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#13 イレギュラー・ゴースト
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ねえ、聞いてよ。
前にあなた、「協力的な聖女なら自殺志願者でも呼べばいい」って言ってたでしょ?
えーっと、いつだったかしら……?
まあ、とにかく、そんな感じの雑なことを言っていたじゃない。
雑は余計? まあ、いいじゃないの。
この世に唯一無二の思いつきなんてないものよね。
……そう。あなたと同じような思いつきをしたヒトがいてね……。
それが単なる思いつき、酒の場の与太話ならよかったんでしょうけれど、実際に企画書にして出して通しちゃった人たちがいてね……。
ねえ、ビックリでしょ?
あなただって、本気でそんなことを考えて言ったわけじゃないものねえ。
まあたしかに、自殺志願者を選別して召喚する、という思いつきには一定のメリットはあるわよ。
自ら死を選ぶほどにまで追い詰められている人間でも、死にたがっているわけじゃないって場合がほとんどでしょうね。
彼ら彼女らは、なにか――つまり、どうしようもない苦痛とかから、逃れたがっているだけ。
でも、現実に逃れられなくて、どうしようもなくなってしまっているから、死という方法で、その「なにか」から逃れようとしている。
だから、異世界っていう新天地に喚べば、彼ら彼女らも悩みから逃れられて、それを叶えてくれるこちらに対して協力的になるはず――というのが、その企画の骨子ね。
そうね。たしかにそこは痛いところよね。
異世界人がすべて善人とは限らないし、召喚だってこっちの都合。そこを突かれると弱いわよね、この企画は。
でも不可能な人生の仕切り直しを、手厚く実現してくれる、っていうのは、そこそこ魅力的だと思うわ。
それにやっぱり、向こうの世界で死の危機に瀕している存在を助けられる、っていうのは、召喚する側としても「イイ気分」になれるじゃない?
そもそもが巡礼の旅なんて言う、異世界人からすれば理不尽な役目を押しつける立場にある人間からすれば、なおさら。
それよりもあなたが気になるのは、そんな選別が現実的に可能か、という点かしら?
可能か不可能かで言えば、可能よ。
ただ、ものすごーく時間がかかるのね。
通常の「聖女召喚の儀」だって普通に準備して軽く一年はかかるんだもの。
そこに召喚する人間を選別する術式を組み込めば、さらに時間がかかるのは、まあ言うまでもないことよね。
でも、今回は実験だからやったのよ。
今のところ世界は平和だし、差し迫った危機もなかったから通った企画と言えるわね。
これがまた戦争中とかだったらそんなこと言ってられるか、って感じだったんでしょうけれど。
実験が成功すれば、今後は人道的理由でこの方法を採用することもあり得るってことでやったの。
ひと昔前だったら、あり得ないわよね? 「人道的」理由で、なんて。
それだけ今は平和ってことよね。いい世の中だわ。
え? ……まあねえ。それを言ったらたしかに、「聖女召喚の儀」自体が非人道的だけれどねえ……。
なにせ、「聖女召喚の儀」とか言っているけれど、要は拉致だからね。異世界からの。
「国家犯罪」って言われたら、なにも言い返せないわよ。
……でも、どう言われてもやめられないでしょうね。
現実に、神々へ請願を届けられるのは、この世界の人間には無理な話だから。
それで話が戻るんだけれど、やったのね、自殺志願者を選別して召喚するっていう、その実験を。
でもやっぱり、膨大な時間はかかったわ。
五年よ、五年。
そう、組み込んだ術式を実行して、召喚を実現させるまでに五年もかかったの。
これはまあ研究者によると短縮は可能かもしれないとは言っていたけれどね。
でもやっぱり、五年は長いわよねえ……。ぜいたくな時間の使い方だわ。
……で、それで成功したのかって?
半分成功ね。それで、半分は失敗。
いえ、失敗と断言してしまってもいいのかしら?
自殺志願者の選別には成功したのよ。
成功は、したのよね。
……したんだけどねえ……ちょっと、タイミングが悪くって。
……ええ、そうなのよ。
絶賛、自殺中。
自殺している真っ最中に召喚してしまったのね。
ちょっと、術式の精度が良すぎたのかしら?
いえ、失敗したんだから精度は悪かった、と言うほうが正しいのかしら?
