声優(おしごと)の時間です! 〜意地悪マネージャーと秘密のレッスン?!〜

つむぎみか

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なんとか大団円、です!

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 小田原が歩夢を追いかけて廊下を進むと、思っていたよりも早くその姿を見付けることができた。というより歩夢はすぐ近くにある階段でしゃがみ込んでいた。

「おい、歩夢? どうしたんだ?」

 両膝を抱えて蹲る歩夢に、体調でも悪いのかと心配そうに声をかけた。

「あっ、小田原さん……いや……そのぉ……」
「なんか顔も赤いな。もしかして熱でもあるのか?」

 小田原の声にハッと顔を上げた歩夢は、ぽぽぽっと音がしそうなほど頬を赤く染めてもじもじとしていた。そんな様子を怪訝に思いながらも念のためにとその額に手のひらをあてる。
 しかしもちろん熱などはなく小田原は首を傾げるのだが、歩夢は自分の頭に添えられた小田原の手を握りしめると、更に顔を真っ赤にさせながら目の前の男を見つめた。

「いや、ちがくて、……俺……っ」
「ん?」
「その……」










「……俺、お、小田原さんのこと、好き……なのかなぁ?」



 何度か口を喘がせ逡巡した後、眉をハの字に下げながら歩夢は首をかしげて尋ねた。
 小田原はかすかに息を飲み、自分の手のひらを掴んだ歩夢の手を握り返す。

「……なんで疑問形なんだよ?」

 ふはっと声を出して笑う小田原はとても楽しそうで。この間歩夢が言った言葉を同じように返されてしまった。

「お、俺、好きってよくわからなくて……でもさっき永瀬さんと話してたら、もしかしてそうなのかもって思ったんだ」

 まだ確信まで至っていないようではあるが、歩夢自身がそう思えたことはかなりの進歩である。しばらくは現状維持でもいいかと長期戦覚悟だった小田原にとっては朗報だ。

「まぁ、そんなもんで良いんじゃねぇの」
「えっ……」

 まさか自分を好き(暫定)と思っている相手からそんなことを言われるとは考えてもいなくて、歩夢は目を丸くして驚いた。好きを言われたら同じだけの好きの感情を返さなくちゃいけない。そういうものではないのだろうか。

「なに驚いた顔してんだ」
「だ、だって、こんなはっきりしないのに……」
「ん~そうだなぁ。それじゃ、とりあえず付き合ってみるってのはどうだ」
「えぇっ?! なんか軽い!! っていうか、とりあえずってそんな適当な感じでいいの?!」
「ははっ、怒んなよ。それくらい気楽な方が初心者の歩夢くんには、ちょうどいいんじゃないかと思ったんだけど?」

 揶揄うような口調に「なにそれ!」と憤慨する歩夢を見て、小田原はさらに笑みを深める。

「まぁ冗談は置いといて。別に今はまだ、はっきりしなくてもいいんじゃねぇか」
「……そういうもの?」
「例えば初めて会ったやつに、いきなり『運命を感じました! 大好きです~』って言われるよりも、よっぽど真実味があると思うぜ」

 確かに初対面でそんなことを言われても信用は出来ないけど、最近になって小田原の言っていることは、ほとんどの場合あまり一般的ではないような気がしてきた歩夢は胡乱な目をしている。結局いつも言いくるめられてしまうのだけれど。

「一気に燃え上がって消えちまう気持ちよりも、ゆっくりと少しずつ大きくなる気持ちの方が良いだろ?」

 な? と聞かれると、そうかもしれないと思ってしまう歩夢は、相当小田原に毒されている。
 遅かれ早かれ同じ結末になっていただろうが、いつの間にか真綿に包まれるように全てを浸食されていった歩夢は、もはや小田原の元から抜け出すことなどできなかった。


◇◇◇


 その後スタジオに戻ると、どうやら調子を取り戻したらしい永瀬がにこにこと笑顔で迎えてくれた。先ほどまでの萎れた様子はどこにいったのやら、まるで浮かれたように上機嫌なその変わりように歩夢は首を傾げる。あのあと一体なにがあったのかと声を掛けようとする歩夢を、小田原が苦笑いを浮かべて「やめておけ」止めるので、その謎は大きくなるばかりだった。

 想定外だった永瀬の不調というトラブルにより、本日の終了時間はかなり押してしまったが、予定したところは全て収録を終えることが出来た。これで『恋なら』の歩夢出演シーンの収録は全て終わりを迎える。



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