声優(おしごと)の時間です! 〜意地悪マネージャーと秘密のレッスン?!〜

つむぎみか

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なんだか変なんです!

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「もう、仕方ないなぁ。……別にいいけど?」

 だけどどうしても、そのまま素直に返事をすることは出来なくて、ぷいっとそっぽを向いて生意気な台詞で返してしまうのは許して欲しい。
 そんな歩夢の気持ちを分かっているのか、その言葉を聞いた小田原は嬉しそうに笑うのだった。


◇◇◇


 そこからというもの、二人の間には以前よりも甘い雰囲気が漂うことが多くなる。以前と同様にちょっとしたことで言い合いになったり、小田原の揶揄い交じりの態度に歩夢が憤慨したりと、変わらぬところも多々あったが、誰もいないところだとどちらともなく恋人のように触れ合ったりした。そうして仕事が終わると当たり前のように二人で小田原の家に向かう。
 一緒にご飯を作って食べたり、DVDを見たり。数えきれないほどのキスもしたし、それ以上のことも。今まで好きな人がいたことのない歩夢だったが、もしそういう存在がいたとしたら、こんな感じなんだろうか、と思いを巡らせることがある。胸の中がぽかぽかとして、毎日が満たされた気分だった。

 プライベートの充実がそのまま仕事にも影響しているのか、最近の歩夢は仕事に関しても順風満帆である。この間は社長から「なんだか余裕が出てきた感じがするわね」なんて褒められすらした。

 そんな歩夢とは対称的に、めちゃくちゃ調子の悪そうな男がいる。永瀬だ。

 恋ならの収録でも珍しくNGを連発しており、何度も同じところのリテイクを繰り返していた。だんだんと現場の雰囲気も重くなっていき、監督も苛々とした様子を隠せなくなってきている。

「カーット! もう、どうしちゃったの永瀬くん~。そんな調子じゃ困るよ」
「……すんません……」
「仕方ないな、ちょっと休憩入れようか。三十分後に再開するから、ちょっと気分転換でもしてきてよ」
「……ッす」

 はぁ、とため息を吐いてスタジオから出ていく永瀬が、いつもの明るい姿とはほど遠くて、歩夢は心配になってしまう。自分でも話を聞くくらいなら出来るかも、とその背中を追いかけようとすると、小田原が引き止めるように腕を掴んだ。

「……内野さん」
「大丈夫。同僚として、少し話を聞いてくるだけですから」

 小田原が多くは語らないが、寄せられた眉に行ってほしくないという気持ちがありありと表れていた。少し前なら意味が分からないと困惑していたかもしれないけれど、今では小田原の気持ちが伝わってくるようで、そんな独占欲すら嬉しいと感じてしまう。

「ふふっ。そんなに心配なら、しばらく経っても帰ってこなかったら、小田原さんが迎えに来てください」

 そう言ってくすくすと笑う歩夢に、渋々と頷いた小田原は腕を離した。

 廊下へと出た歩夢は、永瀬の姿を探してきょろきょろと周りを見渡す。残念ながら既に目に見える範囲にはいなかったが、恐らく控室か近くの談話スペースに居るだろうとあたりを付けて、そちらへと向かう。
 当てずっぽうの勘もなかなか悪くはなかったようで、少し歩いたところで、自販機でコーヒーを買っている永瀬の背中を見つけた。

「永瀬さん」
「お~~……歩夢ちゃん。あはは、なになに。心配してきてくれたの?」
「えぇっと……まぁ……」
「ありがと~。どう? なんか飲む?」
「あっ、は、はい……!」

 励ましに来たはずが、なぜだか飲み物を奢ってもらうことになってしまった。
 買ってもらったココアを受け取って、傍に設置されているベンチに二人で座る。何と切り出したらいいものかと悩みながら、歩夢は指先で缶を弄って横目で永瀬の様子を伺う。

「……あの、永瀬さん。どうかしたんですか?」

 控えめな声でそう聞いてみると、コーヒーを飲みながら永瀬が天井へと視線を向ける。

「ん~……」

 こんなにはっきりしない永瀬を見るのは初めてだ。いつも驚くような言葉が飛び出してくる言葉は、何度も口を開きかけては閉じてしまう。
 無理に聞き出してもしょうがないと、歩夢は永瀬が言葉に出来るようになるまで、待つことにした。遠くの方でスタッフの話し声が聞こえる。自販機のモーター音がいつもよりも大きく聞こえるなぁなんてぼんやりとしていると、ようやく永瀬がまるで独り言のように呟いた。


「……『好き』ってさ、なんだろうな?」




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