まあ、とにかく召喚した「聖なる乙女」が自殺の真っ最中だったから、みんな大慌てだわ。
しかもねえ、その子……死んじゃってねえ……。
ええ、そうよ。
死んじゃったの。
どうにかしようと、みんな手はつくしたんだけれどね。
それで、術士のひとりがテンパっちゃって。
なにせ、五年の準備期間を経て召喚したのに、それが失敗したってなったら、まあだれでもあわてるわよね。
死んじゃっても、ひとまず現世に留めていればOKとでも思ったのか、魂の可視化と固着の術を使ってねえ……。
見事にその子は浮遊霊になっちゃったのね。
ええ、まあ、そうよね。
最初の「人道的召喚」はどうなったって話よね。
でも五年もかけた術の成功の可否にかかれば、そんな建前はどこかへ飛んでしまうものよ。
まあそういうわけで、あの子は浮遊霊になっちゃった。それが現実よ。
国王は困惑していたわ。あの子も困惑していたわ。
っていうか、みんな困っていたし動揺していた。
さすがのわたしもこんなことは初めてだったから、妙案なんてものは浮かばなかったわ。
で、どうなったかって言うとね……聖女は召喚できたんだし、旅の日程はもう決まっているから、そのまま旅に出そう、って。
ええ、ビックリでしょ!
ちょっとちょっと、って感じでしょう?
もちろんわたしは待ったをかけたわ。
さすがにこんな風にしておいて巡礼の旅まで押しつけるのは酷だって言ったわ。
ここは魂の固着化の術を解いて、昇天させてあげるのが筋でしょう、って。
でもねえ……ビックリなんだけど、他でもないあの子がそれを拒否したのよ。
「せっかく異世界に来たんだから、せめて異世界の景色を見て回ってから死にたい」って言ったのよね。
それを辛いことしかなかった人生の、せめてもの慰めにしたい、って。
国王もみんなも、その言葉に涙したわ。
それでまあ、盛大にあの子と随行の騎士たちを送り出したの。
……そうね、そんなこと言ってくれるのは、あなたくらいよ。
わたしの立つ瀬は残念ながらなかったわ……。
魔女だって気まずい思いをする感情はあるのよ。
はあ……。
心配ごとは他にもあったわ。
はたして異世界人とは言え、幽霊に祈りの力はあるのか、とかね。
まあそれは杞憂に終わったんだけど。
ええそうよ。普通に請願は通ったのね。
神々にとって重要なのは異世界人かどうかっていう点で、生死は問わないみたいね。
ビックリよね~……。
まあそういうわけで、巡礼の旅は普通に終わったわ。
というか、普通よりも楽だったみたいね。
なにせ、聖女には肉体がないから。
馬車の振動で痛くなるお尻もないし、排泄の必要もないし、お腹も空かないし汚れたりもしない。
あの子にとってはかなり楽しい旅だったみたいよ。
ビックリよねえ……。
それで、戻ってきたあの子はどうなったかって?
まあもちろん、元の世界には帰りたいなんて言い出さなかったわよ。
自殺する道を選ぶくらい、元の世界は辛かったみたいだしね。
じゃあ昇天する道を選んだかって?
それがねえ、まだ昇天したくないって言って、王宮に住みついているのよね……。
え? 周りの人間?
まあ、フツーに打ち解けているわよ。
幽霊だっていう点以外は、普通の人間だもの、あの子。
周囲のヒトたちはちょっと毛色の違う王宮の新たな住人、くらいに思っているんじゃないかしら?
あの子はあの子で、元々ファンタジーっていうの? こっちの世界みたいな絵物語が好きだったらしくて、この世界には興味シンシンで毎日楽しそうにしているわ。
自身の研究にも余念がなくて、最近は自分の姿の濃淡を操作できる能力を身につけていたわね。
それでね~……それだけでももう、なにがなんだかって感じなんだけれどねえ。
あの子がそんな能力を見つけたから、諜報にぴったりなんじゃないかって言い出した輩がいてねえ……。
あの子もあの子でノリ気だし、国王もなんかノリ気だしで……。
え? わかる? ちょっとついて行けないわよね。
つかれるって言うかなんて言うか……。
もうちょっと、問題にするところはあるでしょうにって感じと言うか……。
いえ、でも、これでうまく回っているんだから、こちらからなにか言うのは野暮よね。
わかっているわ。
わかっているのよ。
でもね、魔女でも……ちょっとつかれてしまうことはあるのよ。
はあ……。
……仕方ないわ。こういうときは飲んで忘れるに限るっ!
さあワインを開けましょう!
え? 渋らない渋らない。
あなただって同調してくれたじゃないの。
ええー。わたしが可哀想だったから仕方なく、って言いたそうね。
そんな、照れ隠しなんてしなくていいのよ?
え? 違う?
まあまあいいじゃない。とにかく一本開けましょうよ。
開けないって言うなら、わたしが開けにいっちゃうわよ~?
……あら、最初から素直にそうしておけばいいのよ。
とびきりおいしいのをよろしくねー!
