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ヤキモチじゃない、です!
しおりを挟む(小田原さん、と……永瀬さんのマネージャーの……)
そう、森だ。
元々線の細い人だと思っていたが、小田原と並ぶとさらに庇護欲がくすぐる雰囲気が増すようだ。いつも歩夢を惑わす腕にすっぽりと包まれて、しなだれかかるように寄り添っていた。
潤んだ瞳で目の前の男を見つめている、森に向けられた小田原の表情を窺うことは出来なかったが、側から見るとそれはまるで恋人同士のようで……。
その姿が見ていられなくて、歩夢が一歩後退りをすると、こつ、と思った以上に大きな足音が鳴った。
「……歩夢?」
その音に気付き、二人がふと顔を上げた。
歩夢と小田原の視線が絡み合った瞬間、歩夢は弾かれたようにその場から駆け出した。
「っ、~~~ッ!」
「あっ、おい?!」
呼び止める声を完全に無視して、逃げていく。無性に胸が苦しくて上手に息が出来ない。
目的地もないままに、がむしゃらに廊下を駆け抜けていると、ぐいと腕を引っ張られて足が止まった。
「っあ……!」
「こら歩夢。なんで逃げるんだよ。収録終わったんだろ、次の現場行くぞ」
走らせんじゃねぇよと小言を言っている小田原はいつも通りだったが、歩夢はその顔を見ることが出来なかった。
「だ、大丈夫。俺は一人で行けるから、森さんのところに戻ったら?」
そう言った歩夢の声は、本人が思っていたよりも小さく頼りない音をしていた。
明らかに様子のおかしい歩夢に、小田原が眉間にしわを寄せる。
「はぁ? なんで?」
「なんでって……」
そんなことも分からないのかと、今にも泣き出しそうな顔で歩夢に睨みつけられて、小田原はようやく歩夢が言いたいとしている事が何なのかの検討をつけた。不信感いっぱいの歩夢に苦笑いを浮かべつつ、訂正しようと口を開く。
「あー……ちげぇよ。変な勘違いすんなって」
しかしそう否定をすればするほど、実際に抱き合っておきながら何を言っているのかと、歩夢の視線から刺々しさは消えない。
「真っ青な顔してふらついてたから、支えただけだっつの。なんだよ、もしかしてヤキモチか?」
冗談めかしてそんなことを言われて、歩夢はかぁっと頬を染めて噛みついた。
「違うっ! なんで僕がっ!? いつもヤキモチ焼いてるのは小田原さんの方なんじゃないのっ」
「あぁ?」
「昨日だって、永瀬さんと世間話してただけなのに。あんな、酷いことしてさっ」
「……お前は、世間話で男に尻揉まれんのかよ」
まぜっかえすように言い返せば、小田原からそれまでと違って、地を這うような声で吐き捨てられびくんと身体が硬直した。
聞いたことのないほど冷たい声に、昨日の恐怖を思い出した歩夢が小さく震えていると、それに気づいた小田原が、一瞬息をつめた後に盛大なため息を吐いた。
「あーーー……すまん。……昨日のことは、俺が全面的に悪かった」
頭の後ろをがりがりと掻きながらそう言った小田原は、いつもの不遜さは何処かに逃げていってしまったようだ。謝るにしては少々言葉遣いは荒いものの、それでも普段よりしゅんとした様子の小田原は、なんだか少しだけ小さく見える。
「……う、ん……」
(ちょっと意外。小田原さんってちゃんと謝るんだ……)
またいつもみたいな言い合いになるのかと思ったのに。すんなりと折れてみせた男をじいっと見つめていれば、居心地の悪そうに顔をしかめた小田原が唸る。
「……なんだよ」
「別に? 素直じゃんって思っただけ」
いつもは小田原に振り回されてばかりいる歩夢が、初めて優位に立てた瞬間だった。くすくすと楽しそうに笑っている顔を見て、小田原がぽかんと口を開けたかと思うと、なにか思い悩むような顔をして首を傾げている。
「……あー……なるほど……?」
「なに、どうしたの?」
ぶつぶつと呟いている小田原に気付き、歩夢は笑いを引っ込める。きょとんとした顔をして自分の様子を窺っている歩夢を見て、小田原はふっと柔らかい微笑みを浮かべる。
「歩夢が言ってたことが、あながち間違ってないんじゃないかと考えてた」
「俺が言ってたこと……?」
はて、一体どれのことだろうか。
思い当たる内容が多すぎて考えのまとまらない歩夢だったが、答えはすぐに小田原の口から告げられた。
「どうやら俺は、永瀬にヤキモチを焼いていたみたいだ」
「えっ……!?」
「とにかく昨日は悪かったな。でも、あんまアイツに気を許しすぎるなよ」
とんでもないことを言っておきながら、何でもないような顔をして頭を撫でてくる小田原に、歩夢は余計に混乱した。
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