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4話

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 ……と思ったら、ふいと視線を外されてしまったではないか。

「浩平くん……?」

「あ、あの、ありがとうございます。俺……もっと気合い入れて柔軟改善します」
「う、うん? ソウダネ……??」

 んん~?
 なんだコレ?

 思ったような展開にはならず、浩平はいそいそと準備をするとマシンの方へと向かってしまった。

(なかなか手強いぞ……)

 童貞の場合、こちらのお色気アピールに全く気付かないというパターンも十分にあり得る。でも浩平の場合は気付いてはいるのだ。それが故意ではないと思っていたとしても、性的に興奮はしているはず。それなのにそれを抑えて、我慢しているようだった。

 付き合ってからのことを考えると、そんなことが出来るなんて俺の竿役としては最高すぎるポテンシャルなのだが、なかなか手を出してくれないのはいただけない。
 欲望丸出しにさっさと襲いかかってでもくれれば、フェラの一つでもしてスッキリさせた後、上に乗って脱童貞させてあげるのに。

 俺から誘いかけないというのにも、俺なりのポリシーがあった。やはり告白というのは、する方とさせる方で多少なりとも優勢が変わってしまう。愛の大きさを測るわけではないけれど、以前俺から誘いをかけた時に相手の童貞クンが「俺のこと好きなんでしょ」感を出して力任せに抱いてこようとしたことがあったのだ。
 そいつがダメだったと言ってしまえば終わりだが、何となく嫌な思いをした事を繰り返したくなくて。そこから俺はまず相手から好きだ・抱きたいと言葉を引き出すようにしている。

(作戦その一は不発。次の作戦に移るか)

 前にセックスしてから一週間以上経っている。悪いが俺は性欲が強い方なのだ。少なくとも三日にいっぺんはヤっておかないとムラムラする。という事で何としてでも今日は浩平をお持ち帰りしたい。最悪でも手を出してくれさえすれば、そこからは如何様にでも軌道修正が出来るのだから。

 俺は気持ちを切り替えて、決意新たに浩平の背中を追いかけるのだった。


 ・
 ・
 ・


「ふぅ……あー、疲れたー!」
「ははっ! だいぶ頑張りましたね」
「うん。あんな真剣にマシン使ったの初めてだよ~」

 更衣室でベンチに座った俺は、そのまま身体を反らすようにして叫ぶ。そんな俺を見て、爽やかに笑っている浩平はまだ余裕がありそうだ。

「浩平くんは全然平気そうだね?」
「え? まぁ、それなりに鍛えてるんで……」

 目の前に立つ浩平をジトっと恨めしげに見上げると、少し気まずそうな表情をして視線を泳がせる。うーん男としてはちょっと悔しいけど、体力があるのも、引き締まったその身体も、花丸をあげたいくらいに素晴らしい。

「はやく食べたいなぁ……」
「? 何か言いました?」
「ううん、たくさん汗かいちゃったなぁーって言っただけだよ♡」

 小さく呟いた俺の声は、彼の耳には届かなかったようだ。都合よくこちらを向いてくれたので、そのまま作戦その2を実行することに決めた。

 俺はおもむろに、Tシャツの襟元をパタパタとはためかせ、風を送り込む。今日着ているTシャツは少し首回りが緩いデザインなので、そうして煽ぐと角度によっては胸元まで見えてしまうくらいに広がるのだ。

(どうだ? その立ち位置からだと、確実に乳首まで見えているはず……♡)

 俺の乳首は歴代の彼氏からも、小ぶりだけどツンと勃っていて、いくら弄り倒してもピンク色で可愛い♡と評判の乳首だ。これを目の当たりにして手を出してこない男はいなかった。
 さあどうだ?とその顔を見ようとすると、大判のタオルがばさりと頭から被せられる。

「っわ⁈」
「ちゃんと拭かないと、風邪引いちゃいますよ」

 タオルをどかして見た時には、既に浩平はこちらに背を向けて着替え始めており、手を出してくる気配は全くしなかった。首元まで真っ赤にしているから、多分、絶対、見ていたはずなのに。

(な、なんで⁈ 俺がここまでして何も無いとかあり得るの⁈)

 今までにない事態に、俺は盛大に混乱していた。そのまま急かされるようにして着替えを済ませると、明日早朝からバイトがあると言う浩平の背中を、ジムの前で見送るだけでその日は終わりを迎えてしまった。


 ***


 次の日、イライラとムラムラがおさまらない俺は、唯一俺の本性を知っている幼馴染みをカフェに呼び出していた。

「おかしいっ! 俺の即落ちコンボを食らって、あそこまで理性を保っていられるなんて……もしかして浩平くんってインポなのかな?」
「お前なぁ、痛い目見る前にそういうのやめろよ」

 昼間からあけすけに話をする俺に、こうして苦言を呈する龍之介りゅうのすけも、俺で脱童貞をした一人だ。そして何より、俺に童貞の素晴らしさを教えてくれた救いの神でもある。

「なんで? 別に美人局つつもたせしているわけでもないし、釣れた後はちゃんと恋人としてセックスするんだから、なんも問題ないじゃん」
「相手を手玉に取るように振り回して。好みじゃなくなったらすぐにポイとか、いつか元カレに刺されるぞ」
「そんな風には育ててないから大丈夫だよぉ。今回は絶対上玉なんだ。ジャージの上からでもわかる巨根感。あれは上手に咥えれば、めちゃくちゃ気持ちいいところ突いてくれると思うんだよね~♡」
「はいはい……せいぜい気を付けろよ」

 投げやりな返事をされてムッとする。こっちはセックス出来なくてイライラムラムラしてるんだから、もっと優しくしてくれてもいいんじゃないか?

「何それ。あーあ、龍之介も昔は俺の下で可愛く喘いでたのになぁ。新しく彼女が出来たら、筆下ろしの相手にそんな冷たい態度とるんだー?」
「ちょっ、声がでけーよ!」
「悲しいなぁ……『美鳥、俺、こんなに気持ちいいの初めてだっ』とか言って、一生懸命腰突き上げちゃってたのにさ~」
「やーめーろーーー!! 何なんだよ、お前。俺にどうしろって言うんだよ」

 テーブルから乗り出して、俺の口を無理やり塞ぐ龍之介。その手を振り払うと、俺はにやりと笑って告げる。

「ここのチーズケーキ、美味いんだよね」
「はぁ?」
「性欲が満たされないなら、食欲でカバーするしか無いでしょ? 自分のお金で食べるのは気にくわないから、奢って♡」
「……ハァ~~~。わかったよ……」
「わーい♡ ありがと、龍ちゃん♡」

 昔からの呼び名でそう言うと、こちらをひと睨みした龍之介はそのまま店員を呼ぶためにコールボタンを押した。




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