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神業すぎる整体師と重症すぎる腰痛持ちの秘密

ステップ5:シリコンブジーと温泉の効能(1)

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 とある日曜日。帰り支度をしている俺に、そういえば、と島崎先生が声をかけてきた。

「高橋様。再来週なんですが、施術場所を変えても良いでしょうか?」
「え、場所をですか?」
「少し試したい施術方法がありまして。それで、もし可能だったら翌日の効果も確認がしたいのですが……ご予定はいかがですか?」

 もちろん無理にとは言わないので、と言う先生に俺は再来週の予定を思い出してみる。たしか再来週は月曜日が祝日だったよな。仕事に関しては問題ないし、大した予定も入っていなかったはずだ。二日がかりの施術だなんてかなり大がかりなものだけど、先生がしてくれるという施術内容に間違いはないだろう。それに、いつもお世話になっている先生にお願いされたのだ。ここで断るという選択肢は俺にはない。

「もちろん大丈夫です! 俺で良ければ。それで、どこに行けばいいんですか?」

 俺が承諾をすると、先生の顔が嬉しそうに綻ぶ。こんなイケメンで優しい先生がお願いしたら、どんな客でも二つ返事で快諾しそうなものなのに、俺が相手でいいのだろうか。

(それだけ俺の症状が酷いってことだったりして……)

 毎週通っている整体院は、おかげさまで長年の腰痛をかなり軽減してくれている。前のように突然ぎっくり腰になることもなくなったし、少しばかり動きも軽やかになったくらいだ。それでも俺がこうして通い続けているのは、俺の敏感症についても施術を通して良くなる可能性があるという話をしてもらったからだ。

 これまでの俺は過剰な喘ぎ声を出すのが嫌で、極力人との接触を避けていた。そのせいもあって余計に、突然触れられた時の他人の感触に、過敏に反応するようになっていたのだ。こうして毎週施術を通して先生に触れて貰っているうちに、過剰な反応をする自分に対する嫌悪感とか、人に触られるということに対する苦手意識がなくなってきた気がする。
 とはいえ、まだまだすぐに反応する身体や飛び出す喘ぎ声が収まることはないんだけど……。

「詳細は当日に。駅で待ち合わせをしたいのですが、✕✕駅まで来ていただくことは出来ますか?」
「は、はい。大丈夫です……?」

 意味深に笑った先生は、待ち合わせの時間はまたメッセージで送りますね、と言ってこの話を終わらせてしまった。
 気になることはたくさんあったが、ともかく再来週になればわかるだろう。今日使った器具を片づけ始めた先生の後姿を見て、俺も中途半端になっていた着替えを再開するのだった。


 ◇◇◇


 そうして約束の日になり、心なしか上機嫌の島崎先生に連れて行かれた先は、なんと温泉旅館だった。目を丸くする俺に、先生がいたずらが成功したような顔をする。

「驚かせてすみません」
「……びっくりしました。まさかこんなところで施術するなんて」
「ふふ、この旅館の温泉は肩こりと腰痛に効くことで有名なんです。高橋様のお身体は長年の疲れをかなり蓄積されているので……こういった療法も併用した方がより効果が出るかと思いまして」
「なるほど……本当にいつもいろいろ考えてくださって、ありがとうございます」

 一顧客にここまで親身になってくれる人もなかなかいないだろう。
 以前、どうしてこんなに良くしてくれるのかと聞いてみたことがある。その時先生は「年齢が近いから、お客様というよりも友人として貴方の力になりたいと思っているのかもしれません」なんて嬉しいことを言ってくれたっけ。
 今回のこの施術もその一環なのかもしれないが……まさに老舗といった佇まいの建物に、俺は少し気後れしてしまう。

「た、高そうな旅館ですね……」

(こんなことなら、もっとお金おろしてくるんだった……)

 女将さんがわざわざ挨拶に出てきたかと思えば、お部屋に案内しますと連れてこられた客室は、離れになっている大きな部屋だった。もしかしてとんでもないVIP待遇なのでは?とそわそわした俺は、財布から飛んでいくお札の数が何枚になるかと頭を悩ませてしまう。
 明らかに口数の減った俺に気づいた先生が、夕食の説明をしている女将さんに聞こえないようにこっそり耳元で囁いた。

「実はこの旅館、祖父のお得意様が運営されているんです。その恩恵もあって今回費用はかかりませんので安心して下さいね」

 流れ込んでくる低音とともに、ふぅっ、とかすかに吐息を感じた俺は、それだけで背筋がゾクゾクとしてしまう。施術中でもないのにどうしたんだ俺は。たかが声にすら反応してしまったことに頬を染めながら、俺は小さい声で「ありがとうございます」と呟いた。

 その後二人で向かったのは、離れに特設されている大浴場。先に一緒に汗でも流すのかと思ったら、先生はなんと白衣に着替えている。場所は変わってもあくまで施術なので、裸になるのは俺だけらしい。先生と裸の付き合いができるのかも……なんて、少しだけ期待をしていた自分に気付いて、少しだけ恥ずかしくなる。

「今回離れは貸切ですが、お湯を汚してしまわないように準備をしましょう」

 そう言って先生が手に取った器具は初めて見る形で、細くて長いシリコンで作られた棒状のモノだった。

「は、はい……」
「施術の効果を高めるために本日も目隠しをしますが、私が支えますので安心してくださいね」

 いつものように視界が塞がれると、目で見ること以外の五感が研ぎ澄まされる。遠くで聞こえる水滴の音や、いつもより温かな空気、温泉の匂い。普段とは違う環境に妙に胸がドキドキする。



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