクデナシだったから、あの歳で家を飛び出して、根なし草生活。
娼妓館みたいなところで働いたりもしたけれど、タチの悪いお客に当たって、トラブルで結局辞めちゃったり。
それでお金も底を尽きかけて、身売りでもしようかってなったときに召喚されたらしいのよ。
自分からは言わなかったけれど、元の世界では窃盗を働いたことがあるのかもしれないわね……あの手際のよさを鑑みると。
まあそういう生活をしていたから、猜疑心が強くて他人を信頼できなかったみたい。
だからってまあ、窃盗が許されるわけじゃないけれど……でもどうしてあんなことをしたのかは、ひとまず理解できたわ。
そういう話を聞いた巫女たちが、あの子になんて言ったのかまではわからないけれど、でもあの子は最終的に王宮へ帰るという選択をした。
それで盗品を返して謝罪して回って、巡礼の旅も引き受けるって言ったの。
そうしないと巫女たちの元へは戻れないと感じたからみたい。
巡礼の旅は、あの子にとっては贖罪の旅でもあったのね。
それでも騎士や侍女たちはあの子が根を上げるんじゃないか、また逃亡するんじゃないかって危惧していた。
前科があるものね。でも、あの子はちゃんと文句も言わずに旅を終えたわ。
それで、巫女になったのよ。そうよ、あの神殿のね。
巫女になるまでの道のりは大変のひとことじゃ済まなかったけれど、でも、あの子は巫女になったわ。
あの子自身も巫女になれたことが信じられないみたいだった。
なにかをやり遂げたのは巡礼の旅と、コレくらいだって、言っていたもの。
学校でも落ちこぼれで、娼妓館も途中でやめちゃって、自分はなんにもできない人間だと思っていたって、あとで言っていたわね。
稽古は巡礼の旅に同行してくれた騎士がつけてくれてたんだけれど、彼も決闘を見届けて、喜んでいたわねえ。感無量、って感じで。
まあそういうわけで今日は気分がいいのよ。
……なあに、その顔。今日は気分がいいって言ったじゃない。
だから、ホラ。二〇年モノのワインを買って来たのよ!
え? 明日は槍が振る? ちょっと、さすがに失礼じゃない?!
わたしだって、たまには差し入れくらいするわよ。
ひとをケチみたいに言うんじゃないの!
……まあいいわ。さっそく開けちゃいましょう。
乾杯は……もちろん、あの子の未来を願って、ね。
ちょっとうれしいことがあったの。
え? 愚痴?
今日は愚痴じゃないってば。
というか、まるで毎回わたしが愚痴ばかり垂れてるような言い草じゃないの。
ふつうにおしゃべりするときだってあるでしょ?
ええ? 愚痴に付き合うのとそう変わらないって言いたいの?
冷たいわねえ……。
話っていうのはそう、聖女様のことなんだけれど。
あ、今は元聖女か。
そうそう、その一年半ほど前に召喚された聖女のことなんだけれどね。
とうとう就職先が決まったのよ。もぎとった、とも言えるかしら?
こちらに残るって宣言してから……もう半年も経つのね……それくらい経っているんだけれど、ようやく。
で、どんな職に就いたと思う?
え? 推測するには情報が少なすぎるって? まあそうね。
もったいぶっていても話が進まないし、言っちゃうけれど……巫女よ。巫女。
ちょっとはおどろくかと思ったんだけど……って、そういえばどんな子かまだ話していなかったんだっけ?
ちょっと! 違うわよ。ぜったい、老化なんかじゃないってば。
っていうか魔女は老化なんてしないわよ!
ホントよ。ホント。
わたしがウソを話したことなんてある?
まあ、そんなことは置いておいて。あの子の話なんだけれど。
あの子は召喚したときにはひどく怯えている様子だったわ。
まあ、仕方ないわよね。突然、見知らぬ場所へ拉致されれば、だれだってそうなるわ。
それでも説明されればまあ理解して、次の印象は気さくな女の子って感じだった。
気になったのは体がちょっと臭ったことくらいかしら?
