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そんなこと聞かれても困るんです!
しおりを挟む「え……?」
思ってもみなかった内容に歩夢は瞳を丸くする。
「ヤりたいってだけじゃダメなわけ? 俺にとってはそれが一番の愛情表現なのに」
「あ、はは……」
あまりに即物的な言葉はある意味永瀬らしいが、それがいいかと言われるとあまりよくない気がする。
「だってさ、好きでもないやつにちんこ勃たねぇし。好きだったら喘がせたいって思うだろ? 俺のちんこで善がる姿とか超見たいじゃん」
「えっと、それは……そうかもしれないですけど。ちょっと言い方が……」
「じゃあさ、歩夢ちゃんは『好き』ってなんだと思う?」
「えっ!? お、俺ですか!?」
思わぬところで飛び火する。なんで永瀬とこんな話をしているんだ、と思わなくもなかったが、ふと横を見ればとても真剣な顔をして歩夢の返事を待っている永瀬がいて、恥ずかしくて答えられないなんて言える雰囲気ではなかった。
「えー……っと、それは……」
なんて答えるのが正解なのかは分からなかったが、歩夢は自分なりに考えて導き出した回答を一つひとつ言葉にしていく。
「例えばふとした瞬間にその人のことを考えてたり、ちょっと触れるだけでドキドキしたり、他の人と仲良くしてると嫌だなぁって思ったり、とか……」
(って、なんで俺は小田原さんのこと考えてるんだ……っ)
そう口にしながら頭に浮かぶのは決まって小田原の姿だった。
「ふーん、歩夢ちゃんにはそんな奴がいるんだ?」
「い、いないですよ! そんな人……っ」
即座に否定をしてみても、その答えをまるで聞いていない永瀬は、再び大きなため息を吐いて立てた膝に顎を置く。
「やっぱあのイケメンマネ? ……だよなぁ。いつもポーッとした顔で見てるもん」
「えぇっ!? そ、そんな顔してないですっ!」
「まじ? 自覚なしなら相当やべーよ? 二人でいるとなんか周りにお花飛んでるのが見えるもん」
「お、お花……」
まさかそんな風に思われていたなんて知らなかった。
もしかして永瀬だけではなく、他のスタッフの人たちにもそうやって見られていたらどうしよう。いや、現場のスタッフだけではなく、もし事務所のみんなにもそう思われていたら……?
そんなことを考えていた時に、歩夢を迎えに来た小田原本人の姿が見えて、歩夢は顔を真っ赤にしてしまう。
「す、すみませんっ、俺、ちょっと……っ」
ぎくしゃくと壊れたおもちゃのような動きをして、歩夢がその場から逃げ出した。転びそうになりながら走っている歩夢の後ろ姿を見て、小田原が怪訝そうな顔で永瀬に問いかける。
「……また何かしたんですか?」
「べっつに~。俺は何もぉ? あーあ、充てられちゃったよ」
ふてくされたように足を伸ばして天を仰ぎ見る永瀬に、小田原は少しだけ考えた後で口を開く。
「貴方も素直になったら良いのでは?」
「…………」
「意地を張っていては、手に入る物も逃げていってしまいますよ」
妙に実感のこもった言葉に、永瀬はくっと唇の端を上げた。
「ふーん? 経験者は語るってやつ?」
「……快楽に弱いタイプなら、身体から落とすのも一つの手かと」
「うわっ、そういうこと言っちゃうんだ?! 意外とえげつないねぇ」
大げさに驚いてみせる永瀬に、どの口が言うんだと小田原は目を眇める。
「あくまで一般論としてです。……別に私がしたとは言ってません」
「してないの?」
その質問には笑顔を浮かべるだけで、何も言葉を返さなかった。
小田原は一度腕時計に視線を落とし、そろそろ収録が再開する時間が迫っていることを確認する。
「それでは、私はあれを回収してきますので。ああそうだ、先ほど森さんをBスタジオの前でお見掛けしました」
「……あっそ」
そっけなく呟かれた一言。歩夢のところへと向かう前にちらりと永瀬の表情を窺ってみるも、小田原からはコーヒーに口を付ける永瀬の顔を見ることは出来なかった。
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