前にあなた、「協力的な聖女なら自殺志願者でも呼べばいい」って言ってたでしょ?
えーっと、いつだったかしら……?
まあ、とにかく、そんな感じの雑なことを言っていたじゃない。
雑は余計? まあ、いいじゃないの。
この世に唯一無二の思いつきなんてないものよね。
……そう。あなたと同じような思いつきをしたヒトがいてね……。
それが単なる思いつき、酒の場の与太話ならよかったんでしょうけれど、実際に企画書にして出して通しちゃった人たちがいてね……。
ねえ、ビックリでしょ?
あなただって、本気でそんなことを考えて言ったわけじゃないものねえ。
まあたしかに、自殺志願者を選別して召喚する、という思いつきには一定のメリットはあるわよ。
自ら死を選ぶほどにまで追い詰められている人間でも、死にたがっているわけじゃないって場合がほとんどでしょうね。
彼ら彼女らは、なにか――つまり、どうしようもない苦痛とかから、逃れたがっているだけ。
でも、現実に逃れられなくて、どうしようもなくなってしまっているから、死という方法で、その「なにか」から逃れようとしている。
だから、異世界っていう新天地に喚べば、彼ら彼女らも悩みから逃れられて、それを叶えてくれるこちらに対して協力的になるはず――というのが、その企画の骨子ね。
そうね。たしかにそこは痛いところよね。
異世界人がすべて善人とは限らないし、召喚だってこっちの都合。そこを突かれると弱いわよね、この企画は。
でも不可能な人生の仕切り直しを、手厚く実現してくれる、っていうのは、そこそこ魅力的だと思うわ。
それにやっぱり、向こうの世界で死の危機に瀕している存在を助けられる、っていうのは、召喚する側としても「イイ気分」になれるじゃない?
そもそもが巡礼の旅なんて言う、異世界人からすれば理不尽な役目を押しつける立場にある人間からすれば、なおさら。
それよりもあなたが気になるのは、そんな選別が現実的に可能か、という点かしら?
可能か不可能かで言えば、可能よ。
ただ、ものすごーく時間がかかるのね。
通常の「聖女召喚の儀」だって普通に準備して軽く一年はかかるんだもの。
そこに召喚する人間を選別する術式を組み込めば、さらに時間がかかるのは、まあ言うまでもないことよね。
でも、今回は実験だからやったのよ。
今のところ世界は平和だし、差し迫った危機もなかったから通った企画と言えるわね。
これがまた戦争中とかだったらそんなこと言ってられるか、って感じだったんでしょうけれど。
実験が成功すれば、今後は人道的理由でこの方法を採用することもあり得るってことでやったの。
ひと昔前だったら、あり得ないわよね? 「人道的」理由で、なんて。
それだけ今は平和ってことよね。いい世の中だわ。
え? ……まあねえ。それを言ったらたしかに、「聖女召喚の儀」自体が非人道的だけれどねえ……。
なにせ、「聖女召喚の儀」とか言っているけれど、要は拉致だからね。異世界からの。
「国家犯罪」って言われたら、なにも言い返せないわよ。
……でも、どう言われてもやめられないでしょうね。
現実に、神々へ請願を届けられるのは、この世界の人間には無理な話だから。
それで話が戻るんだけれど、やったのね、自殺志願者を選別して召喚するっていう、その実験を。
でもやっぱり、膨大な時間はかかったわ。
五年よ、五年。
そう、組み込んだ術式を実行して、召喚を実現させるまでに五年もかかったの。
これはまあ研究者によると短縮は可能かもしれないとは言っていたけれどね。
でもやっぱり、五年は長いわよねえ……。ぜいたくな時間の使い方だわ。
……で、それで成功したのかって?
半分成功ね。それで、半分は失敗。
いえ、失敗と断言してしまってもいいのかしら?
自殺志願者の選別には成功したのよ。
成功は、したのよね。
……したんだけどねえ……ちょっと、タイミングが悪くって。
……ええ、そうなのよ。
絶賛、自殺中。
自殺している真っ最中に召喚してしまったのね。
ちょっと、術式の精度が良すぎたのかしら?
いえ、失敗したんだから精度は悪かった、と言うほうが正しいのかしら?