あ、もうひとつあったわ。ちょっと服がボロっちかった。
それから、大きな荷物をひとつだけ持っていたわね。
今まで来た子の多くは清潔だったし、服もちゃんとしてたから、面食らった人がいたのはたしかね。
でもだれもそこには触れなかったわ。
おおかた、家出している最中だとか、たまたまちょっと体が臭っていて、たまたまちょっと古い服を着ていたんだろうって、たいていの人間は解釈した。
せっかく落ち着いたところだったから、そこからまた機嫌を損ねたくなかったっていうのもあるでしょうけどね。
だからまずしたのはあの子を風呂に入れることだった。
まあ、ここまでは普通よね。
あの子も普通にこちらの言うことを聞いているように見えた。
でも、実際は違ったのね。
王宮内の警備って、出入口はガチガチだけれど、中に入っちゃえばそうでもないのよね。
まあ、国王の私室とかになるとまた話は変わってくるんだけれど……。
とにかく広いし、部屋数も多いから、全部の部屋に衛兵を置くなんていうのは現実的じゃない。
だから、一度中に入っちゃうと、場所によってはかなり警備が手薄なところがあるのよね。
なんでこんな話をしたかって言うと、あの子がやらかしたからね。
窃盗。盗んだのよ。
王宮の警備が手薄な部屋から金目のものやらなんやら、恐らく持てるだけ持って、逃げたのよね。
そう、王宮から逃亡したの。
侍女が気づいたときには部屋の窓から抜けだしていて、そのあと王宮の部屋を荒らしまわったみたい。
狙われたのは女中部屋が多かったわね。王宮のパッと目につかない場所にあって、衛兵もいない場所だからかしら?
中には形見の品を盗まれたって子もいて、阿鼻叫喚だったわ。
聖女が逃げたっていう意味でも、阿鼻叫喚ではあったわね。
王宮中が上を下への大さわぎ。
最初は聖女の逃亡と窃盗事件を結びつける人間はいなかったんだけれど、わたしは全部わかっちゃうからね。
そう。聖女が逃亡した件でまず呼ばれて、謁見する途中で女中に窃盗事件の話を聞かされたの。
それでピンと来ちゃった。
で、調べたらふたつの事件は繋がっていて、犯人は聖女様だったってわけ。
これにはみんなおどろいていたわ。
過去に窃盗を働いた聖女や、逃亡した聖女はいなかったわけじゃないけれど、その両方をやって、かつこんな大々的に荒らしまわった聖女はいなかったからね。
どうやって逃げ出したかって?
どうやら、定時に食材を運び入れる荷馬車に忍び込んで脱出したみたいなのよ。
異世界って馬車なんかは珍しいハズなんだけれど、とっさにそこまで頭が回るなんて、ちょっとおどろきよね?
たいていの子は未知の世界に警戒して、王宮で大人しくしているものなんだけれどね。
あの子はちょっと、そういうタイプじゃなかったってわけ。
それにしても大胆よね。初めて来た場所で金品を荒らし回れるのは、ちょっと豪胆がすぎると思うわ。
え? 褒めてないわよ。
まあたしかに、ちょっと目を見張るような一大事件だなとは思ったけれど、れっきとした犯罪だしねえ……。
わたしがのんびりしているように見えるのなら、それは事件が解決しているからよ。
あの子はちゃんと盗品を返して、ひとりひとりに謝罪もしたから、こうやって振り返れるの。
意外? まあ、そうかもね。
わたしもあのときは逃亡しちゃうくらいだから、素直に帰ってはこないだろうとは思っていたのよね。
わたしがいるんだから、あの子の行方はすぐにわかったわ。
王都からちょっと離れた場所にある神殿にいたのね。
そう、あの森の中の。巫女しかいない神殿。
どうして神殿にいるんだろうと思ったんだけれど、どうもそこで再び盗みに入ろうとしたらしくってねえ……。
そう、あの神殿に。
どういう場所か知っている人間だったら、まあまず盗みになんて入らないんでしょうけれど、あの子は異世界人だからね……。
あそこの巫女はどんな階級の人間だろうが巫女になれる機会がある代わりに、なる方法が荒っぽいもの。
そうそう。武器はなんでもOK。とにかく今いる巫女と戦って勝てれば新たな巫女になれる、っていう。
まあそんなところに盗みに入って気づかれたら、どうなるか……わかるわよね?
……そう。案の定、ボッコボコにされたみたいよ。まあ、死なない程度ではあったんだけれど。
でもわたしたちが来たときはあの子、折れた右腕を布で吊り下げたまま、スープを飲んでいたわ。
どうしてそんなことになっているのかわからなくて、神殿に急行した騎士たちは不思議そうな顔をしていたわね。
どうやらあの子の身の上話を聞いて同情した巫女がスープを出してあげたみたいなの。
窃盗犯をボコボコにしたあと同情してスープを出すほうも出すほうだけれど、それで素直に飲むほうも飲むほうよね……。
まあとにかく、聖女は見つかったんだし連れ戻そうってことになったんだけれど、あの子は抵抗してね。
戻りたくないって言ったのよ。まあ、盗みを働いた場所に戻りたくないのは、道理よね。
でね、どうしようかって雰囲気になる間もなく、巫女のひとりがあの子をぶん殴ったのよ。
「アンタは一度戻るべきだよ。それで、盗んだもの全部返してみんなに謝ってきな。盗人なんて、この神殿にいちゃあいけないんだよ」って。
いきなり殴るもんだから騎士たちもビビってたわね。屈強な男どもでもあそこの巫女は怖いのねえ……。
まあわたしもあそこの巫女の思考回路はちょっと理解しにくいんだけれど。
おどろきなのは、そこまでされてもあの子は帰るのを迷ったってところかしら。
よっぽど巫女たちになついていたのね。
帰ったら、もう二度とここには来れないんじゃないかって思っていたみたい。
でもそれをどうにか説き伏せて、盗品といっしょに王宮へ戻ることを了承させたんだけど。
あの子はどうも、今までの子たちとは違って、路上生活者っていうやつだったらしいのね。
両親がロクデナシだったから、あの歳で家を飛び出して、根なし草生活。
娼妓館みたいなところで働いたりもしたけれど、タチの悪いお客に当たって、トラブルで結局辞めちゃったり。
それでお金も底を尽きかけて、身売りでもしようかってなったときに召喚されたらしいのよ。
自分からは言わなかったけれど、元の世界では窃盗を働いたことがあるのかもしれないわね……あの手際のよさを鑑みると。
まあそういう生活をしていたから、猜疑心が強くて他人を信頼できなかったみたい。
だからってまあ、窃盗が許されるわけじゃないけれど……でもどうしてあんなことをしたのかは、ひとまず理解できたわ。
そういう話を聞いた巫女たちが、あの子になんて言ったのかまではわからないけれど、でもあの子は最終的に王宮へ帰るという選択をした。
それで盗品を返して謝罪して回って、巡礼の旅も引き受けるって言ったの。
そうしないと巫女たちの元へは戻れないと感じたからみたい。
巡礼の旅は、あの子にとっては贖罪の旅でもあったのね。
それでも騎士や侍女たちはあの子が根を上げるんじゃないか、また逃亡するんじゃないかって危惧していた。
前科があるものね。でも、あの子はちゃんと文句も言わずに旅を終えたわ。
それで、巫女になったのよ。そうよ、あの神殿のね。
巫女になるまでの道のりは大変のひとことじゃ済まなかったけれど、でも、あの子は巫女になったわ。
あの子自身も巫女になれたことが信じられないみたいだった。
なにかをやり遂げたのは巡礼の旅と、コレくらいだって、言っていたもの。
学校でも落ちこぼれで、娼妓館も途中でやめちゃって、自分はなんにもできない人間だと思っていたって、あとで言っていたわね。
稽古は巡礼の旅に同行してくれた騎士がつけてくれてたんだけれど、彼も決闘を見届けて、喜んでいたわねえ。感無量、って感じで。
まあそういうわけで今日は気分がいいのよ。
……なあに、その顔。今日は気分がいいって言ったじゃない。
だから、ホラ。二〇年モノのワインを買って来たのよ!
え? 明日は槍が振る? ちょっと、さすがに失礼じゃない?!
わたしだって、たまには差し入れくらいするわよ。
ひとをケチみたいに言うんじゃないの!