まあ、とにかく召喚した「聖なる乙女」が自殺の真っ最中だったから、みんな大慌てだわ。
しかもねえ、その子……死んじゃってねえ……。
ええ、そうよ。
死んじゃったの。
どうにかしようと、みんな手はつくしたんだけれどね。
それで、術士のひとりがテンパっちゃって。
なにせ、五年の準備期間を経て召喚したのに、それが失敗したってなったら、まあだれでもあわてるわよね。
死んじゃっても、ひとまず現世に留めていればOKとでも思ったのか、魂の可視化と固着の術を使ってねえ……。
見事にその子は浮遊霊になっちゃったのね。
ええ、まあ、そうよね。
最初の「人道的召喚」はどうなったって話よね。
でも五年もかけた術の成功の可否にかかれば、そんな建前はどこかへ飛んでしまうものよ。
まあそういうわけで、あの子は浮遊霊になっちゃった。それが現実よ。
国王は困惑していたわ。あの子も困惑していたわ。
っていうか、みんな困っていたし動揺していた。
さすがのわたしもこんなことは初めてだったから、妙案なんてものは浮かばなかったわ。
で、どうなったかって言うとね……聖女は召喚できたんだし、旅の日程はもう決まっているから、そのまま旅に出そう、って。
ええ、ビックリでしょ!
ちょっとちょっと、って感じでしょう?
もちろんわたしは待ったをかけたわ。
さすがにこんな風にしておいて巡礼の旅まで押しつけるのは酷だって言ったわ。
ここは魂の固着化の術を解いて、昇天させてあげるのが筋でしょう、って。
でもねえ……ビックリなんだけど、他でもないあの子がそれを拒否したのよ。
「せっかく異世界に来たんだから、せめて異世界の景色を見て回ってから死にたい」って言ったのよね。
それを辛いことしかなかった人生の、せめてもの慰めにしたい、って。
国王もみんなも、その言葉に涙したわ。
それでまあ、盛大にあの子と随行の騎士たちを送り出したの。
……そうね、そんなこと言ってくれるのは、あなたくらいよ。
わたしの立つ瀬は残念ながらなかったわ……。
魔女だって気まずい思いをする感情はあるのよ。
はあ……。
心配ごとは他にもあったわ。
はたして異世界人とは言え、幽霊に祈りの力はあるのか、とかね。
まあそれは杞憂に終わったんだけど。
ええそうよ。普通に請願は通ったのね。
神々にとって重要なのは異世界人かどうかっていう点で、生死は問わないみたいね。
ビックリよね~……。
まあそういうわけで、巡礼の旅は普通に終わったわ。
というか、普通よりも楽だったみたいね。
なにせ、聖女には肉体がないから。
馬車の振動で痛くなるお尻もないし、排泄の必要もないし、お腹も空かないし汚れたりもしない。
あの子にとってはかなり楽しい旅だったみたいよ。
ビックリよねえ……。
それで、戻ってきたあの子はどうなったかって?
まあもちろん、元の世界には帰りたいなんて言い出さなかったわよ。
自殺する道を選ぶくらい、元の世界は辛かったみたいだしね。
じゃあ昇天する道を選んだかって?
それがねえ、まだ昇天したくないって言って、王宮に住みついているのよね……。
え? 周りの人間?
まあ、フツーに打ち解けているわよ。
幽霊だっていう点以外は、普通の人間だもの、あの子。
周囲のヒトたちはちょっと毛色の違う王宮の新たな住人、くらいに思っているんじゃないかしら?
あの子はあの子で、元々ファンタジーっていうの? こっちの世界みたいな絵物語が好きだったらしくて、この世界には興味シンシンで毎日楽しそうにしているわ。
自身の研究にも余念がなくて、最近は自分の姿の濃淡を操作できる能力を身につけていたわね。
それでね~……それだけでももう、なにがなんだかって感じなんだけれどねえ。
あの子がそんな能力を見つけたから、諜報にぴったりなんじゃないかって言い出した輩がいてねえ……。
あの子もあの子でノリ気だし、国王もなんかノリ気だしで……。
え? わかる? ちょっとついて行けないわよね。
つかれるって言うかなんて言うか……。
もうちょっと、問題にするところはあるでしょうにって感じと言うか……。
いえ、でも、これでうまく回っているんだから、こちらからなにか言うのは野暮よね。
わかっているわ。
わかっているのよ。
でもね、魔女でも……ちょっとつかれてしまうことはあるのよ。
はあ……。
……仕方ないわ。こういうときは飲んで忘れるに限るっ!
さあワインを開けましょう!
え? 渋らない渋らない。
あなただって同調してくれたじゃないの。
ええー。わたしが可哀想だったから仕方なく、って言いたそうね。
そんな、照れ隠しなんてしなくていいのよ?
え? 違う?
まあまあいいじゃない。とにかく一本開けましょうよ。
開けないって言うなら、わたしが開けにいっちゃうわよ~?
……あら、最初から素直にそうしておけばいいのよ。
とびきりおいしいのをよろしくねー!
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