……まあいいわ。さっそく開けちゃいましょう。
乾杯は……もちろん、あの子の未来を願って、ね。
0
お気に入りに追加
16
あなたにおすすめの小説
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。

150年後の敵国に転生した大将軍
mio
ファンタジー
「大将軍は150年後の世界に再び生まれる」から少しタイトルを変更しました。
ツーラルク皇国大将軍『ラルヘ』。
彼は隣国アルフェスラン王国との戦いにおいて、その圧倒的な強さで多くの功績を残した。仲間を失い、部下を失い、家族を失っていくなか、それでも彼は主であり親友である皇帝のために戦い続けた。しかし、最後は皇帝の元を去ったのち、自宅にてその命を落とす。
それから約150年後。彼は何者かの意思により『アラミレーテ』として、自分が攻め入った国の辺境伯次男として新たに生まれ変わった。
『アラミレーテ』として生きていくこととなった彼には『ラルヘ』にあった剣の才は皆無だった。しかし、その代わりに与えられていたのはまた別の才能で……。
他サイトでも公開しています。

【完結】仰る通り、貴方の子ではありません
ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは
私に似た待望の男児だった。
なのに認められず、
不貞の濡れ衣を着せられ、
追い出されてしまった。
実家からも勘当され
息子と2人で生きていくことにした。
* 作り話です
* 暇つぶしにどうぞ
* 4万文字未満
* 完結保証付き
* 少し大人表現あり

私と母のサバイバル
だましだまし
ファンタジー
侯爵家の庶子だが唯一の直系の子として育てられた令嬢シェリー。
しかしある日、母と共に魔物が出る森に捨てられてしまった。
希望を諦めず森を進もう。
そう決意するシャリーに異変が起きた。
「私、別世界の前世があるみたい」
前世の知識を駆使し、二人は無事森を抜けられるのだろうか…?

まだ20歳の未亡人なので、この後は好きに生きてもいいですか?
せいめ
恋愛
政略結婚で愛することもなかった旦那様が魔物討伐中の事故で亡くなったのが1年前。
喪が明け、子供がいない私はこの家を出て行くことに決めました。
そんな時でした。高額報酬の良い仕事があると声を掛けて頂いたのです。
その仕事内容とは高貴な身分の方の閨指導のようでした。非常に悩みましたが、家を出るのにお金が必要な私は、その仕事を受けることに決めたのです。
閨指導って、そんなに何度も会う必要ないですよね?しかも、指導が必要には見えませんでしたが…。
でも、高額な報酬なので文句は言いませんわ。
家を出る資金を得た私は、今度こそ自由に好きなことをして生きていきたいと考えて旅立つことに決めました。
その後、新しい生活を楽しんでいる私の所に現れたのは……。
まずは亡くなったはずの旦那様との話から。
ご都合主義です。
設定は緩いです。
誤字脱字申し訳ありません。
主人公の名前を途中から間違えていました。
アメリアです。すみません。
追放された偽物聖女は、辺境の村でひっそり暮らしている
黎
ファンタジー
辺境の村で人々のために薬を作って暮らすリサは“聖女”と呼ばれている。その噂を聞きつけた騎士団の数人が現れ、あらゆる疾病を治療する万能の力を持つ聖女を連れて行くべく強引な手段に出ようとする中、騎士団長が割って入る──どうせ聖女のようだと称えられているに過ぎないと。ぶっきらぼうながらも親切な騎士団長に惹かれていくリサは、しかし実は数年前に“偽物聖女”と帝都を追われたクラリッサであった。

[完結] 邪魔をするなら潰すわよ?
シマ
ファンタジー
私はギルドが運営する治療院で働く治療師の一人、名前はルーシー。
クエストで大怪我したハンター達の治療に毎日、忙しい。そんなある日、騎士の格好をした一人の男が運び込まれた。
貴族のお偉いさんを魔物から護った騎士団の団長さんらしいけど、その場に置いていかれたの?でも、この傷は魔物にヤられたモノじゃないわよ?
魔法のある世界で亡くなった両親の代わりに兄妹を育てるルーシー。彼女は兄妹と静かに暮らしたいけど何やら回りが放ってくれない。
ルーシーが気になる団長さんに振り回されたり振り回したり。
私の生活を邪魔をするなら潰すわよ?
1月5日 誤字脱字修正 54話
★━戦闘シーンや猟奇的発言あり
流血シーンあり。
魔法・魔物あり。
ざぁま薄め。
恋愛要素あり。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる